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夕日色の日常


あれからと言うもの、ちょくちょくコナツの部屋に行くようになった。

今日も、例外ではなくて。


「コナツ、お仕事お疲れ様♪」

「…ヒュウガさん!」


宿屋に向かう途中で、コナツの後ろ姿を見かけて合流した。

久しぶりに二人で歩く街並み…と言っても表通りほど華やかではないのだけれど。
しかし、この道は住人達が育てている草花に囲まれていて、ひょっとすると表通りよりも心地よいところかもしれない。

二人はしばらく他愛もない話をしながら歩を進め、やがて宿屋に着く。

そのままコナツの部屋に入って、部屋の窓際にあるオレンジ色のソファに腰掛けた。



しばらく二人は無言だった。

別段特に話すことがある訳ではないから当然と言えば当然なのだが、その沈黙にはそれ以外の何かが原因にある。

それはなんだ、と言われれば、よくわからない、と言うのが本音だ。ただ、口を開くことが憚られるような、何かが確実にそこにはあった。



日が沈み始め、光の加減でヒュウガの輪郭が淡いオレンジ色に見える。いつもならその頃になると、ヒュウガは、それじゃあ、と言って部屋を去って行った。


…だからだろう。
ヒュウガが、あのさ、と声を開いただけであるのに身体をびくりと震わせてしまったのは。


「何ですか…?」


恐る恐る口を開くが、ヒュウガはまた黙ってしまった。
言おうか言うまいか迷っているような、そんな顔。


コナツが軽く首を傾げると、ヒュウガはふぅ、と一つ息を吐いていつもの笑顔に戻った。


「今度、俺の仕事場に来ない?同僚に紹介したいし」

コナツは大きく目を見開いて、驚いているようだった。


「いいんですか?」

「もちろん」


一度城内を見てみたいと思っていたコナツは嬉々として喜んだ。


ヒュウガは安堵の笑みを浮かべると、時間と場所を伝えて、それじゃ、と言って出ていった。


コナツは、窓から入り込む風をどこか新鮮に感じながら、夕日色に染まる町並みを見つめた。



<続く>

******

いつになっても終わりが見えないこのシリーズ 笑
本当にこれは終わるんだろうか ←
つか段々とキャラを忘れ初めています(おま
夕日歌姫の同僚三人組が地味に好きです。前々回の事件の話、結構気に入ってるんですよね♪

夕日に捧げる鎮魂歌


※歌姫パロ


ある日のこと。



「ねぇ、明日、どっか出かけない?」

いつも通りコナツの部屋へやってきたヒュウガは、ドアを開くなりそう言った。

正直言ってかなり嬉しい。
誰かとどこかへ出かけることなんて、歌姫が“異端”とされていた故郷の村ではもちろんのこと、この街に身を置いてからも、一度もなかった。
それに、ヒュウガと居ると空気が柔らかくなって温かい気持ちになれる。

だから、構いませんよ、とヒュウガに答えた時に顔がニヤケてしまっていたかもしれない。

ヒュウガは柔らかく微笑んで、よかった、と呟いた。






翌日、コナツが宿屋から出ると、そこには既にヒュウガが立っていた。

ヒュウガはよりかかっていた木から身体を離すと、それじゃあ行こうか、とコナツの腕を掴んで駆け出した。

「ちょ、ヒュウガさん?!」

「せっかくのデートなんだから、楽しまなきゃね!」

「で、デートって、そんな…!」

コナツの声は聞こえているのかいないのか。ヒュウガはぐいぐいとコナツの腕を引っ張って、街の大通りへ繰り出した。


綺麗な花屋、ずらりと本が並べられた本屋に、お洒落なカフェ。
いっぱい走って、いっぱい見て、いっぱい笑って。








ヒュウガが最後に連れてきたのは、街のほとりにある少し小高い丘だった。



「俺ね、ここから見る景色が好きなんだ」


視界に広がる景色は、まるで絵にしたくなるようだった。
一面に広がる草原、そこに一本の道が通っている。その道は遠くに連なる山々まで続いていて、山の端から澄んだ青が溢れる。
夕日に照らされる頃、この風景はより一層美しさと儚さを増すことをコナツは知っていた。


