お医者様コンビのSSです。
Twitterの会話から派生したネタで…
複数翼は素敵だよな、という話です(意味がわからないよ)
*attention*
・お医者様コンビSSです
・シリアスです。シリアス?ダーク?うむむ…
・魔獣相手になったのは私の文才故。人間相手にする勇気はなかった(おい)
・完全魔力開放verのメンゲレさんの素敵なイラストに触発された結果
・すごい中途半端なところで終わらせてしまった…
このあとどうなるのかな、と思いつつ長くなりそうだし切らざるを得なくて(ぇ)
・ともあれ残念クオリティ
・ナハトさん勝手に済みませんでした…!
以上がOKという方は追記からどうぞー!
―― その日、ディアロ城は魔獣たちに囲まれていた。
誰が、何のために送り込んだものなのかもわからない。
様々な種類の魔力を持った魔獣たちに騎士たちは悪戦苦闘していた。
そして此処は、城内……
中にまで魔獣が侵入することが少ないはずなのに、
どういうわけか障壁も破られ、多くの魔獣が侵入していた。
「数が、多いですね……」
矢を放ちつつ、ジェイドは小さく呟いた。
外で戦う仲間を思って、心配そうな顔をする。
―― 此方は、僕に任せてください。
そう言って微笑んでいた、黒髪の天使を思う。
実質的に、自分のパートナーであり、補佐的存在になっている彼。
彼の力は、強さは、充分よく知っている。
それでも、少し不安で……
「メンゲレ……」
彼の名を呟いたその刹那……城が、大きく揺れた。
真っ白い光が辺りを包み、思わず目を閉じる。
目を開けて、あたりを見渡して唖然とした。
周りにいた魔獣たちは、殆ど全てが力を失い、地面に転がっている。
しかし、強い強い白い魔力は止まらない。
強すぎる魔力に当てられて、丈夫な城壁が鋭い音を立てた。
パラパラっと砕けた石の欠片が落ちてくる。
「っ!ヒトラー!」
傍で戦っていた悪魔の魔力を持つ彼に、ジェイドは声をかけた。
案の定、対立魔力の溢れる空間にさらされた彼は苦しげに表情を歪めている。
「アドルフ!大丈夫?!」
傍にいたクビツェクが、ヒトラーを庇うように抱き寄せた。
"堕天使"の魔力を有する彼は、ヒトラーほどダメージを受けていない。
弱めにでも障壁を張っているのか、少しほっとしたようにヒトラーが息を吐く。
そのまま、魔力を感じる方に頭を向けて、彼は眉を下げた。
「なんで……」
小さく呟く。
何で。どうして……?
それが、その場にいた皆の思いだっただろう。
感じる魔力が魔獣のそれであれば。
或いは、敵のそれであれば……驚きはしなかっただろう。
しかし、感じる魔力は"味方"のもの。
ジェイドにとっては……大切な、天使のそれ……。
ただ、いつものような優しい魔力ではなく、
強く、残酷で……冷たい、魔力だった。
暴走したのだろう、と……推測、出来てしまった。
「……二人共、此処にいてください」
ジェイドは立ち上がり、ヒトラーたちに言う。
ヒトラーは目を見開き、首を振った。
「一人で行くつもりか?危険だ……私も一緒に……」
ジェイドは特殊魔力の持ち主ではない。
魔力の影響を強く受けることはないが、
もともとの魔力が違うのだから、長時間特殊魔力にさらされるのは危険だ。
それに、何故彼が……
メンゲレが、こんな強さの魔力を放出しているのかもわからない。
もしかしたら、仲間を敵とみなし攻撃するかもしれない。
そんなところに一人で行くのは危険だと、ヒトラーは言う。
ジェイドは振り向いて、小さく首を振った。
「貴方が来ても、危険なだけでしょう。
クビツェクがいれば、ダメージは軽減できるかもしれない。
しかし、これだけ離れているのにこの強さの魔力……
近くまで行ったら、貴方の命も危ない。
僕としても、きっと……"彼"にしても、仲間を傷つけるのは嫌なのです。
だから……僕ひとりで、行ってきます」
振り向いて、にこりと微笑む。
そして、城の外に向かって駆け出した。
落ちてくる瓦礫の欠片を避けながら、彼の魔力を感じる方に走る。
「ジェイド様ッ」
強い声で、名を呼ばれた。同時に抱きついてくる、小さな影。
幼く、高い声。よく知った、白髪の部下の声だった。
「アル?どうしたのですか?」
「ジェイド様、ジェイド様……っ!
メンゲレさんを、止めてください……!
