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そういえば明けましておめでとうございます

だいぶ遅くなってしまいました・・・
マイペースにうつらうつら更新していきますので、今年もよろしくお願いします。

先日はししょーとミリオタ新年会をしてきました。
めっちゃ楽しかったです!うはwww
アメリカ空軍や海兵隊の話やら、FSPやら創作やら佐久くんのダメ出しやらで本当に話が楽しかったです。
朝方まで飲んで、ネカフェに泊まったのですが、ネカフェがめっちゃ寒くて眠れなかった・・・
今から買い物して、帰ったら原稿キバって早めに寝ます。
ちなみに初売りっても特に買うものがない。

〈VERTIGO〉1ST PSHASE:BOGGY-2

奇妙な緊張感の沈黙。 佐久が誓の瞳を見つめていた数秒間が、長く感じた。
冷たく澄んだ水晶体の奥に、禍々しい赤が光る。それは、燃焼する炭のように熱い色だった。それは明瞭でありながら遠い。
透明な闇の水底の向こうで、冷たい熱を放つアンタレスの瞳の奥を、誓はまっすぐに覗き込んだ。
あらゆる感情を含み、呑み込んだ闇が誓を捉える。抗い見返したその瞳に、引きずりこまれそうになるのを堪えた。
沈黙。質量のある視線がぶつかり、周囲が帯電する。
身長差のある佐久に見下ろされながら、尚も誓は踏みとどまった。
閉じた拳の中に、汗が浮かぶ。壁のような長身の圧迫感が、誓を押し返した。
暫くの対峙のあと、ふいっと佐久が目を逸らす。帽子を被った佐久が整備員に話しかけるのと同時に、誓は肩を叩かれた。
 
「あいつ、いつ帰ってきたのよ」
 
たった今起きたばかり、というようなあくび混じりの声に振り向く。
声の主が、声音と違わぬ寝ぼけ眼で誓を見ていた。長い亜麻色の髪の毛が少し乱れている。
御嶽(おんたけ)みほ。生体工学のエキスパートである専属軍医で、苦労せず名前を覚えた人間の一人だ。
その美貌は一際目を引く。一般人のレベルを軽く飛び越えた容姿は、多種多様な人種が集まるADEXgの中でもみほを目立たせていた。
ストンと落ちるストレート・ヘアは日を浴びると金色を帯びる程細く、無造作に団子に束ねた髪でさえたっぷりと艶が乗っている。
細面の中心には、真っ直ぐに通った鼻筋。メスの刃の形をした目を彩るのは絹糸のように柔らかい睫毛で、琥珀色の温かみを持った瞳は生命力に満ちている。
コケティッシュさとセクシーさを併せ持つその美貌は、周囲をドラマの撮影の雰囲気に変えてしまう。
歪みなく伸びた脚と、形良く膨らんだ胸を白衣の下のワンピースから惜しげもなく覗かせ、みほは思いっきり伸びをした。
髪の毛が揺れると、優しい花の香りが格納庫に淡く漂う。
 
「あー眠い眠い」
 
熟れたさくらんぼのような唇に、彦根の視線が釘付けになっている。
内心苦笑しながら、誓はそっと彦根から目を逸らした。
最初はみほの美貌とその特別待遇ぶりに驚きもしたが、今となってはそれが普通になっている。
神はみほに美貌と知性という二物と、その代償としてナルコレプシーという体質を与えた。
みほは一日15時間以上の睡眠を必要とし、8時間の仕事時間のうち断続的に3時間は仮眠をとる。
専用折り畳みベッドまでもが完備されているが、それは最初から彼女に与えられた待遇だった。
ベージュのカシミアワンピースと、華奢な鎖骨を飾るダイヤのネックレスは、軍が充分な給与を彼女に与えていることを示していた。
遠巻きにみほを見ていた女性の整備員が、今日もわずかに眉を顰める。
それを全く意に介さず、快晴の笑顔でみほは彦根の方を向いた。
 
「今日、導入教育って私だっけ」
「そうです」
 
彦根の返事を聞くと、そっか、そいじゃ一丁やりますか、とみほは肩を回す。
ここ数日、誓はまずは実際の開発の内容や技術に関するレクチャーを受けている。そのどれもが、機密に該当する内容だった。
誓自身が、既に機密中の機密なのだ。
軍がサイボーグ手術を施すのは表向き、傷痍軍人に対する身体機能回復という名目になっている。
 
「それじゃあ、第1教場借りるから」
 
春の蝶のようにひらひらと振られた彦根の手が、了解の意を告げる。
タブレットを片手に歩き出したみほの、パンプスの音が格納庫に響いた。その後に残る花の香りを追いながら、誓は歩く。


「あんたもサイボーグなら、もう散々教育は受けてきたでしょう」
 
格納庫から棟続きの廊下を歩きながら、みほは振り向かずに尋ねた。
それは、今まで新たなサイボーグが誕生し、そしてサイボーグを運用する部隊に度々生体工学の授業を行ってきた経験に基づいた言葉だった。
自らであるサイボーグという定義を知ることもまた、不可欠だからこそ繰り返される。
 
二十世紀末から急激に発展し、二十一世紀初頭には実用の域に達したサイボーグ技術。
単に欠損した神経・身体の機能補填に留まらず、やがては軍事分野において新たな進化を始める。
人間と機械が融合することにより、兵器は新たな地平線を見た。
そして、現在。
選ばれた傷痍軍人の中から、異能が生まれ、戦場へと送り出されている。
 
