綺麗な月明かりが、降り注いでいる。
それを受けながらリトは目を細める。
柔らかい風が吹き抜けて、彼の少し長めな赤髪を揺らしていく。
綺麗な月だなぁ、と彼が呟くのと同時、彼の頭の上にぱさりと何かが落ちてきた。
「わ」
リトは驚いた顔をする。
素早く頭の上に乗せられたものをとる。
それは、タオルで。
リトはそれを確認すると、ばっとふり向いた。
そこには、肩にタオルをかけた恋人……ザイス=インクヴァルトの姿があって。
リトはそれを見て"あ、アルトゥール"と笑みを浮かべた。
ザイス=インクヴァルトは小さく溜息を吐き出す。
そして、リトの頭をわしわしとタオルで拭った。
「髪の毛、ちゃんと乾かさないと風邪を引きますよ」
そういいながら彼はリトの髪を拭いてやる。
ザイス=インクヴァルトの手を感じながら、リトは目を細めた。
そして、擽ったそうに首を竦める。
「へへ……なんか、照れ臭いや」
リトはそういって笑う。
ザイス=インクヴァルトは彼の言葉に目を細めながら、言った。
「照れくさい、じゃなくてちゃんと自分で拭いてください」
そういいながら彼は手を離す。
リトは彼の言葉に唇を尖らせながら"わかったよぉ"といった。
そのままおとなしくタオルで髪を拭う彼を見てから、ザイス=インクヴァルトは視線を空に向ける。
そして、先程彼がしていたように目を細めた。
「綺麗な月ですね……」
そう呟くザイス=インクヴァルト。
リトは彼の言葉に嬉しそうに笑う。
そして、言った。
「だろ?俺もそう思いながら見てたんだ!」
リトはそういって笑顔を浮かべる。
彼の言葉にザイス=インクヴァルトはそうですね、と頷きながらもう一度空を見上げる。
輝く月。
煌めく星。
それを見て、ザイス=インクヴァルトは小さく息を吐き出す。
リトも彼と同じように月を見上げる。
そして何かを思い出したような顔をしながら"そうだ"と声をあげた。
「?どうかしましたか?」
そう首を傾げるザイス=インクヴァルト。
リトは彼の言葉に笑って、言った。
「俺、こういう月が綺麗な日によく行く場所があるんだよ」
仕事の後にだけれど、とリトは言う。
ザイス=インクヴァルトは首を傾げながら彼に問いかけた。
「よく行く場所、って?」
「教会……綺麗な場所があるんだよ」
そういってリトは微笑む。
ザイス=インクヴァルトは彼の言葉に目を細め、呟いた。
「教会……ですか。
良くいくんですかリトさん」
少し意外です、とザイス=インクヴァルト。
それを聞いてリトは瞬きをする。
それから"意外かなぁ?"と呟いて、苦笑まじりに言った。
「結構いくよ。
俺、お祈りとかするの好きだし……
教会って、綺麗だろ?ステンドグラスとか……
だから俺、良くいくよ?」
そういって、リトは微笑む。
一部少し意味が違っている気もしたが……
彼は割と、信心深い方らしい。
そう思いながら、ザイス=インクヴァルトは目を細める。
そして、呟くように言った。
「私も……久しぶりに、いきましょうかね」
彼は小さくそういう。
それを聞いて、リトは目を見開いた。
そして、嬉しそうに顔を輝かせて、言う。
「え?アルトゥールもいく?」
嬉しそうにそう声を上げるリト。
ザイス=インクヴァルトは彼の言葉に小さく頷く。
そして、目を細めながら、言った。
「えぇ、リトさんが教えてくださるなら……」
「勿論。今度一緒に行こうぜ?」
リトは嬉しそうに言って、笑う。
ザイス=インクヴァルトは彼の言葉に微笑み返して、"ありがとうございます"といった。
そうしているうちに二人の髪も乾いた。
外も寒くなってきたし、部屋に戻ろうとザイス=インクヴァルトは言う。
リトは彼の言葉に頷いて、一緒に部屋に戻り、ベッドに入る。
彼がこの家……自分の家にいるのにも慣れてきた。
彼がこの国に遊びに来てくれている時には、一緒に居るから。
必ず、この家に来てくれるから。
「……ふふー」
リトは目を細める。
そして、隣に寝ているザイス=インクヴァルトをきゅっと抱きしめた。
唐突にそうして自分を抱きしめてくる彼に、ザイス=インクヴァルトは驚いた顔をする。
「どうしたんですか、リトさん」
そう問いかけてくるザイス=インクヴァルト。
リトは彼の言葉にふわりと笑う。
そして、ぎゅっと彼を抱きしめたままに、言った。
「こうやって、アルトゥールが傍にいてくれるのが嬉しいんだ」
一緒にこうやって寝れるのが嬉しいんだよ、とリトは言う。
ザイス=インクヴァルトは彼の言葉に少し驚いたように目を見開いた後、言った。
「……そうですか」
それは、ありがとうございます。
ザイス=インクヴァルトはそういった。
彼はそのまま優しくリトの頭を撫でる。
彼の手のやさしさと、彼の表情に、リトは不思議そうな顔をする。
「……アルトゥール?」
どうかしたのか?
リトは彼にそう問いかける。
というのも……
彼の表情が、何処か愁いを帯びたようなそれだったからで。
本人も、その自覚はなかったのだろう。
リトの指摘に目を丸くした。
そして目を伏せつつ、"そうですかね?"と呟く。
彼の表情にリトはすっと目を細めながら、言った。
「アルトゥール……誤魔化すの、ヘタ」
リトはそういって、微笑んだ。
そしてちょん、と彼の額を小突きながら、言う。
「何悩んでるか知らないけど……辛くなる前に、俺に言えよ?」
な?といってリトは彼にぎゅと抱き付く。
おやすみ、といって彼はすぐに寝息をたてはじめた。
ザイス=インクヴァルトは彼の言葉に微笑みながら、呟いた。
「……私は、祈らなくてはならない……否、懺悔の必要がある……が正しいですかね」
そう呟きながら、彼も目を閉じる。
そして眠っているリトの頭を優しく撫でてやって、目を閉じる。
彼をこうして抱きしめて眠るのは、罪である気もした。
こんな、穢れた手で。
それでも……彼が此処にいる事を、望むから。
彼と一緒に居ることを自分自身が望むから。
そう思いながら、ザイス=インクヴァルトとろとろと眠りについたのだった……――
―― 月の明かりと、祈りの先と ――
(貴方には、わからないかもしれない。
私が背負う罪は、その償いは…)
(それでも、傍にいたいと貴方が望んでくれるから。
そして、私が貴方といたいと、そう願うから…)