お医者様コンビのSSです。
絶賛量産中ですネタあれば書きます(勉強しようぜ)
*attention*
・お医者様コンビのSSです
・シリアスのち甘め。
・イジメネタ?(ぇ)
・ジェイドが矢を乱射するのは本気で怒ったとき
でも狙いは外さない。怖い
・書きながらあの二人を殴りたくなりました(ぇ)
・タイトルはあの二人に対する言葉なのかも
・メンゲレさんうちの騎士たちがごめんなさい
・ナハトさん、本当にすみませんでした
以上がOKという方は追記からどうぞー!
メンゲレが薬草庫に薬草を取りに行った帰りのことだった。
通りかかった廊下で聞こえた声に、自分の名前が入っていた気がして、
思わず足を止めたのだ。
誰が、何処で話しているのかはわからない。
しかし、声は案外はっきり聞こえてきた。
盗み聞きする気はなかった。
しかし、耳に入ってきた会話に、足が釘づけになったように立ち止まってしまって。
「あの人、元々違う国の騎士団の人だろ?
何で草鹿に来たんだろうな?」
「さぁな。俺たちには関係ないことだし、知らねぇよ」
一人がそっけなく言う。
その声に納得いかないのか"まぁそうだけどさぁ"と一人が言葉を続けた。
「そもそも、捕虜だったんだろ?
それなのにこの騎士団に移籍して、挙句にジェイド様のお気に入りだぜ?
なんつーかさぁ……変だよな。
よくもまぁ、普通に受け入れたよなって俺は思う」
「あぁ、まぁ……それは思うな。
天使の魔力を持ってるだかなんだか知らないけどな……
ジェイド様含めてお人好しだから忘れてっかもしれねぇけど……
俺は、彼奴の戦闘スタイル忘れてねぇよ。
あんなおっかない戦い方、絶対できない」
その言葉に、思わず凍りついた。
恐らく、彼らが言っているのは、
メンゲレが"敵として"この国に来ていたころの話だろう。
確かに、以前は……残忍としか言い様のない戦い方をしていた。
動きを封じ、退路を断って、追い詰めていく……
"死の天使"としての、戦い方。
おそらく彼らは、メンゲレのそういう戦い方を見ていたのだろう。
その戦い方に恐怖を、嫌悪を覚えるのは当然で。
―― わかりきって、いた事だ。
落ち着け、落ち着け、と自分に必死に言い聞かせようとしても、
暫く足の震えは止まらなかった。
***
「すみません、遅くなってしまって。
途中でひとつ取り忘れていたのに気づいて……」
メンゲレはどうにか、気持ちを落ち着けてジェイドの部屋に戻った。
遅くなった理由は、戻ってくる途中で考えたもの。
回転椅子を回して自分の方を見るジェイド。
一瞬顔がこわばりそうだったが、耐える。
「すみません、メンゲレ。ありがとうございます」
ジェイドは微笑んで、メンゲレの手から薬草を受け取った。
「あ……っ」
手が滑って、いくつか瓶が落ちた。
カーペットの上だったからかわれず済んでメンゲレはホッとする。
どうやらかなりぼんやりしていたらしい。
さっきの"彼ら"の言葉が、相当堪えているようだ。
「メンゲレ?どうかしましたか」
「え?あ、いえ……何でもないんです」
にこり、と笑みを向ける彼だが、どうにも元気がない。
ジェイドは少し眉を下げて、メンゲレの額に触れた。
冷たい手に、少し首をすくめる。
「熱はないようですが……
体調が優れないのなら、ちゃんと言ってくださいね」
ぽん、と一度軽く頭に手を乗せられる。
"今日はもう休みなさい"と、ジェイドは言う。
穏やかな声は、頭を撫でる手は大きく、優しく。
一瞬、視界がぼやけた。
―― 心配は、かけられない……
そう、思った。
これはあくまでも自分の問題。
子供じゃあるまいし、言われていることの一部は強ち間違いではない。
この部隊にあまりにあっさり受け入れられたために忘れかけていたが、
元々……"彼ら"のような反応をする方が普通なのだ。
一度付いたイメージは、殊更負のイメージは……簡単には、消せない。
仕方がないことだ。諦めて、耐えるしかない。
自分が植え付けた"彼ら"への不信が消える時まで……
