主人公コラボでシリアスなお話です。
どうにか区切りをつけようと思ったのに…
何故でしょう、ダブル闇落ちエンドが見える終わりかたになってしまいました…←おい
*attention*
主人公コラボのお話です。
シリアスなお話です。
特殊魔力を持つ人間は疎まれることも多いだろうな、と思って…
それを悲観してマイナス思考に陥ってるヒトラーさんと
それを叱咤するフィアとを書きたかった…←
でも何だか終わりかたがフィアまでシリアス思考(ぇ)
相変わらずの妄想クオリティ
ナハトさん、本当にすみませんでした…!
以上がOKというかたは追記からどうぞ!
「ふぅ……」
小さく息を吐き出して、亜麻色の髪の少年は地下室のドアを閉めた。
まだ、ドアの向こう側では何やら叫んでいる声が聞こえる。
先刻街で捕縛してきた、違法研究者の一人だった。
街外れにある研究設備で違法に特殊魔術の研究をしていたという罪状。
特殊魔力は扱いが難しい魔術だ。
通常の人間は持ち得ない、特殊な魔力……
使い方を誤れば人を簡単に殺め、物を破壊する力となりうる。
強くなれば、この世界そのものをも揺るがせる力にもなりうるもの……
そんな存在であることは、あの研究者を捕縛してきた彼……
フィアたちがよくよくわかっていることだった。
フィアは地下室の鍵をかけて、上に上がる。
あと少ししたら騎士団とは別に成立している警察組織があの研究者の身柄を移送する。
それまで逃げないであの場所に拘束しておくのがフィアたち騎士の仕事だった。
埃っぽい地下室の空気が胸に溜まって気分が悪い。
そう思いながらフィアは一人、すでに暗くなった中庭に出てきた。
胸一杯に新鮮な空気を吸う。
そして、ふぅと溜め息を吐き出した。
「強い力を持つ得体の知れない存在、か……」
街外れの研究所であの男を捕縛したときに、
一緒に任務に赴いた長い黒髪の彼と共に聞いた、あの男の台詞だった。
あの男はフィアと彼……ヒトラーが特殊魔力の持ち主であることを知っていた。
そればかりか、何処から知ったのか、ヒトラーたち……
フラグメントの情報も得ていたようだった。
"得体の知れない存在"という言葉……
それは、明らかにヒトラーに向かって吐かれていた言葉だった。
得体の知れない"外の国"の人間が、この国のなかで強い力を持っていて、
そのまま安穏と暮らしていることがおかしい。
空間移動で城へ移送する直前、あの男は二人に向かってそんな台詞を吐いていた。
得体の知れない存在……
フィアはその言葉を繰り返して、幾度目になるかわからない溜め息を吐き出した。
「そんなの、俺だって同じなのに」
悪魔の魔力をも有する天使。それが、自分。
フィアはその事がコンプレックスだった。
完全な天使ではない。かといって悪魔ではない。
"堕天使"という、不完全な存在……
でも、とフィアは気を取り直したように視線をあげる。
先程まで一緒にいたヒトラーの姿は、いつのまにか見えなくなっていた。
最後に見たときの顔色は優れなかった。
体調が優れないとか、そういう問題ではなくて……
傷ついていたのだろう、とフィアは推測していた。
ヒトラーは優しい。
仲間思いで、優しくて……傷つきやすい。
フィアが自分のなかを流れる悪魔の魔力を疎んでいるように、
ヒトラーも自分が持つ悪魔の魔力が破壊に使われる魔力であるという認識から、
その魔力を疎んでいるようだったから。
それを危険だと見なされ、尚且つ"得体の知れないもの"と呼ばれたことに、
ショックを受けていないはずがない。
フィアは意識を集中させてヒトラーの魔力を探した。
こういう状況元、彼はきっと一人で何処かにいるだろう。
彼の周りの人間は彼のことが大好きで、
彼はそんな周囲の人間を心配させたくないと思っているはずだから。
「……見つけた」
フィアは小さく呟く。
そして、静かにその方向へ歩き出した。
***
長い、長い、螺旋階段を上る。
そこは酷く静かで、不気味だ。
