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君の近くで奏でる音楽 (浜泉)

梅雨になって晴れたり雨が降ったりと天気は落ち着かず、追い打ちをかけるようにジメジメした空気が肌にまとわりついた。

夏の予選を目の前にして、思うようにグラウンドでの練習が継続できないことも手伝って、泉のご機嫌は斜めMAXだった。


「拗ねたって仕方ないでしょ」

自分で言っておきながらなんとも母親じみたセリフだと思った。そんな言葉の行き先は、俺の部屋のベッドに寝転んでふて寝をしている恋人だ。
しかし、その返事はなくアイロンをかけていた手を止めてそっちを見やれば、枕に顔を埋めて聞こえないフリをしている泉の姿が目に入った。
思わず苦笑が漏れる。


「明日は晴れるって言ってたよ」
「…おー」

今度は返事があった。
相変わらずご機嫌斜め…違うか。

これは泉の眠いの合図だ。
低くけだるげな声色。
眠いから邪魔すんな。


「風邪引くよ」

欝陶しがられるのはわかったけれど、半袖ハーパンのままではまだ寒い。今日みたいに朝から雨の日は蒸したりしないし。

ベッドの足の方に丸められたタオルケットをかけてやる。

「ねみぃ…」
「うん」

「雨の音と…アイロンの音…」

「うん、おやすみ」

クシャリと前髪を撫でてやると、泉はスッと意識を手放した。

俺はなるべく足音を立てないようにアイロンの位置に戻り、再びアイロンかけを始める。


規則正しく、時々水分が蒸発するアイロンをかける音と泉が眠るベッドの後ろの窓から聞こえる雨の音。

ああ、確かにこれは心地いいかも。


俺も思わず漏れたあくびを噛み殺して、これが終わったら泉の隣に潜り込むことを思った。



君の近くで奏でる音楽
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act.0-2(阿三)

この話を貰った時、俺は幸運だと思ったんだよ。



今日の俺は久しぶりの単独行動だった。
最近は同じモデル事務所の巣山とユニットを組んでメンズ雑誌の撮影や女子高生向けのファッション雑誌の巻頭インタビューの取材を受けたりと、一人でやっていた頃よりも忙しく、充実していた。
そんなことを思っていた矢先だった。

“明日の撮影の打ち合わせなんだけど、阿部くんだけ先にすることになったから、朝早いけどよろしくね”

にこやかにマネージャーから告げられた言葉。その言葉どおり、彼女は俺のマンションに朝の5時に迎えをよこした。
よほどその打ち合わせを無理やり押し込んだのだろう。俺は朝からピンの撮影を2本こなして、打ち合わせに臨む羽目になった。


打ち合わせの会場であるテレビ局に着くと、巣山を撮影スタジオへ送って戻ってきたのだろうマネージャーが待っていた。
朝飯が食べたいと告げると、じゃあカフェに行きましょうと提案される。それに頷いて、何を食べようかと考えをめぐらせた。


カフェは朝からにぎやかだった。テレビでよく見る顔がコーヒーを飲んでいたり、新聞を広げている。
正直、気後れする。テレビ局なんてあんまりこねぇし。

先に座ってて。と俺の好みを熟知しているマネージャーがセルフサービスの列に並ぶ。
俺は言われた通り空いている席を探した。

「あ、べくん?」
「三橋?」

振り返れば、朝飯だろう食材が乗ったトレーを持った三橋が驚いた顔で立っていた。

「め、珍しい、ね。局で会う、の」
「そーだな。」

三橋も事務所は違うが、俺と同じモデルをやっている。
スタジオで会うならまだしも、テレビ局で会うのは珍しかった。

「朝飯食ってないなら一緒に食っていい?」
「うん!」

席は三橋が取っていたところに便乗することにした。マネージャーは?と聞くと、違う用事を済ませに行っているらしい。

しばらくして、俺のマネージャーも戻ってきた。サラダやらおかずが大量に乗ったトレーをテーブルの上に置く。

「じゃあ、10時に迎えに来るね。打ち合わせは10時半から始めるから」
「はい」

マネージャーを見送り、二人でいただきます。と手を合わせて箸をとる。
皿の上に三橋が好きな卵焼きが2個あったので、1個は三橋の皿に入れてやった。

「俺、阿部くんは、この仕事、断る、んだと思って、た」
「は?なんの話?」

相変わらず三橋の話は論点が掴みづらい。
知り合ったばかりの頃はイライラした特徴の一つだが、今となっては慣れたというか許せると思うのは惚れた弱みか。

「だ、だって、最近、忙しい、て」
「いや、そーじゃなくって。この仕事って何?」
「ドラマの仕事だ、よ。俺と一緒、の…」
もしかして何も聞いてないの?と続いた言葉にうなずき返して、俺は大きくため息を吐いた。
あのやろ〜、ドラマっつったら俺が断るって思って黙ってやがったな…

