※タイ→ジグ、カンタレラ壊滅後
「くっ…」
ジグは窮地に追い込まれていた。
今回の修練はただのイビノス退治だった。が、タイロン一家に恨みのある者達の襲撃を受け、なんとかそれは対処したものの、大きな傷を負った。そんなところに、イビノスの大軍に囲まれてしまったのだ。
「くそ、」
もう無理だ、と思った。
諦めがつくと戦いに対する意欲はすぐに失せた。
もう、疲れたのだ。何の目的もなく生きたいという本能的な願いから戦うことに。
目を閉じると、皆の顔が浮かぶ。ファズ、マキス、レン、リド…そしてタイロン。もう会えないのか、と思うと寂しさがこみあげてきたが、目の前の敵に立ち向かう気は起こらなかった。
イビノスのギギ、と鳴く声が聞こえ、こちらに向かって来る気配が感じられた。
これで、終わる…。
目を閉じたまま、そう心の中で呟いた。
ガッ、とイビノスの爪が食い込む音がする。しかし、想定していた痛みは来なかった。
不思議に思って目を開けてみると、そこには。
「何やってる、ジグっち」
ジグを庇うように背を向けながら肩口から血を流すタイロンの姿があった。
どうして、俺なんかを助けたりするんだ。
「俺っちの許可も得ずに勝手に死ぬな」
わからない。
いつだって、コイツの考えていることは、何もかも。
ジグが思案している間にも、タイロンは一匹また一匹とイビノスを倒していく。だが先程の傷が少し痛むのか、時々うめく声が混じる。
「そんな状態になってまで、どうして…」
「ジグっちが大切だからに決まってるだろ」
少し振り返ってそう言う彼の瞳は、真剣で。
前にも同じような真剣な瞳でリドに言われたことがあった。俺達は家族だ、と。でも、俺の家族は…。
俺は、怖かった。
カンタレラの皆と同じように、いつか失ってしまうのではないか、と。だからその関係を認めたくなかった。
俺は、なんだかんだ言って一緒にいたいんだ。皆と。この人と。ずっと。
だから。
「うおおおおおおおっ!」
ジグは床に転がった剣を取ると、自分達を囲むようにしていたイビノス達に向かっていく。
一迅、また一迅。
腰の鞘から抜いた短剣で追撃しながらイビノス達を追い詰めていく。
「その調子だ、ジグっち」
背後から聞こえるタイロンの声はどこか楽しそうだった。
「はぁ、はぁ、っ、はぁ」
それからすぐに、イビノスを全滅させるとジグは床に寝転がって上がった息を整える。
「頑張ったな、ジグっち」
タイロンの大きくて優しい手が、頭を撫でる。
「っ、子供扱いするな」
そう拗ねたように言えば、タイロンははは、といつものように豪快に笑った。
しかし、タイロンの手は髪を撫でつけたりすいたりしたままだった。
「おい、いつまで…」
「なぁ、ジグっち」
天井へと向けていた視線をタイロンの方をよこせば、大切なものを愛でるような優しい顔をしていた。
「俺っちじゃあ、お前の帰る場所になれねぇか」
ジグはタイロンの発した言葉に、はっと目を見張る。
帰る、場所…。
タイロンは、カンタレラを失った俺を思って、そんなことを…。
「何を言っている。租界は俺の『家』で、アンタらは俺の『家族』なんだろ」
そう言うと、彼は一瞬驚いたように目を見開いてから、笑んだ。
「ジグっちは本当に鈍いな」
「どういう意味だ」
「自分で考えな。…あと、『タイロンさん』だろ」
そう言って、タイロンはわしゃわしゃと掻き回すように頭を撫でた。
不思議と、どこか温かかった。
***
どこにもないからタイジグ書いてみた。
リドとかマキスも好きだけどタイロンが大好きです。