「え…?」
「だから、バレンタイン…」

 

 健二は、目の前で差し出されたそれを見て、呆然とすることしか出来なかった。
だってあのキングカズマこと池沢佳主馬が、自分にバレンタインのチョコを渡しに来たのだから。
 混乱する意識はグチャグチャに掻き回されているような感覚で、思考なんか働かない。
ただ、視線だけは彼に、そして彼が自分へと差し出しているチョコが入った箱に、釘付けだ。
綺麗に包装されているそれは、シンプルながらも高級感溢れるもので、センスの良さも溢れている。
きっと中のチョコも美味しいんだろうな、と勝手に思いながら、健二はふと気付いたことに首を傾げた。
「えっと…佳主馬くん…バレンタインって、好きな相手にチョコを渡すものじゃないかな…?」
「そうだよ。だから健二さんに渡すんだって」
「あ、はい、そうですか…」
 ぎろりと睨む様な強い眼差しと力強い言葉に健二は圧倒され、肩を縮こまらせて少し後ろに体を逸らしてしまう。
すると佳主馬は一歩前に進み健二との距離を縮めると、箱をぐっと差し出して受け取る様に目で訴えた。
「…あの…え、っと……あ、ありが、とう…」
 照れくさそうにふにゃりと笑いながらその箱を受け取った健二は、大事そうに両手で抱えると目の前の佳主馬に礼を言う。
当の佳主馬はと言うと、すんなり受け取ってもらえたことが意外だったのか、切れ長の瞳を見開かせて固まっていた。
「あ、でも僕は何も用意してなくて…」
「えっ?」
 今度は佳主馬が呆然としてしまう。予想外の言葉を言われたからだ。
「だから、その…ちゃんと、ホワイトデーに、お返しするからっ…!」
「あ、うん」
 そして以外にも力強く言われたことに素早く返事をしてしまう佳主馬だが、よくよく考えてみると凄い展開になっているのではないか?と思い始める。
 もしかして自分の気持ちが、ちゃんと恋愛感情で好きだという気持ちが伝わったのかと思うと、舞い上がるほどの嬉しさだ。
しかし超ど級の鈍さを持つ健二にストレートに伝わったとは信じ難く、どう確かめてみようかと考え始めた瞬間。
「あのっ、佳主馬くんっ」
「な、なにっ?」
 佳主馬の思考を遮るかのように、突然呼ばれるとびくっと肩を揺らしてしまい、心の中で舌打ちをする。なるべく好きな相手の前では格好良くありたい、と思うのは恋をする者にとって普通のことだろう。
「佳主馬くんは…僕のこと、す、すき…なの?」
「うん、だからこうやってチョコ渡しにきたんじゃん」
 少し恥ずかしくなった佳主馬は思わずぶっきら棒な口調になってしまった。そんなところがまだまだ子供だ、と自分でも思う。
「……そっか…」
「えっ」
「僕も、佳主馬くんが好きだよ」
 にこっと笑う健二の姿に胸が熱くなるが、きっと彼の言う“好き”と自分の言う“好き”は違うのだろうな、と佳主馬は冷静に考えた。
だがこんなことじゃ諦めない。健二に、ちゃんと自分の気持ちが恋愛感情の好きなのだと気付かせるまで、頑張らなければと強く思う。
だが、恋愛感情じゃなくても好きと言ってもらえたことを嬉しく思う佳主馬でもあった。
「ありがと、健二さん」
「ど、どういたしまして…?」
 だが佳主馬はこの時、重大な事実に気付いてなかった。健二が恋愛感情も込めた“好き”と言ったことに。
 そして、健二も佳主馬のように勘違いをしていることに気付いてなかったのだ。
どうやら健二は佳主馬がこうやってチョコを渡しにきたのも、友達に渡す感覚でされているのだと思っていたのである。
 それでも自分の気持ちを偽りたくない健二は、心からの“好き”を佳主馬に伝えたのだった。
「あ、健二さん。これからどこか行こうよ?」
「うんっ、いいよ」
 勘違いしたままなのに、何処かいい雰囲気が漂う二人。きっと、互いに心から好きだという気持ちがじわりじわりと溢れているからだろう。
 だが、この二人が互いに両思いだと気付くまで、あともう少し時間がかかるようだ。

end.


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カズ→ケンと見せかけてカズ→←ケンでした!!
こういう二人も好きです^^
佐久間から「いちゃついてんじゃねーよ!」っていじられてればいいよ!!
あ、佐久間出せなかった…orz