※歌姫パロ


ある日のこと。



「ねぇ、明日、どっか出かけない?」

いつも通りコナツの部屋へやってきたヒュウガは、ドアを開くなりそう言った。

正直言ってかなり嬉しい。
誰かとどこかへ出かけることなんて、歌姫が“異端”とされていた故郷の村ではもちろんのこと、この街に身を置いてからも、一度もなかった。
それに、ヒュウガと居ると空気が柔らかくなって温かい気持ちになれる。

だから、構いませんよ、とヒュウガに答えた時に顔がニヤケてしまっていたかもしれない。

ヒュウガは柔らかく微笑んで、よかった、と呟いた。






翌日、コナツが宿屋から出ると、そこには既にヒュウガが立っていた。

ヒュウガはよりかかっていた木から身体を離すと、それじゃあ行こうか、とコナツの腕を掴んで駆け出した。

「ちょ、ヒュウガさん?!」

「せっかくのデートなんだから、楽しまなきゃね!」

「で、デートって、そんな…!」

コナツの声は聞こえているのかいないのか。ヒュウガはぐいぐいとコナツの腕を引っ張って、街の大通りへ繰り出した。


綺麗な花屋、ずらりと本が並べられた本屋に、お洒落なカフェ。
いっぱい走って、いっぱい見て、いっぱい笑って。








ヒュウガが最後に連れてきたのは、街のほとりにある少し小高い丘だった。



「俺ね、ここから見る景色が好きなんだ」


視界に広がる景色は、まるで絵にしたくなるようだった。
一面に広がる草原、そこに一本の道が通っている。その道は遠くに連なる山々まで続いていて、山の端から澄んだ青が溢れる。
夕日に照らされる頃、この風景はより一層美しさと儚さを増すことをコナツは知っていた。


「コナツ?」

「ここ、故郷に似てる…」


「そっか」

それきりヒュウガも口を閉ざし、二人はただその景色を見つめた。




――懐かしい。

そこは、今はもう失われた故郷に似ていた。
ここと同じような丘があって、兄のように慕っていた『彼』と毎日のようにこの風景を眺めていた。
いつまでも、この平和が続きますように、と。


結局、その願いが叶うことはなかったけれど。それでも、コナツは今、とても幸せだった。

ヒュウガは自分に笑顔をくれた。一人だった自分に、笑顔を投げかけてくれた。だから、自分は笑うことができる。歌うことができる。

コナツは、ヒュウガと共にいたいと思う気持ちがあることに気づいていた。



「ねぇコナツ、一曲お願いしてもいい?」

コナツはにっこりと笑って応えると、歌い始めた。
亡くした故郷の郷愁を込めて。

いつまでもこの人と一緒にいられますように、と願いを込めて。




たとえ君に届かなくても
この歌が君を癒せるなら
君の涙を消せるなら


ありがとう
さようなら
この想い



突然、背後から腕が伸ばされたかと思うと、コナツはヒュウガに抱きしめられていた。


「俺は、ずっとコナツと一緒にいるからね。…たとえ、何があっても」

目頭が熱くなった。
でも、コナツは言葉にできないその感情を詞に乗せて歌い続けた。

儚く響く歌声は、夕日色の空に消えて行った。


*****


琥夏様へ、感謝を込めて。
歌姫で甘を、とのことだったのですがご要望に沿えることが出来ましたでしょうか…もちろん返品可です ←
どうしてもしみじみとした感じが抜けなくて…純粋な甘が書ける人って尊敬します(´・ω・`)
甘いけどバカップルでもなくて、ほのぼの。みたいな感じが理想です。せっかく歌姫番外編なんだからそんな感じにしたかったのですが…撃沈(-_-;

改めまして、琥夏様、相互ありがとうございました!(ぺこり)