「で、でも、よかった…阿部くんと一緒、で。お、俺、ドラマなんて初めてだし、しかも、しゅ、主演なんて」
「ブッ」

三橋の口からこぼれた言葉に、思わず口に含んだスープを吹き出しそうになる。
「主演!?」
「あ、阿部くん、も、だよ!」
「はぁあっ?!」

ますます声が大きくなった。一瞬、周りの視線が自分に集まったのを知って、しまったと顔を歪める。
モグモグといくつかサラダを口に運んで、気持ちが落ち着いてから再び口を開いた。

「そのドラマの内容とかって聞いてる?」
「野球、まん、がが原作、って言ってた、よ。他のキャストも、話題になる、て」

そーいえば、野球経験がある芸能人をジャンル関係なく集めてドラマやるって噂があったな…
俺だって高校まで野球やってたけど、演技なんかしたことねーから関係無いと思ってたのに。

「で、お前はなんでそんなに嬉しそうなわけ?」
「だ、だって…阿部くんと一緒、だし」

オレンジジュースを飲みながら三橋はエヘヘと笑う。
かわいい…

そんなことを思って、三橋を見つめていると、サッと顔が陰った。

あ?

「も、もしかし、て、阿部くん、は、嫌だった?」

あ、誤解させたのか。

「んなわけねーだろ。お前と一緒なんだから」

ぶっきらぼうな言い方だと自分で思ったが、三橋が本当に嬉しそうに笑ったので、つられて笑った。



俺はこの話を貰った時、幸運だと思ったんだよ。

同じモデルでも、ジャンルも事務所も違うせいでめったに共演することがなかったコイツと同じ仕事ができるんだから。



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停電の夜には(浜泉)

パチパチ、と蛍光灯が何度か点滅した。

「お?」

どちらともなく呟いて、天井を見上げた瞬間。

バツンッ。

「うわっ?」
「げっ」


視界は一瞬にして暗転した。

「なに?なに?なんで?」
「ブレーカー落ちたんじゃねーの?」

慌てる俺の言葉とは裏腹に泉の落ち着いた声が闇の中から聞こえた。

「いや、そんなに電気使ってないし…」

ちょっと待ってて。と言って立ち上がる。もう住み慣れた部屋だ。どこに何があるかくらいは感覚で大体わかる。

シャッと音を立ててカーテンを開けると、ネオンが広がるはずの町が闇に沈んでいた。
動いてる光は車だな。

「停電みたいだよ、全部真っ暗だし」
「マジで?」
「あ、動かないで。懐中電灯持ってくるから」

気配で泉が立ち上がろうとしたのがわかって、慌ててそれを制止する。
こんな暗闇でケガでもしたら大変だもん。

手探りで押し入れまで辿り着く。目も少し慣れてきたようで、困難かと思われた懐中電灯を見つけることも意外と簡単にできた。

カチッとスイッチを入れて、

「あれ?」

オイオイ、まじですか?

「どうした?」
「電池切れ…かな」
「あぁ?!」

俺はどうしようもなくて苦笑するしかない。
泉のいささか不機嫌に「使えねー」と呟かれた言葉に更にその笑みを深くした。
仕方なく懐中電灯を押し入れに戻して、なにか代わりになるものはないかと探す。

目はもうすでにだいぶ慣れてきていた。

「あ、これでいいか」

ふと手にとったのは、去年、野球部のクリスマスに参加した時に貰ったでっかいキャンドルとライターだった。
使うことなんて無いと思ったけど、もったいなくて捨てられなかったソレ。

ビバ貧乏性ってね。

「何持ってきたんだよ?」
「まあまあ。見てのお楽しみ」

気配で俺が戻ってきたのを察した泉の声に答えて、俺はライターの火を点ける。
ご丁寧に付属されていたスタンドにキャンドルを立てて、導火線にライターの火をあてた。

「へぇ…」

ぼんやりと視界が橙色の光に包まれる。
揺れる光の向こうで泉が表情を緩めるのが見えた。

「こーゆーのも悪くないね」
「だな」


二人でキャンドルの灯りを挟んで笑いあう。

あ、キレイ、だ。
素直にそう思った。視線が自然と泉に行ってしまう。
光でこんなに変わるものなのか…
「浜田?」

「いずみ…」

名前を読んだのに、言葉が続かず沈黙に支配される。


プルルルッ!




