JU/JUのアルバムで『if』って曲の歌詞を聴いてて妄想した山骸大学生設定小説。
『雨』っていうフレーズが多かったから骸の相手を山本にしたけど…
骸と山本が付き合うイメージが中々湧かず、山本が偽者っぽいし骸が乙女というかツンデレ?なシリアスです(苦笑)
――もしあの日、雨じゃなければ
何時もの駅で降りてたら
貴方に再び会う事は無かっただろう………
「此は…困りましたね」
大学の講習も終わり、家へ帰る為に何時も乗る電車に揺られながら―外の景色を見て溜め息を付く骸。
午前中は雲一つ無い晴天だったのに、電車に乗り込んだ途端―突然降り出した雨。
その勢いは増すばかりで、止む気配が無い。
(此では家に着く迄に濡れてしまいますね…)
今日は新しい靴で出て来た骸は、出来れば雨で汚したくないと―この大雨の中を歩くのを躊躇していた。
(…そういえば、次の駅前に新しく開店したカフェがありましたね)
大学で女子が『ケーキが美味しい』と騒いでいたのを聞いた気がする。
一先ず其処で雨宿りでもしようと、何時も降りる駅より一つ先の駅に降りた。
―その些細な気まぐれが、過ちだったと後悔する事になるとは知らずに…
改札口を通ると、直ぐ目の前にそのカフェはあった。
其処へ足を進めようとしたその時――
「……骸?」
背後から自分を呼ぶ―懐かしいその声。
思わず足が止まってしまい、胸が高鳴る自分に動揺する。
聞き間違いであって欲しい、そう強く願い―振り向く事も出来ず、其処から動けないでいた。
しかし、無情にもその声は再び骸を呼んだ。
「…骸なんだろ?顔、見せてくれよ」
その声は―昔より少し低くなったものの、あの頃と変わらず優しい響きで…胸が締め付けられそうになる。
しかし、そんな動揺を悟られる訳にはいかないと―何事も無かったかの様に気丈に振る舞い、ゆっくりとその声の主の方へと振り向いた。
「おや、誰かと思えば…久しぶりですね―山本武」
「ああ、久しぶりだな―骸」
そう言って―嬉しそうに笑う山本武。
その笑顔に、再び昔の記憶が蘇りそうになる自分に―心の中で舌打ちをする。
――やっと忘れられた筈なのに。
何故彼は僕の心をこんなにも容易く掻き乱すのだろうか。
――山本武は高校時代、僕の恋人だった。
しかし、僕より野球を優先する彼に耐えられず―短い期間で別れた。
もしあのまま付き合っていたら、きっと僕は女々しい女の様に―野球に嫉妬して醜態を晒してしまいそうだったから。
そんな事は僕のプライドが許さない。
だから自ら別れを告げ、彼とは違う大学に進学して―二度と会う事がない様にしてたのに。
「髪、伸ばしたんだな。一瞬人違いかと思ったぜ」
「…ああ、切るのが面倒でそのままにしてただけですよ」
「そっか、でも伸ばして正解だと思うぜ」
「……は?何故です?」
「だってスゲー似合ってるからさ。…益々美人になったのな」
「―――!!」
そう言って、優しい眼差しを向ける山本に―不覚にも胸が高鳴る骸。
(どうしてこの男はそういう事を恥ずかし気も無く平然と言えるんですか…っ)
これ以上山本と話していたら、取り返しのつかない事になる気がして―一刻も早くこの場を去ろうと骸は口を開いた。
「では僕は用事がありますので…そろそろ失礼しますね」
そう言って、歩き出そうとしたその時――山本が骸の腕を掴んだ。
「―骸!!折角会えたし…少しだけ話さねーか?」
「…今用事があると話したでしょう?急いでますので―」
「ちょっとだけで良いからさ…頼むよ」
まるで逃がさないとでも言う様に――
骸の腕を掴んだ手に更に力を込め、強い眼差しで骸を見つめる山本。
その視線に逆らえず―気が付けば骸は無言で首を縦に振っていた。
骸が行く予定だったカフェに入り、注文をした物が席に運ばれた途端―肩を震わせて笑う山本。
「…何ですか?急に笑い出して」
「いや、相変わらず甘い物が好きなんだなーと思ってさ」
骸がガトーショコラを注文した事を指摘し笑い続ける山本。その態度が子ども扱いをされてる様な気がして―思わずムッとする骸。
「…其が何か?僕が何を注文しようが貴方には関係無いでしょう。
…其にしても、よく僕が甘い物が好きな事を覚えていましたね」
山本は高校の頃、毎日部活に明け暮れていたので、二人で過ごした時間は殆ど無かった。
だから自分と過ごした時間など殆ど覚えていないだろうと思っていたので―
山本がそんな些細な事を覚えていたのが意外だった。
「…覚えてるに決まってるだろ」
「え……」
「お前を忘れた事は…一度も無いしな」
