フォル東SSです。
さっきの続きです。
とりあえず…東条さんにごめんなさい←おい
*attention*
・フォル東SSです
・「best answer」のつづきぽい
・東条さんは優しいかただからきっとこういう反応してくださるんじゃないかなと言う妄想←
・魔力譲渡は痛いんです
・相変わらずの妄想クオリティ
・とりあえず東条さんにごめんなさい
・ナハトさん、本当にすみません…!
以上が大丈夫なかたは追記からどうぞー!
―― フォルとの一件があったその日の夜。
東条はスターリンの部屋を訪ねた。
ノックをしても返事がなく、しかしドアの向こうには人の気配を感じる。
“彼”はいるのだろうと思いつつ、東条は部屋に入った。
案の定、ドアがしまると同時に姿を表す堕天使。
「フォル殿……スターリン殿は何処に?」
「お仕事。急に単独任務命令だってさ……忙しいね、雪狼は」
そう言って、フォルは笑った。しかし、その笑みはどこかぎこちない。
東条は微かに眉を下げ、彼を見つめる。
フォルは暫し東条を見つめ返していたが、やがてふっと息を吐いて俯いた。
「……ごめんね、異国の騎士様」
「先刻のこと、であろう?」
彼の謝罪の理由がわかっていたため東条はそう訊ねる。
こくり、とフォルは頷いた。
無理矢理東条を押し倒して術をかけようとしたこと。
フォルはそれを気にしているようだった。
「実はその事で、話があったのだ」
東条はフォルにそう言った。
不思議そうにフォルは首をかしげる。
それを見つめたまま、東条は口を開いた。
「先刻の魔術、私に掛けてくれぬか?」
「え……」
予想外の言葉にフォルは蒼い目を見開く。
東条はそんな彼を見つめつつ、言葉を続けた。
「今更、であれば構わぬ。聞かなかったことにしてくれて構わぬのだ」
「いや、魔法陣はすぐに修復できるから大丈夫なんだけど……本気、なの?」
フォルは東条を見て、訊ねる。
その瞳には微かな期待と迷いの色。
「なんのリスクもなしに、じゃないんだよ……?
さっきは術が発動する前だったか良かったけれど、痛みもある……それに」
「フォル殿は、どちらなのだ?」
「へ?」
きょとん、と東条を見つめるフォル。
東条は可笑しそうに笑って、いう。
「どうしたいのか……そなたの言い方では、私にどうして欲しいのか、わからぬ」
魔力の譲渡をしたいのか否か。
確かに今のフォルの言い方ではしたくないように聞こえる。
しかし……
「僕は、君が良いのなら……勿論、君に……僕の魔力を……」
それがフォルの願い。素直な思い。
東条はそれを聞いて、小さく頷く。
「ならば、それで良いではないか。私はもう、拒まぬ」
そう言って、東条は柔和な笑みを浮かべた。
―― それが、彼の出した答え。
例え禁忌であっても構わない、と。
彼……フォルの魔力を受け入れると言う選択。
これが正しい選択かと問えば殆どの人間が首を横にふるだろう。
しかし東条はこの決断をしたことに不安も後悔も抱いていなかった。
そんな彼の本気を、ある種の覚悟をフォルも感じ取ったのだろう。
暫くは驚いた顔をしていた彼だが、すぐに嬉しそうな表情を浮かべて、頷いた。
***
二人は再びフォルがかつて暮らしていた廃墟に入った。
先程の部屋にはいるとフォルは床に落ちていたチョークを拾い上げて床の魔法陣を書き直し始めた。
東条はそれをまじまじと見つめていたが、ふと疑問に思ったことを問うた。
「フォル殿は、体は大丈夫なのか?」
「え?僕?」
手を止め、フォルは首をかしげる。
東条は小さく頷いた。
「先刻……反動とやらを、受けたのであろう?」
「あぁ、あれか……平気だよ。堕天使って丈夫なんだよ、人間よりね」
そう言って笑うと、書き終わったのかチョークを部屋の隅に転がした。
そして首につけていたチョーカーをはずす。
「此方に来て?異国の騎士様」
フォルに言われた通り、東条は彼に歩み寄る。
部屋中に描かれた記号や文字は正直奇怪。
全く不安ではないと言えば、嘘になってしまう。
フォルはそっと東条を抱き寄せて、黒い前髪を払うと額にキスをおとした。
「大丈夫。僕は、ちゃんとずっと……傍にいるから」
その言葉に、東条は頷く。フォルはそれを見て微笑むと魔術の詠唱を始めた。
朗々と詩を読み上げるかのような彼の声。
東条はそのさまをじっと見つめていた。
彼が自らの手を切り血を流したときは少々眉を寄せたが。
暫し続く、詠唱。
それが途切れたその刹那、鋭い痛みが東条の体を貫いた。
「う、あぁぁ……ッ」
耐えがたい痛みに、東条は思わず悲鳴をあげる。
内からとも外からともつかない、痛み。
フォルの背にきつく腕を回してしがみついてみても痛みは和らがなくて。
「ごめんね、異国の騎士様……痛いよね」