「コナツ?」

「ここ、故郷に似てる…」


「そっか」

それきりヒュウガも口を閉ざし、二人はただその景色を見つめた。




――懐かしい。

そこは、今はもう失われた故郷に似ていた。
ここと同じような丘があって、兄のように慕っていた『彼』と毎日のようにこの風景を眺めていた。
いつまでも、この平和が続きますように、と。


結局、その願いが叶うことはなかったけれど。それでも、コナツは今、とても幸せだった。

ヒュウガは自分に笑顔をくれた。一人だった自分に、笑顔を投げかけてくれた。だから、自分は笑うことができる。歌うことができる。

コナツは、ヒュウガと共にいたいと思う気持ちがあることに気づいていた。



「ねぇコナツ、一曲お願いしてもいい?」

コナツはにっこりと笑って応えると、歌い始めた。
亡くした故郷の郷愁を込めて。

いつまでもこの人と一緒にいられますように、と願いを込めて。




たとえ君に届かなくても
この歌が君を癒せるなら
君の涙を消せるなら


ありがとう
さようなら
この想い



突然、背後から腕が伸ばされたかと思うと、コナツはヒュウガに抱きしめられていた。


「俺は、ずっとコナツと一緒にいるからね。…たとえ、何があっても」

目頭が熱くなった。
でも、コナツは言葉にできないその感情を詞に乗せて歌い続けた。

儚く響く歌声は、夕日色の空に消えて行った。


*****


琥夏様へ、感謝を込めて。
歌姫で甘を、とのことだったのですがご要望に沿えることが出来ましたでしょうか…もちろん返品可です ←
どうしてもしみじみとした感じが抜けなくて…純粋な甘が書ける人って尊敬します(´・ω・`)
甘いけどバカップルでもなくて、ほのぼの。みたいな感じが理想です。せっかく歌姫番外編なんだからそんな感じにしたかったのですが…撃沈(-_-;

改めまして、琥夏様、相互ありがとうございました!(ぺこり)

スイートタイムパラダイス


※夕日歌姫番外編です


今日は待ちに待った特別な日。

ニヤケてしまう口元をどうにか抑えながら部屋のドアを叩くと、中から金髪の青年が出てきた。


「来てくれたんですね、ヒュウガさん!!」

「おはよ、コナツ。今日は呼んでくれてありがと!!」


ヒュウガがハートの飛ぶ勢いで抱きつくと、腕に抱かれた青年は、苦しいですよ、と言いながら顔を赤らめた。

くすり、と笑いつつ、勧められた部屋の中に入れば、入口から既に甘い香りが漂っていた。


「コナツ、チョコ作ってくれたの?!」

「ええ…まあ、」


照れているのか、顔をうつ向かせるコナツ。ぼんやりと、可愛いなぁなんて思いながら、もはやヒュウガの定位置となった淡いオレンジ色のソファに身を沈める。


「で。チョコは?」

「それは後のお楽しみです」

意地悪っぽくそう言うと、ヒュウガはまるで子犬が耳を垂れるように、しゅんとなった。…もっとも、子犬と言えるほど可愛いものではないが。

そんなことを考えていれば、ヒュウガはいきなり、すく、と立ち上がって近づいて来た。

近い距離に恥ずかしさがこみあげてヒュウガの身体を退かそうと手を伸ばせば、逆にその手をぐいと引っ張られ、コナツはヒュウガに抱きつく形となった。


「チョコ貰えないならコナツを食べちゃうよ」

「ちょ、何言ってるんですか!!」


抵抗するも、腰に腕を回され固定されてしまったのでどうにもならない。

どうしようか、とぐるぐる考えていると、後頭部をもう一方の腕で掴まれ、上を向かせられた。


「コナツ……」

唇が触れそうになった、その時。





バンっ!!!


