ライニさんの過去の話をチラチラ聞いていたら書いてみたくなって…書いてしまいました…
過去に虐められっ子で内気で美人なショタライニさん…素敵です←おい
*attention*
赤髪金髪コラボのSSです
ちょっとシリアスちっくだったりほのぼのだったりな話です
ライニさんの過去の姿を少し書いてみたくて…
いじめられっ子で、内気で言い返せず…だったライニさんが可愛いな、と(おい)
アネットは相変わらずなテンションですみません←
相変わらずの妄想クオリティ
ナハトさん、本当にすみませんでした…!
以上がOKというかたは追記からどうぞ!
静かな夜の闇の中。
響くのは高い、バイオリンの音色。
滑らかな旋律が紡がれていく。
その音はプロのバイオリニストの演奏とも大差ないような、美しい音色。
しかしそれを演奏しているのは騎士の棟にいる、一人の騎士……
艶やかな金髪に、美しい碧の瞳。
すらりと高く、華奢な体躯……。
小さなバイオリンを抱え、弓を動かすその姿は、まるで一枚の絵画のようで。
その姿を見つめるは、赤髪の少年。
美しい金髪の彼……自分の恋人である彼を見つめて、彼の演奏を聴く。
と、一曲が終わって金髪の彼……ハイドリヒは手を止めた。
演奏を聴いていた赤髪の少年は目を輝かせて拍手をする。
「やっぱり綺麗だな、ラインハルトの演奏」
赤髪の彼……アネットはにこにこと笑いながらそういった。
ガーネットの瞳は冬の星にも負けないほどに、きらきらと瞬いている。
元々芸術面にはあまり興味がないといっていた彼だが、
ハイドリヒの演奏だけは別だという。
一重に、自分が大好きだと思う彼の演奏だからなのだろうけれど、
退屈しないし眠くもならないのだという。
ハイドリヒはそんな彼を見て小さく溜め息を吐いた。
「これを期に、音楽の知識も多少頭にいれたらどうですか?」
ハイドリヒは弓を振りつつそういった。
アネットの一般教養は普通の騎士の域にすら達していない。
音楽、美術……もっと言うなら礼儀作法の点から怪しいのだから。
一応パーティ会場にも出入りをして身分の高い人間とも会話をする職業でありながら、
そういった文化的な会話が出来ないというのは、少々問題がある。
アネットは元々炎豹の騎士。
魔獣討伐を行う彼だから、先頭能力が重視されるため、
文化面はそこまで重要視もされなかったらしいけれど。
「そうだなー……ラインハルトが教えてくれるなら、頑張って覚える」
「私が、ですか……」
「うん。だってラインハルトの演奏だから聴いてられるし、
ラインハルトの講義だったらちゃんと聴いてられる自信あるもん」
アネットはそういってにかっと笑った。
愛しい君の演奏だから好きで。
愛しい君の言葉なら素直に聞き入れられる、と。
ハイドリヒはそれを聞いて彼らしいな、と思う。
「……まぁ、考えておきましょう」
ハイドリヒがそういうとアネットは嬉しそうに笑った。
ありがとう、という彼を見てからハイドリヒはぷいとそっぽをむく。
それが照れ隠しであることはわかっていた。
ベッドに座っていたアネットは体勢を直して、ハイドリヒを見つめた。
「もう一曲弾いてよ、ラインハルト」
アネットはそうせがむ。
もう一曲聴きたい、と。
ハイドリヒは"仕方ないですね"といって、再びバイオリンを構えた。
演奏するのは嫌いじゃない。
リクエストはあるか、と聞こうとしたが……
彼に曲名をあげさせるだけで夜が明けるだろう。
そのまま弦に弓を当てて弾きはじめて、過去の記憶に入り込んでいった。
***
―― 思い出すのは、一人きりの部屋。
静かなその場所でバイオリンを取り出している"自分"はまだ髪が短かった。
訓練を、或いは講義を、任務を終えて一人部屋に戻ってきて。
誰もいない、静かな部屋……
それは、ハイドリヒにとって落ち着く空間だった。
他人がいない。
他人の目がない。
誰の声もない、静かな部屋……
そんな空間で少し体を休めると、彼はバイオリンを取り出して弾いていた。
あまり遅くなってから弾けば煩いと言われるために、控えめに、ほんの少しだけ。
短い髪を夜風が揺らす。
空気を震わせる美しい旋律は誰に聴かれることもなくただ流れて……
昔から、バイオリンを弾くのは好きだった。
それこそ、子供の頃から、海軍にいた頃にもよく弾いていた。
実家にいる間には旧友カナリスの前で演奏したりもしていた。
そうして、彼の前で演奏することは好きだったし、
彼のことも慕っていたけれど……
そうそうずっと、一緒にいるわけにもいかない。
父親に貰ったバイオリン。
それを弾いていれば、周囲の反応は顕著。