あのままでは、あの人のチカラで……この城も、街も……」
震える声で彼は言う。
"彼を止めて"と。
ジェイドは表情を歪めて、つぶやくように言う。
「やはりこれは……メンゲレの魔力、なのですね」
「はい……」
「どうして、こうなったか貴方は知っていますか」
アルはジェイドを見て、手短に説明した。
きっかけは、傷つけられた、草鹿の騎士たち。
幼い幼い騎士たちも、力の弱い仲間も、容赦なく襲われ。
メンゲレは、それに怒ったのだという。
怒った彼が開放したのは、彼が持っている天使の魔力。
しかし、いつもと様子が違っていたのだという。
雰囲気も、戦い方も。いつもと、違っていて……
「まるで……まるで、昔のメンゲレさんみたいで……」
その様子を思い出してかアルの黄色の瞳が涙で潤む。
ジェイドはそんな彼の頭に手を置いてから、小さく微笑む。
「事情はわかりました。……ほかのみんなは?」
「外にいた仲間は、中に避難させました。
あのままじゃ……メンゲレさんの魔力に当てられてしまう」
―― 仲間を傷つけることを、あの人もきっと望んでないから。
アルはそう言って、うつむく。
「そうですか。ならば、大丈夫ですね」
アルの頭を撫でると、ジェイドはすっと彼の魔力を感じる方を見た。
少し不安そうな顔をして、アルは上司をみる。
「ジェイド様……行く、んですよね」
「えぇ。僕が、彼の傍を離れるべきではなかったのです……
彼の優しさは、よく知っていたのに……」
―― 怒り故に枷が外れてしまえば、魔力が暴走することも知っていたのに。
少し後悔するようにいって、ジェイドは一瞬目を伏せる。
しかし、直ぐにこれではいけない、というように頭を振って、走り出した。
走って、走って、彼のもとへ。
すれ違う人間に止められようとも聞かず。
「メンゲレ!」
たどり着いたのは、城の中庭。
あたりにほかの騎士たちの姿はない。
皆、アルが避難させたのだろう。
そこに彼はいた。
彼の姿を見て、ジェイドは目を見開く。
見知った彼の、姿ではなかった。
真っ白な、四枚の翼。
彼が浮かべる笑みは穏やかで、冷たく。
危うい美しさを纏った彼は彼の魔力で崩れた瓦礫の上に浮いたまま、
地面に倒れふしている魔獣に手を向けて、魔力を放つ。
それが当たると一瞬で、魔獣の姿が霧散する。
メンゲレはそれを見つめたまま、小さく溜息をついた。
―― ツマラナイ。
わずかに笑って、小さく言葉を紡いだ。
いとも簡単に消える、魔獣の命も。
崩れていく城壁も。
強大な、天使の魔力の前では無力なもの。
それがつまらない、と彼は言うのだ。
風が吹いて、彼の白衣を揺らす。
その裾は、血と泥で汚れていた。
戦いの最中に、付いたものだろう。
その残酷な光景に、一瞬、背筋が凍る思いがした。
「メンゲレ……!」
―― やはり、手を離すべきではなかった……!
ジェイドは、思う。
彼が"平気"だといっても、手を離すべきではなかった。
そう思いながら、目を閉じる。
***
思い返すは、騒動の始まり。
最初は、二人で一緒にいた。ともに、外で戦っていたのだ。
襲ってくる魔獣たち。力の弱いものも強いものもいる。
魔力で、武器で、戦い抜く二人。
「……ジェイドさん」
「なんですか、メンゲレ?」
自分たちを、仲間たちを襲う、強い力を持った魔獣に応戦しつつ、
メンゲレはジェイドに声をかけた。
「ジェイドさんは、中に戻ってください」
「?!何を……」
「なかにも仲間はいるでしょう?
医療部隊、防御部隊がいなければ、危険です」
冷静な判断ではあった。
戸外講義の途中だったために草鹿の騎士は皆外にいたはず。
中にいる騎士たちは防御の薄い状態のまま戦っていることだろう。
しかし、ジェイドはすぐには頷けなくて。
―― 何故だろう。
直感的に、離れてはいけないと。
そう感じて、ジェイドは戸惑った表情を見せた。
メンゲレはそんな統率官の表情を見て、言う。
「ジェイドさん、大丈夫です。僕が、皆を守ってみせますから」
にこり、と。
穏やかで頼もしい表情を見せた。
優しく、強く、暖かな天使の笑みを。
ジェイドはそれを見て、小さく頷いて……一度、彼の手を握った。
「……頼みましたよ」
「えぇ。ジェイドさんも、気をつけて」
笑みを交わしあったあと、解ける、指。
残ったぬくもりが消えていくのを感じながら、
ジェイドは室内の仲間の援護に向かったのだ。
***
―― もし、彼がこうなることを……暴走することを知っていたら。
何が起きてもこの場に留まり、彼を止めただろう。
そう思って、ジェイドは唇を噛み締める。
「メンゲレッ!」
もう一度、強い声で名を呼ぶ。
今度は気づいて、視線をジェイドに向けた。
「もうおやめなさい!貴方が倒すべき対象は、もういない……
そのまま魔力を放ち続けても、仲間を傷つけるだけです……!」
