いつも通りの、朝。
黒髪の少年……西はバイクを走らせていた。
朝から、照り付ける陽射しは強い。
しかしバイクで道路を走り抜ければ、頬を掠めていく風は涼しく、心地よかった。
いつも通りのバイク通学。
校門で"バイクで通学は駄目でしょ!"と聞きなれた声を聞きながら、通り抜ける。
そしてバイクを停めてヘルメットを外したところで、小さく息を吐き出した。
「はぁあ……どうにかなった……」
そう呟きながら、彼はメットインに入れていた小さな袋を取り出す。
ちょうどそこで軽く頭を小突かれた。
「いてっ」
「おはよ西。
今日は随分遅かったのね?」
そう微笑むのは、金髪の男性……メイアン。
彼は西の手元にある袋を見て、瞬きをした。
そして小さく首を傾げながら、問うた。
「あら、それは?」
目敏い奴。
そう思いながら、西は手にしていた袋をメイアンに手渡した。
「こ、これ!忘れてっただろ!」
西はそういう。
メイアンは目を丸くしつつ、それを受け取った。
そして見てみれば……
「あら、これ私の白衣……」
「わ、忘れてたんだよ!」
持ってきてやったからな!
西はそういう。
メイアンはありがとう、と礼を言いつつ……首を傾げた。
「……でもどうしてこんなにきっちりアイロンかかってるの?」
メイアンはそう問いかける。
それを聞いて、西はかぁっと顔を赤く染めた。
と、言うのも……
メイアンの白衣にキチンとアイロンがかかっている理由が理由だから。
彼が置き忘れたその白衣をきっちり抱きしめて眠ってしまったためにくしゃくしゃになり、それに焦った彼は慌てて従兄にアイロンをかけてもらったのである。
「あ、えっと……」
上手い説明が思いつかない。
西は視線を揺らす。
メイアンはそれを見て全て悟ったようだった。
嬉しそうに微笑み、西の頭を撫でる。
「ふふ……詳しくはツッコまずにいてあげるわ?
ありがとうね、綺麗に返してくれて」
そういって微笑むメイアン。
西はそんな彼の言葉に顔を真っ赤に染めつつ、ぷいっとそっぽを向いたのだった。
***
それから、数日……――
今日は、週末。
メイアンはいつも通りに、西の家に泊まっていた。
ざあぁ、とシャワーの音が響く。
長い金髪を濡らしていく、湯。
ふぅ、と息を吐きながらメイアンはシャワーのコックを捻った。
ぽたぽたっと、雫が落ちる。
そしてメイアンは浴槽に入った。
「はぁ……気持ちいい」
メイアンはそう呟いて体を伸ばす。
自分の部屋のそれよりもずっと広い浴室は、恋人である西の家の浴室だ。
元々は、こうして浴槽に浸かる文化はなかったのだけれど、この国に来てからちゃんと浸かるようになった。
それがすごく気持ち良いとおもうようにもなった。
んんーと伸びをした時、バスルームのすりガラスに影が映った。
あら、とメイアンは思う。
この家にいるのは自分と、この家の主である西だけ。
だから、その影は間違いなく西なのだけれど……
「珍しいわね、西がバスルームに来るなんて」
メイアンはドア越しに西にいう。
それを聞いて西は一度動きを止めたようだった。
メイアンが気づくと思っていなかったらしい。
「あ、えっと……何でもないよ」
何でもない。
そんな西の言葉にメイアンは"そう?"と首を傾げる。
詳しくツッコミを入れたところで彼が答えないことは知っている。
メイアンはただ湯につかりながら、ふうと息を吐き出す。
「あー……メイアン」
ドア越しに、西はメイアンに声をかける。
少し迷ったような声。
それを聞いて首を傾げながら、メイアンは応える。
「どうしたの?一緒に入りたいの?」
冗談まじりにそう問う。
すると西からすぐに"ちげぇし!"と声が返ってきた。
そして、はぁっと溜息を吐いてから、彼は言った。
「……白衣、この前置いてっただろ?」
「え?あ、そうだったわね」
思い出す。
確かに、数日前に西の家に白衣を置いていったのだった。
性懲りもなく、と西が苦笑していたのを思い出す。
でも、それがどうしたのだろう?
メイアンがそう問えば、西は小さく呟くような声でいった。
「……、かけといた、から」
「え?」
何を?
メイアンがそう問いかけると、西は声を大きくして、いった。
「白衣、アイロン、かけといたから!」
じゃあな!
そういって、西はバスルームから出ていったようだった。
メイアンはそんな彼の言葉に驚いて瞬きをする。
彼が、アイロン?
