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それは合言葉

遠い遠い昔の記憶。
絡ませた小指の約束はどこへと向かうのか。
交わした言葉の終焉はきっとこないものなのに。


たった一言だったけど、
たった一言でも、
それだけを糧に僕は諦めずにこれたんだ。








「んで?こんな真夜中にお前はどうして此所にいるんだ?」

「ごめん…」

人々に恵みをもたらす太陽も眠りにつき、代わりに月の青白い光が辺りを包み込む。普段は活気のある下町も夜中ともなれば静寂ばかりが訪れていて、普段の有様が嘘のようである。

ユーリは目の前に佇んでいる友から視線を逸らし、時計を一瞥してから深く溜め息をついた。丁度、短針と長針が重なろうとしている。
不仕付けな時間帯に訪ねてきた来訪者は肩を竦ませながら、居心地悪そうに視線を彷徨わせていて、普段の凛とした姿勢からは程遠い。
その様になんだか怒られて落ち込んでいる犬みたいだとユーリは内心で思った。

「とりあえず中、入れよ」

「えっ…あ、うん」

中へと入るよう促せばフレンは素直に室内へと足を踏み入れた。
それを見届け、念の為に鍵をしめてからユーリは何か飲み物を用意しようと、隣室のキッチンへと向かう。
玄関から出た時に素肌を撫でた風が少し肌寒かったのを思い出し、温かい飲み物をだすことにした。最近、宿屋の叔母さんに分けてもらったコーヒーを丁寧に淹れる。1つのカップはブラック、もう1つはミルクと砂糖を入れ程よく甘味をつけた。

部屋へと戻れば、フレンは大人しくベッドへと腰掛けていた。今日の任務は既に終わったらしく、私服に身を包んだ彼は普段の鎧姿と違い、淡い水色のワイシャツにスラックスという軽装である為か普段よりもずっと幼く見える。
ユーリが入ってきたことに気付いたフレンはぎこちない笑みを浮かべた。


「コーヒーで良いよな。苦いのダメなお前の為に甘くしといてやったから」

「なんだか素直に喜べないな」

「本当のことだろ」


マグカップを一つ受け取りながらフレンは苦笑する。冷えた指先からじんわりと伝わってくる心地よい温度に目を細めた。
立ったままコーヒーを啜っていたユーリは、フレンの左隣りにどかりと腰を降ろすと足を組む。カップを片手に欠伸をするユーリを見て、フレンは慌てて今の時間帯を思い出し時計を見た。
自分は今まで起きていたが、ユーリは明らかに寝る前だったのだろう。服装もゆったりした半袖の黒のシャツに生地の軟らかいズボンといった、リラックスしたものであった。


「ユーリは就寝前だったんだよね。押し掛けてすまない」


申し訳なさそうに苦々しく言うフレンに視線だけ向け、ユーリは大袈裟なぐらい肩を竦めてみせた。
そしてフレンの頭を軽く叩くようにした後、くしゃくしゃと撫でる。指に絡む細い金糸はふわふわで触り心地が良い。


「お前が思い立ったらジッとしていられない質だってのは知ってるからな。なんかあったんだろ?」


昔からずっと一緒だった幼馴染みのことだ。知らないことの方が少ない。
こうして生真面目なフレンが常識外の行動をするというのは有り得ない事なので、何か特別な理由あってのものだということは分かっていた。
フレンは一瞬、驚いたような表情をしたがそれはすぐに安堵の微笑みに変わる。


「ユーリには敵わないな」

「よく言うぜ。んで、なんなんだよ」

「ああ…。明後日から任務で一ヵ月ほど帝都を離れることになったんだ。ここまで長期の任務は初めてだから…ユーリに会っておこうと思って」


今日、いきなり入った明後日に出発という外界への遠征の知らせ。それを聞いたフレンがまず一番に浮かんだのはユーリの顔だった。
ユーリが騎士団を抜けた後も街の巡回、ユーリの起こす騒動などにより最低でも一週間に一度は会っていた。割りと行動範囲の広い二人だったが、擦れ違うことも多々あったし、会えば話もする。

フレン自身も下町のみんなと会えるからということもあって、休暇が入った際、大抵はユーリの元に訪れていた。
下町へと繰り出すことはキュモールを筆頭に、貴族出身の騎士達にあまり良く思われていないことは知っていた。だがフレンにとってそれが当たり前の日常であり、誰から何と言われても変えようとは思わない。

