キッチンに鍋が3つ並んでいた。1つはガス台に乗せられてガラス蓋を曇らせながらくつくつと温められ、もう一つは火から降ろされて鍋敷きの上でほかほかと暖かそうな湯気を上げている。
 2つの鍋の中身は、黒に近い焦げ茶のスープに小さく切りそろえられた野菜と肉と、それから花の形をした人参。
 最後の1つの鍋は2つしかないコンロのもう片方、揚げ物用の油で7分くらいまで満たされた鍋に、白く小さな球体を人間が一つ落とした。それは一度沈んですぐに浮き上がり、ぱちぱちと音を立てる。

 もちと書かれた袋からざらざらと小さな球体を油の中へ入れた人間は、頭の上から身を乗り出してじぃっと料理が出来ていくのを眺めていたトゲピーを撫でた。
「お餅が揚がったら、お雑煮食べられるからね」
 人間の頭に上手くしがみついているトゲピーは、撫でる手に頭をすり寄せて嬉しそうにぴぃと鳴いた。

「できたよー」
 人間の声に、部屋で寛いでいたリーフィアが期待に目を輝かせ、おぼんを持った人間の足元に付いて回る。
 人間に変身したメタモンがテーブルの隣に背の低いミニテーブルを用意する。縁にスポンジの付けられたそれは、汁物を零しても床に零れないよう配慮されたものだ。
 ホットカーペットで寛いでいたブースターがミニテーブルの前に座る。同じく寛いでいたサンダースが短く鳴くいてリーフィアの尾を引っ張る。ミニテーブルを囲んだ3匹の前にお椀が置かれた。
 リーフィアとサンダースの前には微かに湯気が登るものが、ブースターの前にはほこほことたくさんの湯気が登るお椀だ。

 見比べて首を傾げるトゲピーをメタモンが抱っこしてテーブル前に座る。その前に置かれたお椀は微かに湯気がたつ、どんぶりのように大きなものが1つ。最後の1つ、やはりどんぶりのように大きなお椀は湯気がほかほかと立ち上っていた。

 席に付いた人間の膝にフカマルが座る。皆が座ったところで人間は頂きますと言った。
 それぞれ鳴いて食べ始める。メタモンが人間そっくりの手で小さめのスプーンをトゲピーの口元に運ぶ。
トゲピーはメタモンに食べさせてもらいながらフカマルのお椀をじぃっと見つめていて、不意にテーブルに乗っかると覗きに行ってしまった。

「どうしたの?」
 問いかけながら、人間は具とスープを乗せたレンゲをフカマルの口元に運ぶ。ほかほかのそれを口にしたフカマルはすぐに飲み込んで、丸呑みしないの、よく噛みなさい。と人間に注意された。
 ふかーと生返事をしてフカマルはあーんと次をねだる。トゲピーもあーんと人間にねだった。

 フカマルに一口食べさせた人間は、こっちは熱いしレンゲ大きいから食べにくいよ。と言いながらも少なめにレンゲにすくってふぅふぅと冷ました。それをトゲピーの口元に持って行く。
 案の定レンゲは口に入りきらない。ちょこんと先だけ口にくわえて、トゲピーは一生懸命お雑煮をすすった。

「美味しい?」
 尋ねてきた人間にトゲピーは首を傾げる。自分のお椀とフカマルのお椀の違いがわからなかったのだ。
 人間が笑う。
「中身は一緒、熱さが違うだけよ」

 苦笑したメタモンがトゲピーを抱き上げ席に戻る。が、しばらくしてまたトゲピーは人間の前に言って口を開けた。メタモンが戸惑う。
「いつまでたっても甘えん坊ね」
 苦笑気味に笑った人間は、さっきと同じようにレンゲに少しすくい上げるとトゲピーに食べさせる。困り顔のメタモンに悪いけどそれは食べちゃって、と告げた。
 メタモンはお椀を持って人間の隣に移動し、人間がトゲピーとフカマルに食べさせる隙を伺って人間にスプーンを差し出した。きょとんと呆気にとられた人間だったが、すぐに笑顔になってお雑煮に口をつける。
有り難う、美味しいよ。その言葉にメタモンは嬉しそうににっこり笑った。





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 小さい球体の餅はポケモン兼人間用の商品という設定です。小さいお子さんやご高齢の方が普通の餅を食べにくいように、ポケモンによっちゃ喉に詰まったりしちゃうので、あられとして揚げてからお雑煮に入れております。