何のために作られたのか、何のために存在しているのかわからない、古ぼけた塔……――
その頂上から、ヒトラーの魔力を感じた。
此処は一人になるのは最適な場所だ、とフィアも思う。
彼も、一人でいたい時はよく此処にきた。
でも、此処で一人で蹲っているとき、内心では探しに来てほしいと願っていた。
きっと彼も同じ心境だろう……
そう信じて、フィアは階段を上りきった。
一番奥にある、小さなドアを開ける。
さっきまでフィアがいた地下室よりもなお埃っぽいその部屋のなか……
砕けた窓ガラスのそばに、ヒトラーは立っていた。
長い黒髪が吹き込む強い風に揺れている。
華奢な体の影が、月明かりに照らされてボロボロの床に落ちていた。
「ヒトラー様……」
フィアは小さな声で彼を呼ぶ。
ヒトラーは少し驚いたような顔をして振り向いた。
そして、困ったように笑う。
「フィア、か……どうして、此処にきたんだ?」
「ヒトラー様を、探しに」
フィアがそう答えると、ヒトラーは溜め息をはいて窓の外に視線を投げた。
"探しに来てなどほしくなかったのに"というような表情。
フィアは顔をしかめてから、一歩彼に歩み寄る。
「ヒトラー様、此処は冷えますし……帰りま……」
「フィア」
有無を言わせぬ声で言葉を遮られ、フィアは口をつぐんだ。
ヒトラーは振り向いて、フィアの方を見る。
「……どうして、だろうな」
「え……?」
「あの男の言葉がもっともだとわかっているのに、哀しい」
少し強くなる、ヒトラーの魔力。
悪魔の魔力は、人間の負の感情に対応して強くなったり弱くなったりする。
案の定、ヒトラーは先ほどの、あの男の言葉に傷ついているらしい。
少し強くなった悪魔の魔力に、フィアは表情を歪める。
「ヒトラー、様……」
「皆の傍に居たいと願うことさえ、許されないのかな」
ヒトラーはそう呟くと、俯いた。
強くなった魔力で、僅かに残っていた窓ガラスが砕け散った。
フィアは小さく悲鳴をあげる。
「わ……っ」
「私は何も特別なものなど望んでいない……ただ……――」
ただ。
大切な仲間と、友人と、一緒にいたいだけ。
何も特別なことなど望んではいない。
「……それさえ、望んではいけないのか」
仕方ないな、とヒトラーは呟く。
自分は、フラグメントだから。
自分は、ヒトラーだから、と。
そんな彼の声は悲しげで、その悲しげな声に呼応するように強くなる、黒い魔力。
フィアはそれに圧倒されないように、
かといって彼を傷つけないように白い魔力を放ちながら、叫んだ。
「望めば良いでしょう!?」
驚いたようにヒトラーがフィアの方を見る。
フィアは一歩、一歩、彼に歩み寄っていった。
逃げようとして、あとずさるヒトラーの体は、
既に割れた窓すれすれまで下がってしまっている。
フィアはそれを追いかけるように近づきながら、いった。
「何で、何でそんなに卑屈になるのですか?!
俺たちが一度でも、貴方を嫌いましたか、拒絶しましたか?!」
強い、説教するような声でフィアはヒトラーに言う。
いつもの、穏やかな声ではない。
その声に少し驚いたように、ヒトラーはフィアの方を見る。
いつもは空色のその瞳も、真っ赤に染まっていて、涙で潤んでいた。
フィアはそれをまっすぐに見つめたまま、ヒトラーにいう。
「……確かに、あの男のような奴もいる。
貴方や……俺のような、特殊な魔力を持つ者を恐れ、憎む者もいる」
それは否定できない、真実。
特殊なものだから。
変わっているから。
……普通でないから。
だから、だから……恐れられる。
それは、変えようのない真実だ、といってフィアは俯く。
そうだよな、とヒトラーは呟いた。
そして悲しげに笑う。
そんなヒトラーに、歩み寄ったフィアは、彼の手首を掴む。
特殊な魔力。
その痛みに顔を歪めながら……
「でも、すべての人間がそうではないでしょう?
貴方の部下は、仲間は?
……貴方がかけがえのない存在と思っているクビツェクは?