いつも自分を心配してくれる彼に、いらない心配をかけたくはない。
そう思って、メンゲレは笑みを浮かべ、"おやすみなさい"と返した。
***
あの時から、メンゲレは周りの声に酷く敏感になっていた。
あれは偶然聞いたことだったかもしれない。
この騎士団の騎士は皆揃ってかなり人がいい。
皆が皆、"彼ら"のような思いを持っているとは思いにくい。
思いたくないという思いもあったけれど……
それでも……"彼ら"の言葉が頭から消えなくて。
どうにも気になってしまっていた。
ふとした時にも、それを思い出してしまい、表情が陰っていたようで、
同僚であり、精神共鳴(マインド・シンパシィ)の力を持つアルには、
何度も「どうかしたんですか?」と訊かれた。
その度に何でもないと返すのは心苦しかったが、
本当のことを話して下手に心配をさせるほうがもっと辛い。
そんな思いのまま、しばらく過ごしていた……
ある日のこと。
「街に、ですか?」
「えぇ。買い出しに行きたくて……ついて来てくれませんか?」
にこり、と笑みを見せるジェイドをキョトンとして見つめ返すメンゲレ。
彼が買い出しに行くのは、決して珍しいことではない。
しかし、いつもその時は一人で黙っていってしまうのだ。
一緒に来てくれないか、と自分から誘ってきたことは……ない。
暫くメンゲレが黙っていたためか、ジェイドは少し焦った顔をした。
「あ、用事があるのなら、いいのですが」
「い、いえ、ないですよ。僕でよければ、お手伝いさせてください」
ぶんぶん、と首を振るメンゲレをみて、ジェイドはくすりと笑う。
「そうですか。ありがとうございます。行きましょう?」
ジェイドはそう言って歩き出す。
部屋を出るとき、一度強く手を握られた。
「迷子に、ならないでくださいね?」
冗談っぽい口調。
メンゲレは小さく苦笑して、"わかっていますよ"と返答した。
***
二人で外に出かけるのは久しぶりだった。
活気づいた街を見るのも、久しぶりで。
少しだけ、沈んでいた気持ちが晴れた気がした。
「メンゲレ。何処かいきたいところとかあります?」
「へ?」
"買い出しに来たのでは?"と首をかしげるメンゲレを見て、
ジェイドは小さく笑った。
「ごめんなさい。ちょっと嘘ついたんです」
「え?」
「ただ、貴方と出かけたかっただけなのですよ。
素直に誘うのが、少々照れくさくてですね」
冗談っぽく言って、ジェイドはメンゲレから顔を背ける。
おそらく……彼なりに、気を使ったのだろう。
メンゲレが最近、元気がないことには気づいていたから……
「……ありがとうございます、ジェイドさん」
小さく礼を言うとジェイドは首を振る。
どうやら照れているようで、
"行きましょうか"と言って早足に歩き出す彼を追いかけようとしたとき。
強い力で腕を引かれた。
人の多い町では、すぐに姿がみえなくなる。
メンゲレは腕を引かれるままにある場所に連れて行かれた。
見知らぬ人間に手を引かれていったのは、路地裏。
「な、なんですか……こんなところに、連れてきて」
メンゲレは自分を引っ張ってきた相手を見て、訊ねる。
人攫いと呼ばれる人間だったら、どれだけましだっただろう。
それを追い返すなり捕らえるなりの術は、メンゲレも知っている。
しかし、彼を引っ張ってきたのは見慣れた、白い騎士服の騎士たちだった。
ただし、彼が所属する草鹿の騎士ではない。
ともあれ、同じ騎士団の騎士だ。攻撃などできない。
そもそも、自分をこんなところに連れてきた理由もわからなかった。
「アンタの目的が聞きたくてね。
任務帰りに偶然ジェイド様と一緒のあんたを見かけたもんだから、
ちょっと話を聞こうと思ったんだよ」
少年の一方の声は、以前メンゲレが聞いた声と同じだった。
おそらく……以前、メンゲレの戦闘スタイルについて話していた"彼ら"だろう。
「何のためにこの騎士団に来たんだよ。
アンタは、元々この国の騎士じゃないだろう?
