「いやぁー、春だね!」

「桜も散っちゃいましたけどね」

隣で黙々と仕事をしていたベグライターがやっと口を開いたかと思えば、それはそれはすっぱりと上司の言葉を一刀両断。

幸せだ、とばかりに両腕を広げていたヒュウガはぶー、と頬を膨らませた。


「だから可愛くないです」


そんなコナツの鋭いツッコミを最後に、二人しかいなかった執務室には静寂が訪れた。




花見を飾っていた桜ももう散り際で、今日の風は強いとか明日は雨が降るとか聞くし今日で桜も見納めだろう、
そう思って、コナツは書類の上を滑っていた手を止めて換気のために開いていた窓の外を見やる。

そこから見えるのは、どこか意図的に作られたような青空だった。
人工的で、機械的で、握り潰したら粉々に砕けてしまいそうな儚い現実。
その時確実に、世界は変わったのだ、と感じたのだ。

小さい頃に窓から見た景色は、どことなく輝いていて。まるで神の手によって洗練されたかのように神聖で、神秘的に見えていた。


自分が今見る世界とは異なる、別の世界。
本当は夢だったんじゃないかと思うほど美しく、手の届かない世界。

そして、今も。


そんなことをぼう、と考えながら窓の外を見つめていると、びゅ、と一際強い風が吹いて来たと同時に薄紅色の欠片が舞い落ちてきた。



「桜…」


「…ねぇ、」

珍しく静かに作業に徹していたヒュウガが視線を動かさずに口を開いた。


「時は、流れていくんだよ。桜が散って、また同じ所に咲くまでの間にも、時は流れていくんだ。桜自身はそこから動けないし同じ景色しか見えない。
…それでもね、世界は動いてる。
確実に、変化している。
それってさ、やっぱりすごいよね」

ヒュウガが顔を上げてにっこりと笑った。

あぁ、この人はきっとわかってるんだ、なんてノロケみたいなことを考えながら、手の動きを止めた上司に制裁の一発をぶち込んだ。


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季節外れとか知らn(爆)
深い意味を持たせようと思って撃沈しました…
シンプルだけど深い文章書ける人って尊敬する!!