スクリーンに映されたその説明は、予想と違わず幾度も繰り返されたものだった。見た回数では、「軍人の任務とは何か」という教育のスライドショーと同程度と言える。
 
「ここまでは飽きるくらい見たでしょ」
 
説明をする側のみほも、飽きたような口調で言った。
画面が写真に切り替わる。ヘリコプターのコックピットに収まった佐久の横顔だった。
 
「うちの研究よ」
 
中心に攻撃ヘリとサイボーグを据えて始まった、この部隊の研究内容を説明し始めた。
AH―
64、通称アパッチ・ロングボウと呼ばれる攻撃ヘリコプターは当初から高度な情報処理能力を付与されたヘリコプターだった。
その名に冠されたロングボウという言葉は、戦闘ヘリコプターに革命を起こした新型レーダーの名前に由来する。
その最大の強みは、強固な武装でも抜きん出た運動性能でもない。
レーダーによる広範囲・高詳細な情報獲得能力だった。
半径8キロ以内の、百を超える車両や移動目標を探知・捕捉し、敵味方の識別・ターゲットの追尾を行う。
ミサイルを撃てば、自動的にマークした目標に向かい飛んでいく。
湾岸戦争・イラク戦争というふたつの戦でアパッチ・ロングボウの性能はより洗練され、今もなおヘリコプターの頂点に君臨していた。
 
「ここまでは、普通の人間が操縦するアパッチの話ね」
 
なぜ、サイボーグのために特別なアパッチが用意されたのか。
佐久や誓は、第二世代と呼ばれる、軍事用に特化したサイボーグだった。
基礎的な運動機能に加え、特殊な情報処理能力が強化されている。
レーダーやデータリンクから送られてくる情報を脳内で直接表示することにより、視力・聴力の限界を超えた情報処理を実現した。
視野の限界と、ディスプレイの狭さから解放された先には、垣根のない世界が広がる。
そしてもう一つ、パイロットのサイボーグ化は同時に複数の無人機を操縦することをも可能にした。
 
「んで、彦根中尉の機は主に地上指揮官の指揮系統を兼ねる機として、佐久の機は攻撃とUAV(無人機)の研究機として開発されてるわけ」
「へぇ」
「実際に国境警備とか演習にも何度か出ているの。まぁ、明日から実際に見てもらうわ」
 
みほは説明を終える。誓は首を傾げた。
彦根と佐久が何をしているのかは分かった。だが、自分は何のためにここに呼ばれたのだろう。
一瞬迷って聞こうとした瞬間に、誓の顔を見たみほがハッとした。
 
「そうそう、あんたの任務よね」
 
軽く言ったみほが指先でレーザーポインターを弄ぶ。
エイワックスーー早期警戒機と呼ばれる航空機は、それ自体が高性能なレーダーとなっている。
旅客機を元にした機体にレーダーを設置し、敵機の侵入を探知したり、また味方の航空機を誘導、更には地上部隊の動向を指揮官に伝え、又は上空から地上部隊を指揮することもある。
 
「・・・そうよね?谷川軍曹」
「大体そんな感じです」
 
地上部隊の情報を広範囲に取得できるアパッチ。そして、上空から戦場の大局をリアルタイムで処理できるエイワックス。
互換性を持たせることにより、より効率的な運用が可能になる。
具体的には、アパッチがデータリンクした地上部隊・UAVの情報をさらにエイワックスが受信し、作戦地域の情報と統合させた上でアパッチに送り返すというものだった。
だが、あまりに広域な情報はかえって余計な情報となるため、エイワックス側でオペレーターが適切な情報を選択する。
そのことにより、相互を補う運用が可能になるのだ。
勿論、そのためにはエイワックスのクルーも第二世代以降のサイボーグであることが必要条件になる。
 
「それで、そのシステム開発のためにあんたが呼ばれたのよ。こっちにエイワックスのシミュレーターは用意してあるわ」
 
そこまで言って、みほはふと入り口の方を見た。
その視線の先を追って振り向くと、何時の間にか壁際に彦根が腕を組んで立っている。
 
「・・・で、まぁ、いずれは攻撃ヘリの部隊も全面的にエイワックスと関わっていくだろうから、パイプ作りも兼ねてね」
 
そう言って、彦根がふっと笑った。
 
「何しに来たの?」
 
プロジェクターを片付けながら、みほが片眉を吊り上げる。彦根の好意を受け流すのには慣れているようだった。
 
「いやね、そういえばまだ座席に誓ちゃん座らせたことなかったなって」
「ああ、そういうことね。教育終わったから、行っていいわ」
 
伸長式のスクリーンを片付けようとするみほに、彦根がひょいと手を貸す。板についた紳士ぶりを眺めながら、誓は長机と椅子を畳んだ。
彦根と違い、佐久は友好的な人間ではないようだ。拒絶的な態度と、攻撃的な眼差しを思い出す。
軍歴の中で、当然職場での敵対を経験したこともある。それでどれだけの労力を費やすのかも、当然わかっていた。
ため息が知らぬ間に漏れる。
すぐに終わった片付けの後、彦根に追従した誓は再び格納庫に向かった。


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