スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

TOW

アパッチ「長弓」

どうざんしょ

コミティア信管表紙絵

アニメの原画とか好きやねん

浴衣はポストカードとして救済

無修正(後半すげ替え)

望まずしてメイキング公開になってます。今回はレスポンスや見直しを基に後半すげ替え。
階級章剥がしという新しいプレイがここに生まれた。



誓は、5分前からパソコンの前で微動だにせずにいた。右手にはマウスを持っているが、クリックの音は一度も聞こえない。
パソコンの画面が、黒く落ちてスクリーン・セーバーに変わる。
時折の瞬きがなければ、生きているのか分からない。催眠をかけられているかのようだ。
不在間の書類仕事を片づけていると言ってはいるが、一文字たりとも進んでいないのは明らかだった。
すっかり日が暮れて、窓の外には滑走路を縁取る灯火が浮かぶ。事務所には、他に誰もいない。
リポビタンDを飲みながら、報告書を片付ける佐久の右腕には、赤白の横縞の当直腕章が留められている。
帰りたくても帰れない佐久をよそに、誓はスクリーン・セーバーの変化する曲線を目で追い続けている。
「何もしないなら帰れよ」
自分の声音が少し険を帯びた。
誓は反応しない。瞳孔だけは、微妙に運動している。
化粧気のない顔は、青白い。
「おい」
もう一度呼びかけると、二度誓は瞬いた。やや間を開けて、唇が動く。
「・・・カタカナ半角に変換するの、何でしたっけ」
「あ?」
お前、そんなこと何分も考えてたのかよ、と言うと、誓は無言で頷く。
元々何を考えているのか分からない奴だったが、帰ってきてからの誓は明らかにおかしかった。
魂が抜けて、人格がどこかにいってしまったような気さえする。
「いいから今日は帰れ」
ファンクション・キーがどうのという問題ではなかった。
困ったように眉尻を下げた誓は、のろのろとキーボードを叩き始める。
それでも、残業はしないに限る、と無理やり仕事を片付けていた以前のタイピングとは比べものにならなかった。
佐久は、目の下がピクピクと動くのを自覚した。いつになく、苛立つ。
気を紛らわすために、リモコンでテレビを点けた。ニュース番組では、今日もどこかで起きた事故と強盗と殺人を報じている。
はあ、とあからさまにため息をついて佐久はパソコンに視線を戻した。
逃げるように目を逸らした誓は、黙ったままだ。
横目で軽く睨んだ佐久は、俯いた誓の口元の肉がわずかに震えていることに気付いた。
言葉を押し殺すときの誓の癖だった。
それさえも抑え、机の上で拳を握りしめ、不意に息を詰める。
それを境に、乱れていた呼吸が静まった。
時刻が、ちょうど8時を過ぎる。
「番組の途中ですが、ここで緊急ニュースです。先程、アメリカ国防総省のキャスター長官が緊急の記者会見を行いました」
アナウンサーが慌ただしく原稿を捲る。ローカルの行事を放送していた番組の画面が、本土の記者会見会場に切り替わる。
オールバックの、やや肥えた純アングロサクソン風の男が、マイクの前に立つ。
誓はなぜか、静かに目を閉じた。その表情は、判決を告げられる瞬間の被告人のものだった。
シャッターを切る音と、カメラのフラッシュがが連続する。画面の下に、テロップが表示された。

