実践しつつ知識の確認していきます。


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 ジョバンニ先生の提案で、俺はヒビキと組んで、塾生は眼鏡の女子と組んでのマルチバトルとなった。こんな時ばかり口だすんじゃねーよ、口出すなら場を収めてくれよ。と言いたかったが、周りが盛り上がってしまって拒否できるような状態じゃなかった。いいように流されてるよな、俺。
 使用ポケモンは各1匹づつ、レベルと種族を見せ合うバトル形式。相手は早々に決めてきた。オタチ(Lv11)とポッポ(Lv10)だ。即断というよりは、それぞれ1匹しか持ってないらしかった。
 俺たちはと言えば、まだお互いのポケモンのステータスを確認しあってるところだった。

「クルルは9、ヒノノは13か。火の粉・電光石火・煙幕・体当たりね」

 ヒノアラシのステータスは特攻と素早さが抜きん出ていて、攻撃・防御・特防は普通、HPはちょっと低めだが、まあレベル上がってるからカバーできるはず。

「ワカナは6、体当たり・鳴き声・葉っぱカッターかあ」
「悪いな、上げてなくて。モチヅキ出してもいいけど、遺伝技ばっかだから狡いってだだこねられたら面倒だな」

 禁止はされてないけど、新人トレーナーが持つポケモンとしては破格の技構成となってる。

「レベル10、じたばた、堪える、願い事、欠伸……ってなに?」
「じたばたはHPが減るほど攻撃力があがる技。堪えるはどんな攻撃も必ずHPを1残して耐える。願い事は次のターンに最大HPの半分を回復するんだけど、交代もしくは自分が倒れて次のポケモンが場に出ていたらそのポケモンを回復する。欠伸は使った次のターンに100%相手を眠らせる」
「……なにそれ、強いって言うか……」

 うん、序盤ではチート気味なんだよ。もしくは催眠厨と言うか。特性が逃げ足(野生のポケモンから必ず逃げられる)だから攻撃力はそこまで無いし、素早さが下がる性格補正のせいで先手も取りづらいけど、眠らせたらこっちのもんだからなあ。

「う〜ん、禁止されてはないけど……」
「ワカナで行った方が無難そう、だよな?」

 計ったようなタイミングで、2人同時に相手方を見やる。いかにも優等生です真面目ですといった風で、あまり融通は利きそうにない。ましてまだ子供だ、妥協を知らなさそうというか。なるべく公平な条件じゃないと後が面倒そうだなあ。

「……最初に謝っておく。負けたらめんご」
「ううん、それで良いと思うよ。めんごはどうかと思うけど」

 ヒビキが律儀に突っ込むのと同時に、腰のボールが負けるだなんて失礼なこと言わないでよ! とばかりに揺れた。





「ルールは2対2、どちらかが全滅するまででーす。持ち物は禁止、トレーナーのアイテム使用もいけませーん。――では、始めてくださーい」
「行け、ヒノノ!」
「頼むぜ、ワカナ!」
「行け、オタチ!」
「行ってちょうだい、ポッポ!」

 ヒビキと俺はヒノアラシ(Lv13)とチコリータ(Lv6)、相手の塾生♂はオタチ(Lv11)、塾生♀はポッポ(Lv10)を繰り出した。チコリータ以外はみなレベル10以上だ。風おこし超怖い。