…唐突にドアが開かれた。


「コナツ、来てやったぞー!!って、あ、ヒュウガ、お前っ」

「何をやっているんですか…!!(ふるふる)」


そう言ってコナツからヒュウガをベリ、と剥がしたのはヒュウガの同僚であるフラウとカストル。

解放されたコナツはほっと息をついてから、二人の真剣な表情を見て、くすくすと笑った。


「まったく、油断も隙もない…」

腕を組んでため息をつくカストルと、その言葉に、まったくだ、と答えるフラウの後ろには、くるくると周りを見回し頭上にはてなマークを浮かべるヒュウガ。

それを見たコナツはもはや押さえきれなくなって大いに笑った。


「今のヒュウガさんの顔ったら……ふ、」

「ちょ、ちょっと待ってよ、何でここにフラウとカストルまで来てる訳?」


ヒュウガがそう言うのも無理はない。他の人も誘っていることなどヒュウガには伝えていなかったのだから。

コナツは、よくぞ聞いてくれました、とばかりににっこりと笑ってから台所に駆け込み、大きな鍋のような壷のような、ともかく可愛らしくて大きな器を持って来た。

三人はなんだなんだ、と器の中を覗きこむ。


「これは…チョコか?」

「そうです」


ことん、と果物やクッキーの乗った皿をテーブルの上に乗せながらそう答えるコナツ。


「せっかくのバレンタインなので、チョコフォンデュを作って皆でパーティーみたいにして楽しみたいなって思って」


なんていい子なんだ…、とばかりに握り締めた拳を震わせながら涙を流すカストル。


「それじゃ、始めましょうか」





こうして始まったチョコレートパーティーが終了したのはもう日が暮れ始める頃のことだった。

カストルとフラウは、他にも当てがあるから、ということで帰ってしまった。

つまり、部屋にはコナツとヒュウガの二人だけ。


「ねぇ、コナツ…さっきの続きしていい?」

「しょうがないですね」


床に映し出された二人の影が、重なる。

それは、街が優しい橙色に染まり始めた、夕方のことだった。


***

お粗末ですm(__)m
せっかくのバレンタインなんだから、もっと甘く出来ないのかって感じですね。
チョコフォンデュ食べたいな… ←
つか、朝から夕方までとかどんなパーティーなんだろうね 笑

夕日色の温もり


「話って?」

コナツの仕事も終わりようやく客足が減ったところに(まるで見計らったかのように)彼はやってきた。

「よかった…来てくださったんですね」

「だって心配だったし」

「あ、朝は有難うございました。危ないところを助けて頂いて…」

「いや、こちらこそ。コナツの“歌”が無かったら逃してたよ」


“歌”か…。

ふと頭をよぎる、“あの人”の残像――…



「立ち話もなんですし、僕の部屋に行きませんか」

一瞬顔に陰りを見せたコナツを不審に思いながらも、いいよ、と提案をのむ。


コナツは素早く荷物をまとめると、荷の重たさに少し顔を歪めながらも歩き出した。

クスクスと心の中で笑いつつ後ろから手を伸ばし、コナツが提げていた荷物を奪い取る。

「ぅわ」

コナツは驚いて声をあげるが、それも気にせずヒュウガはすたすたと歩いて行く。

「こっちでいいの?」

「え、あ、はい」

何も無かったかのように微笑みながら問うヒュウガに答えて――慌てて先に行くヒュウガに追いつき、あの…とごにょごにょと口を開く。

「ありがとうございます」

照れて赤くなった顔がこちらを向いているが、恥ずかしさからか目線は下だ。

地面が羨ましいとかそんな愚かな嫉妬を抑えつつ、いいんだよ、と返す。

「いや、でも…」

すまなそうな顔をするコナツに、可愛いな…なーんて思ったり。
でも理性は大事だよ、うん。

「いいんだよ、俺がしたくてやってることだから」


そうこうしている内にコナツが借りている宿に着いたようで、外でランプに火を灯している女将さんがコナツに声をかけていた。

気前のいい女将さんとコナツが楽しそうに話す姿を見ながら、こういうのっていいよねー、なんて思うことでなんとなく生まれた空気の隙間を埋めた。

コナツが中に入っていくのについて行き自分も入ろうとしたら女将さんがわざわざ扉を開けてくれた。

「彼の友達かい?」

「あー…うん、そんなとこ」

昨日会って今日助けたばかりであまり言葉を交した訳ではない。
何とも言えない複雑な関係だが、面倒なので曖昧に答えてしまった。
だって面倒なこと、嫌いだし。

「仲良くしてやっておくれよ」

クスリと笑う女将にはてなマークを浮かべていたが、次の女将の発言には思わず耳を疑った。

「コナツ、イチャイチャするのはいいけど客の前ではやめとくれよ!」

「ちょ、女将さん!!だからそういう関係じゃないって…」

がくん、と階段を踏み外しそうになりながら赤い顔で振り返って言うコナツを見ながら、女将さんは豪快に笑っていた。
楽しそうな人だ…



部屋に着くと、コナツは荷物をベッドの横に置くように言った。
シンプルだが、花や絵などで飾られ、とても宿の部屋には見えなかった。
その中で、金髪の麗しい天使が描かれた絵が目をひいた。その天使は祈るように手を組んで、歌っているようだった。
まるでコナツみたいだ。