ジェイドの声は届いているのか、否か……
小さく首をかしげて、微笑むメンゲレ。
四枚の翼を小さく羽ばたかせて、地面に降りる彼。
ひらり、舞った白い羽は美しく。
その刹那、幾本かのメスがジェイドの横を飛ぶ。
かろうじて避けたが、メンゲレは立て続けにメスを放つ。
「メンゲレ!僕ですよ、何故攻撃を……っ?!」
駆け寄ろうとしたジェイドは、
足元にあった何かに引っかかってその場に倒れこんだ。
―― 蜘蛛(シュピンネ)の糸。
たしか、彼はそう呼んでいた。
よくよく見れば、木や瓦礫に渡る、幾本かの白い糸。
この場にいた魔獣たちもきっと、そうして捕らえた末に倒していたのだろう。
逃げ場を失い、それこそ蜘蛛の巣にかかった虫のようになった魔獣を。
彼らしくない……残忍な、攻撃方法。
この国に、この部隊に移籍してきてからは封印していたはずの、戦い方。
人間相手でなかったのが、せめてもの救いか。
しかし、このままほうっておいたら間違いなく……
彼は、人を殺めてしまう。
体を起こしかけたジェイドの前に、ふわりと降り立つ天使。
ジェイドを見て、くすくすと小さな笑みをこぼした。
白い翼が羽ばたいて、小さな風が起きる。
転んだままのジェイドの緑髪を揺らした。
冷たい瞳は、明らかに……ジェイドを"敵"とみなしていて。
……否、敵も味方も、判断してなどいないのだろう。
視界に入るもの全てを捕らえ、破壊する、残酷な天使。
それが今の、"彼"だった。
ジェイドの傍に降り立ち、手を伸ばしたメンゲレ。
その瞬間、ジェイドは得意の植物魔術で彼の腕を捕らえた。
―― 離さない。
そういう彼の意志の表れのように、強く。
「っ!」
動きを封じられ、一瞬表情を歪めたメンゲレはジェイドに魔力を向けた。
障壁を張っても、防ぎ切ることはできずいくらか当たる天使の魔力。
それに少しダメージを受けつつ、立ち上がったジェイドはメンゲレを見据える。
冷たい、深緑の瞳。
メンゲレはジェイドを見つめたまま、静かな声で言った。
「……離してください」
「出来ません」
きっぱりとしたジェイドの物言いに、メンゲレはすっと目を細める。
より冷たい声で、"離せ、と言っているのです"というがジェイドは首を振る。
「離しません。貴方が、その魔力を収めるまで……貴方が、"貴方"に戻るまで」
魔力による蔦はとっくに霧散していた。
代わりに、ジェイドは自身の手でメンゲレの腕をきつく掴んでいた。
「冷酷残忍な死の天使……?冗談はやめてください。
僕が知る貴方は、優しく、暖かな天使……
守るために、救うために、その力を使うと貴方はいった。
仲間を傷つけて、すべてを破壊し……
自分がそれをしたのだと、知って苦しむのは……貴方、でしょう?
貴方は、少し弱虫なくらいでいい……
泣き虫なくらいで、いいんです……
僕が、貴方を支え、守りますから……」
―― "僕が守ってみせる"
メンゲレのその言葉は頼もしく、勇ましかった。
だから、ジェイドは彼の手を離した。
優しさ故の強さが、こんな方向に向かってしまうこと。
それがわかっていたならば、絶対にその手を離しはしなかった。
きつく、唇をかんで……ジェイドは言う。
「守りたいと、そう願った末に……
傷つけて、どうするんですかメンゲレ……っ!」
―― 強すぎる力で、仲間を傷つけては意味がない。
今、暴走を収めて目を覚ませばきっと、彼は自分の所業を知り傷つくだろう。
優しい彼のことだ。きっと、酷く落ち込むはずだ。
でも、それならそれでいい、とジェイドは思っていた。
これ以上、何かを破壊してしまったら。
まして、仲間を殺めてしまったら……
きっと彼は、傷つくどころじゃない。
だからこそ、今ここで止めなければならない。
統率官として。そして……恋人としても。
美しい、四枚羽の天使を見据え、白衣の魔術医は言う。
「どんな姿の貴方でも、愛する自信はありますが……
貴方が自分の所業を知り、傷つく姿を見るのだけは……
僕には、耐えられませんよ……!
これ以上、痛みを、悲しみを、後悔を、募らせる前に……
目を、覚ましなさい……メンゲレ!」
届けと願ったその声が、届くか否か分からぬままに、ジェイドは彼を抱き寄せる。
天使の魔力に当てられようとも、その身を切り裂かれようとも構わない。
とにかく、いつもの彼に戻って欲しい。
彼とともに生きていく。彼を支えていく。
そのためならば、抑制機にでも楯にでもなってみせるから。
その一心で、天使をきつく抱きしめる。
魔力を完全開放したメンゲレの背にある四枚の翼が小さく震えた。
―― Call my name ――
(今目を覚まして、泣いてくれればそれでいい。
今ならば、ちゃんとやり直せるから。ちゃんと僕が支えますから)
2013-1-13 11:37