ジェイド*ガイ




身体を重ねた後、何気ない言葉を交わすこの時間がジェイドは好きだった。例えば赤毛の子供のことだったり、その日の夕食のことだったりと、本当に些細で取留めのない話ばかりだけど、ジェイドにとっては何よりも大切に思えた。
きっと愛しい相手だからこそ思えることだろう。気持ちを言葉にはしていないが、きっと伝わっている筈だと、ジェイドはそう信じている。
でなければ、男の自分に易々と身体を差し出す訳がない。

その日も変わらず身体を繋いだ後、服も着ないままベッドの中で他愛のない会話を繰り広げていた。


「それでさ、その時ルークが…」


嬉しそうに語る横顔を見ていると、自然と頬が緩んだ。
ベッドヘッドに寄り掛かりながら、金色の髪を梳くように撫でるとくすぐったそうに身を捩る。


「貴方は本当にルークの話が多いですねぇ」

「なんだよ、悪いか?」

「いえいえ。ただ、ちょっと妬けるなと思いまして」


好きな相手が他の誰かの話を夢中でしていれば誰でもそう思うだろう。それはジェイドにだって例外なく、ルークの話ばかりするガイに多少の寂しさのようなものを覚えていた。
この歳になって恥ずかしいものだと自嘲するが、決して不愉快な感じではない。
ジェイドの言葉を聞いたガイは驚いたように目を見開く。ああ、やっぱりらしくなかったかと、内心で考える。きっとガイは口ごもって、気まずそうにするだろう。
さてどんな言い訳をしようかと思案していると、予想に反してガイはいつもの快活な笑い声をあげた。
そして、何言ってるんだよジェイド、と楽しそうに言葉を続ける。


「ただのセフレにそんなこと言っても何もでないぜ?」


ジェイドは一瞬、自分の耳を疑った。ころころと笑いながら告げられた言葉。おかしそうに、当たり前のように彼の唇が紡いだ音。
自分との関係を何の疑いもなくセフレだと言い切ったガイを、静かに見やる。
見上げてくる双眸は晴れた日の空のようで、相変わらず綺麗だった。控え目な紅をひいたような唇だっていつもと同じく美しい。
ただ、その喉から発された言葉だけは妙に異質なものとしてジェイドの耳に届いた。


「……いつからそう思っていたのですか?」

「なにが?」

「私があなたと夜を共にするのは…性欲処理のためだと」


顎に手をあてて考える素振りをするガイを、ジェイドは黙って見つめていた。困ったような態度をとってはいるが、既にガイは答えをだしている。確かな根拠もないがそう確信した。
いつ何時から、彼はその行為の意味に結論をだしていたのだろうか。何の臆面もなく、一瞬の戸惑いもなく言い切ってしまえるほど、軽い関係だったのだろうか。
少なくとも、ジェイドにとっては違っていた。最初は純粋に興味の方が強かったかもしれないが、今、ガイに向けているのは確かに好意である。
誰彼構わず抱いたりするほど飢えてもいないし、考えなしでもない。その辺りのけじめはついている。
だからこそ、ジェイドはガイにそう思われているというのが衝撃的だったし、何より悲しかった。


「いつから、とかじゃないさ」


ふと、ぽつりと漏らされた言葉にジェイドは振り返る。眉を寄せて苦笑を浮かべた彼は、ともすれば泣き出してしまいそうに見えた。
だけど、その瞳から雫が零れ落ちることはなく、変わりに疲れたような溜息が吐き出される。


「いつだって何もなかった」

「ガイ…」

「この関係に最初からあったのは、ただの性欲処理のためだったろ?」


初めて身体を重ねた日、己の言動を振り返る。深く考えもせずに言ったことは、ずっとガイを捕えていた。そして、そこから下がることも進むこともできずに、終いには自分から求めることさえ諦めた。
流されるままでいれば、きっと傷付くことはないだろうから。
それがガイのだした答えであり、今の今まで気付かなかった自分にジェイドは知らず拳を握る。いつものような軽口なんて出てくる訳もなかった。


「……アンタは何も言ってくれないじゃないか…」


責めるでもなく、だけど許すでもない柔らかな口調をもってぽつりと呟かれた言葉。
それを最後にガイは口を閉ざし、ジェイドとは反対の方を向いて寝入る態勢になってしまった。しかし、すっかり冴えた頭には眠気なんて襲ってくる筈もなく、ただ瞼を閉じるだけに終わる。
何も言わずとも分かっているだろうと思っていた。それぐらい伝わっているだろうと思い込んでいた。
なんて勝手な考えだろう。自分から手を差し延べておいて、あとは知らぬ振りをしておいて。それは勘違いだ、誤解なんだ、なんて言える訳がない。
それでも、今あるこの気持ちは嘘じゃない。今更伝えようなんてしないから、受け止めてくれなんて言わないから、せめて。


「…あなたが好きです」


届いてほしいと願う愚かな自分を、許してほしかった。










○後書き○

なんだかジェイ→ガイ風味ですが、ジェイ→←ガイです。ジェイドは最初はガイに対して興味しかなかったのですが、いつしかそれが愛情になっていくんですよ。
それをガイも何となくは気付いているのですが、初めに『お互いの性欲処理として』と言われていたから、ジェイドに何も言えないんです。
そんなすれ違いなジェイガイが大好きvv(殴)

というか、補足いれなきゃ小説の内容が分からないなんて!