「アメリカ軍、中東北部でテロ・グループのリーダーら8名殺害を発表 6日深夜、キャンプ・ヘンドリクセン襲撃事件首謀者ら」

一瞬、画面の中の男の英語も、シャッターの音も聞こえなくなる。
二度、テロップを読んだ佐久は、瞬きをすることも忘れたまま立ち上がっていた。
一切を明かされず、そして長時間極度の負担を強いられる程に重要な任務。
誓が、ゆっくりと立って、まぶたを上げる。
顔は陶器のように青白く冴え、瞳孔は穿たれたように真っ暗だ。
自分を恥じるかのように、その目は伏せられたままだった。
「申し訳ありません、少尉殿」
誓の肩から力が抜けて、その拳が弛む。
「全てが終わって、過去になったということを認めている自分を、こんな形で突きつけられるのが怖かったのです」
心拍数が上がる。佐久は、目の前が薄暗くなり、何故かひどいめまいを感じた。
「少尉の前でなければ、自分が崩れ落ちてしまうような気がしていた。・・・弱い人間で、人間で、申し訳ありません」
その腕が、足が、身体からボトボトと千切れて落ちてしまうような錯覚を視る。
どこまでも耐えることを自らに課し続けた誓。 表情に差す影は、黒ずんでいた。
「バカじゃねえか」
思わず吐き捨てた佐久は、表情が強ばるのを自覚した。冷たい怒りがこみ上げる。
死者に縋り、しかし生者に頼らずにはいられない不実に腹をたてた。
「来い、誓」
いっそのこと、壊してしまいたい。
そんな考えが、不意に佐久の中に芽生える。そうすれば、何に縋ろうが、何を信じようが、関係なかった。
暗い情熱が吐く息を熱くしていく。
「来いよ」
我々は正義を履行し、としゃべり続けるニュースの中の男の言葉が耳を素通りする。
糸が切れたように立ち尽くす誓の手首を、有らん限りの力で掴んだ。骨の関節に親指の骨が食い込み、血管の膨らみの脈拍が止まる。
――我々は正義を履行し、・・・
その言葉が頭の中で繰り返す。
体を引き寄せ、腕を掴んだ。下らない理論も、虚飾も、握り潰してしまえばいい。
密着した身体に、柔らかい全身の重みが伝わる。
「誓」
耳元で、名前を呼んだ。守谷の「いない」誓の中に、それは滴って浸透していく確信があった。
攻撃。駆逐。占領。海兵隊員の理論と本能が佐久を動かす。
下を向いた誓の顎を掴み、わずかに眉根を寄せたその顔を見据えた。
そして、襟元の、軍曹の階級章を掴む。
指の先に力を込め、それを剥ぎ取った。ブチブチと音が響き、切れた糸が襟元に残る。
「こんなもん、要らないだろ」
「少尉」
階級章の堅い布を握りつぶした。
息の漏れるほうへ、唇を寄せる。

名前を呼んでくれて、ありがとう

その囁きを聞きながら、佐久は階級章を投げ捨てた。

ネタメモ


叔父は誰にも慕われていた。彼の妻子を除いては、だが。

ほの暗いランタンが、整った顔立ちをぼんやりと浮き彫りにする。
薄く緑がかった叔父譲りの日高の瞳に、その灯の琥珀色が灯った。
誓、成田、そして日高。
レーダー・オペレーター、機上整備員、航空管制員と、職種も基地も違う3人の空軍軍人が、西の離島で、ひとつのランタンを囲んでいるさまは奇妙だった。
空軍の迷彩服をバリッと着こなし、いつものように管制官らしい整然とした口調で、日高は彼の叔父の思い出を口にする。
木々の息づくような、西の端の島の夜は潮で重く湿っているのに、日高の口振りはどこまでも涼しかった。
南国情緒の漂う気怠い夜も、日高の肌には触れない。
鼻筋の通った顔立ちと、切れ上がった眦の澄んだ目、そして均整の取れた体格は、この場の3人を結ぶ彼の叔父の血を色濃く反映している。
粗末な折りたたみ椅子に窮屈そうに腰掛け、長い脚を投げ出し、彼はじっとランタンを見つめていた。

