月のない空。うさぎはいない。かぐや姫も帰る場所はない。
どこの世界だろうと、関係がないのだろう。
誰も彼もが、愛情に飢えている。
「君は、何も考えないことが苦手なのね」
私は、独り言のように呟く。
賢い、ということは、いいことのように思えるが、当人がそれをコントロールできないと諸刃の剣だ。
高校の友人に、ずばぬけて賢い子がいた。全国模試の上位は当たり前で、外国の大学からも声が掛かっていた男の子。
けれど彼は、あまりに賢すぎて、ものごとを忘れることができない側面も持っていた。
そんなに仲良くはなかったから話したことは少ないけれど、賢く将来も有望と期待される彼は、日々を苦しそうに過ごしていた。
他人に投げかけられた、無責任な言葉すら忘れられない苦悩を、人は「頭がいい」の一言で片付けるのだ。
君は、制御できるようになればいい。
誰かに、その賢さを利用させないように。傷付けられないように。
なんて、お姉さんは考えちゃうわけですよ。
「……そうかも、しれませんね。いつも、ぐるぐると考えてしまう」
「ばかだなあ」
「ばか?」
「そうだよ」
ばか、と、初めて聞くように口に出している。
きっと、あまり言われたことがないのだろう。
ばかになれればいいのにね。
「あなたは、僕がばかなほうが、いい?」
「どうだろう。君が、わくわくできるなら、それがいいかな」
賢い子は、想像力が豊かなことが多い。想像力が豊かだと、何をするにも予測ができてしまう。ものごとに対して、わくわくしたり、興味を持つ機会が、失われることも多いのではないだろうか。
そう。私は恥じることなど、していない。ただ、運が悪かった。
でも、その不運を嘆いても仕方ないと、私は知っているだけなのだ。
正直、泣きたい喚きたい、誰かにこの理不尽さをぶつけたい。でも、それって結局、何も解決しないんだよね。
だから、現在地と目的地を確認して、歩いていくしかない。