だけど、任務ともなれば行けなくなるのもしょうがない。あまりに急な話ではあったが。


「ユーリと一ヵ月も会わないなんて初めての事だしね。明日は休みだけど準備で忙しくなるだろうから、今夜行かないとって思ったんだ」

「…ふーん」


フレンの話に対しユーリはそっけなく返答するだけであった。
大した反応を望んでいた訳ではなかったが、それをフレンは少し悲しく思った。自分だけがこんなにも、暫しの別れを惜しんでいるのだと言われているような気がしてくる。
実際、そうなのだろう。自分だけが彼と会えなくなることを心残りに思っている。
それでも、少しは同じ想いを抱いてくれているかもしれないと、淡い希望を抱いてフレンはユーリに尋ねた。


「ユーリは、僕と会えなくなるのは嫌だとか…思ってくれる?」

「……そんなん別に思わねーよ。ガキじゃあるまいし」


言われた言葉にフレンは胸がズキリと痛むのを感じた。たった一言で全身が麻痺したように動かない。
騎士団内で受けた言葉の暴力などいくらでも耐えることができたのに、彼の言葉一つで自分はこんなにも翻弄されている。
ユーリは至極、当たり前の返答をしただけなのだ。そうだ、何を言っているのだ。もう自分達は幼い子供とは違うのだ。
分かっている。頭では理解し、十二分に分かっているのだ。中々拭い去ることができない自分の方がおかしいのだと。
(でも、僕は…)


「僕は君に会えないのが寂しいよ、ユーリ」


ふと漏らしてしまった言葉にハッとする。自分が言ったことが信じられないと、フレンは無意識に口元に手をあてた。
ユーリの方を向けば苦虫を噛んだような複雑な表情をしていて、よけいに己の失言を自覚させられた。


「ごめんユーリ。今のは忘れてくれ」

「……おい」
「はは、ユーリの言う通りだよ。会えなくなる訳じゃないしね。ほんと、馬鹿な事を言った」

「おい」

「それじゃ僕はお暇しようかな。こんな夜中に上がり込んで悪かった。コーヒーも…ありがとう」

「ちょ…!」


一気にまくし立てて言いながらフレンは席を立った。カップを机の上に置き、もう話すことはないと言わんばかりに扉へと足を進める。見ることの少なくなったフレンの細い肩が震えてみえるのは、気のせいではないだろう。
ユーリは居ても立ってもいられなくなり、去って行こうとする華奢な身体を後ろから抱き締めた。


「俺の話聞け!最後まで聞かないで勝手に解釈するな!!」


自然と強くなってしまう口調を抑えることもできず、怒鳴りつけるようになってしまった。声音に反応してか腕の中の身体がビクリと跳ねる。身長はさして変わらない筈なのに、今はフレンが酷く小さく見えた。
ユーリは深く呼吸をし荒くなった気持ちを整えると、フレンの肩を掴み向きを変え、正面から向き合うようにさせた。念の為、逃げられないように腰に腕を回しているせいで、自然と近くなってしまう。
気恥ずかしさもあってか身動ぎ、離れようとするフレンを難無く抑えてからユーリは困ったような笑みを浮かべた。


「お前、何か勘違いしてるみたいだけどよ…俺は嫌じゃないとは言ったが、会えなくなるのが寂しくないとは言ってねぇぜ?」

「…でも、ユーリには下町のみんながいる」

「それはお前もだろうよ。確かに寂しさは紛れるかもしれねぇけど、お前の代わりになる奴なんかいない」

「…ユーリ……」


いい終わるや否やフレンは俯かせていた顔を上げる。
下がった眉、薄く開いた桜色の唇、薄い水の膜を張った瞳。フレンを形成する全てを愛しいと、ユーリは思う。
それらを暫く見られなくなると聞いて寂しくない訳がないが、彼が一歩ずつ歩む姿はユーリの楽しみでもあり、誇りでもある。そして、他の何より眩しく映るものだった。

だからこそ彼を止めるような真似はしなかったし、いつでも此所に帰ってこれるようにしながら、帰る場所は自分のもとだけであってほしいと願う。
一番にフレンを出迎えるのはお偉い貴族様でも騎士団でも、ましてや下町のみんなでもない。自分なのだ。
たった一人を受け止めることの出来るポジションに、どれだけ救われていたのか彼は気付いていないのだろうか。
だが、知らないのなら知らないままでいい。これは誰にも言えない自分だけの秘密なのだから。