守谷少佐は、生涯を通してたくさんの人々の命を救った。
そのことで勲章を受け、最期に彼の命をもってひとりの女を守った。
その功績を理解できなかったのは、彼の妻子だけだ。
守谷の妻は、家を空けることの多い夫をどうしても許すことができず、夫婦仲は冷えかけていた。
病気がちだった娘を度々ひとりで看病していたことがそのことを加速させていた。
娘が高熱を出しても夫はおらず、自然実家に頼ることも多い。
そういう仕事だということは理解していても、娘がぐったりとしているときに夫はいないということが、彼女には堪えた。
日高が、夫婦の間にあるその隙間に気付いたのは中学生になってからだ。
それまでずっと、日高にとって守谷は、純粋に戦闘機乗りの自慢の叔父だった。
義姉に同情気味に、母親がその事実を口にしたとき、日高はなぜか腹を立てた記憶がある。
最初の守谷の記憶は、信じられないほど柔らかい上等なセーターを着て、自分を抱き上げてくれるおじさん、というものだ。
守谷に飛行機の話をせがんでは、いつもそれに聞き入っていた。
記憶の中の守谷は少しずつ白髪が増え、苦労に皺を刻んでいたが、いつだって優しい、父親のような叔父だった。
そして、思えばその頃から日高の母親は守谷に対して良い感情を持っていなかった。
夫に先立たれ、女手で日高を育て上げた母親は、戦闘機パイロットへの憧れを駆り立てる守谷は脅威だったのだろう。
その夫が、ヘリコプターパイロットで、単身赴任中の交通事故により命を落としたとあれば、尚更だった。
航空祭で戦闘機のおもちゃを片手に、ラプターの低空飛行を見上げる幼い日高を見ていた母親の眼差しは、なにか重く含みを持っていた。
日高が中学生になり、当然のように戦闘機パイロットという職業を意識し始めたとき、それは明らかになった。
成績も運動も優秀だった日高は母親を落胆させることはなかったが、それは日高か戦闘機パイロットを志し続けることを意味していた。
「守谷の叔父さんに感化されんのもいい加減にしておきなさいよ。パイロットなんて、あんたの奥さんも子供も寂しい思いをするんだからね」
そう言いながら洗い物をする母親を、今も日高は覚えている。
ひとりで育て上げた息子を手放すことと、並外れて危険なパイロットに志願することに抵抗がないはずがなかった。
結局、パイロットだけはどうしても許してもらえず、懇願を重ねてようやく空軍に入る許可を得た。
その時も、側で何度も頭を下げてくれたのは守谷だった。
「優秀なパイロットになんてならなくていいのよ、ちょっとダメでもまだお母さんの側にいてちょうだい」と顔を背けて言った母親と数時間話し合い、母親を説得してくれた守谷。
その中で一度だけ、隣の部屋から、「佐江さんと敦美ちゃんがあなたから離れてるからって、息子を奪わないでよ!」という母親の声が聞こえた。
話し合いを終えて、店じまい間際の蕎麦屋に日高を連れていってくれたことが、不思議と強く記憶に残っている。
温かい、ダシの効いたツユと、サクサクの海老天。他に誰もいない店内で、黙って肩を並べて蕎麦を啜った。
その時、うつむいている守谷の表情に、初めて影が差しているのが見えた。
短く刈り込んだ髪に増えた白髪は、職責のためだけではなかった。

「頑張れよ」

一言だけ、別れ際に言った守谷の言葉。
今でも、なんの変哲もないその一言が、小石のように心に沈んでいる。

誓は顔を上げて、日高の目を見つめた。手にした缶チューハイはすっかり炭酸が抜けている。空けた缶からは残った気泡がプチプチと弾けていた。
誰もが皆、ここにいないひとりの男の姿を思っている。
それは爆音と共に月を横切る銀色のラプターだったり、上質なニットを着た叔父だったり、冷たい唇をして横たわっている男だったりする。

成田が、穏やかな表情のまま、口を開いた。
「会ってみたかったな、守谷少佐に」
ゴツゴツした細面が、誰かを探して星空を見た。
刺々しい金属片のようなラプターが、砂漠の夜を切り裂いた夜のことを、成田は思い出している。
細身の体躯は、墜落事故の時よりもさらに少し痩せたように見えた。
墜落したブラックホークの5人のうち、生き残ったのは誓と成田だけだ。
体温を容赦なく奪う夜の砂漠で、怪我をした成田はそう長く生きられないはずだった。
ラプターがその運命を変えた。守谷のラプターは敵を排し、生存者の命を救った。
そして、成田と誓は生き延びてヘリコプターに収容された。
「あれほど、ラプターを頼もしいと思ったことはありません」
朴訥とした口調で、成田は呟く。
助かりますよ、と耳元で叫ぶ誓、そして爆音を残して飛ぶラプター、霞む視界。
音も、光景も、鮮明に思い起こすことができる。
そう言って目を細める成田の横顔。ランタンを瞳に灯して俯く日高。
守谷だけが、ここにはいない。

「叔父は英雄でした。その姿は僕たちしか知らないけれど」

病気がちだった守谷の娘は、父親の死によって得た保険金で手術を受け、今は母方の実家で生活している。
守谷がどんな父親だったかは分からないが、彼が娘を救ったことは事実だった。

日高は続ける。論文を読むように、抑揚のない声だった。

最期まで誰かを守り続けた守谷の中には、娘の姿があったことは確かだった。
死の直前、目前で手榴弾を前に立ちすくむ若い女の中に、きっと娘と同じ面影を見たのだろう。
女子供を目の前で死なせては、きっと守谷は生きていくことができなかった。
たとえそれが軍人であっても、自分の娘ではなくとも。

誓の手に持ったチューハイの缶が、ベコッと音を立てて変形した。
prev next