信号機トリオのssです。
といっても、喋ってるのはアネットとカナリスさんだけですが←
*attention*
信号機トリオ、基カナリスさんとアネットのお話です
シリアスちっくな雰囲気です。
「Which is…?」の続き的なお話
お互いにライニさんのことを大切に思ってるんだよ、というお話(何)
最後は何故か惚気ましたすみません(おい)
相変わらずの妄想クオリティ
ナハトさん、本当にすみませんでした…!
以上がOKという方は追記からどうぞ!
降り注ぐ大雨が窓を叩く。
雨風は先刻よりはややマシになったようだが、それでもまだ降り続いている。
赤髪の少年は自分の腕の中で眠っている金髪の少年の髪をそっと撫で付けていた。
外で降る雨と同様、先程よりは幾分マシになったものの、尾を引いている嗚咽。
濡れていた体はアネットが魔術を使ってなんとか乾かした。
細かい作業が得意でない彼ではあったが、
大切な人……ハイドリヒに風邪を引かせたくはない。
その思いで少しずつ弱い魔術で彼の服を、体を乾かした。
本当は着替えさせたかったのだが、あれだけ泣いて、苦しんで、
その末に眠ってしまった彼を叩き起こして着替えさせるなど、
アネットには到底できなくて。
彼の華奢な体を抱き締めたまま、アネットはベッドに座っていた。
ベッドに下ろして自分も帰ろう、とは思えなかった。
先程までの彼の様子を思い出す。
弱さを晒して涙を溢す姿、そんな自分を憎む姿。
そして……その"どちら"の言葉かもわからない、「疲れた」という言葉……
あんな状態の彼を見たあとで、そのまま置いて帰ることなど出来る筈がない。
傍にいて何が出来るというわけでもないけれど……――
と、その時だった。
聞こえた控えめなノックの音にアネットは顔をあげた。
こんな夜遅くに誰だろう。
此処は、ハイドリヒの部屋だ。
下手に入室を許可するわけにもいかないな、と思って……アネットは口を開いた。
「誰?」
「……アネットさん?」
怪訝そうな声が聞こえた。
その声はアネットもよく知る、黒髪に金の瞳の彼の声で……
アネットはほっとしたように息を吐いて、答える。
「ヴィルか……鍵は開いてるよ」
彼ならば、部屋にいれても大丈夫だろう。
もしかしたらハイドリヒに用事があったのかもしれない……
そう思いつつアネットがそう答えると、
少し迷うような間が空いてからドアが開いた。
入ってきたカナリスはベッドに座っているアネットと、
その腕の中で眠っているハイドリヒとを見て顔をしかめた。
ハイドリヒは眠ってはいるがその頬には色濃く涙の痕。
聞こえる寝息の端々に少し残った嗚咽が混じる。
「何か、あったのですか?」
そう訊ねるとカナリスの言葉に少し言葉に刺が出たのは、
カナリスもアネット同様にハイドリヒを大切に思っているから。
この状況的に考えにくいのだが、
アネットが何かしたのか、という思いもないわけではなかったから、
そんな声色になったのだろう。
アネットもそれがわかっているため、
少し眉をひそめただけで、怒りの声はあげなかった。
ただ小さく首を振って、あったことをそのまま述べた。
「俺もよくわかんねぇ。
部屋に来たら、ラインハルトがずぶ濡れで窓辺に突っ立ってて、
ほっとけないからって髪拭いてやってたら……泣き出した。
何か、混乱してたみたいだ。任務、キツかったのかも」
言葉を選びつつアネットがそういうと、
カナリスも状況を理解したらしく"そうですか……"といって小さく頷いた。
彼も、ハイドリヒの"事情"は知っている。
恐らく、アネットより詳しく。
アネットはカナリスから視線をはずすと、
ハイドリヒの髪を撫でながら、呟くようにいった。
「ラインハルト、疲れた、っていってた。
ほんとに色々キツいんだろうな……」
それは、今だけの話ではない。
こうして時折彼が見せる姿の端々から、
彼が今まで歩んできた道程の険しさを、苦しさを知る。
弱さを圧し殺すことも、そんな弱い自分を憎悪することも、きっと疲れる。
そんなアネットの呟きを聞きながらカナリスは目を閉じて思い出した。
昔からの、彼の姿を。
初めて彼が人を撃ち殺したとき、カナリスは泣いているハイドリヒを叱咤した。
それが、彼らには必要な叱咤だった。
一度一度の任務で泣いていては任務遂行などできないから、と。
そのカナリスの言葉に従って、ハイドリヒは泣くのをやめた。