「ボロボロになったお前が帰ってくるまで俺は待ってるよ。だから、精一杯やってこい」

「…精一杯だなんてユーリらしくないな」


さっきとは打って変わり、くすくすと小さく笑うフレンに幾らか安心する。やはり彼には笑顔が似合う。
悪態をついたフレンにユーリは不満気に唇を尖らせたが、それも束の間。直ぐにもとの少し意地悪さを残した笑みになる。


「ちっとは黙って聞いとけ。まぁ頑張ってこいよ。……離れてても一緒にいてやるから、さ」

「それ、小さい時にも言われたよね。僕が一人で泣いてた時とか。凄く嬉しかったの覚えてるよ」

「ああ、あの頃のフレンは泣き虫だったからなぁ。今も泣きたいなら胸貸してやるぜ?」

「茶化さないでくれ。いつだって…僕はその言葉のおかげで、強くなれたんだ」

「…そりゃどーも」


フレンの言葉を聞いて顔が熱くなった。恐らく赤く染まってるであろう頬を隠す為に横を向く。そんなユーリの行動に照れ隠しだと分かったのか、さっきより幾分か声を高くしてフレンは笑った。


「ユーリ、今夜は一緒に寝ていいかい?」

「そりゃ大胆なお誘いだな。寝かせねぇぜ?」

「君ってやつは…。言っただろう、明日は準備で忙しいんだ」


言いながら、するりとユーリの腕から抜け出したフレンはベッドへと向かう。
皺のない真っ白なシーツからは太陽の匂いがする。安心でき、それでいて自分の大好きな匂いが。
腰掛けたベッドから上目遣いにユーリを見上げ、フレンは小さな声で呟くように言った。


「だから、その……優しくして…ほしい」


蚊の鳴くような音量だったが、静かな部屋でしかも傍にいたユーリの耳に届かせるには十分だった。
ユーリは驚き、目を丸くするが、すぐに挑発的な表情になる。


「いいぜ。砂糖吐くぐらい甘く優しくしてやるよ」

「…馬鹿ユーリ」

「そんな馬鹿にホレたお前も大馬鹿だ」


座るフレンに目線を合わせるようにして屈み、ユーリは後頭部へと手を回して引き寄せた。
何をされるのか悟ったフレンはゆっくりと瞼を閉じる。それを見届けながら近くなった柔いそれに自分のを重ね、味わうように啄む。

合わさった唇は、自分には甘いコーヒーの味が未だに残っていた。





明日の準備は手伝ってやろうと、ユーリは心の中で思った。








○後書き○
フレンは騎士だから遠征とかって一度や二度じゃないと思うんですよね。
ユーリとフレンは小さい頃から一緒にいたから、長い別れなんて考えられない。
でも、ユーリはそれを笑顔で見送るだけの強さがあるんです。そんなユーリを見て、寂しいのは自分だけなんじゃ…って不安に思うフレン。




……みたいな展開を書こうとしたのに…あれ?なんか違いますね(笑)


 

続・雨は止んだらしい R-18


※この作品には性的描写が含まれていますので、ご注意ください!








賑わっていた街中も大分静かになり、ちらほらと電灯の光が辺りを照らした頃、家々からも明りが灯り始める。
それに続くようにして漂ってくるのは美味しそうな料理の匂い。夕食時の下町はいつも良い香りがしていた。
家族内で団欒を楽しみながらとる食事というものは、心安らぐ時間でもある。
それはとある家でも例外はなかった。


「ご馳走さま、ユーリ。また腕を上げたね」


よほど満足したのだろう、フレンは満面の笑顔でユーリに言った。片付けもそこそこに、二人でベッドに座りながら寛ぎ体制になる。
長い付き合いなのに二人の談笑が尽きることはない。あの店のパンは美味しいとか、あの人はどうなったとか、たわいもない話を繰り広げていた。

そろそろ時刻も人々が眠りにつく時間帯になった頃、フレンは帰宅しようと腰をあげる。
別れは名残惜しいが、しょうがない。寂しさが込み上げてくるこの感覚だけは、慣れないが。


「ユーリ、僕はもう帰るよ。夕飯ありがとう」


帰ることを告げた途端、ユーリは目を見張る。その反応に、何かおかしなことを言っただろうか、とフレンは考えるが特に覚えはない。
フレンは思考に耽っていたが、ユーリに手首を掴まれたことにより、現実へと引き戻される。
ユーリは口端を上げ、ニヤリと人の良くない笑みを浮かべていた。