他人と違うことを指摘して笑うのはある意味子供の特質なのかもしれないけれど……
ハイドリヒの性格も相俟って、周囲の子供には嫌厭されることが多かった。
男にしては高い声の所為で"雌ヤギ"などと不本意な渾名をつけられても、
それに強く反発することも出来なくて、無反応を貫いていた。
……否、その表情には僅かにでもおどおどとした色があったのかもしれない。
周囲は無反応な彼を見て一層囃し立ててみたり、つまらない奴だといってみたり、
下手をすれば自分の美貌や才を鼻にかけている、なんて言われたりもした。
例えそんなつもりがなくとも。
周囲に溶け込むことなど出来ず、一人過ごすことが増えて。
何か言いたいと、そう思えどもそれを実行に移せるほど彼は強気にはなれず。
そんなことが続けば続くほどに、ハイドリヒは一人で過ごすことが多くなった。
休んでいる間も話しかけられることはなく、
声をかけられてもそれは大概からかいの声。
面倒だから無視をしていたのだけれど。
一人でいいと思っていた。
誰かと馴れ合うこと、親しくなることなど不要だと。
幸か不幸か、ハイドリヒは幼い頃から周りより出来がよい少年だった。
なまじ一人で器用にすべてをこなすことが出来てしまっていたから、
そして有能であったから……周囲の協力等なくとも、やっていけていた。
成長していくにつれて、そんな感情は強くなっていき、
その才故に上官の不興を買うことも多かった。
そんな才能故か、その才故に周囲を軽んじるように見えてしまう彼の態度故か、
彼は次第に一層孤立していった。
そんな空間でも良いと、そう思っていた。
一人でいい、と。
友人などいらない、と。
そう思い込もうとしたのか、本当にそう思っていたのかは、
自分自身でもよくわからなくなっていたけれど……
***
そんな回想に浸っていたハイドリヒが演奏を止めた。
小さく溜め息を吐いた。
目の前には、きょとんとした顔の赤髪の少年。
突然演奏をやめてしまったことを不思議におもっているのだろう。
彼は自分に罵倒の言葉をぶつけるわけでも、
意地の悪い笑みを浮かべるわけでもない。
あのときと同じように、バイオリンを弾いているのに。
「……状況は、同じなのに」
ハイドリヒはそう呟いた。
あのときと状況は同じなのに……今自分がいる状況は違うな、と。
「?ラインハルト、どうかしたか?」
アネットは不思議そうに首をかしげた。
ハイドリヒは何でもないですよ、と首を振る。
今は、こうして傍で演奏を聴く"友人"がいる。
その事が良いことなのかハイドリヒは自信を持てなかったけれど……
「?どうしたんだよー?具合悪いのか??」
そう訊ねながら、ハイドリヒの額に触れるアネット。
彼の暖かい掌では熱があるか否かなどわかるはずもないのに。
「大丈夫です、何でもないですから……離してください」
そういいながら間近にいる彼を少し引き剥がす。
あまりに近くで見つめられると……気恥ずかしい。
引き剥がされたアネットは少し不服そうな顔をする。
そのまま"本当に大丈夫か?"と訊ねた。
「大丈夫か、って……別に私はどうもしませんよ」
「えぇ?
だってラインハルト……なんか、すごい遠く見てるような目してたから……」
ちょっと心配になった、とアネットは言う。
確かに彼は心配そうな顔をしている。
「遠く、ですか……――」
ハイドリヒはそう呟いて、窓のそとに視線を投げた。
細い月が夜空にかかっている。
遠くと言えば遠く、なのかもしれない。
そう思いつつハイドリヒは小さく息を吐く。
―― もしも。
彼が、"あの頃"に一緒の空間にいたとしたら。
彼は、自分を見つけてくれただろうか。
現在の、卑屈な自分をこうして明るい世界に引きずり出してくれたように、
"あの頃"の自分をも……と、思ってみる。
無論答えなどでないし、出すつもりもない。
過去は変わらないし、そんな話題を口にして、
決して明るくはない自分の過去を彼に話すことになるのが少し怖かった。
「……急に止めてすみません」
「いや、そりゃ気にしねぇけど……」
本当に大丈夫か?と訊ねる彼にうなずいて、ハイドリヒはバイオリンを構え直す。
かつての自分の姿を思い返しながら、先程止めてしまったところから演奏を始めた。
―― 過去と、現在と… ――
(かつての私と今の私と…
代わったものはなに?変わらないものは何?
少しは強くなれた?それとも…弱くなったのでしょうか)
(遠くを見つめる彼は一体何を思っているのだろう。
心を読むことなど出来ない俺にはそれはわからない。
でも、それを訊くことも出来なくて……――)