category:夕日歌姫(ヒュウコナ)
※パロです
「ふぁあ…眠…」
ヒュウガが木製の扉を開けながら入ると、机に足をかけ椅子に座り頭の後ろで手を組んでいる青年に声をかけられた。
「今日も随分退屈そうじゃねえか」
「フラウ…」
彼はヒュウガの同僚だ。
城の護衛などといかにも偉大そうな仕事ではあるが、蓋を開けて見ればただの王族達の機嫌取りだ。
時折、護衛としてついていくことはあるが基本的には暇で、この青年のように一日の大半をくだらないことで過ごすヤツも少なくない。
…もっとも、この青年も遊んでばかりと言う訳ではないのだが。
「フラウも他人のこと言えないでしょ?」
そっけなくそう返すと、フラウはその反応に落胆したかのように再び天井を仰ぎ見た。
「まぁな。
…そんなことより、聞いたか?」
適当に返すが、ふとあることを思い出して机に身を乗り出した。
向かいに座っていたヒュウガはいきなりのことに少し身を震わせたが、すぐに呆れたようにため息をついた。
…フラウがこんな風に話を持ちかけるときは決まってろくでもないことを企んでいるのだ。
それに何度となく付き合わされ、何度となくその被害を被って来ているのだから間違いない。
「…何?」
「実は」
フラウが楽しそうに口を開いたのと、扉が勢いよく開かれたのは同時だった。
「王室から任務が下りました!!」
「…どうせまた警備隊が面倒くさがって雑務を押し付けただけだろ?」
やってらんねー、と欠伸をしながら背もたれに寄っかかって先程のように行儀が良いとは決して言えない態度で先程入って来たカストルの言葉を待った。
「貴方って人は…!!」
王室に対するフラウの無礼に怒りを募らせるカストルだったが、ヒュウガの手が目の前にかざされたことによってそれは中断された。
「…で?その任務っていうのは?」
ヒュウガに対してあまり好意を持てないのか、少し嫌そうな顔をしながらカストルは口を開いた。
「最近、城下町で若い女性が路地裏で殺される事件が多発しているようです。一刻も早く犯人を突き止め捕えるように、と「それだあー!!!!」
先程まで嫌そうな顔で聞いていたフラウだったが、次第にその瞳を輝かせたかと思うと、椅子を倒す勢いで立ち上がって叫んだ。
「うるさいよ…」
耳元で叫ばれたこっちはたまったもんじゃない。
ヒュウガは両耳に指をつっこんでサングラス越しにフラウを睨んだ。
「わりぃ、わりぃ。
…で、さっき言おうとしてたのがこの事なんだよ」
あまり悪びれた雰囲気もなく謝罪の言葉を告げると、鼻息が荒くなるほど興奮しながらフラウは言った。
あー…嫌な予感。
「『助けてー!!!』
女の声が人気のない路地裏に響く。
『ふっふっふ…叫んでも無駄だぜ』
そう言って女に歩みよろうとする男の真上から一人の美青年が舞い降りた。
『何者だ…ぐぁ』
青年は男を動けなくすると、倒れていた女に手を差し延べ声をかけた。
『大丈夫ですか?』
すると女は青年に腕を回して……
…って、聞いてんのかてめー!!」
一人妄想街道を突っ走るフラウを無視して、ヒュウガは出かける準備をした。
「ちょっと野暮用」
「え、ちょ、待てよー!!」
フラウの制止も聞かず、そう一言残すとさっさと出ていってしまった。
「……で?やるんですか?」
カストルが呆れたように腰に手を当てながら、目の前で任務書をヒラヒラさせた。
「やるに決まってんだろ」
××××××××
ヒュウガは昨日訪れた通りに来ていた。
コナツは綺麗な顔立ちだし確かこの辺でも事件が起きたと聞いて、巻き込まれるかもしれないと考えその事を伝えようと来たのだ。
しかし、そこにコナツの姿はなかった。
まだ朝早いから仕事が始まっていないのかもしれない。現に、近くにある八百屋はまだ閉まっている。
「大丈夫だといいけど…」
そう呟きながら、心配そうに頭を掻いた。
××××××××
「今日はどんな歌を歌おうかなぁ〜」
そのときコナツは仕事場に行く途中で、たくさんの客の笑顔を思い出しながらルンルン歩いていた。
「もし、そこの…」
「はい?」
背後から呼び止められて振り向くと、一人の男が立っていた。
なんだろう…?
