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乾燥注意報。(浜泉)

冬の夜は乾燥する。
喉に張りつくような、
息苦しい、独特な夜。


寒いといえば寒く、
そうでもないといえばそうでもない夜。


「ン、む、ンン…グッ…」
「…泉?」

隣に眠っていた泉のうなされる声で、
浜田は目を覚ました。

苦しそうに唸る泉の寝顔に、
慌ててその肩を揺さ振ってやる。

「泉、大丈夫かよ?泉?」

練習で疲れているせいか、よっぽど夢に囚われているのか、
起きる気配はない。

(どーしよ……)

しばらく様子を見てみるが、
泉の様子に変わりはない。

「ン、み、む…み、ず……水、」
「水?」

おもむろに泉の口の中に触れてみる。

「げっ、カラカラじゃん!」

こんなに渇くもんなのっ?と思いながら、
冷蔵庫からミネラルウォーターを取ってくる。

どうやって飲ませようかと一瞬迷って、
ペットボトルの中身を自分の口に含んで、そのまま泉に口づけた。

「ん、ンン、くん……ン」

ゆっくりと流し込んでやると、
泉は素直にそれを飲み込んでいく。

口の中の水を全部流し込んでやると、
ねだるように唇を啄まれる。


(か、可愛いっ…!!)


起きている時には絶対に見られない恋人の姿に、
浜田は嬉しくなってしまう。

思わずにやけてしまう顔を自覚して、
求められるままに口移しで水を飲ませてやる。

それを何度か繰り返してやると、
満足したのか、寝返りを打って穏やかな寝息をたてはじめた。

その姿に安堵の息をついて、浜田もその隣に潜り込む。
その細い体をソッと抱き寄せれば、甘えるように擦り寄ってきた。

(もー、可愛すぎっ)

ひとときの幸せを噛み締めながら、
浜田も眠りに落ちた。





「……昨日、変な夢見た」

次の日の朝、
泉は少し不機嫌そうに口を開いた。

「どんな夢?」
「炎天下の試合中に、皆から口ん中にカラッカラにボイルしたささ身肉詰め込まれる夢」
「…ぷっ」

意外すぎる内容に、思わず笑ってしまう。
それをみてますます不機嫌になる泉の顔を視界に入れて、
浜田は悪い。と彼の頭を撫でた。

「んじゃ、でかけっぞ」
「は?どこ行くんだよ?」


「電気屋で加湿器買おうぜ。それから、誕生日プレゼントも買わねぇと、だろ?」


もう、君が不機嫌になるような夢を見ないために。

そして、
生まれてきてくれてありがとう。
君に出会えて良かった。




◆◇◆◇◆

この作品はお持ち帰り自由。
ただし、再配布は禁止です。
サイト等にupしてくださるかたは、一報入れていただけたら遊びに行かせていただきます(*´∀`*)

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そんなんじゃなくて。(浜泉)

痛いとか、痛くないとか、
気持ちいいとか、気持ちよくないとか、
正直、そんなことはどうでもいい。
大事なのは、それが誰によって与えられるものなのか。




「泉…」
熱っぽい声で呼ばれるのは好きだ。
自分しか知らない浜田を見ているようで、
恥ずかしいと思う反面、愛しいと思う。


ベッドに四肢を投げ出して、泉は浜田を受け入れる形になる。
ソッと落ちてくるキスに応えれば、幸せそうな笑みが視界に入ってドキッとさせられた。

「泉、入れてイー?」
「っ、はっ、イ、イチイチ、聞くんじゃねぇ、バカ」


恥ずかしさが増して、思わず荒れた言葉を返す。
普通だったらケンカになるその言葉も、
この時ばかりは、甘くなるようで、
浜田も嫌な顔はしない。
きっと、自分はこの甘さを知って、その優しさに甘えている。



軽く馴らされたソコに、浜田のソレが押しあてられる。
その熱を感じて体を震わせると、宥めるように頬を撫でられた。

「んぐっ、…ふ、ぅん」

グッと腰を進められて、泉は浜田の背に回した指先に力をこめる。

「大丈夫?」

何度か馴らすように腰をスライドさせながら、
浜田は泉の耳元に直接囁いた。

ナカが圧迫されて、うまく返事ができない泉は、
何度も首を縦に振る。


「っあっ!」


膝裏を抱え上げられて、自然と足を開く体勢になって、
反射的に内側に足が傾く。
それを阻むようにして、
浜田はより手に力を入れて腰を進めた。


「って、てめぇっ…ぐっ、ふっん、」
「泉、可愛いー」


ズンッと突き入れられて、
圧迫か快楽か分からなくなる。
痛いとか気持ちいいとか、
そんなことに気は回らない。
正直、浜田を受け入れることで精一杯だった。


「泉っっ!」


ドクンッと音が聞こえた気がした。




(あったかいタオルで体拭いてもらってる時が、一番気持ちいいかも……)


