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act.0-1(浜泉)

こんなことになるなんて。
あの時は、これっぽっちも思わなかった。



「浜田ぁー!」
お風呂から上がった泉が、リビングにいるはずの同居人の名前を呼んだが返事がない。
おかしいな…と髪の毛を拭きながらリビングに行くと、浜田はなにやらテレビに夢中だった。

テレビの画面に映るのは、どこか見覚えのあるドラマ。

『今更お前なんかに取られてたまるかよ!テメェこそ一人でさっさと行っちまえよ!!』

聞こえてきた怒鳴り声は間違いなく自分。

ガコンッ!コン、コン…

壮大な音を立ててゴミ箱が投げ付けられ、ゴミが散乱する。

『…なんだ、言えんじゃねーか』
呆れたように呟いたのは、まだ金髪になる前の浜田だった。


「…うわ、最悪…」

思い出した。とばかりに呟いた言葉に、浜田がクルリと振り返る。

「懐かしいな、これ」

彼はそう言ってニッコリと笑った。

流れていたのは、数年前に泉が初主演をした連続コメディドラマのワンシーン。
正統派男優として売れ始めていた泉がコメディに出る、しかも主演ということで結構話題になったこのドラマは泉にとってもいろんな意味で収穫の多いドラマだった。

「なんで今更これやってんだ?再放送?」
「いや。懐かしのドラマベスト10」

浜田の隣に腰を降ろして、一緒に画面に視線を向ける。
シーンは変わって、何度かテレビ局で会ったことのある司会者がドラマの感想を述べていた。

「こんときが泉の初主演だったっけ?」
「ああ」

肩に掛けていたバスタオルがスルリと浜田の手によって抜き取られ、次の瞬間にはバサリと頭の上に降ってきた。彼の大きな手がワシャワシャと混ぜるように動いて、髪に残っていた水分を乾かしていく。


「俺とも初共演だったよね」
「まぁ、俺、バラエティーは出ねぇし」

もう1つ、このドラマが話題になった理由が浜田の出演だった。
持ち前のキャラとルックスで人気タレントの地位を築きつつあった浜田が連続ドラマに出るということは、ファンの女の子たちの注目するものとなったからだ。
「でもあんときゃ、やたらとバラエティーに出されたな」
「出たって言っても番組宣伝VTRばっかりでしょ」
「俺にしたら快挙だって」

はい、おしまい。と言うように、バスタオルが肩に戻ってくる。

「…この共演がなきゃ、お前とこーなることもなかったな」
「ドラマの中じゃ恋敵だったけどね」

しばらくの沈黙があって、しみじみと呟かれた泉の言葉に、浜田は苦笑が漏れる。


――――先に好きになったのは俺だから。


そう言ったのは泉の方だった。
忘れもしない。
ドラマの打ち上げの席で、やけに真面目な顔をして詰め寄ってきたかと思ったら…。


当時のことを思い出して、クスッと笑った浜田は、泉の頬に唇を落とす。

「俺、あんとき殴られんのかと思った」
「言うな、ばか浜田」


正直言って、あの時の自分には余裕が無さすぎた。
そんなことは、泉本人が一番分かっている。

とにかく余裕が無かった。
もともと畑違いの上、自分には新しいドラマの話が来ていたし、浜田もバラエティーやクイズ番組に引っ張りだこだった。

これを逃したら、チャンスなんて当分こない。

「告白するように仕掛けたくせに」
「あ、人聞き悪いなぁ」

焦ってたのは俺も同じだよ。と浜田は苦笑を深くする。

泉がベッと舌を出して見せると、優しい口づけが落ちてきた。
その口づけを受け止めて、泉も目を閉じる。目を開けると浜田と目が合って、風呂は?と目線で訴えれば、再び口づけが落ちてきて諦めた。

「また共演したいね」
「バラエティーが忙しいだろ、お前は」


そう言って笑い合った二人に、野球マンガのドラマ化のオファーが舞い込むのはそう遠くない話。
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リンゴの誘惑。(浜泉)

「…なに、これ」

バイトから帰ってきた俺がテーブルの上に置いたモノに対し、泉は怪訝そうに眉を寄せた。

「え?缶チューハイ」
「んなこと分かってんだよ!」

聞かれたことに答えたつもりだったが、どうやら泉が望んだものではなかったらしく荒い声が返された。
俺と二人っきりのときの泉は短気だ。
三橋のオドオドや田島のキテレツな言動には優しいくせに…
「買ったのかよ?」

ますます泉の顔が険しくなる。
そこで気が付いた。
ああ、そーゆーことね。

「違うよ。途中の道で配ってたの。サンプルってやつ?」
「なんだよ、じゃーそう言えっての」
暗がりで貰ったからジュースだと思って。と続いた言葉に安心した顔になった。眉間のシワがなくなって、俺の好きな泉の顔が戻ってくる。