「その絵は僕が故郷に住んでいたときに貰ったんです。他の花とか絵画とかは仕事で貰って、せっかくだから飾らせてもらったんですよ」

そう言いながら嬉しそうに、しかし優雅に微笑むコナツの姿は、やっぱりこの天使に似ていた。

振り向いて声をかけようとした瞬間、コナツが今まで着ていた服を脱ぎ始めた。

え、ここで脱ぐの?まぁ別に男同士だし、いいんだけど…

コナツの肌は白くて、触ると柔らかそうで、華奢な体躯をしていた。
フラウみたいな筋肉バカがぎゅってしたら折れちゃいそうなぐらいに。

ヒュウガの視線に気付いたコナツは顔を赤らめ、着替える手を早めた。

「何見てるんですか」

「いや、細いなぁ、と思って。
ちゃんと食べないと、声出ないよ?」

「そんなことより!!!今日聞いてもらいたいっていうのは、この“歌”の話なんです」

コナツは赤くなりながら急いで着替えて話しだした。


コナツが言うには、こうだ。


この世には歌を操り人や物に干渉する能力を持つものがいる。彼らは自身を“歌姫”と呼び、普通の人間達が住む町のはずれの丘の上で暮らしていた。
しかしある日、“歌姫は魔の血を引いた異端者である”として村を焼かれた。
コナツはこのとき若干15歳であったが運良く逃げ出しここまで来たのだと言う。


「それで、飢えて死にそうになったところをこの宿の女将さんに助けられて…」

コナツは笑ってみせたが、その瞳の奥に哀しみの色が残っている。

「大変だったね…」

気づけば、華奢な身体を腕に抱いていた。

肩口に温かい涙が溢れ落ちる。

「ぼく…っは……っ」

「うん」

「みん…っ…な…を」

「うん」

「み…すて…っ…た…」

「うん」

「裏切り者…っ…なんで…す」


「………それは、違う」

ヒュウガはコナツから身体を離すと、諭すようにコナツの蜂蜜色の瞳を見つめながら言った。

「皆、コナツが生きてくれることを今でもきっと祈ってる。天国から…ね。だから、裏切り者なんかじゃない」

「ヒュウガさ…」

名前を呼ぼうとして、柔らかいものに唇の動きを阻まれる。

「え………あ///」

理解するのに少しの時間を要した。
それほどに、思いがけないことだったのである。

ファーストキスではない。しかし、その口づけは優しくて甘酸っぱくて“初めて”の味がした。

「………」

「………」


「……俺、帰るね」

「あ…はい」

長い沈黙のあと、呆れるほどするりと糸がほどけるように出てきてしまった肯定の返事に自分でも驚き慌てた。

顔を上げればヒュウガはもうすでに扉の前に立っていて、ドアノブに手をかけているところだった。

「ヒュウガさん!!」

呼んでも、ヒュウガは振り返らなかった。

「また…来てくださいますか」

うつ向いていたヒュウガが顔をあげてこちらを見る。

その顔は、夕暮れの橙色のような温かい笑顔だ。

「うん」



…キスをされたとき、気付いた。
自分が彼に惹かれているのだということに。

でもそれは、あの人に影を重ねているだけなのかもかもしれない…

二人は懐かしい感情と一抹の罪悪感を抱えながら、橙に染まる町並みを見つめた。


<続く>


********

長かった…(-_-;