「ユーリ…?」

「確かデザートがまだだったよな」

「デザートって……ぅわっ!!」


ぐいっと強い力で引っ張られ、気を抜いていたフレンはそのままベッドへと倒される。さも当たり前かのように見届けたユーリは、素早くフレンを仰向けにさせ上へと馬乗りに跨がった。
一瞬の出来事に頭が付いて行かず、ただ瞠目するばかりのフレンにユーリは一言だけ告げる。


「昼言った事、まさか忘れたわけじゃねえよな?」

「…!」


フレンは驚きに目を大きく見開いた。同時に、今日の昼に起こった出来事を思い出す。

──そうだった、ユーリは僕に…


「よ〜く味わらせてもらうぜ、フレン」


ユーリは言うなり、フレンのシャツのボタンを片手で器用に外していく。時が止まったかのように硬直していたフレンは、肌から伝わる温度にようやく我に返り、慌ててユーリの手を止めようとした。
だが、その手も簡単にシーツに縫い止められてしまう。それならばと、身を捩って逃げだそうとした所で、いきなり唇を塞がれてしまった。


「んんーっ!」


抗議の声も呑まれ、くぐもった音だけが残った。啄むように何回もキスを落とされる。
フレンが息苦しさに薄く唇を開いたのをいい事に、ユーリは口内に舌を挿し入れ好きなように徘徊した。
歯茎をなぞり、上顎を舐め上げ、舌を絡ませる。きつく吸い付けば、鮮魚のようにフレンの身体が跳ねた。


「ふ…んっ…、んぅ…」


悩ましげな声が発せられる頃にはすっかり抵抗は治まっていた。代わりにその腕はユーリの首の後ろで組まれ、僅かな震えを伝えている。
飲み下しきれなかった唾液がフレンの頬を伝う。ユーリは一旦離れ、それを舌で拭いながら再び唇を重ねた。

じっくりと味わい、離れた時、銀の糸が二人を繋いだ。
不足した酸素を求め、肩を上下させながら呼吸するフレンの姿は実に官能的だとユーリは思う。
赤く染まった唇、今にも泣きそうな潤んだ瞳、鮮やかな桜色に染め上げた身体は生娘のようだ。
普段の姿とはかけ離れたフレンの痴態に、思わず生唾をゴクリと飲み込んでしまう。


「なんつうか…すっげーやらしいの」

「っ…この、馬鹿…!」

「あーはいはい。ちょっと焦らしたからって、そんなに怒るなよ」

「そうじゃな…、あ!」


突然、背中に電流が走ったかのような感覚に襲われ、フレンはのけ反る。胸を這っていたユーリの手が、衣服ごしに淡く色付いた飾りを掠めて思わず甘い声を漏らしてしまった。
それに恥ずかしさを覚えたフレンは、両腕で自分の赤く染まった顔を隠してしまう。

ユーリはその行動を咎めるように刺激を強くしていく。
服をはだけさせ、直接肌に触れる。指に吸い付く滑らかな触り心地を堪能しながら、既に固くなった尖りをいたずらに引っ掻いた。


「や…ぁ…!」

「嫌、じゃねぇだろ」


惜し気もなく晒した白い肌に口付けを落とし、鮮血の花弁を散らしていく。その度にフレンの身体はびくびくと震え、ユーリに快感を伝えていた。
小さな飾りを口に含み、舌で転がした。たまに軽く噛んでみるが、痛みは感じていないらしい。その間も休むことなく片手はゆったりとした愛撫を施している。


「ぅ…あっ…!ユー、リ……あか、り…!」

「ああ?今更なーに言ってんだよ」

「でも…!」

衣服を乱し、快楽に悦んでいるこんなみっともない姿を光の下に晒すのに強い羞恥が込み上げる。フレンは涙声混じりに訴えるが、ユーリは聞く耳持たずといった様子で、そのまま行為を続行していた。
それならば上から退かそうと抵抗するが、力の抜けきった腕では何の障害になることもない。
それどころか、フレンが必死に暴れるほど、ユーリはそれを遥かに上回る力で押さえ付け、強い快感を与えた。


「いい加減諦めろって。あんま嫌がられると流石の俺もヘコむぞ?」

「ユーリが…悪いんじゃない、か…!」


ぼろぽろと溢れる涙をそのままに鋭く睨み付けるが、皮肉なことに乱れたままのその姿では、ユーリの加虐心をそそるだけに終わる。
泣かしたい訳ではないが、いつも気丈なフレンが悦楽に悶え、零れる声を懸命に抑えようとする様は可愛らしく、また酷く淫靡だった。