後処理を全て終えて、
二人で潜り込んだベッドの中で、
泉は一人失礼なことを考えていた。

(ま、どーでもいいけど)


「泉さぁ…」
「ん?」

「ちゃんと気持ちいい?」

唐突な浜田の言葉に、一瞬ドキッとする。
心を読まれたかと思った。

「……別にどーでもいいよ、そんなん」
「はぁっ?なんでっ!?」



「……浜田にされるなら、なんだっていいから」




殺し文句だ。




END
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線。(浜泉3/3)

夏の暑さだけじゃない。
すぐに臆病な虫が鳴きだす自分。
焦りを感じてないわけじゃない。



坂を上りきってあとは家まで平らな道、
というところで、泉は浜田の髪を軽く引っ張った。

「痛っ…なんだよ?」
「やっぱ、コンビニ」
「はぁ!?」
「家過ぎて、ちょっと行ったとこにあっから」


泉の気まぐれは今に始まった事ではないが、
ここまできて引き返せと言われていたら、間違いなく声を荒げていただろう。
浜田は喉まで出かけた文句をグッと飲み込んで、
ペダルをこぐ足に力を入れた。



泉の家の前を通り過ぎて、
彼が言っていたコンビニに自転車を止める。
身軽な仕草で後ろから降りた泉は、
浜田が鍵をかけるのを待たずに、一人コンビニへと入っていく。
その背中を視界に入れて、浜田は小さくため息を吐くと、
ゆっくりと後を追い掛けた。


時間は22時を少し回ったところ。
店内にあまり人はおらず、クーラーが効きすぎて寒いくらいだった。


「飲みもん買うの?」
「んー…」

店の一番奥のドリンク棚の前で、
品定めをしている泉の隣に立つ。
欲しいものが見つからないのか、
どれにしようか悩んでいるのか、
泉の視線は棚を上から下へと往復する。



「決まった?」


しびれを切らした浜田が、そう尋ねると、
大きな瞳が睨むように向けられる。
しかし、その視線もすぐに棚へと戻された。
罵声が飛んでくる。と反射的にかまえた浜田も拍子抜けしたように、泉を見つめる。


「泉…?」


どうかした?と肩に触れようと伸ばした手。
それは、泉に触れる前に、本人の手によって遮られる。

慌てて手を退こうとして、
それも遮られる。


ギュッと握られたままの手。


「い…泉?」
(なんで?)

「るせー」
(俺に言わせんなっ)



冷たくなる手。
それがどっちのものかもわからないほどに、お互いに緊張する。



どれくらいそうしていたんだろうか。

時間にしたら、ほんの2、3秒。

しかし、2人にとってはとても長い時間のように思えて。


「…ごめん」
「はぁっ?」


意外すぎる浜田の言葉に、
泉は思わず浜田の方に顔を向ける。

そうして視界に入れた相手の顔を見て、ドキッとした。

苦笑。
けれど、穏やかな優しい笑い。


「焦って、から回ってたのは俺だけじゃないよね」


安堵。


その言葉に、小さくうなずき返す。


「明日はミーティングだけの日だよね?」
「ああ…」


「…俺ん家、こねぇ?」
「行く」


即答。


「もちろん"そーゆー意味"なんだけど?」

「言うな、バカ…」


照れていても、強がりをいう泉に愛しさを感じて、
浜田は監視カメラを遮るように、
そっと泉の頬に唇を寄せた。


線は、
思っていたほど濃くなくて、
距離は思っていた以上に近い。

ならば、
想いが曇ってしまうその前に。
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線。(浜泉2/3)

夏の夜はむし暑い。
まるで、イラつきと焦りを増幅させるように、
肌に熱気がまとわりつく。


<泉Side>

浜田と合流した正門のところで、チームメイトたちに別れを告げる。
押していた自転車を浜田に押しつけて、泉はその後ろに乗った。

「なんか買ってく?」
「いらねー」

通例のコンビニの前を素通りし、
自転車は泉宅行きの道を走っていく。

浜田と"そーゆー関係"になってから、
彼が練習に参加する日は当たり前になった送迎。
今まで一度も浜田の口から聞いたことのない言葉がある。


"俺ん家こねぇ?"