"無心"に任務に赴くようになった……―― 少なくとも、表面上は。
任務の結果のみを見る人間は、彼を優秀だと評価しただろう。
その才能に、能力に嫉妬した者さえいただろう。
或いは、涙ひとつ、苦痛の表情ひとつ見せずに任務を遂行する彼の姿を見て、
冷たいと思う人間、恐怖心を抱く人間もいただろう。
そうしたなかで彼は孤立していった。
そして、そうして孤立したなかで過酷な任務に赴き、
彼は少しずつ、少しずつ追い詰められていった。
親しい人間……カナリスにはわかっていた。
彼が壊れてしまう寸前なのが。
微妙なバランスの上で生きていることが。
何度、救いたいと思っただろう。
何度、救えなくて臍を噛んだだろう。
眠ったままのハイドリヒを見つめながら、カナリスはそう思う。
そのとき。
ふと思い出したようにアネットがいった。
「でも、さ……ヴィルもきつかったんだろーな、って思う。今は特に」
「僕も?」
思わぬアネットの言葉にカナリスは金の瞳を見開いた。
どういうことですか?と訊ねると、アネットは少し笑って、いう。
「大事な奴が苦しんでるのになにも出来ないの、辛いもん。
ヴィルは昔からこうだったんだな、って……」
カナリスは暫しその言葉にまばたきを繰り返したあと、小さく息を吐いて、頷いた。
「……そうですね」
そうだ、きつい。苦しい。悔しい。
大切な人が苦しんでいても何も出来ないのは。
アネットはそんなカナリスを見つめて、苦笑混じりにいった。
「俺も、キツいもん……
ラインハルトが泣いてても、大丈夫だっていって、
抱き締めててやることしか出来ねぇ……歯痒いよ」
アネットはそういって、一度ハイドリヒの頬にキスを落とす。
深く寝入っているらしい彼は目を覚まさない。
カナリスはそんなアネットを見つめたあと、呟くようにいった。
「そうしてやれているだけでも、充分だと思いますよ」
抱き締めて、慰める。
それは、カナリス自身は出来なかったことだった。
アネットのように"大丈夫だよ"と、言ってやることは出来なかったから。
カナリス自身、彼らの任務の重さを知っているからこそ、
軽々しく大丈夫とは言えなくて。
それでも、苦しみ壊れていく彼を救いたくて手を差し伸べた。
その手は彼に届く前にはね除けられてしまったけれど。
アネットもそんな彼の思いは理解しているのか、暫く黙った。
そして、もう一度口を開く。
独り言にも聞こえるような声だった。
「……ラインハルトな、こういうときいっつも俺にいうんだ。
重いだろう、面倒だろう、って。凄く、自嘲してるみたいな声で。
……俺、一度もそんなこと思ったことない。
ラインハルトにもいつもそういうんだけど……
やっぱり不安みたいで、何度も聞かれるんだよ。
俺が傍にいたくているだけなのにな……」
そう呟くアネット。
ハイドリヒを抱くその腕は優しく、でも解けることはない。
重たいと手放してしまうことは楽だろう。
でも、それをアネットがしないことから、
ハイドリヒへの想いを強く感じた。
……もっとも、生半可な気持ちの男に、
大切な旧友を"任せた"なんていったつもりはカナリスとてなかったが。
「……何度でも、いってあげてください」
カナリスはそういう。
何度でも、何度でも伝えてやってくれ、と。
何度も訊ねるのはそれだけ不安だからだろう、と。
今まで縋れる先を持たなかった彼……ハイドリヒは、
何処まで他人に寄りかかって良いのかわかっていない。
だからこそ、確かめてしまうのだろう。
多少、相手が傷つくであろうことも、傷つけるとわかった上でいってしまう。
傷つけても自分を手放さないでいてくれる、というのはきっと……
安心できることだから。
カナリスが静かにそういうと、アネットは笑って頷いた。
いつも通りの、明るい、太陽のような笑み。
「決まってんじゃん。ラインハルトは、俺の大切な恋人だからな!」
「……惚気は、いりませんよ」
言わなければよかったかと少し思うカナリス。
アネットはそんな彼を見て可笑しそうに笑うと、
優しくハイドリヒの体を抱き締めた。
―― 守るよ、絶対に。 ――
(無責任だなんて言わせない。
大丈夫じゃないことも"大丈夫"にしてみせる)
(脆く優しい彼のことを、この少年は支えてくれるだろうか。
太陽のような暖かさのなかに彼を置いて、守ってくれるだろうか)