弄りすぎて熟れた果実のようになってしまった飾りから手を放し、下股へと滑らせた。
下穿きの上からなぞるように緩く反応を示している自身に触れてやると、押し殺しきれなかった甘い声が上がる。


「ふ…、んぅ…!」

「声、我慢するな。聞きたい」

「いや、だ…ぁ」

「あっそ。じゃあ意地でも鳴かせてやるよ」


履いていたズボンを下着ごと一気にずりおろされる。急に外気に触れた足に、寒さとは違う意味で鳥肌がたった。
咄嗟に足を閉じようとするが、ユーリの身体が間に割り入っている為にそれもできない。
自分のあられもない場所を見られているという事実に、フレンは心の底から泣きたくなった。人が恥ずかしさで死ぬのなら、もうとっくに自分は死んでいる。

自身に絡み付く細長い指の感触に悲鳴をあげそうになったが、なんとか飲み込んだ。
やんわりと与えられる刺激は気持ち良いが、どこか物足りない。


「あ…ぁ、ユー、リ…!」


自然と出てしまった媚びるような声にフレンは愕然とした。頭ではこの強すぎる悦楽から逃げようとしているのに、身体はユーリの与える刺激を望み、欲しがっている。
己のことなのに相反する二つの想いを持て余しながら、フレンは細い腰を揺らめかしユーリを煽った。


「たく…。すっかり誘うのだけは上手くなりやがって」

「ん…、ちが…!」

「違わねぇよ。ご希望通りくれてやる」


さっきまでの緩やかな動きとは打って変わって、扱うスピードを極端なほど早める。
自身に直接与えられる強烈な刺激に視界がチカチカと点滅する。嫌々をするように首を横に振るが、ユーリの手は休まることなくフレンを追い上げていった。


「ふぁ…っ!」


高みまで上り詰めた瞬間、フレンは意識が弾けたような気さえした。一際甘い声をあげながら、白濁とした欲望をユーリの掌に吐き出し、達した。
忙しなく呼吸を繰り返すフレンを尻目に、ユーリは自分の濡れた手をもっと奥まった部位まで這わせる。
後孔の周りに粘着質な液をまんべんなく塗りつけたところで、フレンはギョッと目を見開き、何か言いたげに口をぱくぱくと開閉した。それはまるで餌に群がる魚のようだとユーリは頭の隅で思った。


「ゆ、ユーリ!もう無理だから!!」

「一人だけ気持ち良くなって終わりかよ」

「明日に響いたらどうする…ひゃっ!」


突如襲ってきた圧迫感に言葉を紡ぐことすらままならず、ただ嬌声となって消えていく。
ゆっくりと侵入してくるものが何なのか確かめるまでもない。


「あ、く…っ」

「息詰めんな。…なるべく優しくすっから」

「はっ…あ、ぅ…」


固く閉まった秘部は指一本でもきつく締め付ける。
異物を追い出そうと伸縮する内部に逆らって奥まで指を到達させ、馴染んできた頃を見計らって抜き差しを開始させた。
媚肉を引っ掻くようにして抜きだし、再度奥まで埋める。それを何度か繰り返すうちにだいぶほぐれてきた後孔は、本人の意思に逆らって、もっと欲しいとでもいうかのように蠢いた。

二本目を入れた際に、締め付けがより強くなる。全く日に当たることのない白い足の片方を持ち上げ、動かしやすいように立たせた。
スムーズに動くようになった指を緩急をつけながら、引っ掻き回す。たまたま奥のしこりを指先が掠めた時、フレンの身体が大きく跳ねた。


「ん…ぁ、あ!」

「…っ、もう限界だわ。挿れるぜ」


指を勢いよく引き抜き、代わりに猛った己の分身をぴたりと宛行う。中を支配していたものが急になくなり、空っぽになったそこは誘うようにひくついている。
秘部から感じる熱い塊にフレンは戸惑い、大きな瞳でユーリを見上げた。
不安気な色を拵えた蒼に見つめられ、ユーリは苦笑を浮かべながら、安心させるように顔中にキスの雨を落とす。フレンは目を細め、それを受けとめていた。

頃合を見て、尖端を沈める。ゆっくりと傷つけぬように浸食していく熱塊に、フレンは震える身体を押えることができなかった。
時間をかけてユーリは全てが入ったのを確認すると、大きく開かせた両足を肩にかける。一息つき、きつかった内部はだいぶ馴染んだようで、柔らかく包み込むものに変わっていた。


