ノアールのお話です。
一応フォルも絡みますが…
ノアールと、ノアールの両親の話です。
シリアスですね。
実の親にこういうこと言われて傷ついていないつもりなのに傷ついてる…
そんなノアールが書いてみたかったのでした(^q^)
ノアールは案外人間らしいというか…
感情的なタチだったりします←
さて…
では、追記からお話です!
―― 外に出なければよかった。
これほど自分の行動を悔やんだことはない、とノアールは思った。
なんでこんな行動に出たのだろう。
どうしてこの時間に、外に出たのか。
どうしてその足でこの場所に向かったのか。
どうしてこの道を通ったのか……
悔やみ始めたら、きりがなかった。
目の前に立つ、人物。
大分年がいった風の、男女。
何方も上品な服装だ。
貴族と、思われるような……――
二人は、目の前に立つノアールの姿を見て、驚愕の表情を浮かべていた。
ノアールとは"まったく違う"瞳を瞬かせて、彼らはノアールを見つめている。
「生きていたのか……」
そう呟くような声を上げる、男性。
ノアールは答えず、まっすぐに彼を見つめ返した。
「ニース……」
信じられない、という風に女性が呟く。
彼女が呼んだ"名前"に、ノアールは体を強張らせる。
そんな彼を見て、女性は目を吊り上げた。
「どうして生きているの、ニース。
アンタは、とっくに死んだと思ったのに」
あっさりとそう口に出す彼女。
その様子を見ても、ノアールは顔を歪めはしなかった。
「……貴方たちも、まだ生きていたんだな」
口を開いて出てきたのは、そんな言葉。
目の前に立つ"両親"は、もうだいぶ年がいっているとおもっていた。
もう、死んでしまっているかもしれないと思っていたからこそ、この場所……
自分の生まれ故郷で会うとは思っていなかったのである。
ノアールの言葉に、彼の両親は顔を歪めた。
そして、"お前という奴は……"と、父親が小さく呟く。
「勝手に家を飛び出していった挙句、久しぶりにあった親に向かってその態度か」
「本当に……貴方の方こそ死んでしまえばよかったのに」
吐き捨てるように母親は言う。
流石に、自分よりずっと背が高くなっていたノアールに手を出そうとはしなかったけれど……
それでも、あの頃と変わらない冷たい瞳でノアールを見据えている。
ノアールは、もう何も言わずに二人を見つめた。
その視線に、女性は男性に縋る。
「やっぱりこの子、気持ち悪いわ……
いなくなって十何年も経つのに、見たら一度でわかったもの」
―― 不吉な臭いは消えないのね。
女性はそういうと、ノアールから離れていく。
冷たく、"アンタなんて、すぐに死んでしまえば良いのよ"と言い捨てて。
遠ざかる、二つの影。
それを見て、ノアールは目を細める。
彼の手はぎゅっと、自分の服を握りしめている。
その手は微かに震えていた……
***
散歩になんて出掛ければ良かった。
何の気まぐれにか自分の生まれ故郷になんて向かわなければよかった。
見慣れない道を歩かなければ良かった。
ノアールはそう思いながらふぅっと息を吐き出した。
傷ついた?
悲しかった?
……そんなはずは、ない。
ノアールは自分自身でそう決めつける。
だって。
自分が両親から離れたのは、もう十年以上前で。
両親から離れたのは自分からで。
それなのに彼らに"死んでしまえばよかったのに"といわれたところで、別に傷つきはしないはずで。
そう思うのに。
どうして……――
「っふ……ぅ」
小さく息が漏れる。
苦しげな、悲し気な、呼吸が。
「ノアール?」
ノアールに誰かが声をかける。
その声にノアールは顔をあげた。
彼の視線の先にいたのは、亜麻色の髪の堕天使……フォル。
それを見て、ノアールは"主……"と掠れた声を漏らした。
フォルは少し驚いたような顔をしてノアールを見つめていた。
そして、小さく首を傾げて、彼は言う。
「どうしたの、ノアール」
「どうしたの、って……」
何のことですか?
ノアールはフォルにそう問いかける。
少し微笑んで見せたつもりだった。
しかし、そんな彼の思考はフォルにはお見通し。
彼はノアールの返答を聞いて、フォルはすっと目を細める。
そして、彼にいう。
「聞いたまんまの意味なんだけどな」
とぼけろとは言っていないよ?
フォルはそういって目を細める。
彼の様子を見たノアールは幾度か瞬きをした。
そして、小さく息を吐き出す。
どうしようか、と悩んだ。
先程の出来事を言うか、否か。
暫し悩んだ末、ノアールは小さく首を振った。
「……何でも、ありません」
ノアールはそういう。
しかし、フォルは相変わらずにサファイアの瞳でノアールを見つめている。
何を言うこともせずに。
視線を外そうとはしない。
ノアールは彼の様子を暫し見つめた後、ふっと息を吐き出した。
そして、呟くように言った。
「……出かけた先で、会ったんです……
私の、親に」
それを聞いて、フォルは目を見開く。
それから、納得したように頷いた。
「なるほど、ね……
それでそんな顔しているんだ」
「そんな顔、って……」
どんな顔ですか。
そう問いかけるノアールの額を、フォルが小突く。
そして、フォルは小さく息を吐き出しながら、いった。
「自分で鏡を見てごらん。
……もっとも、君は認めたくない顔をしてると思うけどね」
そういいながら肩を竦めると、フォルは息を吐き出す。
そして、"まぁ、無理はしないようにね"といって、離れていく。
遠ざかっていくフォルの背。
先程の……自分の母親の、父親の背中が、それにダブる。
「…………」
ノアールはその背を見送る。
そして溜息を吐き出した。
鏡は、見たくない。
ある程度、想像がついていたから。
そして彼は"主にはすべてがお見通しだな"と呟く。
吹き抜けた風が、彼の髪を攫っていった。
そしてノアールはそっと目を閉じたのだった。
―― Parents ――
(遠い昔に捨て置いたもの。
もう二度と振り返らないと誓っていたのに)
(嗚呼、外になど出なければ良かった。
これほどまでに後悔したことは、今までにあっただろうか)