途中でネタがすこーん、と抜けてやばかったです。でもなんとか持ち直しました。

ちょっとこの話に深みを持たせるために、コナツにもヒュウガにも恋人が昔は居たんだぜ設定にしてみました。
ヒュウガの恋人はどんな人にしようかな… ←無計画

私的に女将さんが実は好きです。女将さんの良いところをもっと出したい 笑。つか、女将さんが言った通りイチャイチャしちゃったよ二人とも 笑。

夕日色の約束


category:夕日歌姫(ヒュウコナ)

※パロです



「ふぁあ…眠…」

ヒュウガが木製の扉を開けながら入ると、机に足をかけ椅子に座り頭の後ろで手を組んでいる青年に声をかけられた。

「今日も随分退屈そうじゃねえか」




「フラウ…」


彼はヒュウガの同僚だ。

城の護衛などといかにも偉大そうな仕事ではあるが、蓋を開けて見ればただの王族達の機嫌取りだ。

時折、護衛としてついていくことはあるが基本的には暇で、この青年のように一日の大半をくだらないことで過ごすヤツも少なくない。

…もっとも、この青年も遊んでばかりと言う訳ではないのだが。


「フラウも他人のこと言えないでしょ?」

そっけなくそう返すと、フラウはその反応に落胆したかのように再び天井を仰ぎ見た。

「まぁな。


…そんなことより、聞いたか?」

適当に返すが、ふとあることを思い出して机に身を乗り出した。

向かいに座っていたヒュウガはいきなりのことに少し身を震わせたが、すぐに呆れたようにため息をついた。


…フラウがこんな風に話を持ちかけるときは決まってろくでもないことを企んでいるのだ。

それに何度となく付き合わされ、何度となくその被害を被って来ているのだから間違いない。



「…何?」

「実は」

フラウが楽しそうに口を開いたのと、扉が勢いよく開かれたのは同時だった。



「王室から任務が下りました!!」


「…どうせまた警備隊が面倒くさがって雑務を押し付けただけだろ?」

やってらんねー、と欠伸をしながら背もたれに寄っかかって先程のように行儀が良いとは決して言えない態度で先程入って来たカストルの言葉を待った。

「貴方って人は…!!」

王室に対するフラウの無礼に怒りを募らせるカストルだったが、ヒュウガの手が目の前にかざされたことによってそれは中断された。

「…で?その任務っていうのは?」

ヒュウガに対してあまり好意を持てないのか、少し嫌そうな顔をしながらカストルは口を開いた。

「最近、城下町で若い女性が路地裏で殺される事件が多発しているようです。一刻も早く犯人を突き止め捕えるように、と「それだあー!!!!」

先程まで嫌そうな顔で聞いていたフラウだったが、次第にその瞳を輝かせたかと思うと、椅子を倒す勢いで立ち上がって叫んだ。


「うるさいよ…」

耳元で叫ばれたこっちはたまったもんじゃない。

ヒュウガは両耳に指をつっこんでサングラス越しにフラウを睨んだ。

「わりぃ、わりぃ。

…で、さっき言おうとしてたのがこの事なんだよ」

あまり悪びれた雰囲気もなく謝罪の言葉を告げると、鼻息が荒くなるほど興奮しながらフラウは言った。


あー…嫌な予感。


「『助けてー!!!』

女の声が人気のない路地裏に響く。

『ふっふっふ…叫んでも無駄だぜ』

そう言って女に歩みよろうとする男の真上から一人の美青年が舞い降りた。

『何者だ…ぐぁ』

青年は男を動けなくすると、倒れていた女に手を差し延べ声をかけた。

『大丈夫ですか?』

すると女は青年に腕を回して……

…って、聞いてんのかてめー!!」

一人妄想街道を突っ走るフラウを無視して、ヒュウガは出かける準備をした。

「ちょっと野暮用」

「え、ちょ、待てよー!!」

フラウの制止も聞かず、そう一言残すとさっさと出ていってしまった。


「……で?やるんですか?」

カストルが呆れたように腰に手を当てながら、目の前で任務書をヒラヒラさせた。

「やるに決まってんだろ」



××××××××



ヒュウガは昨日訪れた通りに来ていた。

コナツは綺麗な顔立ちだし確かこの辺でも事件が起きたと聞いて、巻き込まれるかもしれないと考えその事を伝えようと来たのだ。

しかし、そこにコナツの姿はなかった。
まだ朝早いから仕事が始まっていないのかもしれない。現に、近くにある八百屋はまだ閉まっている。

「大丈夫だといいけど…」

そう呟きながら、心配そうに頭を掻いた。




××××××××




「今日はどんな歌を歌おうかなぁ〜」

そのときコナツは仕事場に行く途中で、たくさんの客の笑顔を思い出しながらルンルン歩いていた。








「もし、そこの…」

「はい?」


背後から呼び止められて振り向くと、一人の男が立っていた。



なんだろう…?

