ワルキューレコンビでのお話です。
大佐殿は楽器もお好きだったというお話から…
色々無茶ですがこういう風に演奏するのも良いな、と…←
*attention*
ワルキューレコンビのお話です
ほのぼのなお話です
音楽ネタなお話です
チェロを一生懸命弾こうとする大佐殿を書きたくて…←
ヘフテンさんと一緒にこういう演奏するの良いなと思いました(おい)
タイトルは「連弾」の英訳をもじったものです←
相変わらずの妄想クオリティ
ナハトさん、本当にすみませんでした…!
以上がOKという方は追記からどうぞ!
月明かりが射し込む、穏やかな夜……――
賑やかな食堂の喧騒が遠くに聞こえる、騎士の棟の一室。
いつも通りの、穏やかな夜だ。
仕事をこなす騎士は仕事をつづけ、そうでない騎士は仲間、友人たちと談笑をし……
そんな穏やかな時間が、流れていた。
―― そんな、時間帯。
「ふぅ……」
自分の執務室で休憩をしていたシュタウフェンベルクは小さく息を吐いた。
書類の積み重なった机。
束ね置いた書類の入った鞄。
それを軽く確認した後、軽く伸びをしつつ、視線を部屋の隅に走らせる。
彼が視線を向けたそこには、大きな楽器が立て掛けてあった。
ここ暫く触っていない、楽器。
両腕があった頃はよく弾いていたチェロだった。
それを見つめ、シュタウフェンベルクはそっと目を細める。
今からやらなければいけない仕事はないし、片付ける書類もない。
先程まで此所で仕事を手伝ってくれていた副官は、
休憩がてらシャワーを浴びるために部屋に戻っている。
どうせ退屈なのだし……
そう思いつつシュタウフェンベルクは立ち上がった。
そして壁に立て掛けてあるチェロを片腕で抱え、椅子に座った。
そのまま自分の身体にその楽器を凭れさせつつ、左手で軽く弦を弾く。
この前兄が遊びに来たときに調律してくれたらしく、大きな音のずれはない。
片手で支えて片手で弾かなければならないような大きさの楽器。
それを支えるのはシュタウフェンベルクには少々重労働だったが……
―― せっかくだから少し弾いてみようか。
ふと、そう思い立った。
城の中には音楽が出来る者が多くいる。
時折、誰かの演奏が風に乗って届くこともあった。
ピアノだったり、バイオリンだったり、はたまたフルートだったり……
歌声が聞こえてくるときもある。
そんな空間に触発されて、久しぶりにやってみたいと、そういう気分になったのだろう。
そう思いつつ、シュタウフェンベルクは弓を手に握って、そのまま、軽く弦に当てた。
久しぶりに握った割には弓も手にしっくりなじんで、少しほっとする。
ゆっくり弓を動かせば、低く綺麗な音が響いた。
弦楽器独特の、空気を震わすような音……――
それを聞いて、シュタウフェンベルクは目を細める。
久し振りに聞いた、この音。
久しぶりに出した、この音。
やはり音楽は良いな、と思う。
折角だからもう少しちゃんと弾きたいと思って、弦を押さえようとするが……
片手でチェロを支え、弦を押さえ、弓を動かすのは至難の業だ。
弓を握るのは無理でも、弦を押さえるくらいはどうにかなるだろうと、
指のない手でチェロの体を支え、弦を押さえようとする。
その度バランスが崩れて、チェロが倒れそうになった。
楽器を倒しては事だからと慌てて支えては体勢を立て直し、再び弦を押さえようとする。
一生懸命に先のない腕で弦を押さえようとしつつ、チェロと格闘していると……
「大佐?」
不意に聞こえた、彼の声。
それに、シュタウフェンベルクは顔をあげる。
声をかけてきたのは、シャワーを浴び終えて彼の部屋に戻ってきたらしい、金髪の少年……ヘフテン。
濡れた髪。
肩にはタオルをかけたままだ。
濡れた金色の髪から雫が落ちる。
シュタウフェンベルクが椅子に座ったままに抱えている楽器を見て、
ヘフテンは幾度か瞬きをした。
そして、小さく首を傾げる。
「チェロ、ですか?」
彼の問いかけに、シュタウフェンベルクは小さく頷いた。
そしてふぅっと息を吐き出す彼。
そっと茶色のチェロの体を撫でながら、彼は呟く様な声で言った。
「あぁ、弾こうと思ったんだが……」
やはりなかなか難しい、と小さく呟いたシュタウフェンベルクを見て、
ヘフテンはぱちぱちと幾度か瞬きをする。
元々、彼が音楽好きであることは知っていた。
チェロ以外の楽器も嗜むほど。
そのことは昔から聞いていたし、何より元々シュタウフェンベルクは貴族家系の生まれ……
そういった文科系の嗜みだってお手の物だろう。
片腕では、好きなことも満足には出来ない。
そんなのきっと、シュタウフェンベルクだって理解しているはず。
今更のはずなのだけれど……
それでもやはり、少なからず寂しさというか、虚しさのようなものは感じてしまうのだろう。
ヘフテンはそんな彼の隣に立つと、小さく首を傾げて、問いかけた。
「チェロって、どうやって弾くのですか?」
「え……?」
彼の問いかけに、シュタウフェンベルクは少し驚いた顔をする。
彼がこうして、自分が楽器を弾こうとするのに興味を示したのは、珍しく感じた。
ヘフテンは驚いた顔をしているシュタウフェンベルクを見て、にっと笑って、言った。
「弦を押さえるのが大変なら、それは僕がやりますよ大佐!」
ヘフテンは笑顔でそう言い切る。
そこまで楽器に詳しい方ではないのだけれど、
弦を押さえたりチェロが倒れないように支えることくらいならば、自分でも出来るはずだ。
