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惜からざりし、命さへ。


一杯の水があれば、君の渇きを癒せる。

「はい、喉渇いたでしょ」
「少佐がお茶を用意するなんて、今日は槍でも降るんでしょうか」
「いくらなんでもそれは酷いよ」
「冗談ですよ。カツラギ大佐に渡されたのでしょう?」
「仰せの通り」

一切れのパンがあれば、君の飢えを凌げる。

「それ、カツラギ大佐の手作りですか?」
「うん、ホットケーキ、作り過ぎたって」
「いい匂いですね」
「半分いる?」
「いいんですか?実は昼食逃しちゃって」
「こんなに書類あるもんね」
「誰の書類かわかってます?」

一本の刀があれば、君を守り抜ける?

「少佐?どうかしたんですか、黙り込んで」
「コナツの瞳が綺麗だなって」
「見えるものですか、サングラス越しに」
「バレちゃったか」
「考えなくてもわかります。何か悩み事ですか?」
「コナツが心配するような事じゃないよ」

いや、そうか。

「ねぇ、コナツ」
「はい」
「ブラックホーク、なんだよね」
「当たり前じゃないですか」

それでも俺は、俺なのだから。
全てを尽くして、君を幸せにしてみせよう。

空色キャンバス


空が、落ちてきそうだ。


見上げた空は、一面に広がる淡い青と幾筋かの白が描かれたキャンバスみたいだった。

その整然とした美しさに感動しつつ、どこか虚しさを感じる。



「コナツ?」


声の方へ振り返り、くすりと笑みを零す。

なぜだろう。
不思議なことに、怪訝な様子でこちらを窺うこの間抜けな顔だけが唯一、焦燥に駆られて荒んだ心を和らげる。
息が浅くなるほど緊張していた身体が、溶けたように弛緩する。

俺は、心の中にふわりと浮かんだ温もりに安堵して、目を閉じる。


「いいえ、なんでも」


青と白のキャンバスは上空を漂いながら、ゆっくりと流れていく。
ふわり、ふわりと。

一年の計は元旦にあり


「おはよ、コナツ」

「あれ、ヒュウガさん…早いですね」

「いや、部屋にコナツいなかったからここかな、と思って」

年が明けたばかりの執務室。普通の人はみな、休みを取ってぬくぬくしている中、少しでも仕事を減らそうと作業に勤む青年が一人。

「邪魔しに来たんだったら帰ってくださいね」

「んー、思い出づくりに来たんだよ」

「思い出づくりって…誰のせいで元旦からこんなこと」

ちゅっ

唇が触れる軽い音にはっと驚いて相手を見る。

「初チューいただき☆」

ニコリと嬉しそうに笑むヒュウガに、心臓がどきりと高鳴る。

「な、な、なにを…」

「今年もたくさん“初めて”の思い出作ろうね」

「……そうですね。それじゃあ早速、初バットはいかがですか」

「遠慮します…」

コナツは、これから来るであろう新たな一年に、期待で胸を膨らませるのであった。

レイニーシーズン。


「あ、雨」

そう言うコナツの視線の先を見れば、窓にポツリ、ポツリと水滴がついては真っ直ぐ下に落ちていく様子が見えた。
空はまだ昼過ぎだというのに灰色と青が混ざったような色で、窓から見える風景も寂れて見えた。

このところ、そんな様子が続いている。まだ夏真っ盛りだと思っていたのに秋は唐突にやって来た。

目の前に座っていたコナツがぶる、と少し身震いをして両腕を抱えこむようにさすっている。

「寒い?」

万年筆を滑らせていた手を止めて声をかける。

「……、少し、だけ」

コナツは少し躊躇うような素振りを見せてから苦笑しながらそう言った。

俺はイスを立ち上がると自分が着ていた上着をコナツにかける。

「ありがとう、ございます」

そう言うコナツの背中が、いつもより小さく見えて。

「…これで、温かいでしょ?」

後ろから、小さな背中をぎゅ、と抱きしめる。

コナツは何も言わなかったけれど、何故だか安心した。


コナツを抱きしめたまま、外の世界を見る。

ああ、なんだろう。
つまらなくて、寂しくて、色褪せていて。

雨なんか、嫌いだ。



***

私も嫌いだ。
ベトベトするし!←

温かい場所(LR)