と考える暇もなく、口を塞がれた。

「ん!!…んんー!!」

腕を掴まれ、引きずられるように路地裏に連れこまれた。

抵抗しようと声を上げるが、男の手で塞がれているので声が籠ってしまい、気づかれない。




誰も通らないような路地裏の奥のさらに奥に連れこまれ、そこでやっと男から解放されたかと思うと、地面に押し倒された。

「いっ…」

背中に訪れる痛みに、コナツは顔を歪ませるが、男は嬉しそうにニンマリと笑う。

「何をする…!!」

「なんだ、お前男か?

…まぁ、いい。こんな綺麗な顔立ちなんだ。男であろうと構やしねぇ」

男はコナツの顎をクイと持ち上げてなめまわすように見ながらそう言うと、興奮しながら下品な笑みを浮かべた。




やばい!!

そう思ったが、この男に対する恐怖からか声がかすれてしまう。

男の顔が近づいてきて、もう駄目だと思って目をぎゅっと瞑った次の瞬間。












「俺の歌姫に手を出さないでくれる?」


「ヒュウガ…さん…」


目を開けると、明るい笑顔を自分に向けるヒュウガがいた。

「大丈夫だった?」

「は…い……」


ヒュウガに吹き飛ばされた男が顔を上げ、ヒュウガを見ると体を強張らせ動揺していた。

「ま、まさか…お前…護衛隊の…!!」

「ヒュウガだよ。

…君を捕えるよう言われてるんだ。



もちろん、ついてきてくれるよね?」

本人は笑顔は崩していないが、目が笑っていない。というか、殺気がひしひしと伝わってくる。



「くっ…」

しかしそれでも懲りないのか、男は立ち上がってさらに逃げようとする。

ヒュウガは男を追いかけようとするが、コナツによって制止させられた。



「耳を塞いでください」

指示通りに耳を塞ぐと、コナツが歌いだした。


そんなことをやっている暇はない、と言おうとしたとき、前方で逃げようとしていた男が急に膝から崩れ落ちた。


「っ?!!」

驚いてコナツを見ると、コナツは笑顔で応えた。



いや、答えになってないんだけど…


そんな心境を察したのか、コナツが口を開いた。



「この歌には他人を眠らせる効果があるんです」



「なっ…」

そんなことがあるもんか。


…しかし、自分の目で見てしまった以上認めざるを得ない。

ヒュウガは思わず口をあんぐりと開けながらニコニコ笑顔のコナツと爆睡している男を交互に見た。




××××××××




その後、駆けつけたカストルと、彼の人形数体によって男は連行されて行った。

ちなみに、フラウは先程の妄想を実現すべくどっかの路地裏の建物の屋根で待っていたところ、いつの間にかうたた寝をしていたようで地面に頭を打ち付け、ムカついて城に帰っていたそうだ。

…いつもこうだよ、まったく。



「じゃ、また」

そう別れを告げて城に戻ろうとすると、コナツに呼び止められた。


「あの…後でお話をしたいので、仕事場に来てくださいませんか?」

ヒュウガは一瞬驚いて目を見開くが、すぐにいつもの笑顔に戻った。

「いいよ」

そう言って彼の頭にポンと手を乗せると彼はパアッと明るくなって笑顔で走って行った。

「待ってますね!!」

振り向いて手を振るコナツに手を振り返しながらヒュウガはふっと微笑んだ。

太陽の暖かさに似た笑顔だと思った。




<続く>

********

「夕日歌姫」シリーズ。

これも大分続いてますね。

つか、いつか整理しないとゴッチャになりすぎてわかんなくなりそうだ(-_-;
もしかしたら改装するかもしれないです。

段々歌姫の方向変わってきました。
もうちょっと真剣な話にしようかな…と。

SSの方でコナツの元恋人出しちゃいましたし。
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