「見つかったら誤解されるから気を付けろよ」

結局、それが言いたかったんだと分かって、ひょっこり顔を出した俺の小さな不満はアッサリ溶けてなくなった。
ホント素直じゃないんだから。

「はぁ〜、今日も疲れたなぁ」

大きくため息をついて、泉の隣に腰を降ろす。
手を伸ばして、缶をテーブルの上に置いたままプルタブを開けると、プシュっと炭酸の逃げる音が響いた。

「て、飲むのかよ!」
「たまにはいいでしょ」

お酒は20歳になってから。の文字が見えないのか。と言いたげな泉の視線を交わして、一口飲む。少し炭酸の効いた甘いリンゴ味が口の中に広がった。

「泉も飲む?」
「いらねー」
「まぁ、そー言わず」

もう一口、口に含んで、逃げようとする泉の腕を掴む。

「ちょっ…浜田〜〜〜っ!」
逃げられないように両腕を掴み、足を絡めて床に組み敷いた。
焦りと怒りを露にした泉の大きな黒い瞳とかち合ってニッコリと笑う。そのまま、泉にソッと口付けた。

「んっ、ふ、んんっ…ふ」

舌で無理矢理唇を割って深く口付け、開いた隙間からチューハイを流し込む。泉の口が許容量を超えて喉がコクンと動くのを確認してから、口を放した。

「〜〜〜っ、バカ浜田!」

プハッと息をついてすぐ飛んできた罵倒。それでも組み敷かれた体ではどうしようもなく、キスとチューハイの反動で頬を赤く染めた涙目の泉。

かわいい。もっといじめたい。

そんな気持ちがムラムラと沸き上がってきたが、
これ以上進めると本気でキレられそうだ、と思い、掴んでいた手を離して泉を解放する。

悪い、悪い。ジョーダンだよ。と笑ってやると、ますます泉の眉間に皺が寄ってしまった。
あ、まずい…

そう思ったとたん、ガバッと起き上がった泉が、俺の手からチューハイの缶を奪い取った。

「あ、おいっ!?」

慌てて取り返そうとしたのだけれど、泉は勢い良くソレを口の中に流し込んでいく。

「なにしてんだよ!」

一気飲みなんて絶対に体によくない。
急性アル中にでもなったらどーすんだ!

ほぼ奪い取るように泉の手からチューハイの缶を取り返す。
再び俺の手の中へと戻ってきた缶の中身はもうほとんど入っていなかった。

「いずみっ、ん?!」

叱り付けようと口を開いたと同時にガチッと堅いものが歯に当たって……
それは半ば頭突きをするようにキスをしてきた泉の歯だと気付くのには数秒かかった。

突然の出来事に間抜けにも俺が口を開けたままだったことを泉の唇が確認する。
アッと思ったときには、泉の舌と一緒にチューハイが流れ込んできた。

体を起こしているせいでチューハイは重力に従い、俺の喉ではなく唇の隙間から流れて、顎を伝う。

しかし、泉はそんなことお構い無しでキスを続ける。
口の中身がなくなると、少し唇を離して角度を変えて再びキスを落とす。
そんなことを何度か繰り返されて、俺がそーゆー気にならないとでも思っているのか?

ならねーわけねーじゃん!

ガッと泉の肩を掴む手に力が入る。
再び唇を離して、俺からキスをしようと顔を近づけると、

「ぶっ?!」

泉の手が俺の唇に遮るように押しつけられた。

「ジョーダンに決まってんだろ、バーカ」
「ぇえ!?」
「酔った!寝る!」
ニヤリと笑った顔と俺と同じようなセリフ。
思わず不満の声をあげてみたが、たいした効果はなかったようで…
泉は俺の腕から逃げるように擦り抜けて、さっさとベッドに潜り込んでしまった。
「いずみぃ〜」
情けない声をかけてみたが、聞こえてきたのは規則正しい寝息。

寝るの早っ!

「もー、どーしてくれんだよ」

ほとんど中身のなくなったチューハイの缶をうらめしそうに睨み付け、俺は二度と泉に酒は飲ませないと誓った。


相互記念として、
ゆう様に捧げます。
ゆう様のみお持ち帰りください。
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椅子が必要ですか?(浜泉)