※タイ→ジグ、カンタレラ壊滅後

「くっ…」

ジグは窮地に追い込まれていた。
今回の修練はただのイビノス退治だった。が、タイロン一家に恨みのある者達の襲撃を受け、なんとかそれは対処したものの、大きな傷を負った。そんなところに、イビノスの大軍に囲まれてしまったのだ。

「くそ、」

もう無理だ、と思った。
諦めがつくと戦いに対する意欲はすぐに失せた。

もう、疲れたのだ。何の目的もなく生きたいという本能的な願いから戦うことに。

目を閉じると、皆の顔が浮かぶ。ファズ、マキス、レン、リド…そしてタイロン。もう会えないのか、と思うと寂しさがこみあげてきたが、目の前の敵に立ち向かう気は起こらなかった。

イビノスのギギ、と鳴く声が聞こえ、こちらに向かって来る気配が感じられた。

これで、終わる…。
目を閉じたまま、そう心の中で呟いた。


ガッ、とイビノスの爪が食い込む音がする。しかし、想定していた痛みは来なかった。
不思議に思って目を開けてみると、そこには。

「何やってる、ジグっち」

ジグを庇うように背を向けながら肩口から血を流すタイロンの姿があった。

どうして、俺なんかを助けたりするんだ。

「俺っちの許可も得ずに勝手に死ぬな」

わからない。
いつだって、コイツの考えていることは、何もかも。

ジグが思案している間にも、タイロンは一匹また一匹とイビノスを倒していく。だが先程の傷が少し痛むのか、時々うめく声が混じる。

「そんな状態になってまで、どうして…」

「ジグっちが大切だからに決まってるだろ」

少し振り返ってそう言う彼の瞳は、真剣で。
前にも同じような真剣な瞳でリドに言われたことがあった。俺達は家族だ、と。でも、俺の家族は…。

俺は、怖かった。
カンタレラの皆と同じように、いつか失ってしまうのではないか、と。だからその関係を認めたくなかった。
俺は、なんだかんだ言って一緒にいたいんだ。皆と。この人と。ずっと。

だから。

「うおおおおおおおっ!」

ジグは床に転がった剣を取ると、自分達を囲むようにしていたイビノス達に向かっていく。

一迅、また一迅。
腰の鞘から抜いた短剣で追撃しながらイビノス達を追い詰めていく。

「その調子だ、ジグっち」

背後から聞こえるタイロンの声はどこか楽しそうだった。



「はぁ、はぁ、っ、はぁ」
それからすぐに、イビノスを全滅させるとジグは床に寝転がって上がった息を整える。

「頑張ったな、ジグっち」

タイロンの大きくて優しい手が、頭を撫でる。

「っ、子供扱いするな」

そう拗ねたように言えば、タイロンははは、といつものように豪快に笑った。
しかし、タイロンの手は髪を撫でつけたりすいたりしたままだった。

「おい、いつまで…」

「なぁ、ジグっち」

天井へと向けていた視線をタイロンの方をよこせば、大切なものを愛でるような優しい顔をしていた。

「俺っちじゃあ、お前の帰る場所になれねぇか」

ジグはタイロンの発した言葉に、はっと目を見張る。
帰る、場所…。
タイロンは、カンタレラを失った俺を思って、そんなことを…。

「何を言っている。租界は俺の『家』で、アンタらは俺の『家族』なんだろ」

そう言うと、彼は一瞬驚いたように目を見開いてから、笑んだ。

「ジグっちは本当に鈍いな」

「どういう意味だ」

「自分で考えな。…あと、『タイロンさん』だろ」

そう言って、タイロンはわしゃわしゃと掻き回すように頭を撫でた。
不思議と、どこか温かかった。

***

どこにもないからタイジグ書いてみた。
リドとかマキスも好きだけどタイロンが大好きです。
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