フォルはそう声をかけつつ、東条を抱き締める。
痛い、痛い、痛い……
必死に噛み殺しても、声にならない悲鳴が漏れる。
痛みの余りに体が震えた。
その場に座り込んでしまいそうになった彼を、フォルの腕が支える。
カタカタと小さく震える彼の体。
フォルは心配そうにそれを見つめて、訊ねる。
「やめ、る……?」
まだ、ぎりぎり引き返せる。
今やめれば、堕天使の魔力を体に宿すこともなくやめることが出来る。
これ以上続ければもう逆戻りはできなくなるし、痛みはまだ暫く続く。
寧ろ、もう少し強い痛みに耐えなければならない……
東条にたいして、メリットがあまりに少なすぎるとフォルは思った。
「やめよう、か?」
少し、魔力を緩めるフォル。
すると、東条がゆるゆると首を振った。
「ならぬ……それは、ならぬぞ、フォル殿……ッ」
「だって、あまりに……君に、不利益すぎる」
フォルは眉を下げてそういう。
―― メリットとデメリット。
フォルはいつもそれを考えていた。
自分に益があるならばそれ相応の対価を払うが、不利益が生じるのなら途中でもそれを破棄する。
以前は自分に関することでしかそれを考えなかったが……今は、違って。
東条にあまりに不利益だ、と。
確かに魔力は強くなる。
戦いやすくも自分の身を守りやすくもなる。
しかしそのために支払う対価が大きすぎる。
「今なら、まだ大丈夫だから……」
「ならぬ。やめては……」
東条は強い口調でそう言って首を振る。
そのまま、顔をあげた。
痛みゆえの涙で潤んだ藤色の瞳がまっすぐにフォルを見つめる。
そして、彼は……ふっと、微笑んだ。
フォルは驚いたかおをして、東条を見つめ返す。
東条は微かに震える手を伸ばして、フォルの頬に触れた。
「私は、平気ぞ……もう決めた、と申したであろう?
今更、引き返すつもりは……ないのだ。
そなたに、そのような表情は似合わぬ……ぞ?」
痛みは引いてなどいない。
このまま続ければまだその痛みに耐えなければいけないと言うのに、彼は笑っていて……
フォルは、何度も瞬きをした。
「……君は、本当に……」
フォルはそこで言葉を切るとぎゅっと東条を抱き締めた。
そのまま、柔らかい黒髪を撫でる。
「……ほんとに、良いんだね」
「あぁ、構わぬ……」
「もっと、痛くなるんだよ……?」
「耐えて、見せようぞ」
「引き返せなく、なるよ?」
「構わぬと申しておるだろう?」
くす、と小さく笑う東条。
フォルは彼の返答を聞いて微笑むと“わかった”といった。
そして、しっかりと東条を抱き締め直して、魔力を強く流す。
ぐ、と東条が自分の服をつかむ手に力がこもったのがわかった。
フォルが心配するから、と悲鳴は必死に噛み殺す。
それを見つめて“ごめんね“、と謝りながらフォルはさらに力を強くする。
「う、ぁ……っ」
強くなった痛みに東条が小さく悲鳴を漏らす。
きつく背に抱きつく彼の腕の力も強くなって。
フォルの背で開く、漆黒の翼。
それで東条を包み、彼の唇を塞いだ。
悲鳴を堪える彼にキスをしつつ、少しでも痛みが和らぐように、と頭を撫でる。
閉じた目尻から流れる涙をそっと指先で拭ってやりながら、フォルは心の中で、思う。
―― ありがとう、異国の騎士様……
***
それから、どれくらい時間がたった頃だろう。
「うぅ……ん?」
ぱち、と開かれる藤色の瞳。
途中から、記憶が途切れている。どうやら途中で意識を飛ばしてしまったらしい。
痛みで気を失うなど本当にあるのか、と東条は少し苦笑する。
彼が目を冷ましたのが気配でわかったのか、東条を抱き締めていたフォルは微笑んだ。
「目が覚めた?異国の騎士様」
ほっとしたようにフォルはいう。
「律儀だね……術が終わる頃になって気を失うなんて」
冷たい手が優しく東条の額を撫でた。
東条は彼に問いかける。
「魔術、は……?」
悲鳴を噛み殺していたから、或いは声を殺しきれず悲鳴をあげていたのか、微かに声が掠れている。
しかしフォルにはちゃんと聞こえていたようで、彼はこくりと頷いた。
「大丈夫。うまくいったよ。今は何が変わったとかわからないかもしれないけど……
そのうち、わかるようになるよ。ちゃんと、隠せるようにしないとね」
“頑張ったね、ありがとう”と微笑みながらフォルはいった。
優しくて、暖かくて、嬉しそうな微笑み。
東条はまだ少々気だるい体をフォルの腕に預けつつ、小さく笑う。
禁忌を犯したと言うのに酷く心は穏やかで。
「どうしたの?異国の騎士様……?」
不思議そうに声をかけてきた堕天使に首を振り、彼は目を閉じる。
愛しげに自分の頭を撫でるフォルの手が、心地よかった。
―― 欲しかったのは力ではなくて ――
(私に不利益すぎるとそなたは溢したが…
案外、そのようなことはないのかもしれぬ…)