読み終わりました〜。
いや〜あっと言う間だった!おもしろかった。

ケッチャム作品を『ロード・キル』→『地下室の箱』→『オンリー・チャイルド』と読んできましたが、金子氏と有沢氏では物語から受ける印象が全然違いますね。ケッチャム作品をどう見てるかの違いだろうな。

金子氏の翻訳ではケッチャム作品はサイコホラーの様相が強くなり、娯楽性も高いです。なので、わかりやすい死亡フラグに突っ込みながら楽しく読めます。金子氏はケッチャム作品をホラー映画に近いものとして見てるんでしょうね。
対して有沢氏の翻訳では、ケッチャムの描く残虐性の向こうにあるドラマが際立ち、読み進めるほど気分が重くなります。悲しくなり、深く考え込んでしまう。唯一『ロード・キル』のラストがテラカオスで娯楽的だったけど、それぐらいです。

大衆的なのは金子氏の翻訳なんですよね。楽しみながら読めるというのはホラー小説では長所だと思うし。
でも、ケッチャムの魅力を引き出せているのは有沢氏の翻訳だと思う。
前者ではS・キングの絶賛は納得できないけど、後者では納得できる。金子氏の翻訳だと、おもしろいけどそこまでになってしまうんですよ。名作とは違うの。

金子氏の翻訳では“ひとつの話題についてこんなに喋るキャンベル”の言葉が唐突で説教臭くなってしまう。キャンベルのセリフはケッチャム作品を通じて、根底に寝そべっているもので、そのことに読者が気付けないのはもったいない。
ケッチャムは私たちが目を背けたがる事実を、芸術家として目を背けずに描いてくれている。黒澤の言葉はきっとケッチャムにとっても種になった。ケッチャムが芽吹かせたものを、英語が読めない私たちにもより良い形で届けてほしい。
その意味で、ケッチャム作品において金子氏の翻訳はもったいないと思う。


ものすごいストーリーだけど、クレアが種を芽吹かせるシーンには感動した。いい本でした。

印象深かったのは作中で“邪悪”と称される人々が、それほど悪とは思えないこと。
確かにおぞましく、いやらしく、自分がされたら絶対に嫌だけど、民族の習慣としてはありえないことではないと思える。(そのようにケッチャムが書いてます)
宗教や教育で、何が善で何が悪かなんて変わるよね。善悪がないとは思わないけど、同一のものではあると思う。だから人はいつも善悪について葛藤するんだろうね。



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