ヘフテンはそう思いながら、彼にいう。
予想していなかった言葉にただただ目を丸くするシュタウフェンベルク。
そして幾度か瞬きをすると、彼は言った。
「じゃあ……その弦を、押さえてくれないか?」
折角そういってくれるのだから、シュタウフェンベルクはそう思う。
それに久しぶりに少しで良いから、チェロを弾いてみたかった。
細かい指定は出来ないけれど……
何処の弦を押さえればよいのかを伝えてやることくらいは出来る。
ヘフテンはそんなシュタウフェンベルクの言葉を聞いて、ぱぁっと顔を輝かせる。
そして、元気よく頷いて見せた。
「!はい!」
シュタウフェンベルクが示した弦をヘフテンは押さえる。
それを見て、シュタウフェンベルクは弓を左手で握り、弦を擦る。
震えるような音が部屋に流れた。
その音に、ヘフテンは人懐っこい瞳を見開き、輝かせた。
シュタウフェンベルクはそんな彼を見て、表情を緩める。
彼には退屈な作業なのではないかと心配したが、彼は彼で楽しそうにやってくれている。
次はそこ、次はそれ、此処と此処を押さえて……
そんなシュタウフェンベルクの言葉を聞いて、ヘフテンはそれの通りに手を動かす。
何処か楽しそうな彼の表情。シュタウフェンベルクもそんな彼を見て、
穏やかに笑みを浮かべて見せる。
通常チェロは一人で演奏するものだ。
しかし、今は違って……自分が信頼している副官と、こうして一緒に演奏をしている。
まるでピアノの連弾かのように。
そうした特殊条件下で弾くのはやはり難しかったのだけれど、
それと同時に楽しいとも感じていた。
ゆっくりと、一音一音を二人は奏でていく。
二人で協力して弾いているために音楽と言うにはぎこちなく、
途切れ途切れなものではあるが、久し振りに弾いた楽器の感触に、
シュタウフェンベルクは目を細めた。
楽しかったと、心からそう思う。
ヘフテンもどうやら同じ気持ちらしく、チェロの弦から手を離すと、
彼は嬉しそうににこにこと笑いながら、言った。
「綺麗な演奏ですねぇ、大佐」
「演奏、といえるかはわからないが……」
演奏というよりは、音のつなぎ合わせたものだ。
一応思い出したメロディラインをなぞってみたけれど、あれだけゆっくり、一音一音やっていたら、
弾いたというよりは音を拾っていった、というほうが正解な気がする。
そんなシュタウフェンベルクの言葉に、ヘフテンは少しだけむくれた顔をした。
"折角綺麗だったのに"とやや不服そうに呟く彼を見て苦笑を洩らすと、
シュタウフェンベルクは弓を置きつつ、とそっとヘフテンの頭を撫でた。
目を丸くする彼を見つめて、シュタウフェンベルクはいう。
「こうして、演奏をしたのは久しぶりだったな……」
「楽しかったですか?大佐」
ヘフテンはそう訊ねつつ、シュタウフェンベルクに向かって首を傾げて見せる。
彼としては一番気になるのはそこ。
別にヘフテンはあまり触れる機会のない楽器に興味を示したわけではない。
元々それを弾くことが好きだった自分の上官の手伝いを少しでもすることが出来たら……――
そう思って、チェロの演奏を手伝ったのだから。
そんなヘフテンの問いかけに、シュタウフェンベルクは小さく頷いた。
そして、目を細めつつ、ヘフテンにいう。
「とても楽しかった……こうして誰かと演奏をする、というのも……」
「誰かと?」
わざと不服そうな顔をして訊ねるヘフテン。
その言葉にシュタウフェンベルクはさあっと顔を赤くした。
彼が求めている言葉は、理解出来ている。
あちこちへ視線を彷徨わせたのち、彼は小さく溜め息を吐き出して、
恥ずかしそうに、消え入りそうな声で言った。
「……お前と。ヘフテンと、演奏が出来て楽しかった」
シュタウフェンベルクが照れて顔を赤くしつつそういうと、ヘフテンは嬉しそうに笑った。
"またいつでもお手伝いしますよ!"と張り切った様子で言う。
先程弓を握り、演奏をするシュタウフェンベルクは本当に楽しそうに見えたから。
そんな彼の手伝いが出来るのならば、嬉しいと。
シュタウフェンベルクはそんな彼に礼を言う。
そして"そういえば"というように、不思議そうな顔をした。
「もう仕事は終わっているのに、またこうして戻ってきたのは何故だ、ヘフテン?」
いつものことだからすっかり失念していたのだけれど……
もう、仕事は終わっている。
いうなればもう解散だ。
なのに彼はわざわざこうして此処に……シュタウフェンベルクの部屋に戻ってきた。
それは、何故?
シュタウフェンベルクがそう訊ねると、ヘフテンはにっと悪戯っぽく笑った。
―― おやすみなさいをいっていなかったので。
ヘフテンはシュタウフェンベルクにそういう。
それと同時、ヘフテンは彼に軽く口づけた。
驚いて固まっている彼に再び笑うと、ヘフテンは風のように部屋から出て行った。
彼に口づけられた場所を軽く指先で撫でて、シュタウフェンベルクは更に赤面する。
そして、小さく溜め息を吐き出しつつ、"馬鹿ヘフテン……"と、
恥ずかしそうに、でも何処か嬉しそうに、小さく溜め息を吐き出したのだった。
―― A "three"‐handed performance… ――
(連弾、とは少し違う。
演奏したのはピアノではないし、"四本の腕"で演奏したわけでもない)
(それでも彼と一緒に演奏出来たのは嬉しくて…
ありがとう、一緒に演奏をしてくれて……――)
2014-6-5 21:50