しつこくバトルの解説です。


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 瀕死になった3体はもちろん傷付いたチコリータを回復するためにポケモンセンターへ向かったのは、塾を手伝っていると言う青年だった。おかげで俺たちは興奮覚めやらぬ非塾生に囲まれていた。
 って言うか囲まれて抜け出せない雰囲気だったから青年がパシりを買って出てくれたんだけど、余計なお世話だよ。居心地わりぃよ。


「知識の強さ、見せてくれるんじゃなかったっけー?」

 からかう調子で告げられた短パン小僧の言葉に、塾生♂♀コンビは顔を赤らめた。

「お前、何もしてないだろ」

 非塾生のキャンプボーイらしき少年がたしなめる。もっと言ってやってくれ。

「短気起こすなよ。知識の強さなら俺が見せただろ」
「は?」
「なあ、なんで俺が飛行タイプのポッポ相手に、効果が半減される葉っぱカッター出したかわかるか?」
「え、それはぁ……」
「体当たりより葉っぱカッターのが強いからですよね?」

 年長らしい塾生の1人が口を挟んできた。その通りだったので頷くと、塾生が説明を続ける。

「まず技には数値化された威力があります。パーセンテージで表されるので、技の威力が50だったら50%だと言う意味だと思ってください。なおこの数値は、攻撃力とイコールではありません。技を使うポケモンの攻撃力と技の威力、相手の防御力を計算した数値が、最終的な攻撃の威力になります。ここまではいいですね?」

 塾生は頷いたけど、非塾生はぽかんとしてるのが大半だ。まーいきなり威力とか計算とか言われてもわかんないよなあ。

「今から話す話は、おおよその攻撃力の話だから、なんとなくわかればいいよ。わからないなら説明入れるから。で、いいよな?」
「はい、助かります。僕はどうも噛み砕いて説明するのが得意ではないので」

 頭いいやつってそうなりがちだよな。難しい話でも難なく理解できるってのは、分かりやすく説明してもらう必要がないってことだから、どうも説明ベタになりがちだ。

「おおよその話だと思って聞いてください。体当たりの威力は35、葉っぱカッターの威力は55とされています。しかしチコリータは草タイプなので、体当たりは35のままですが葉っぱカッターは1.5倍され、おおよそ82の威力になります。先ほどの相手は飛行タイプのポッポなので威力が半減されますが、82の半分は41ですから、体当たりより葉っぱカッターの方がダメージを与えられます」
「わかったか? つまり、タイプ一致補正のおかげで、体当たりより葉っぱカッターの方が威力があるって話だ」

 まとめると一言で済むんだけど、答えだけ知っててもトレーナーとして成長はしないからな。簡単な説明は必要だろ。

「じゃあ苦手なタイプでもタイプ一致技出せばいいんだ」
「それは違う。葉っぱカッターと体当たりでは元々威力が段違いだからそうなるんだ。そうだな……例えば同じ威力のタイプ一致技とタイプ不一致技なら、タイプ一致だけど半減される技より、タイプ不一致でも半減されない技の方が威力がある」
「タイプ一致は1.5倍だけど苦手タイプじゃ半減されるから、本来の75%しか威力が出ないんだ。だから100%の威力を出せるタイプ不一致の方がいいんだよ」

 俺と他の塾生がフォローをいれると非塾生は理解できたようだった。

「さらに言うなら、葉っぱカッターは急所に入る確率が高い。普通は16回に1回とされてるけど、葉っぱカッターは8回に1回だ。絶対じゃないけど、勝率も少しは上がる」

 運頼みばかりは良くないけど、でもギャンブルみたいな運任せのバトルはロマンもある。命中率30の一撃必殺技が当たると楽しいんだよなー。どんな技が出るかわからない指を振るとかも楽しい。運ゲもたまにはいいもんだ。

「君は見事に引き当ててましたね」
「頑張ってくれたのはワカナだけどね」

 ゲームで急所にあたるのは、確率でありソフトが計算するものだった。でもこの世界では違うような気がする。例えば今回、急に目標を変えた後に葉っぱカッターを外したが、オタチが攻撃あとに隙を見せた時は当てた。そういうタイミングみたいなのも大事なんじゃないかな。調べてみようか。
 静かにしていたヒビキが顔を引きつらせ気味に言った。

「バトル中にそんなこと考えてたの!?」
「へ? いやいや、違う違う。事前に知ってたの。ワカナの技の威力とか、苦手タイプへのダメージの通り具合は把握してるんだよ」

 ゲームでも対人戦をする時に計算なんかしてる暇はない。だから苦手タイプなどで仮想敵を作り、自分の手持ちの技と効果と威力は把握しておくのは大事だ。
 まー想像通りになることなんかまずないけどな! 急所はランダムだし、技の威力も1回出すごとに微妙に上下する。要素はまだまだたくさんあるんだから。

「やはり実践は大事ですね。僕もあなたたちと手合わせしたくなりました。良かったらバトルしませんか?」
「俺はとりあえずワカナが戻ってから考えるよ」
「僕もパスー」
「では、今日は交流と言うことで、皆さんバトルしてみる、というのはどうでーす」

