「僕はね、これじゃ駄目だと思うんだ」

手元のキーボードを軽快にブラインドタッチしながら、同室の親友は口を開いた。


「何がだ?」

「僕は、出来る事ならウィザードになりたい。
皆みたいに戦闘技術は高く無いから、せめて得意な情報だけでも力になりたいから……」


カタカタと小さく響く音をBGMに、旋律はウィンドウに膨大な『何か』を創造していく。


「この国は高い技術力を誇るし、実際凄い勢いで情報成長を遂げたけど、反面それを守る技術が低いからね」


あぁ、決して駄目だと言うんじゃ無いよ?
慌てた様子で訂正文を口にする。


「昔の技術競技では世界中で6位の防衛力を持っていたみたいだし」

「じゃあ、何が駄目なんだよ?」

「うん。それはね?
徹底的に怪しいデータを弾く力は有るけど、攻撃を仕掛けられなかったんだよ」

「でも、防衛戦なんだろ?」

「攻撃は最大の防御、それはネットでも一緒さ。
攻撃出来ないままでは、いずれは守りきれない時が来る」

僕と同じ様にね。
なんて言いた気に、悲しそうな苦笑を浮かべる。


「ハッカーは本来、専門的技術者を指す意味合いなんだけど……過去の情報がハッカー=情報を悪用する存在みたいに報道しちゃって、そう言う人は僕達の間だとクラッカーって呼ぶし、同一視されるのは正直嫌な所も有る」

「ふぅん」

「報道は力だから。ほとんどの人がハッカー=悪人って意識を植え付けられて、技術者を育成する事が困難だったみたい……結果的にこの国は技術が有るのに守る力が低い状態になってる」

「だからお前は魔法使いになりたい、と」


あはは、と笑い声。


「そうだね、僕が魔法使いになれたら良いなぁ。
誰かの為に力を使えるのは本当に嬉しいから」

「なら、俺がお前を守れば良いしな!」

「え?」

「お前も俺も、仲間なんだからよ。
一緒に戦えば良いじゃん」

「……あ。ありっ、ありがとう!!」

「何だよ、泣く事無ぇじゃん。大袈裟だなぁ」

「う、うん……何か嬉しくて」

「あはは、変な奴」


ひとしきりの笑い声。


「僕、頑張るから……諦めないよ!」


気合いを入れ直したのか、先程よりキーを叩く音が速い。


「頑張れよ、相棒」



軽く笑ってヘッドフォンを耳にする。

誰より努力家で、真っ直ぐな親友の夢。
その姿にちょっと羨望しながら、机の課題に向き合った。









少年よ、大志を抱け。


幼い可能性は未来に続き、時間はその先を形作る。










そう、例え……














その『未来』が、君達に残酷な牙を剥こうとも。