「「?!!」」

突然鳴り響いたけたたましい着信音。

携帯電話かよ…
俺、今まじでビビったんですけど。
体の真ん中で心臓がバクバク言っている。

「もしもし?」

鳴ったのは泉の携帯電話だった。
ああ、とか、うんとか相槌を打つ姿を見ながら、電話の相手に心の中で舌打ちをする。

「なぁ、今日泊まってっていい?」
「んあ?」

突然の質問に間抜けな声が出た。
顔を上げると、泉が携帯電話のしゃべる部分を押さえてこっちを見ている。

「あ、うん。全然いいよ」

あ、おふくろさんか。
だったらしょーがねぇよ。と自分の不満に言い聞かす。


「おふくろさん?」
「ああ。なんか信号機とかも止まってるらしくてさ、事故とか起きてっから帰ってくるなって」

電話が終わった泉にあえて尋ねてみると、いかにも面倒くさいと言いたげな言葉が返ってきた。

「明日、こっから部活行くし、タオルとか借りていいか?」
「ああ、いいよ」

「じゃあ…もー寝ようぜ」

そういって泉が立ち上がる。
多分、まだ10時にもなってないと思うのに…

「もしかして、結構疲れてた?」
「あぁ?それはテメェだろ」
俺のベッドに我が物顔で泉は横になる。

「バイト、バイトって昨日まで根詰めやがってよ」

珍しい悪態内容だった。
だって俺がバイトで食ってるの知ってるし…

「いずみ…?」
「うるせぇ。さっさと寝ろ」

可愛くない…

そんなことを思った時だった。

パパッと視界が白くなった。

「あ、電気…」

電気が普及したようだ。
キャンドルの灯りがあったとはいえ、目がシパシパする。

「泉、電気ついた」

「……俺、帰んねぇからな」

枕に顔を埋めたまま、噛み合わない返答が帰ってきて、気付く。


俺はキャンドルの灯りを吹き消す。蛍光灯からたれている紐を引いて、ついたばかりの電気を消した。

「いずみ」

隣のスペースに体を滑り込ませて、相手の細い腰を引き寄せる。頑なに枕に顔を埋めた姿が可愛らしくて笑みがこぼれた。

「ずっと一緒にいるから」

耳元で囁くと、ピクッとみじろいだのが分かった。それでも顔をあげてくれない泉。

「おやすみ」

もう一度、耳元に唇を寄せてそっとキスを落とした。

そーゆーことね。
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甘い唇で仲直りを

オレらのケンカのきっかけはいつも些細だ。





「浜田…おい浜田」
「…」

浜田は返事をせずに押し黙ったまま。さっきからずっとこんな調子だ。

原因は、プリン。

浜田がバイト後に食べようとしていたのをオレが食べてしまったのだ。浜田はいかにもボク不機嫌です、みたいな顔をしている。

確かにオレが悪い。けれど。

「楽しみにしてたのになぁ」

ボソリと浜田が呟いた。もう同じ台詞を3回も聞いている。最初は罪悪感なるものを感じていたが、いい加減腹が立ってきた。

「…プリンくらいでそんなうじうじすんなよ」
「食べた本人が言うなっつーの」
「だーかーらぁー、さっきから謝ってんだろ?!」
「…謝ってる態度じゃねーじゃん!」
「…コンビニで買ってくるって言ったじゃん!」
「そういう問題じゃねーし!」

ああ言えばこう言う、そんな状態だからお互い段々声がでかくなる。浜田はオレを睨んでいる。

くだらないってわかってる。けれどなんとなく引き下がれなくて浜田を睨み返す。

しばらくその状態が続いて、ふと浜田が溜め息をついた。

「…オレもう寝るわ」

悪かった、と小さく呟いて浜田はオレに背中を向けてベッドに入ってしまった。残されたオレはその背中を見つめるしかなくて。

泊まる予定だったけれど、どうしよう、帰ったほうがいいのだろうか。今の様子からして浜田は許してくれたんだろうと思うけれど、このままだとオレは謝らないままだ。

「は、浜田」

ベッドサイドに立って呼ぶと浜田がこちらを見上げた。

「悪かった、ごめん」

情けないコトに緊張で手が震える。だけれど浜田はちょっと情けない顔で笑って言った。

「いーよ」

浜田に腕を引っ張られた。バランスがとれなくてそのままベッドに倒れ込むと抱きしめられてキスをされた。オレがキス仕返したら浜田が驚いて言った。

「珍しー」
「…プっプリンの代わり!」

オレがそう言うと、浜田は笑って言った。

「プリンより美味しいや」





オレらのケンカのきっかけはいつも些細だ。だけれどそれと同じくらいに仲直りのきっかけも些細だ。

ケンカして、仲直りして、前よりもっと仲良くなれるのなら、そんなのも悪くはないかなって思ってしまうんだ。

なぁ、浜田?





End

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