科学者道化師コラボでのお話です。
よく考えたら二人はずっと一緒にいられる訳じゃないよなぁ、と思いまして…←
*attention*
科学者道化師コラボでのお話です
ほのぼのなお話です
ムッソリーニさんが帰国中のお話です
カルセはこういうサプライズをしたがる人
それに綺麗な反応を返すムッソリーニさんだったら可愛いな、と…←おい
相変わらずの妄想クオリティ
ナハトさん、本当にすみませんでした…!
以上がOKという方は追記からどうぞ!
ペンが書類の上を走る乾いた音だけが響く、静かな部屋。
机に向かって自分がこなさなければならない仕事をこなすのは、
金髪の少年……ムッソリーニ。
随分と長い間もくもくと書類に向かっている彼だが、
そのペンは止まりがちで、その度に彼の視線はドアや窓の方へいく。
これでは駄目だというように首を振って、すぐに作業を再開するも、
また暫くするとペンが止まるという繰り返しだった。
此処はカルフィナ……彼の国。
ムッソリーニは現在自国に帰国して、こうして仕事をこなしているのだった。
イリュジアとの和解後は、ちょいちょい向こうの国にいっていた彼。
とはいえ、彼にとって本国は此方であり、ずっと彼方にいる訳にはいかない。
別に書類は何処でも出来るが、国のトップがあまりに長く国を空けるのは、
感心できたことではないだろう。
それくらい、ムッソリーニもわかっている。
しかし……
イリュジアを離れがたい理由が、彼にはあった。
それは、彼方の国の元医療部隊長、カルセのこと。
ディアロ城に滞在して仕事をしていることが多い彼。
ムッソリーニも彼方の国にいるときには必然ディアロ城に滞在しているため、
その時にはよく互いの部屋を行き来したり、一緒に食事をとったりしていた。
それが、こうしてカルフィナに帰国してしまえばできなくなる。
カルセがディアロ城を離れることも無論あったが、
今回は珍しく、ムッソリーニの方が国に帰ることとなっていたのだった。
ある程度仕事を片付けたらまた向こうにいけば良い。
今は、飛び抜けて一大事なんてことにもなっていないし、
イリュジアにいっている他の騎士だってたくさんいるのだから。
そう思えど……
いつも傍にいてくれた相手がいないというのは、やはり心細い。
それに、カルセはムッソリーニの"本心"をちゃんと理解してくれる人だったから……
無理をして働いていれば必ず止められた。
嘘の笑顔は必ず見破られた。
無理に笑う必要はないと何度も諭された。
無意識のうちに流した涙を拭ってくれた。
そんな彼が傍にいないのは、やはり心細いし、寂しい。
と、そんなことを思っていれば、とんとんと後ろから肩をつつかれた。
はっとして振り向くが、そこに立っているのはいつもの彼ではない。
長い赤髪の少年だ。
唇を尖らせつつ、彼は言う。
「ドゥーチェ、ちゃんと仕事してくださいよぅ、書類溜まってますー」
久しぶりに帰ってきたんですからぁ、と彼……チアーノは言った。
ムッソリーニの留守中、国内の管理をしてくれていたのは外交官である彼だ。
ムッソリーニはそんな彼に苦笑を向けつつ、言った。
「あー、ごめんごめんチアーノ」
ちゃんとやるから、といって赤髪の少年に返す。
ちょっとぼうっとしてただけだよ、と返せば、彼も彼の仕事に戻っていく。
ムッソリーニは机の上に積み重なった書類を見て、溜め息を吐き出した。
どれくらいやったら終わるだろうか。
どれくらいやったら休憩にしようかな。
そんなことを考えつつ、もう一度ペンを走らせ始めたのだった。
***
部屋に差し込む光が夕焼け色に変わった頃……
ムッソリーニはぱち、と目を開けた。
どうやら、机に突っ伏したまま寝入ってしまったらしい。
「やっべ……どれくらい出来てたっけ……」
夢現でやった作業が変なことになっていないかを慌てて確かめる。
一応眠ったつもりはなかったからちゃんとやっていたはずなのだけれど……
そう思いつつ書類をめくって、どうにかミスがないことにほっとする。
そして時計を見て、溜め息を吐いた。
「もうこんな時間かー……」
随分長くやってたんだなぁとムッソリーニは呟く。
ぐいっと伸びをすれば変に固まっていた関節が音をたてた。
そうして疲れたな、と思っていても無論彼は訪ねて来ない。
此処は、彼がいる国じゃあないのだから。
適当に食事をとって、あと少しだけ残っている書類を片付けてしまおうか、
あぁ、でも先に書類を片付けてしまってから食事にいく方がよいだろうか?
