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元気

こんなことを考えるなんて馬鹿馬鹿しいと、頭の中からさっさと追い出してしまえばいいのに。
理屈で片付けられない事態に直面すると、私はいつだってそう対処してきたのだ。
今こそ、答えの出ない問いは切り捨ててしまうべきなのに。
なぜか、それができなかった。
君の眉間に刻まれた縦じわからおもむろに視線を外し、ジッと口元を見つめる。

――なんでかな?なんで、こんなに気になるのかな?

君はしきりになにかを言っているけれど、私の耳には届かない。
いや、届いているけれど、頭が理解しようとしていないのだ。
やがて君の声が小さくなり、君の顔もぼやけていく。

――なんか、変だな?

パチリと瞬きをした私の視線の先で、君の整った顔が青ざめていく。
「おい!しっかりしろ!俺の声が聞こえてるか!?」

――そんなに大きな声を出さなくても、ちゃんと聞こえているよ。

そう答えようとした瞬間、目の前が段々と暗くなってきた。上から黒い垂れ幕が降りてきたかのように、視界が徐々に狭まっていく。
「っ!っ!!」
真っ黒に染まりつつある視界に映り込んだのは、私の名前を連呼して、これ以上ないほど焦っている君。

――こんな顔でもかっこいいなんて、ホントずるいよなぁ……。

心の中でそんな呟きを漏らした時、私は意識を失った。

心の在処

「っ!何をちんたらやってやがる。身が入らないならやめちまえ。他の連中の邪魔だ!!」
「すみません!」
「邪魔だ、出て行け!!」

これまでも彼に怒られてきたが、出て行けと言われたのは初めてだった。情けなさすぎる。さすがに萎れていると、さらに、先輩からも肩を叩かれて促される。こうなっては仕方がない。せめて雑務を片付けるか。ため息を吐いて、一礼して立ち去ろうとする。

「勘違いしないように。彼の心遣いです。家に帰って休みなさい。……真っ青ですよ」

私は驚いて、下げていた視線を上げる。すると、みんなの心配そうな顔がそこにはあった。
……なんてことだ。
私は自分のことだけで精一杯で、周りが何にも見えていなかったのか。
私は居住まいを正すと、改めてみんなに一礼し、ありがたく家で休むことにした。


翌日、私は彼の所に行き、頭を下げた。

「私の力だけでは限界です。皆さんの力を貸してください」
「……ようやく言ったか。みんなお前が言い出すのを待ってたんだぞ。信用されていない、としょげてもいたぞ」
「……っそんなことは」
「わかっている。迷惑かけたくなかったんだろ。でもな、お前なんでも一人で抱え込みすぎだ。周りを巻き込んで、仲間に引き入れるぐらいの度量の広さを見せろ。もっと、俺たちを信用しろ。俺たちは、お前を、裏切ったりはしない、絶対にだ」

ハッとして、彼を見る。

幼い頃から、ずっと一人で生きてきた。
誰にも頼れなくて。
誰も信じられなくて。
生き抜くことで精一杯で。
私の狭い世界には自分しか居なくて……。

気がつけば、一人でなにもかもできる気になっていて。

本当に、自分のことばっかりだ。一人で空回りして、周りに迷惑かけて、心配させて……。
なんて、馬鹿なんだろ、私は……。

俯くと、視界がぼやけて、床に染みを作る。

無言で泣き続ける私の前に、いつの間にか、彼が立っていた。

「泣くな」

そう言って、広い胸にそっと抱きしめてくれる。小さい子にするように、頭を優しく撫でる。
何度も、何度も。

ーーずっと誰かに言って欲しかった言葉。

ここに居ていいんだよ
信じていいんだよ

今日、私はやっと、ここでの自分の居場所を見つけた気がした。
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