(、って、俺、そんなこと言われてぇの…?)


自問自答。

浜田が一人暮らしをしていることは、
本人から聞いて知っている。
その話をされたときには、
そーゆー意味だと思ったけれど、
あっさり家に送り届けられた。


「なー」
「んー、何?」
「練習の時、なに考えてたわけ?」
「別にー。暑さで集中力落ちてただけ」
「ふっ…。メントレ足りねぇんじゃねぇの?」

ごめんな。と一緒に苦笑を返されて、
思わず憎まれ口を叩いてしまう。

こんなやりとりは、
自分たちらしいとは思うけれど、
可愛いというか、愛しいとは思えない。
思ってもらえないだろう。

(ま、普通は思わねぇよな)

男に可愛いとか、
少しバカにされているような気がする。

そんな言葉も、
浜田に言われたら"嬉しい"と思う自分がいるのだろうか。


(俺ってこんなに女々しかったっけ?)


自転車をこぐ相手の髪に埋めるように頬をすりつけて、
小さくため息を吐いた。



二の足を踏んでいるのはお互い様。
欲しいものを欲しいと言えないでいるのもお互い様。
線を越えるための一歩はまだ大きい。


続く。
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線。(浜泉1/3)

別に体調が悪いわけじゃない。
むしろ、前向き。

それなのに、

夏の太陽は、
肌を焼くのと同じように、
ジリジリと気持ちを焦らせる。


<浜田side>

泉と"そーゆー関係"になってから、
いまだに越えられない一線があることに、
正直なところ浜田はヤキモキしていた。

別に誰かを好きになるなんて初めてのことじゃない。
無意識かどうかは別として、
好意を寄せた相手はいたし、
この子なら。と傍に置いた女の子も片手じゃ足りない。

そういった経験を、
寄せ集めて、分析してみれば、

結果はいつだって勇気と勢い。
この時だ!と標準絞って、急接近!


(って、出来るなら苦労してねーっての!)


浜田の心の声を代弁するかのように、
思いきり打ち上げたボールは、
綺麗に弧を描いてセンターへと飛んでいく。

その白球を追いかける泉の姿を目で追いながら、浜田は小さく溜息をついた。



夏の大会が近づいて、
浜田は以前に増して練習に参加するようになっていた。

同じ時間を過ごせば過ごすほどに、
気のせいだと思っていた気持ちが、
はっきりとした形となっていくのを実感せずにはいられない。


元チームメイト。
元後輩。
現同級生。
応援したいと思わせる姿。



そうして、やっとの思いで手に入れたその隣。



「浜田ーぁっ!ボーッとしてんなぁっ!!」

「うぇっ、お、おうっ!」


罵声に意識を戻される。
その方向に視線を向けると、大きな瞳が呆れを含んでこちらを睨み付けていた。
慌てて、新しいボールを手にとる。

(……はぁ、情けねー)


「はーまーだーっ!!」
「はっ、はいはいっ!」


悩む隙も触れる隙も
いまのところ与えてもらえない。
それはつまり、
夏の大会しか見えていないってことで。
それ以外にアンテナは向いてない。


正直、手に入れたとはいえ、
"そーゆーこと"を泉に求めていいものなのか。

自分でいうのもなんだが、
相手は男なのだ。

大体、あの大きな瞳を目の前にしたら、
どうしていいのかわからない。
なにもかも見透かしたように、
それでいて、無邪気に真っ直ぐに射ぬかれる。

傷つけやしないかと、
不安は絶えることはない。


つまり、
自分は恐れているんだ。

泉を傷つけることを。
自分が傷つくことを。






(ホント、情けねぇよ……)

すっかり日が沈んだ空を見上げて、浜田は正門の柱に背を預けたまましゃがみ込む。
そろそろ着替え終わった泉が自転車を押して来る頃だ。

遠くから田島の大きな笑い声が聞こえてくる。
それを耳にして、浜田は夏の生温い空気を大きく吸い込んで立ち上がった。


夏が深まろうとしている、
そして、線。
越えるのは、少しの勇気が必要のようだった。



続く。
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