寝起きで少しぼうっとした頭でそんなことを考えていると、
机の隅においてあった通信機が音をたてた。
「え……何」
どうしたんだろう、とムッソリーニは思う。
なんだろう。
緊急事態?
なにかまずい事態でも起きたのだろうか?
そう思い少し緊張しつつ、ムッソリーニは通信機を手に取る。
それでもあまり緊張した風は出さずに、"誰ー?"と返す辺りは、彼らしい。
ただ、おかしなことに……
ムッソリーニの声に、通信機の向こうの相手は返さない。
しんと静まり返ったままだ。
あれ、とムッソリーニは気の抜けた声を漏らす。
いったい、どうした?
これは誰からの連絡?
そう思っていると、通信機の向こう側の相手が、笑った。
くすくすと笑う、小さな声。
それにムッソリーニははっとする。
『開口一番誰、と言われるとは思いませんでしたね』
「え、か、カルセさん?!」
ムッソリーニは思わずすっとんきょうな声をあげた。
通信機の向こうで聞こえた笑い声。
そして今の声。
それは間違いなく彼……カルセのもので。
でも、どうして?
彼がこうして連絡を入れたのは、何故?
「え、カルセさん、何で俺に……」
『おや、恋人に連絡を入れることに何か理由が必要ですか?』
そんなことをさらりと言われて、ムッソリーニの頬は真っ赤に染まる。
いつもカルセはこんな調子だ。
少しも照れた様子なく、こういうことを言う。
「カルセさんは本当に相変わらずですね」
悔しくて少し拗ねたような口調で言うも、
やはり通信機の向こうで彼は笑っている。
くすくすと言う聞きなれた笑い声に、少しだけ気持ちが和らいだ。
ひとしきり笑った後、カルセは"本題ですが"と言った。
『今日は、いつ頃仕事が終わる予定ですか?』
「え?」
唐突な彼の問いかけ。
ムッソリーニはそれにきょとんとしつつ、答えた。
「いつ、って言う明確な時間はないよ……
適当に、書類片付けてただけだし……」
終わろうと思えばいつでも終われるし、続けようと思えば続けられる。
ムッソリーニがそう答えると、カルセは満足そうに"そうですか"と言った。
『では、もう少ししたら外に出てきてもらえませんかね?』
「え?何で?」
先程からカルセの発言の理由がさっぱりわからない。
困惑気味にムッソリーニがそういうと通信機越しに彼が"鈍いですねぇ"と呟いた。
『一緒に夕食を、と誘いたいのですが』
それは、デートの誘い。
その誘いはとても嬉しいのだけれど……
「カルセさん、流石にイリュジアまで引き返すのは……」
出来ないことはないが、未だ暫く此方にいるのだから無意味だ。
ムッソリーニがそういうと、カルセは笑ったようだった。
『その必要はありませんよ。私がカルフィナにいるのですから』
「へっ!?」
思わず、驚きの声をあげた。
その反応はまさにカルセが求めていたものらしく、
"予想通りの反応をしてくれますねぇ"と楽しそうに笑っている。
ムッソリーニは彼に言った。
「え、何で?って言うか、本当?!」
『こんなことで嘘をついてどうするんですか。
私は仕事もある程度自由が利くので……
貴方が仕事終わったあとにでも、少し会えたらなと思ったのですよ』
無理ですか?と問いかけるカルセの声。
ムッソリーニは暫し驚きで固まった後、"大丈夫です!"と返した。
声が自分でもわかるほどに明るくなっている。
『貴方は本当に可愛い反応をしてくれるから誘い甲斐がありますよ』
では、あとで。
そういってカルセは通信機を切る。
ムッソリーニは小さく息を吐き出すと、外出する支度を始めたのだった。
―― 貴方との距離 ――
(ほんのすこし離れただけで寂しくなる)
(それは、私も同じことなのですよ)