 塾生もトレーナー、ポケモンバトルが好きだ。実践を躊躇するやつなんか居るはずもなく、あっと言う間にそこここで路上バトルが展開され、声援と歓声が上がる。

「うー、うずうずする」
「ヒビキもバトル好きだなあ」
「当たり前だよ。だって楽しいでしょ?」

 ゲームでも十分楽しかったけど、実際はもっと手に汗握る。テレビ越しに格闘技を見るのと会場で観戦するみたいに、全然違うことだと思う。

「そうだな。応援行こうか?」
「うん!」

 肩にポッポを止まらせたヒビキと並んで近くのバトルに声援を送る。勝手にボールから出たイーブイも楽しげに歓声を上げた。さっきの塾生も短パン小僧も、みんな険悪さなんて忘れて応援をしている。昨日の敵は今日の友ってか。

「ね、僕らもバトルしようか」
「あっ! バトルで思い出した。俺、ヒビキくんに賞金渡し忘れてたんだよ!」
「え、そうだっけ?」

 ヒビキも忘れてたのは予想外でした。


次話 カルチャーショック、ホウエン
前話 閑話 実践





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ひたすら解説が続いてすみません。お疲れ様でした!





追記
 こういう機械的な話は読み物として浮いてしまう、とご指摘頂いてもっともだと感じたので、作者から説明(というか意図というか言い訳)を入れさせて頂きますね。端的に言うと、ステータスの話は必要だと思ったので入れました。以上!


 ここから下は語りになってしまうので、詳しい理由を知りたい方だけどうぞ。


 作者側の思惑なのですが、折角ゲームの二次創作でじっくり書ける長編なのだから、機械的なシステムも取り入れよう、と決めていました。バトルもがっつりターン制を導入です。
 逆に言うと、生き生きとしたポケモンを描くだけなら、アニメやポケモンレンジャー・不思議のダンジョンの二次創作、整合性を考えないポケモンと暮らす日々みたいな短編の方が適している気がします。(とは言いましたが、これは自分が書く時に限ります。他の方の著作は設定があーだこーだ考えずに、作者さんが物語を通して何を表現したいか、気になる描写はなんの伏線か、と言う点に重きを置いて拝読しておりますので。また、自分の解釈に拘わるのも作中だけです。ポケモンは矛盾にも思える想像の余地が多くあり、いくらでも想像を膨らませる事が出来るのも魅力の一つだと思っております。ですので他の方のポケモンの世界観や、設定の解釈の仕方などを拝見するのも大好きです)

 それから、妙に機械的な話はモンスターボールの独自(と言っていいのかな)設定に関わってきます。
 拙作でのモンスターボールは、ポケモンがダメージを受けると縮む、その縮む際にいったんデータ化されるという性質を利用してボールにポケモンを拘束します。
 本来の大きさ→ダメージでピンチ→それ以上のダメージを避けるために隠れようとする(小さくなろうとする)→一旦データになる(この状態は無防備で外からの干渉を受け易く、逆に自分から外部に干渉する力はあまり無い)→圧縮される→縮んで実体化(小さい状態だがある程度まわりに干渉できる)という過程を経ています。とても電子でシステマチックで、でも生き物。人間とは全然違う生き物です。
 で、捕獲の時はボールが外部から働きかけて、縮むと言う本能を刺激し、データ化させ、それをボールが解析し、データをボールに書き込む事でボールに閉じ込めます。この時に種族やなんやが解析され、性格や個体値なども判明します。
 さらにボール越しにそのデータに干渉することで実体にも影響を及ぼすという設定です。デジモンちっくですね。

 これはポケモンセンターで一瞬で回復することや、初代でマサキがポケモンと混じったことからこういう設定にしました。怪我を治すというよりはデータの修復をするイメージです。が、やはりポケモンは生き物なので、死んだものを蘇らせたりはできません。干渉できる範囲はあまり広くありません。不思議な生き物です。
 この物体をデータとして圧縮する技術は広く応用され、パソコンに道具を預けることが出来たり、短距離ならば人間もワープできたり、自転車や何百個もの道具をしまうことのできる四次元鞄が売られているわけです。

 こういった設定はちょいちょい本編へ関わってきますが、その時に詳しい説明はしないと思います。ですのでこのような形で掲載させて頂きました。もしその時に疑問を感じれば、閑話を読み直して頂いて、ポケモンは生き物であると同時にシステム的な部分を持っていて、研究者などの人間はその事に気づいて利用している、と言う、その辺のご理解を得ようと、そういう魂胆でございます。
 説明を先行させましたのは、モンスターボールの話は研究者のウツギ博士、ステータスの話は塾が適当かな、これからジム戦もあるし……と思ったからだったのですが、現時点では無意味に思えますよね。筆力不足です。すみませんでした。

 一人称で時系列順に進めると決めておりますので、これからも無意味に思われる話もあると思います。ですから分からない事がありましたら遠慮なくお尋ねください。私からご説明させて頂くか、作中でフォローを入れさせて頂きます。ただ、今後の展開に関わる事もあると思うので、ぼかすあまりに上手く説明できない事もあると思います。その点、ご了承いただけますよう、お願い申し上げます。

 長々とすみませんでした。こんなところまでお読み下さって有り難うございました!