……貴方と同じ立場である、俺は?」
その言葉に、ヒトラーは目を見開く。
そして、目の前にいるフィアを見つめた。
フィアはサファイアの瞳でヒトラーを見つめ返して、微笑んだ。
「……貴方を拒絶したりしない」
だから、とフィアが声をかけたその刹那。
強い横風が二人の体を打った。
既にフィアとヒトラーの魔力で脆くなっていた足元の地面が崩れる。
「あ……っ」
フィアが小さく声をあげると同時。
二人の体は宙に放り出された。
ふわり、と嫌な浮遊感が体を包む。
浮いた、と思うと同時に落ちていく。
風を切って、下へ、下へ……――
フィアは魔力で障壁を張ろうとした。
けれど、ヒトラーに応戦するために魔力をほとんど使い果たしていて、
そしてこの絶体絶命の状態に動揺して、魔力が安定しない。
―― このままだと、二人とも……!
そんな焦りを抱くが、どうにもならない。
近づいてくる地面に恐怖を感じ、ぎゅっと目をつぶった、そのとき。
ばさっと、大きな鳥が羽ばたくような音がした。
落下する感覚が、止まる。
フィアはおずおずと目を開ける……
そして、あっと声をあげた。
フィアの体はヒトラーに支えられていた。
ヒトラーの背には大きな黒い翼が開いている。
それが羽ばたいて、落下するのを止めていた。
ヒトラーはフィアを見つめて、口を開いた。
「……大丈夫、か……?フィア」
「……ほら」
フィアはそっと、腕を伸ばしてヒトラーに触れる。
ヒトラーは驚いた顔をして、目を見開く。
フィアは微笑んで、いった。
「助けてくれたじゃないですか。
ヒトラー様は、俺たちを守ってくれる……必要な、大切な、仲間です」
破壊の悪魔などではない、とフィアはいう。
ヒトラーはその言葉に驚いたようにまばたきをした後、小さく首を振った。
「!……いや、私は……反射的に……
フィアも、同じことをしようと、しただろう……?」
ヒトラーはそういうが、フィアはゆっくりと首を振った。
そして、ヒトラーを見据えたままに、いう。
「俺は今、魔力を殆ど使えない……
ヒトラー様がこうしてくださらなかったら、
二人とも地面に激突して死んでいましたよ」
ヒトラーが羽ばたきながら、地面に降りる。
足がつくと、フィアはその場に跪きそっとヒトラーの手を取り、その甲に口づけた。
「……ありがとうございます、ヒトラー様」
「フィア……」
ヒトラーは震える声でフィアを呼ぶ。
その瞳から涙がこぼれると同時。
ヒトラーの体がぐらり、と傾いだ。
彼も、フィアの天使の魔力に当てられている。
あげく、魔力を使って悪魔の姿をとり、そのままフィアを支えて羽ばたいていたのだ。
体力が、魔力が、気力が、限界に達していてもおかしくはない……
「ヒトラー様……」
フィアはヒトラーの体を支えたまま、その場に膝を折った。
フィアも、もう限界だった。
気を失ったヒトラーの体を支えたままに、その場に転がる。
ひらひらと、ヒトラーの黒い羽が舞っていた。
フィアはそれを指先で摘まんで、月明かりに翳す。
大きな黒い羽は、月明かりに照らされて、綺麗に輝いていた。
その美しさは、天使の白い羽とも違わぬもの……
「……対立する、魔力……か」
こんなもの、存在しなければよかったのに。
フィアはそう呟いた。
白があって、黒がある。
光があって、闇がある。
それを善悪に当てはめてしまうのは人間の性。
でも、そんなものがあって……
天使は善で、悪魔は悪とされてしまうから……
だから、"悪"と見なされてしまうヒトラーは苦しむ。
「そんなもの、なければ良かったのに……――」
フィアはヒトラーの隣に倒れたままに、小さく呟く。
対立する二つの魔力。
それが、あることが……
彼の、自分の、苦しむを生むのなら。
「そんなもの、なければ良かった……」
フィアは呟く。
自分が、ヒトラーが背負った、運命とやらに対する微かな憎しみを、胸に抱いて。
―― 混ざらない二色 ――
(白は白であると誰が決めた?
彼は悪魔でありながら優しい心を持つのに。それ故に苦しんでいるのに。
そんな決まり、なければよかった。白も黒も、区別がない世界ならよかったのに)
(私は黒だから。私は、悪だから。
仲間の傍にいることも、存在することさえも、疎まれてしまうのかな…?
それにたいして違うと叫んでくれる彼の言葉は嬉しいけれど、……――)