「オタチ、チコリータに電光石火!」
「ポッポに葉っぱカッター!」
「煙幕だ、ヒノノ!」
「そんな相性の悪い技利かないわ! チコリータに風おこしよ、ポッポ!」

 レベルの低いチコリータに攻撃が集中するのは予想通りだ。簡単に落とせる方から落とし、2対1にもってく。この中で一番レベルが高いのはヒノアラシだけど、2体同時に相手にして勝てるかっつーと無理があるだろう。
 ――最初に決まったのはオタチの電光石火だった。技には優先度があり、優先度が高い技は素早さに関係なく先に出すことができるからだ。優先度で勝る電光石火を最大HPの1/5ほど残してチコリータが耐えると、素早さが秀でているヒノアラシの煙幕が相手の視界を奪い、見事風おこしはそらされた。
 助かった! 相手のポッポの特性が千鳥足で良かった! 鋭い目だったら命中率下げられなくて、今ので決まってた。そんなの出落ちもいいところだ。
 こちらの視界は良好なので、チコリータは難なく葉っぱカッターを相手に当てる。一気に1/3ほどポッポの体力が削られた。たぶん急所きたなっ!

「ナイスだワカナ!」

 タイプ一致で急所に当たると技の威力は3倍になる。ただし飛行タイプは草技を半減するので、実質は1.5倍だ。けれども草タイプのチコリータがノーマルタイプの体当たりを出した時の威力は35で、葉っぱカッターはタイプ一致補正と元の威力が高いために41となる。葉っぱカッターの元の威力が55なのを考えると下がってるが、体当たりよりかマシだ。それに急所に当たる確率が通常の1/16じゃなく、葉っぱカッターは1/8なのが美味しい。上手い具合に引き当てたしな!
 煙幕が薄れていく。しかし効果が消えたわけじゃない。相手のポケモンは目をしばたかせている。煙幕ってこういう効果なのか。

「電光石火だヒノノ!」
「オタチ、電光石火!」
「ポッポに葉っぱカッター!」
「っかわして風おこしよっ! ポッポ! きゃあっ」

 優先度が同じ技を出した時は素早さが高い方が優先される。ヒノアラシの電光石火が一番に決まり、ポッポはあえなく倒れてボールに戻された。
 この中でチコリータが一番足が遅く、優先度の高い技も持っていない。だからこのターンでチコリータも落とされるかと半ば諦めつつ、一応は落としやすいポッポへの攻撃を指示していた。けれどオタチはなぜかヒノアラシに電光石火を決めている。なら標的変更だ!

「オタチに当てろ!」

 チコリータの周りに浮いていた葉がオタチに向かう。が、急な目標変更だったせいか、それとも命中率95%の罠か、はたまた一発目に急所引き当てたツケか。なんにせよ外してしまった。くっそー。


「ヒノノ、火の粉!」
「捨て身タックル!」
「なっ、葉っぱカッターだっ」

 遺伝技持ちのオタチかよっ! 余計な気い回しただけだったー!
 俺の後悔とは関係なく火の粉が当たり、オタチのHPが2/3ほどになる。耐えるなー。
 煙幕のおかげで捨て身タックルの命中率は100%から75%に下がっていたが、威力120のそれはヒノアラシに当たってしまった。タイプ一致のおかげで火力はインフレをおこしていて、防御とHPの低いヒノアラシはあえなく倒れた。しかしこの手の技にはリスクがつき物。高い命中率と高威力を両立させる代わりに、反動として相手に与えたダメージの1/3がオタチに跳ね返る。ポケギアを見ればオタチのHPはレッドゾーン、1/3を下回っていた。

「ヒノノ! 戻って!」
「当てろよワカナ!」
「ちぃっこー!」
「よけろっ!」

 反動によろめく僅かな硬直を狙ったかのように、立ち止まったオタチへ葉っぱカッターが決まる。ポケギアに表示されたオタチのHPは綺麗に削りきられた。

「ワカナっ」
「ちこっ」

 勝った勝った! 嬉しくて思わずチコリータに駆け寄る俺の耳にジョバンニ先生の声が聞こえてきた。

「そこまででーす! この勝負、リョウ・ヒビキチームの勝ちでーす!」

 わ、とギャラリーの非塾生側が沸いて、俺とヒビキは取り囲まれた。恥ずかしいぞ。年甲斐もなくはしゃいだとこ見られた。衆人環視の中ってこと一瞬吹っ飛んでたんだよチクショウ顔が熱い!


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