――ドクン。
山本の真剣な声と眼差しに、益々高鳴る鼓動。
――そんな期待をさせる様な事を言わないで欲しい。
折角忘れていたのに―また心が揺れ動いてしまいそうだ。
もう野球に嫉妬してしまう様な、惨めな想いはしたくない。
そう自分に言い聞かせ、冷静な素振りをしてニッコリ笑う骸。
「其は光栄ですね。貴方は野球の事しか考えてないと思ってましたよ」
「そんな訳―」
「―申し訳ありませんが、時間が有りませんのでそろそろ失礼しますね。
久しぶりに話せて楽しかったですよ」
会話をしながらも素早くガトーショコラを食べ終え、席を立つ骸。
「待てよ骸!!まだ話が―」
「会計は僕が済ませますので、貴方は雨が止むまでゆっくりして下さいね」
山本が引き留めようとするのを遮り、伝票を持ち愛想笑いを浮かべながら―素早くその場から離れる骸。
――これ以上彼の話など聞きたくない。
封印していた想いが抑えきれなくなりそうで―もう耐えられない。
少しでも早く山本武が視界に入らない所へ行こうと―濡れるのも構わず足早に歩いた。
しかし、野球で日々鍛えられている彼に敵う訳が無く、直ぐ様追い付かれてしまい――
気が付けば後ろから強く抱き締められていた。
「…やっと捕まえた。待てって言っても聞いてくれねーもんな」
「や…止めろ!!離して下さい!」
「――嫌だ」
大勢の人が通る中で抱き締められ、羞恥で慌てて山本の腕から逃れようと抵抗するが―骸を抱き締める腕に、更に力を込める山本。
その力強い抱擁で、久しぶりに感じる山本の温もりに―鼓動が早まる骸。
其を山本に悟られたくなくて、更に声を荒げて抵抗する。
「こ…公衆の面前で何を考えてるんですか!!早く離しなさい!!」
「嫌だ。離したらまた俺の前から居なくなるんだろ?―もう絶対離さねーよ」
「………っ!!」
――何故…
何故今更そんな事を言う。
あの頃は僕が別れを告げても、何も問わずに承諾したくせに。
別れた後も―貴方は僕の事など気にもせずに、卒業した後プロの道へと進んだくせに。
「…どうして…っ!!何故今になってそんな事を言う!?」
「…骸?」
「あの時は簡単に僕から離れたくせに!!
君は野球さえ有れば、僕など居ても居なくても良い存在だったのでしょう!?」
付き合ってた頃に必死に堪えていた醜い感情だったのに――
もう無理だ。
ずっと堪えていた分、その反動で抑えきれなくなった想いが止められない。
こんな女々しい感情を見られたく無かったのに――。
自分の吐き出した感情が惨めで、思わず涙が溢れた。
そんな骸を、山本は腕の力を緩め―優しく抱き締めた。
「骸…ゴメン。気付けなくてゴメンな」
「…っ、違う!!気付かれたくなど無かったのに…っ君が今更余計な事を言うから…っ!!」
「―もうお前を泣かせる様な事は二度としない」
「………っ」
「だから―また俺の側に居てくれよ…骸」
――そう言って、骸の顔を引き寄せ―その唇に優しく口付ける山本。
その瞬間、其まで必死で保っていた理性が完全に崩れ――
気が付けば、自ら山本の口付けを求め―山本の首に腕を回した。
恐らく僕は再びあの頃の様に―また彼と居る事を後悔するだろう。
あの時―何時もの駅で降りていれば
何時もの靴を履いてたら
傘を持っていれば
この駅で会う事など無かった筈なのにと。
其でも、再び掴んでしまった彼の温もりを離す事などもう出来ない。
嫌―もう名前を呼ばれた時点で手遅れだったのかもしれない。
今では彼を忘れ、彼が側に居ない時間を過ごす手段さえ思い出せないのだから。
例え後悔する事になろうとも、今は只―彼と再び出会えた奇跡に身を任せよう……。
(END)
一応復縁でハッピーエンドなつもりです(苦笑)
高校時代は、山本は相変わらず野球馬鹿だから、恋愛にはかなり鈍く骸をないがしろにしちゃったお子様だったんです(苦笑)
そして骸は野球ばかりじゃなくもっと自分を見て欲しいと思いつつ、其を言うのは女みたいでみっともないとプライドが許さない…という、どっちも不器用な二人。
自ら別れを告げた事は、骸の最後の賭けだったけど、山本は骸が付き合うの嫌なら身を引こうと優しさで承諾したのが返って仇になったという感じ。
久しぶりに再会して、本当は骸と離れたくないと自覚した山本でした。
補足が長くてスイマセン(苦笑)
それにしても山本って難しい(汗)山骸は更に難しい…orz偽者な二人で山骸好きな方マジスイマセン(土下座)
久々に小説書いた気がするぜ(苦笑)
最後まで読んでくれた方有り難う&お疲れ様〜(^_^;)