アパートの玄関ホールから出た人間とゲンガーに冷たい風が吹き付ける。っくしゅ、と人間が小さくくしゃみをした。隣を歩いていたゲンガーが見上げて、腰のボールを指差した。
「寒い?」
 首を傾げた人間にゲンガーが横に首を振る。
「戻りたいの?」
 と言う問いには、少し考えてからゲンガーは横に首を振った。
 人間がゲンガーのひんやりとした手を取る。ゲンガーはきゅうっと困った顔をして横に首を振る。
「手、繋ぐの嫌?」
 ゲンガーが横に首を振る。
「じゃあこのままお出かけしよう」
 一層困った顔で首を横に振るゲンガーに、人間は苦笑して手を離した。ゲンガーは人間を見上げて、それから情けない顔で、自分の手を見ながらきゅっと握り締めた。
「夏になって暑くなったら手を繋いでもいい?」
 そっと顔を上げたゲンガーが見たのは、にこにこと笑う人間。
「暑苦しいのがキライじゃなかったらでいいけど。どうかな」
 控えめに頷いたゲンガーが顔を上げると、人間は満面の笑みを浮かべていた。
「私、暑いのは苦手だけど、次の夏がすごく楽しみ」
 歩きながら嬉しそうに告げた人間の顔を見て、ゲンガーはぱっと俯いた。その足がふわりとスキップするように浮かんで、人間は一層嬉しそうに笑った。