死神堕天使コラボでのお話です。
昼間の「Chasm」nの続き的なお話で…
相変わらず意地悪な堕天使ですみません←おい
*attention*
死神堕天使コラボでのお話です
「Chasm」の続き的なお話です
シリアスです
不安を抱いたまま自室に戻ったライニさんを弄りにいく悪趣味堕天使
フォルは事実しか言いませんが事実をわざと違う聞こえ方するように言うことはあります←おい
要するに悪趣味堕天使←←
そんなフォルに振り回されてるライニさんを書きたくて…
本当は赤髪金髪コラボまで持っていきたかったんです(ぇ)
相変わらず妄想クオリティ
ナハトさん、本当にすみませんでした…!
以上がOKという方は追記からどうぞ!
ざーっと水の流れる音だけが響く、静かな空間。
気温が高いためか出始めは温かった水も次第に冷たくなり、
かれこれ数分間ずっと手を洗っている金髪の彼、
ハイドリヒの手はすっかり冷たく冷えきり、白い肌は微かに赤くなってきていた。
―― 手についた血を、洗い流したかった。
ついたといっても、ベッタリついた訳ではない。
彼が撃ち殺した人間の血ではあったが、直接被った返り血ではない。
敵のすぐ傍にいた恋人、アネットの頬についたそれを、
ハイドリヒが手で拭ってやった。
その時についた血だった。
そんなに量はなかった。
放っておいてもいつのまにか消えていそうな程度の。
しかしハイドリヒは神経質に……或いは何も考えずぼうっとしたように、
黙々と洗面台その手を洗い続けていた。
冷たい水で手を洗い流しながら考えるのは、先程の出来事。
捕縛任務。
逃げ出した敵。
追いかけていく恋人。
燃え盛る廊下。
その炎を躱し、その先にいたのは恋人と、敵。
追い詰められ座り込んでいる恋人に剣を向ける男。
その気になれば彼……アネットも反撃できたはず。
しかし彼は完全に竦んでしまっていて、剣を振るう様子は皆無だった。
このままでは彼は殺される。
もう何も考える余裕はなかった。
その位置からハイドリヒは拳銃を構え、迷うことなく引き金を引いた。
放たれた縦断は狙いを誤ることなく敵の男の頭を撃ち抜いた。
倒れる男。
ぴくりとも動かなくなる。
そして……こわごわと動き、自分の頬に触れた自分の恋人。
声をかければ彼は振り向いて……
その頬に、血が飛んでいた。
心なしか彼の顔は青い気がして……
それは、今までの恐怖の所為?
それとも……その頬にとんだ、死人の血の所為?
嗚呼、そうだ。
アネットは、人間との戦いに慣れていない。
もっと言うなら、目の前で人が死ぬことに慣れていない。
普段は魔獣相手に戦っているし、人間と戦わなければならないような状況では、
本気になった末、我を忘れて戦ってしまうことが多いから、
記憶が曖昧なのだと彼は苦笑していた。
そんな彼の目の前で人を一人殺した。
アネットは自分を助けてくれたのかと問うてくれたけれど……
人を、彼の目の前で殺めたことに違いはない。
そんな記憶も事実も洗い流したくて、ハイドリヒは手を洗い続けた。
水が冷たくなり、指先の感覚が薄れてきても……
その時だった。
「洗っても落ちないと思うよ」
不意に聞こえたのは、高い少年の声。
その声は、ハイドリヒにとっても聞き覚えのあるものだった。
決して歓迎出来る相手ではない……
顔をあげれば、洗面台の鏡に、亜麻色の髪の青年の姿が映っていた。
堕天使、フォル。
人懐っこそうな容姿や口ぶり、声とは裏腹に、嗜虐的で悪趣味な堕天使だ。
ハイドリヒは鏡越しに彼を見つめる。
それに気がついたように、フォルはスッとサファイアの瞳を細めた。
そして、静かな声で言う。
「手についた血は洗い流せても、染み付いた血の臭いは消えない」
「わかっていますよ」
ハイドリヒは短く答えて、水道の蛇口を捻った。
水が止まる。
ハイドリヒは冷えきった手をタオルで拭いた。
当然ながらついていた血はとっくに消えていたけれど、
錆びた鉄のような臭いは、確かに消えていない気がした。
そうして顔を歪めるハイドリヒを鏡越しに見つめて、フォルは声をかけた。
「……ねぇ、聞かせてほしいんだけど」
ハイドリヒは返事をしない。
しかし振り向くこともせず移動もしないため、フォルはそのまま彼に問いかけた。
「自分と対照的な相手を好きになるのって、やっぱり辛い?」
その言葉にハイドリヒは大きく青い瞳を見開いた。
無表情な彼の、表情変化。
焦り。
動揺。
或いは……?