なのに、何でジェイド様といっつも一緒にいるんだよ。
目的はなんだよ?なんか企んでるなら、ただじゃおかねぇ」
言っていることは子供のようだが、苛立ちを含む、威圧的な声。
立て続けに問われ、メンゲレは唇を噛む。
この騎士団に来た理由。
それは捕虜として此処にいた時に見た騎士たちに憧れたからだ。
もともと所属していた騎士団を離れてでも、彼らのような騎士になりたいと、
そう思って……移籍した。
ジェイドと一緒にいるのは……
彼が、それを望んでくれるから。そして、自分もそれを望むから。
しかし、それを言うわけにはいかない。
「なんで黙ってるんだよ!」
一人が苛立ちで声を荒げた、その刹那。
ひゅんひゅんっと音を立てて、何かが地面に突き刺さった。
銀色のそれは、的確に二人の足元を射抜いている。
幾本も乱雑に放たれたように見えるのに、
メンゲレの足元には一本の矢も刺さっていない。
彼を此処に引きずってきた彼らの足元にだけ、集中的に矢が刺さっていた。
「な……矢?!」
騎士団で、矢を扱う人間……それは、一人しかいないわけで。
メンゲレは大きく目を見開いた。
「まったく……仲間相手に武器を向けるのは好きじゃないんですよ。
しかも、今日は本来オフですしね……」
聞こえたのは、もちろん彼の声。
"彼ら"がまずいよ、と呟いたのが見えた。
メンゲレは弓を下ろさないまま、彼らにいう。
「悪趣味だとは思いませんか。
他部隊の部隊長と、その同僚の出掛け先に尾行とは……
貴方方は炎豹の騎士でしょう?
見たところ、任務帰りのようですが……
何故此処に?そして、僕に……否、メンゲレに何か用事でも?」
きらり、とジェイドの翡翠の瞳が光る。
強い光を灯した彼の瞳。
メンゲレと同年代であろう少年たちは完全に萎縮していた。
「……早いうちに気づかなかった僕も僕ですが、貴方がたも貴方がたです。
戦闘部隊の騎士として、それ以前に人間として……恥ずべきことだと理解なさい。
彼に、魔術で、医術で勝てるというのなら、
メンゲレに勝負を挑むなり彼の移籍を認めた僕に抗議するなりすればいい。
こんな卑怯な手でメンゲレを傷つけることは、
いくら同騎士団の仲間とはいえ、僕が許しはしませんよ」
わかったらさっさと帰りなさい、と冷たく言い放つジェイド。
いつも穏やかな物言いの彼だから、こういう時の迫力は並大抵ではない。
ジェイドに一礼してから二人は逃げるように去っていった。
その背を暫く睨んでいたジェイドだが、やがて小さく息を吐いた。
「……困ったものですね。騎士団内にも、ああいう子がいるんですよ。
あとから、アレクに叱ってくれるよう言っておかなければ……」
彼の口ぶりから判断するに、さっきのふたりは炎豹の騎士らしい。
正々堂々の戦い方を好む彼らにとって、
以前のメンゲレの戦闘スタイルが気に入らないのは納得がいった。
「メンゲレ、大丈夫ですか?乱暴なことはされていませんね?」
確かめるようにメンゲレの顔を覗き込みながらジェイドは問う。
メンゲレは小さく首を振ってから、うつむいた。
ジェイドはその頭を撫でて、いう。
「あの子達に、前に何か言われたことがあるのですか?」
「…………」
「沈黙は肯定ですよ、メンゲレ」
ジェイドの言葉に観念したように、メンゲレは呟くように答えた。
「直接、ではありませんが……」
「なるほど。それで貴方の元気がなかったのですね……
もっと早く気づいてあげられなくて、ごめんなさい」
謝りながらジェイドはメンゲレの頭を撫でる。
そして、穏やかに微笑んでいった。
「さっき、僕が言ったとおりです。
確かに、彼らのような意見を持つ人間はいるかもしれない。
……でも、どうかこれだけは信じてください。
僕含め、騎士団の殆どの人間は貴方のことを認めている。
貴方が本当は心優しく、強い騎士なのだということを知っているんです。
何度も共に戦った。何度も助けてもらった。
貴方を、かけがえのない仲間だと思っているんです。
だからこそ、此処に……この騎士団にいてほしいと、願っている。
あんなことを言われて落ち込むな、とは言いません。
でもどうか、一人で抱え込むのはやめてくださいね。
迷惑だなんて絶対に思いませんから、ちゃんと話してください。
ちゃんと、僕が支えますから……」
"約束ですよ?"と言いながら、
ジェイドはメンゲレの小指に自分のそれを絡ませる。
思いのほか子供っぽい彼の行動に少し驚きつつも、
彼の浮かべる表情が、純粋に嬉しくて。
"いきましょうか"と差し出された手を一度、強く握り返した。
―― Let bygones be bygones ――
(貴方を傷つける人間は仲間であっても許さない。
貴方が彼らの言葉で傷つくのなら
"貴方は貴方だから"と何度でもいいます)
2013-1-13 20:04