ある日の昼下がり。
温かい陽射しは暗雲の向こうに隠れてしまい、氷の欠片が宙を舞って、視界を白く染めて行く。
窓の向こうに見える景色は、いつもと違う色で描かれていた。


上司は執務室の窓からそんな外の様子を見て、満面の笑みを浮かべている。

しかし、俺は、彼のように雪を楽しむ気分にはならなかった。

もとより、興味がない。
雪が降ったからと言って何がある訳でもないし、むしろ、歩きづらくて不便なだけではないか。


こんなことを考えてしまう自分は、随分と面白くない人間なのだと思う。


思考を止めて窓に映る自分の姿を見ると、ぼんやりとしていてよくわからなかったが、きっとつまらなさそうな顔をしているに違いない。

しかし、いつのまに移動したのか、隣にいたはずの男を己の背後に見つけた。

男の腕の中に身体がすっぽりと収められ、背中越しに相手の温もりが伝わる。


「雪って、いいよね」


ぽつりと呟かれた言葉に、どこか後ろめたい気持ちにさせられた。

彼は雪が好きだ。
でも、自分は雪が好きではない。好きになる気すら起きない。

どうして、自分も好きになれないのだろう。
好きな人が好きなものに、何故興味を抱けないのだろうか。


そんな悶々とした考えを知ってか知らずか、この男は嬉しそうに言う。


「だってさ、雪が降ったら、コナツといる時間をもっと楽しくできるでしょ」



どきりと、胸が高鳴る。

笑顔と共に向けられた言葉には、確かに自分への想いが込もっていて。

そうか。
彼は、雪が雪だから好きな訳ではないのだ。

俺は、己の考えの愚かさに苦笑を禁じ得なかった。


振り返って、いつもみたいに悪態の一つでもついてやろうかと思ったが、今日は止めておこう。

そう、全ては雪がいけないのだ。
こんなにも温かい、背に感じる重みから離れるのが惜しいなどと馬鹿げたことを考えてしまうのは。



「さて、そろそろ外に出ようか」

「…へ?」


唐突に告げられた言葉に、思わず間抜けな声が出てしまった。

背に感じていた温もりが消え、寒さが身に染みる。


「ん?雪と言ったら雪合戦でしょ?」


飄々と言う上司に、拳を震わせるのもなんだか虚しくて、代わりにため息を一つ。
子供なのか大人なのか、わかったものではない。


「じゃあ、私が勝ったら大量に溜まった書類、片付けてくださいね」

「負けたら地獄だね」


外を見れば雪は止んでいて、積もった雪は雲の隙間から漏れる僅かな陽射しに照らされ、白銀の光を放っている。


俺は整理していた書類はそのままに、鼻歌混じりで先に部屋を出て行った男の背中を追い掛けた。



***

お久しぶりです。
久しぶりすぎて文体が定まりません(笑)
こんな感じですがよろしくお願いしますm(__)m