それを感じて、フォルは目を細める。
「っ、何、を……」
掠れた声で問いかけるハイドリヒを鏡越しに見つめて、フォルはいった。
「人を殺すことが怖い子犬君と、躊躇いなしに殺せる死神様。
普通は、相容れない存在だと思わない?」
アネットとハイドリヒ。
その対照的な存在。
自分と恋人との違いにハイドリヒ自身何度も悩んだ。
言うなれば、光と闇。
そんな存在の自分と彼。
闇である自分が光の彼と共にあることは果たして正解なのか。
何度考えても、答えはでなかった。
否、出なかったと言うよりは……"出せなかった"か。
認めたくないのだ。
もしかしたら、もしかしたら……
一緒にいてはいけない存在同士なのかもしれないと言うことを。
別々の生き方をする方が幸せなのかもしれないと言うことを。
それを認めてしまうのが怖い。
彼を、アネットを手放さなければならなくなることが怖い。
「わかって、いますよ……それくらい」
ハイドリヒは掠れた声でそう答える。
それが精一杯の返答だった。
フォルはそれを聞いて、笑う。
普段無表情で、周囲には強い騎士と思われているハイドリヒ。
ちょっとやそっとのことでは動揺などしない、
冷酷無慈悲な死刑執行人と言う見られ方をする彼。
その実脆く、少しつつけば……
殊更恋人であるアネットのことに関してつつけば、
すぐに壊れることはよく知っていた。
堕天使としての嗜虐的な嗜好。
死神をからかい動揺させるという趣味の悪い遊戯(あそび)。
堕天使は更なる質問を、死神に投げる。
「僕が訊いてるのはわかっているか否かじゃないよ。君が辛いか否かって話」
「五月蝿いですよ。今すぐ……」
ハイドリヒはフォルを追い払おうとした。
これ以上、余計な詮索をしないでほしい。
これ以上、この事を考えさせないでほしい。
そう願うハイドリヒの感情を感じ取って、フォルはそっと口角をあげた。
そして、呟くような声で言う。
「あの子は辛そうだったけどな」
「!な……」
フォルの言葉。
それを聞いて思わず、ハイドリヒは振り向いた。
今、彼はなんといった?
"あの子"?
それは……アネットの、ことか?