と考える暇もなく、口を塞がれた。
「ん!!…んんー!!」
腕を掴まれ、引きずられるように路地裏に連れこまれた。
抵抗しようと声を上げるが、男の手で塞がれているので声が籠ってしまい、気づかれない。
誰も通らないような路地裏の奥のさらに奥に連れこまれ、そこでやっと男から解放されたかと思うと、地面に押し倒された。
「いっ…」
背中に訪れる痛みに、コナツは顔を歪ませるが、男は嬉しそうにニンマリと笑う。
「何をする…!!」
「なんだ、お前男か?
…まぁ、いい。こんな綺麗な顔立ちなんだ。男であろうと構やしねぇ」
男はコナツの顎をクイと持ち上げてなめまわすように見ながらそう言うと、興奮しながら下品な笑みを浮かべた。
やばい!!
そう思ったが、この男に対する恐怖からか声がかすれてしまう。
男の顔が近づいてきて、もう駄目だと思って目をぎゅっと瞑った次の瞬間。
「俺の歌姫に手を出さないでくれる?」
「ヒュウガ…さん…」
目を開けると、明るい笑顔を自分に向けるヒュウガがいた。
「大丈夫だった?」
「は…い……」
ヒュウガに吹き飛ばされた男が顔を上げ、ヒュウガを見ると体を強張らせ動揺していた。
「ま、まさか…お前…護衛隊の…!!」
「ヒュウガだよ。
…君を捕えるよう言われてるんだ。
もちろん、ついてきてくれるよね?」
本人は笑顔は崩していないが、目が笑っていない。というか、殺気がひしひしと伝わってくる。
「くっ…」
しかしそれでも懲りないのか、男は立ち上がってさらに逃げようとする。
ヒュウガは男を追いかけようとするが、コナツによって制止させられた。
「耳を塞いでください」
指示通りに耳を塞ぐと、コナツが歌いだした。
そんなことをやっている暇はない、と言おうとしたとき、前方で逃げようとしていた男が急に膝から崩れ落ちた。
「っ?!!」
驚いてコナツを見ると、コナツは笑顔で応えた。
いや、答えになってないんだけど…
そんな心境を察したのか、コナツが口を開いた。
「この歌には他人を眠らせる効果があるんです」
「なっ…」
そんなことがあるもんか。
…しかし、自分の目で見てしまった以上認めざるを得ない。
ヒュウガは思わず口をあんぐりと開けながらニコニコ笑顔のコナツと爆睡している男を交互に見た。
××××××××
その後、駆けつけたカストルと、彼の人形数体によって男は連行されて行った。
ちなみに、フラウは先程の妄想を実現すべくどっかの路地裏の建物の屋根で待っていたところ、いつの間にかうたた寝をしていたようで地面に頭を打ち付け、ムカついて城に帰っていたそうだ。
…いつもこうだよ、まったく。
「じゃ、また」
そう別れを告げて城に戻ろうとすると、コナツに呼び止められた。
「あの…後でお話をしたいので、仕事場に来てくださいませんか?」
ヒュウガは一瞬驚いて目を見開くが、すぐにいつもの笑顔に戻った。
「いいよ」
そう言って彼の頭にポンと手を乗せると彼はパアッと明るくなって笑顔で走って行った。
「待ってますね!!」
振り向いて手を振るコナツに手を振り返しながらヒュウガはふっと微笑んだ。
太陽の暖かさに似た笑顔だと思った。
<続く>
********
「夕日歌姫」シリーズ。
これも大分続いてますね。
つか、いつか整理しないとゴッチャになりすぎてわかんなくなりそうだ(-_-;
もしかしたら改装するかもしれないです。
段々歌姫の方向変わってきました。
もうちょっと真剣な話にしようかな…と。
SSの方でコナツの元恋人出しちゃいましたし。