桜の蕾はまだ少し固い。
それでも、青空に白い雲のコントラストが眩しい。
カーテンを開けて、降り注ぐ朝日に目を細めた。
「絶好の入学式日和だな」
呟いて大きく伸びをする。
「先にシャワー使うぞー」
「あ、うん」
いつの間にか起きていた泉の声に振り返えれば、バスルームに消えていく背中が見えた。
それを見送って手持ち無沙汰になった俺は、おもむろにクローゼットを開けて真新しいスーツを2着取り出した。。
衣類用の糊の独特の匂いが鼻を掠めていく。
今日のために新調したシワ一つないスーツ。
「浜田ー、シャワー開いたぞ」
「ん、わかった」
スーツにシワがよらないようにソファの背もたれにかける。
「スーツ、出しといたから」
「おー、サンキュ」
肩にバスタオルをかけたトランクス1枚の泉が戻ってくる。染めたことのない黒髪からポタポタと雫が落ちていた。
「ちゃんと髪拭けっていつも言ってるだろー」
すれ違いぎわにバスタオルを取り上げてグシャグシャと髪を拭いてやる。
このやりとりも何度したことか。
最初はうざったそうにしていた泉も、今は俺のお節介を受け入れている。
そんな姿がとんでもなく愛しい。
「ほい、完了」
手櫛でチョイチョイと整えやって、満足気に浜田は泉の顔を眺めた。
「早く浴びてこいって」
「ハイハイ」
泉が顔を照れくさそうに背けたのを合図に、バスルームへと向かう。
数歩進んでから、アッと思い出したように振り返って、
「泉」
「あ?」
呼ばれて振り向いたスキに、
「オハヨ」
掠める程度にキスをした。
つづく。