大きく青い瞳を見開きつつ振り向いたハイドリヒを見つめて、
"やっとこっち見てくれたね"といってフォルは笑う。
そして、いった。
「そうだよ、その通り。
彼は言ってた。
自分は、彼のようには生きられないから、ってね」
そんなフォルの言葉に、ハイドリヒの表情が変わる。
動揺から、怒りに近い感情へと。
それを見てフォルは少しだけ驚いた顔をした。
この反応は予想外だ。
「……アネットさんに、何か言ったのですか」
小さく呟くハイドリヒの声はいつもより少し早口だ。
それを聞いてフォルはくすり、と笑う。
「わぁ、殺気立ってる……怖いなぁ、死神様は」
そんなフォルの言葉と同時、ハイドリヒは近くにおいてあった拳銃を手に取り、
素早くフォルの方へ向けた。
そして鋭い声で問いかける。
「答えなさい」
怒鳴った訳ではない。
しかしそれと同等の鋭さを持った声色だった。
普通の人間ならば、竦み上がるところ。
それでもフォルは相変わらず楽しそうに笑って、首をかしげて見せた。
「……嫌だ、っていったら?」
「答えはわかっているはずです。
貴方に拒否権はありません」
答えなさい、とハイドリヒは繰り返す。
フォルはそれを見てわざとらしく肩を竦めた。
「……全く、物騒だなぁ死神様」
そんな彼の言葉と同時、ハイドリヒは拳銃の引き金を引こうとした。
これでは、埒が明かない。
しかしそれを寸でのところでフォルが止める。
"もう少しお喋りしたいから大きな音たてないで?"といいながら。
そしてくすっと笑いつつ、ハイドリヒに言う。
「本当に躊躇いなしだったね。
流石は死刑執行人……
僕も、ある意味で死刑囚だけど君みたいな人に殺されるならある意味本望かもね」
綺麗な人に殺されるならさ、なんていって堕天使は笑う。
ハイドリヒはそれを見据えて、冷たい声でいった。
「その望み叶えて差し上げましょうか」
「遠慮しとく。まだ書記長様と一緒にいたいもの」
そういいつつ、フォルはハイドリヒから離れた。
そして悪戯っぽく笑いながら、言う。
「あと、さっきの君の質問だけど……僕は彼に何も言ってないよ。
さっきのはあの子の独り言。
僕は姿を現してさえいない。
だってそうしたらあの子、真っ先に僕に斬りかかってくるもの」
"たぶん殺せやしないだろうけどね"とフォルは笑った。
アネットは威勢こそ良いが、その実臆病なところがあるから、と言う。
どうせ、人は殺せまい。
それが、フォルという堕天使だとしても。
そして笑みを引っ込めると、フォルはハイドリヒを見つめながら、いった。
「君は、辛いというより不安なんだろうね。
あまりに彼と君とじゃ違いすぎて。
その手で彼に触れ続けること、その体で彼の温もりを求めること、
それが怖くて不安で仕方無いんでしょ?」
何か間違ってる?とフォルはハイドリヒに問いかける。
間違っているはずがなかった。
フォルは、他人の心を読む能力がある。
それを使って、相手の痛いところを的確に突いてくるのだから。
ハイドリヒはぐっと唇を噛み締めて、再び拳銃をフォルに向けた。
引き金に指をかけながら、高い声で叫ぶ。
「いい加減に黙りなさい、本気で……っ」
「撃ってみたら?
……悪魔にも成りきれなかった死神が堕天使に勝てるかどうか試してみる?」
そういいながら、フォルはハイドリヒを見つめた。
先刻までのからかうような、面白がるような瞳ではない。
冷たく無表情な、瞳。
悪魔のなり損ない。
ハイドリヒのことをフォルはそう呼んだ。
相手……フォルだって天使になり損ない堕ちて、
悪魔に近い存在となったものなのだから似たようなものだが…
堕天使は死神ほど不完全な存在ではない。
ハイドリヒは黙ったまま、彼を見つめた。
フォルはふっと笑って、"いい子"といった。
そうして、姿を消す。
「辛そうだった、か……」
ハイドリヒはフォルの言葉を思い出す。
アネットは、辛そうだったという。
自分と一緒にいるのが正解か否か悩んでいたようだったと。
それを思い出しながら、彼はベッドに突っ伏した。
そして小さく息を吐き出して、丸くなりながら布団を抱き締める。
―― 傍に居る権利 ――
(貴方は私の傍にいたいといつも言う
でもその所為で私が貴方を壊してしまうのではないかと不安で)
(あまりに違いすぎる二人。
不安になるのも当然のことだよねぇ?)