ブランのお話です。
一応後半はジェイドも…
ノアを慕えど報われない彼を書きたかった…
それでも多分、ブランはノアを嫌いにはなれないんだろうなぁと思いつつ…←
でもあの子もいい加減に自由にしてあげたいです(^q^)
それ故二ジェイドとからめさせました…
ディアロ城で保護されたら少しはマシになるんじゃないかな(笑)
ともあれ、追記からどうぞ!
ひゅ、と息が漏れる。
ゆっくりと目を開けると、そこに映ったのは水溜まりだった。
しかし、おかしい。
目の前にある水溜まりが濁っているのを見ながら、ブランはそう思った。
濁っている。
泥水のよう。
……否。
―― 血の、ようだ。
そう思って、思い出す。
体の痛みも、苦しさも。
仕事中、だった。
外で、魔獣と戦っていた。
かつて、彼らの主が屋敷を守るために放った、或いは気まぐれに創って放った合成魔獣。
それを、倒すために。
一緒に来ていたのは、ブランが恩人と慕う青年……ノアールだった。
しかし今彼の姿はない。
……ブランはひとり取り残されていた。
仕事中にへまをした。
その結果に魔獣に襲われて、至る現在だ。
彼の体はボロボロに傷ついている。
噛みつかれたり引っ掻かれたりして、彼の小さな体は傷だらけだ。
どうにか、魔術とナイフで全てを追い払った。
しかし、そこで力尽きて、そのまま此処に倒れてしまったのである。
痛い。
苦しい。
けれど……誰に助けを求めることも、出来ない。
誰も傍にはいないから。
「ノア、兄様……」
ブランは掠れた声でノアールを呼んだ。
しかし彼はもう、傍にはいない。
自分が担当の魔獣をすべて倒してしまってから、彼はひとりで帰ってしまったのだ。
ブランを気遣うこともなく。
彼を信頼しているから……ではない。
彼のことをどうでも良いと思っているからだ。
そのことを、ブランもよくわかっていた。
起き上がらないと。
帰らないと。
そう思って必死に足に力を入れるけれど……
ずるずると土に足が滑るばかりで、立ち上がることは出来そうにない。
「は……ぁ」
掠れた声が漏れる。
このまま自分は、死んでしまうのかもしれない。
そう思いながら、ブランは息を吐き出した。
「苦しい……」
そんな声が漏れる。
反射的に零れた言葉だった。
苦しい。
それに……怖かった。
また自分は、一人で死んでしまうのか、と。
涙が、零れる。
それを拭うために手を上げることさえ出来なかった。
痛いよ。
苦しいよ。
怖いよ。
そう訴えても、誰もその声を聞きはせず……――
―― 嗚呼、意識が遠のいていく。
憧れていたものは何一つとして手に入ることなく。
また昔のように、誰に見とられることもなく、誰に愛されることもなく死んでいくのか。
あぁ、でも昔とは違うかな。
だって、これがきっと"本当の終わり"だもの。
そう思いながらブランは目を閉じる。
もう一筋涙が、その頬を伝い落ちていった。
これで良かったかもしれない。
生きていたって、どうせ誰にも愛されないのなら……――
そう思っている間に、ブランの意識は完全に途切れた……
***
そっと頬をなでられる感触。
その手は、良く知らない手だった。
柔らかくて優しい手。
気遣うように触れてくる、手……
そんな手を自分は知らない。
……あぁ、もう死んだから。
だから、こんな幸福な夢を見ているのだろうか。
そう思った。
死に際に見る夢くらい幸せなものでもいいよな。
そう思いながらブランはふっと息を吐き出す。
刹那。
ふっと、目が開いた。
彼の漆黒の瞳に映ったのは、長い緑髪の男性。
それを見て、ブランはゆっくりと瞬きをした。
「……ん」
「目が覚めましたか。良かった」
そんな穏やかな声と同時。
ブランの額を優しく撫でる、優しい手。
それはほかでもない……ディアロ城の医療部隊長、ジェイドだった。
「……何、で……」
掠れた声を漏らす、ブラン。
ジェイドはそんな彼を見て、心配そうな顔をした。
「貴方、倒れていたんですよ……森の奥で」
魔獣に襲われたんですね。
そういいながらジェイドはそっとブランの頭を撫でてやった。
彼を見つけられたのは偶然だった。
薬草摘みに出かけてきたジェイドが、偶然倒れているブランを見つけたのだ。
声をかけても反応はなく。
呼吸も脈も酷く弱いものだった。
急いで城まで連れ帰り、治療した。
それでもぎりぎり助かるか否か、そんなラインで……
だからこそほっとした。
ブランがこうして無事に目を覚まして……
しかし、ブランは顔を歪めた。
そして布団から抜け出そうとする。
「うっ、ぅ……」
小さく呻くブラン。
此処から逃げ出そうとしたが、体が上手く動かない。
ジェイドはそんな彼を見て顔を歪めた。
そして優しく彼の頭を撫でながら、言った。
「いいんですよ、寝ていて……
まだ体はボロボロなんですから」
「っ離せ、馬鹿ッ!僕を此処から出せ!」
そう叫んでもがく。
しかしその体は、言うことを聞かない。
―― あぁ。
こんな自分をノアールが見たら何を思うだろう。
情けないと怒るだろうか。
だってこれは、捕虜にされたようなものだろう?
しかし、そう思う一方で……
この状況にほっとしている自分がいる。
自分を保護してくれた人がいる。
その事実に。
本当はきっと、望んでいた。
誰か……自分に優しくしてくれる人を。
そんな風に自分を守ってくれる、優しい手を……
それでも、受け入れてはいけない。
もがかないといけない。
そんな、強迫観念じみた想いに、彼は必死にもがく。
「駄目ですよ……傷が開いてしまいますから……っ」
ジェイドは必死に彼を宥めようとする。
ブランはそんな彼の手を振りほどこうと必死になっていたのだった……
―― " "を求めて… ――
(" "が、欲しい。
そう求めたいのに、求められなくて…)
(ねぇ、いつになったらこの呪縛から逃れられる?
僕は、幸せにはなれないの…?)
2015-6-23 01:45