バイトからの帰路。
自分の住んでいる部屋の明かりがついていることに気が付いて、浜田はくすぐったそうに笑った。
早足に鉄の階段を上がる。

「ただいま〜」

ドアを開けて明るい部屋が出迎えてくれる。

「…おかえり」

しかも、愛しい恋人の姿というオプション付きなら、顔もにやけずにいられない。

と、

そこまでは幸せの絶頂だった。


「……なっ、どーしたの!?」

開け放たれたキッチンの戸棚。床に散らばった日用品のストック。
その中心で途方に暮れた泉の姿。

「いや、シャンプーが終わってたから…」

続くはずの言葉は、恥ずかしさのせいでモゴモゴと空気に消えてしまう。

「ケガとかしてない?」
「あ、おぅ、それはヘーキ」

靴を蹴るように脱ぎ捨てる。
カバンを降ろすのも忘れて駆け寄れば、大丈夫だから。と言われて、浜田はホッと胸を撫で下ろした。

「ったく、なんでこータイミングが悪いんだろーな、お前は」

床に散らばったストックを集めながら、泉は刺々しく呟いた。

恥ずかしさを隠すための悪態だとわかって、ハハッと浜田の眉が下がる。


「とりあえずカバン置いてこいよ?」
「え?ああ、そーするわ」

散らばった日用品の袋を集めるのを手伝おうとした手を止められる。
確かに邪魔だと肩に掛けたままのショルダーバッグをもう一度背負い直して、泉の言葉に甘えた。



さて、どーするか。
日用品を集め終わった泉は、それと高い位置にある戸棚を見比べる。
悔しいことに、自分の身長では届かない。無理をすれば先程と同じ展開になることは容易に見て取れた。

(だからって浜田に頼むのもなんか癪だな…)

素直じゃない自分に苦笑が漏れる。

「いずみー」
「あぁ?」

カバンを置いて戻ってきた浜田の呼び掛けに振り返る。
そうして、彼が手に持っているものを見て唖然とした。

「これ使ったら届くんじゃね?」

可愛いだろー。と差し出されたのは、赤ちゃん用の小さな椅子。パンダがニッコリ笑う背もたれがなんとも言えなかった。

「どっから持ってきたんだよ!」
「え、押し入れ」

なんでそんなものがあるんだ。と言いたげな泉の視線から逃げるように、浜田はヘラリと笑って、椅子を設置する。

「はい、どーぞ」
「なっ!」
「じゃー、俺、シャンプー詰め替えてくっから」

「〜〜〜〜っ」

シャンプーの詰め替えパックを持ってバスルームへと消えていく浜田の後ろ姿を睨み付け、

「お、覚えてろよ!!」


と大きく叫んだ。





椅子が必要ですか?

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気まぐれロマンチック(浜泉)

野球は辞めたつもりだった。
留年して、また通うことになるとは思わなかった教室の扉をくぐるまでは。


「はま、だ、先輩?」

驚いたと困ったが混ざったような顔。
大きな黒い目を更に見開いて。


それでも馴染むにはそんなに時間がいらなかった。
生意気な物言いも、それでも人懐こい無邪気な顔も。


そう。

ちょうど、退屈な運命には飽き飽きしていたところだった。


「応援団?」
「そう、どう思う?」

怪訝そうにした顔が、考える顔に変わる。
そらされる目線。向けられる背中。

「泉?」

「いーんじゃねーの!」

空を見上げて半ば叫ぶように放たれた言葉は、嬉しそうだったからホッとした。


Darlin′Darlin′

心の扉を壊してよ。

大切な事は目を見て言って。

あなたとならば笑っていられるよ。

今すぐ駆け出すの。

My sweet sweet Darlin′
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春眠暁を覚えず。(浜泉)

シトシトと降る雨の音で目が覚めた。ボーッとする頭で雨かぁ…、桜散るなぁ…と思いながら、重いまぶたを閉じようとする。

そんなところで、携帯電話が鳴った。
それは泉の携帯電話で、浜田は隣に眠る彼の肩を揺すった。

「ナニ?」

眠そうな柔らかい声。

「電話、鳴ってるよ」


彼の手元に携帯電話を差し出してやると、ノロノロと起き上がった。

「もしもし?あ、花井?うん…ああ、うん」

電話の相手の名前が聞こえて、ああ練習についての連絡だな。と頭の隅で思う。
泉の眠そうな相槌を聞いていると、こっちも眠くなる。

じゃあな。という終わりの言葉。そのまま起きるのかなぁ…と思うと、自分も起きないととぼやける頭に言い聞かす。

よし、起きるぞ!と気合いを入れようとして、パタンと自分の方に倒れてきた泉にその出鼻をくじかれた。

あれ?

「起きないの?」
「雨でやる場所もないから、とりあえず中止」

あ、そう。と答える浜田を尻目に、泉はモゾモゾと布団に入り寝る態勢を整える。

「春ってなんでこんなにねみぃんだろ…」

すでに目を閉じたまま、泉が呟く。

「まあ、春眠ナントカを覚えずって言うからね」
「……浜田、あったけぇ…」

珍しく知識のある言葉を言ったのに、当たり前のように無視されて、少しムッとなりそうになったが、

ウトウトする泉が無意識だろう、スルリと自分の肩口に顔を寄せて寝息をたて始めたのを見て、どーでもよくなった。


雨による中止の電話と肌寒さ、春独特のけだるさに感謝して、浜田は泉の体を抱き寄せ眠りに落ちた。



春眠を覚えず。
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