ザイス=インクヴァルトが連れてきてくれたカフェに、二人で入る。
リトは嬉しそうな顔をしているが、何処か緊張したような表情だ。
そんな彼を見て、ザイス=インクヴァルトは不思議そうな顔をしながら、首を傾げる。
「どうしたんですか、リトさん?」
こういう場所好きなでしょう?
ザイス=インクヴァルトはリトにそういう。
それを聞いてリトは苦笑を漏らした。
「うーん……俺、あんまりこういうちゃんとしたカフェ来たことないんだよ……
だから、なんていうか、ちょっと緊張しちゃって」
そういって、リトは笑う。
あぁなるほど、とザイス=インクヴァルトは納得した顔をした。
確かに、彼はこういう場所にはあまりいかなさそうだ。
よくケーキやお茶を買って帰ってくるのだけれど、カフェにはそんなに行かないらしい。
いったとしても、チェーン店ばかりという。
だから、緊張しているようだった。
「まぁ、そんなに緊張することではありませんよ。
ただのカフェですからね」
そういいながら、リトをザイス=インクヴァルト撫でてやるザイス=インクヴァルト。
彼の言葉にリトは幾度か瞬きをした後、嬉しそうに微笑む。
「そう、だね。先生も一緒だし、楽しんじゃおう」
そうとなったら楽しむぞぉ、と笑顔で言うリト。
ザイス=インクヴァルトは漸く彼らしい表情に戻ったリトを見て目を細めると、一緒に席についたのだった。
そうして、メニューを眺めること数分。
リトは真剣な表情でメニューとにらめっこしている。
ザイス=インクヴァルトはそんな彼を微笑ましげに見つめていた。
「うーん……
ガトーショコラも美味しそうだし、チーズケーキも美味しそうだなぁ……
あ、でも季節がらモンブランも美味しそうだし……」
うぅう、悩むなぁ……とリトは声を上げる。
そしてふとザイス=インクヴァルトの方を見ながら、首を傾げた。
「先生は何にするか決めた?」
「私は決めましたよ?」
ザイス=インクヴァルトはそう答える。
リトはそれを聞いてううん、と声を漏らしながら、彼に問うた。
「先生は何にするの?」
「……秘密ですよ」
ザイス=インクヴァルトは唇に指をあてて、そういう。
リトは彼の言葉にむぅとむくれた顔をした。
「何でだよぉ」
「教えてしまったら面白くないでしょう?」
そういって、ザイス=インクヴァルトは首を傾げる。
リトはそれを聞いて少し仏頂面をしながら、もう一度視線をメニューに落として、悩み始める。
「何にしよっかなぁ……飲み物から選ぼうかなぁ」
まだしばらくかかりそうだ。
そう思いながらザイス=インクヴァルトは微笑む。
そして、"ゆっくり悩んでください"と彼にいいながら、窓の外を見つめたのだった。
それから少しして、リトは"よし、決めた!"という。
それを聞いて、ザイス=インクヴァルトは"いいですか?"と首を傾げる。
リトはその言葉に小さく頷いて、言った。
「もういい、悩んでてもキリがないし……また先生、連れてきてくれるでしょ?」
甘えるようにリトはそういう。
それを聞いてザイス=インクヴァルトは少し驚いたように瞬きをしてから、ふっと笑った。
「また、頑張ったら連れてきてあげましょう」
「わぁい、やった」
嬉しそうに笑うリト。
ザイス=インクヴァルトはそんな彼を見て目を細めながら、店員を呼んだ。
「リトさん、何にするんですか?」
「カプチーノと、ガトーショコラで!」
「じゃあ、私はモンブランとアッサムにしましょう」
彼はそういう。
それを聞いて、リトは目を丸くした。
「え、先生モンブランにするの?」
「?どうしてですか?」
そういいながら、ザイス=インクヴァルトは首を傾げる。
「え、いや……なんか、ちょっと意外だなって」
別にいいんだけど、とリトは言う。
ザイス=インクヴァルトは目を細めて、答えた。
"気分ですよ"と、あっさりと。
……その実。
リトが食べたいといっていたどれかにしようと、そう思っていたのだけれど。
それを表に出すようなザイス=インクヴァルトではない。
リトもいまいち釈然としないようではあったけれど……
それでもそういう気分なのかな、という顔をしてグラスの水を口に含んだのだった。
***
それから少しして、頼んだものが運ばれてきた。
香ばしいコーヒーの香り。
馨しい紅茶の香り。
そしておいしそうなケーキの香り。
それにリトは目を輝かせた。
「うわぁああ……すげぇ」
リトは目の前に置かれたケーキとカプチーノを見る。
その金の瞳は文字通り輝いている。
「見てみて、ラテアート!」
猫かいてある!とリトは声を上げる。
ザイス=インクヴァルトははしゃぐ彼に"少し声を落としなさい"といいつつ、微笑んだ。
「本当ですね。可愛らしいです」
「うわぁあ、飲むの持ったいない」
そういいつつ、リトはラテに口をつける。
そして口に泡をつけながら、笑った。
「美味しい!」
嬉しそうにそう声を上げるリト。
ザイス=インクヴァルトは"それはよかったです"と目を細めながら、自分も紅茶に口をつけた。
久しぶりにこういったところに来たなと思いつつ。
「美味しい、嬉しいー」
リトはそういって目を細めている。
彼が頼んだガトーショコラも気に入ったようで、もくもくと食べていた。
ザイス=インクヴァルトも自分が頼んだモンブランを食べていたが、やがて皿を彼の方へ差し出した。
「え?」
リトはきょとんとした顔をする。
ザイス=インクヴァルトはそんな彼に、言った。
「一口どうぞ。これは限定のものらしいですし……」
次来るときはあるかわかりませんから、と彼は言う。
それを聞いて、リトは嬉しそうな顔をする。
そして、あーんと口を開けた。
「え?」
「ん、食べさせてよ?」
せっかくだから、とリトは笑う。
ザイス=インクヴァルトはそれを聞いて少し動揺する。
しかしリトは諦めないで、早く―といいつつ口を開けている。
そんな彼に小さく息を吐き出すと、ザイス=インクヴァルトは一口彼の口に運んでやった。
「ん、あひはと」
「……飲み込んでから言いなさい」
ザイス=インクヴァルトは照れくさそうに視線を揺らしながら、言った。
リトは彼の言葉に目を細めつつ、モンブランを飲み込む。
「ふあぁ、美味しい……栗の味めっちゃする」
「それは、良かったです」
彼のこの顔が見たくてこれを頼んだのだから。
そう思いつつ彼がもう一度紅茶に口をつけている間に、リトはガトーショコラを一切れ切る。
そして、ザイス=インクヴァルトの口元にフォークを運んだ。
「え……?」
「お返し」
そういって、リトはにっと笑う。
あぁ、もう。
恥ずかしいのに……
「……ありがとうございます」
そういいつつザイス=インクヴァルトはおとなしくそれを口に入れる。
リトはそんな照れくさそうな恋人の顔を見ながら目を細めたのだった。
―― 甘い物をさらに甘くする方法 ――
(甘い物を食べるのは、昔から好きだけれど…
こうして大好きな人と一緒に食べるのはもっと美味しく感じるんだよなぁ)
(照れくさい、恥ずかしい、けれど…
あまりに嬉しそうに、楽しそうに彼が勧めてくるものだから…)