「動くぞ」


そう一言だけ告げ、フレンを見やれば熱に浮かされた真っ赤な顔がコクリと縦に傾いた。
収めたものを引き抜き、再び抉るように入れる。内蔵まで貫かれそうな勢いで叩き付けられ、ユーリの横ですらりと伸びた脚が艶めかしく踊った。


「あっ、は、ぁ…」

「はっ…、ヤバ…お前ん中、良すぎ」

「…っ!ぅあ…、ユーリ…!」


段々と早くなる動きに自然と二人の呼吸は荒く、熱いものになる。
ユーリは前後に動くだけでなく、大きく腰を回したり、フレンの感じる部位を狙って深く沈めたりと、官能の波を引き起こした。
無意識のうちに自分のいい所へと導こうと、揺れている己の腰をフレンは気付いていない。自分自身もそろそろ限界を感じたユーリはその動きに促されるままに、絶頂に導く為、その場所を大きく突いてやった。


「ぁ、ふ…あ、ユー、リ…もぅ…」


恍惚とした表情で見上げてくるフレンはどことなく苦しげだった。
汗ばんだ額に口付けをし、宥めながら腰を使う速度を早める。もうほとんど啜り泣きに近いフレンの声がユーリの名を何度も呼ぶ。それにユーリは手を握り締めてやることで答えた。


「一瞬に…な」

「ふ、ぁ…ユーリっ…ユーリ…!」

「フレン…、くっ…!」

「ぅ、ああぁっ…!!」


ぎりぎりまで引き抜いた自身を最奥へと叩き付けた瞬間、お互いの高ぶっていたものが快楽に弾けた。


「ふ、ぁ…」


中に注がれる熱いものを感じ入るように瞼を落とすと、そこでフレンの意識は黒く塗り潰されていった。











「こんの…!馬鹿っ、大馬鹿!阿呆ユーリ!」

「…ボキャ貧だな、お前」

「うるさい!!」

「いや、うるさいのはお前だから」


あれから意識を飛ばしたフレンが目覚めた時は既に朝もいい時間で、今日の任務に遅刻するのは目に見えている。
慌てて仕度するフレンを余所にユーリは、情事後の余韻を残したベッドの上からジッと眺めていた。


「昨日はあ〜んなに可愛く鳴いてくれたのにな。気持ち良さそうに俺の名前を何回も呼んで…あだっ!」


言い終わらぬうちに、額目掛けて何かが飛んできた。見ればそれはユーリの愛用している魔動機で、昨日取り外し棚の上に置いといたものだ。
投げた当の本人を見やれば、林檎のように顔を真紅に染め上げ、わなわなと肩を震わせている。
キッと睨み付けるが、耳まで赤くなった状態では残念なことに迫力の欠片もなかった。


「大体っ!明りを消してくれってあれほど頼んだのに…!」


結局、明るいまま続けられた行為は自分の恥ずかしい姿を有の侭に披露することになった。
ユーリとしては感じてる時の表情や愛しい人の身体を隅々まで見ることができるので、灯は消したくはないのが本音であって。
しかし、それを口にすれば鉄拳が飛んでくる上に、暫くお預けをくらってしまいそうなので、ただ黙っていた。

準備の調ったフレンが部屋を出ようと出口へと足を向けた。だが、扉の付近まで来てぴたりと止まってしまう。
そして、いきなりくるっと振り向いたフレンの顔は嬉しいような困ったような複雑な表情で笑っていた。


「また会いに来るから…」


それだけ言い残し、今度は勢いよく外へと飛び出して行く背中を呼び止める暇もないまま見つめていた。
呆気にとられていたユーリは暫くその場に固まっていたが、内から段々と込み上げてくるものに笑みを浮かべてしまう。
それは確かな喜びであった。


「当たり前だっての、バーカ」


ぽつりと零した声は誰も聞いてない。
ユーリは弛む頬を引き締め、昨日までの恋人との甘い時間から、今日も下町の兄貴分の生活に戻るのだった。




(大好きな君だから、)
(なんだって許してあげたくなってしまうんだ!)









○後書き○
あ〜今回も無駄に長かったです。何故に文章をうつのがこんなにも遅いのでしょうか…。
てか、お粗末なものを公開してすみません(´;ェ;`)

なにが恥ずかしいっていうと、こんな文章を平気で書けてしまう自分が恥ずかしいです(笑)


 
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