「え……一体どういうこと?」
メイアンは思わずそう呟いた。
西が綺麗にアイロンがけされた白衣を返してきたあの日……
あの後、彼の従兄である伊佐次から、彼が朝早くにくしゃくしゃの白衣を持ってきたという話を聞いた。
メイアンは正直、やっぱりねとおもった。
西がアイロンをかけられるはずがない、と。
だからこそ……
今の西の発言に、正直驚いていた。
「……どういうことかしら?」
そう思いつつ、メイアンは湯船から上がる。
そして体を拭いてから西の居るリビングに行ったのだった……――
***
「え、これ本当に西がやったの?」
リビングに入ったメイアンは思わずそう声をあげた。
というのも、壁にはしっかりとアイロンがかけられた白衣がかかっていたからで。
「何そんなに吃驚してんだよ」
メイアンの反応に西は不機嫌そうな顔をする。
―― ――
(笑)
(笑)
いつも通りの、朝。
黒髪の少年……西はバイクを走らせていた。
朝から、照り付ける陽射しは強い。
しかしバイクで道路を走り抜ければ、頬を掠めていく風は涼しく、心地よかった。
いつも通りのバイク通学。
校門で"バイクで通学は駄目でしょ!"と聞きなれた声を聞きながら、通り抜ける。
そしてバイクを停めてヘルメットを外したところで、小さく息を吐き出した。
「はぁあ……どうにかなった……」
そう呟きながら、彼はメットインに入れていた小さな袋を取り出す。
ちょうどそこで軽く頭を小突かれた。
「いてっ」
「おはよ西。
今日は随分遅かったのね?」
そう微笑むのは、金髪の男性……メイアン。
彼は西の手元にある袋を見て、瞬きをした。
そして小さく首を傾げながら、問うた。
「あら、それは?」
目敏い奴。
そう思いながら、西は手にしていた袋をメイアンに手渡した。
「こ、これ!忘れてっただろ!」
西はそういう。
メイアンは目を丸くしつつ、それを受け取った。
そして見てみれば……
「あら、これ私の白衣……」
「わ、忘れてたんだよ!」
持ってきてやったからな!
西はそういう。
メイアンはありがとう、と礼を言いつつ……首を傾げた。
「……でもどうしてこんなにきっちりアイロンかかってるの?」
メイアンはそう問いかける。
それを聞いて、西はかぁっと顔を赤く染めた。
と、言うのも……
メイアンの白衣にキチンとアイロンがかかっている理由が理由だから。
彼が置き忘れたその白衣をきっちり抱きしめて眠ってしまったためにくしゃくしゃになり、それに焦った彼は慌てて従兄にアイロンをかけてもらったのである。
「あ、えっと……」
上手い説明が思いつかない。
西は視線を揺らす。
メイアンはそれを見て全て悟ったようだった。
嬉しそうに微笑み、西の頭を撫でる。
「ふふ……詳しくはツッコまずにいてあげるわ?
ありがとうね、綺麗に返してくれて」
そういって微笑むメイアン。
西はそんな彼の言葉に顔を真っ赤に染めつつ、ぷいっとそっぽを向いたのだった。
***
それから、数日……――
今日は、週末。
メイアンはいつも通りに、西の家に泊まっていた。
ざあぁ、とシャワーの音が響く。
長い金髪を濡らしていく、湯。
ふぅ、と息を吐きながらメイアンはシャワーのコックを捻った。
ぽたぽたっと、雫が落ちる。
そしてメイアンは浴槽に入った。
「はぁ……気持ちいい」
メイアンはそう呟いて体を伸ばす。
自分の部屋のそれよりもずっと広い浴室は、恋人である西の家の浴室だ。
元々は、こうして浴槽に浸かる文化はなかったのだけれど、この国に来てからちゃんと浸かるようになった。
それがすごく気持ち良いとおもうようにもなった。
んんーと伸びをした時、バスルームのすりガラスに影が映った。
あら、とメイアンは思う。
この家にいるのは自分と、この家の主である西だけ。
だから、その影は間違いなく西なのだけれど……
「珍しいわね、西がバスルームに来るなんて」
メイアンはドア越しに西にいう。
それを聞いて西は一度動きを止めたようだった。
メイアンが気づくと思っていなかったらしい。
「あ、えっと……何でもないよ」
何でもない。
そんな西の言葉にメイアンは"そう?"と首を傾げる。
詳しくツッコミを入れたところで彼が答えないことは知っている。
メイアンはただ湯につかりながら、ふうと息を吐き出す。
「あー……メイアン」
ドア越しに、西はメイアンに声をかける。
少し迷ったような声。
それを聞いて首を傾げながら、メイアンは応える。
「どうしたの?一緒に入りたいの?」
冗談まじりにそう問う。
すると西からすぐに"ちげぇし!"と声が返ってきた。
そして、はぁっと溜息を吐いてから、彼は言った。
「……白衣、この前置いてっただろ?」
「え?あ、そうだったわね」
思い出す。
確かに、数日前に西の家に白衣を置いていったのだった。
性懲りもなく、と西が苦笑していたのを思い出す。
でも、それがどうしたのだろう?
メイアンがそう問えば、西は小さく呟くような声でいった。
「……、かけといた、から」
「え?」
何を?
メイアンがそう問いかけると、西は声を大きくして、いった。
「白衣、アイロン、かけといたから!」
じゃあな!
そういって、西はバスルームから出ていったようだった。
メイアンはそんな彼の言葉に驚いて瞬きをする。
彼が、アイロン?
「え……一体どういうこと?」
メイアンは思わずそう呟いた。
西が綺麗にアイロンがけされた白衣を返してきたあの日……
あの後、彼の従兄である伊佐次から、彼が朝早くにくしゃくしゃの白衣を持ってきたという話を聞いた。
メイアンは正直、やっぱりねとおもった。
西がアイロンをかけられるはずがない、と。
だからこそ……
今の西の発言に、正直驚いていた。
「……どういうことかしら?」
そう思いつつ、メイアンは湯船から上がる。
そして体を拭いてから西の居るリビングに行ったのだった……――
***
「え、これ本当に西がやったの?」
リビングに入ったメイアンは思わずそう声をあげた。
というのも、壁にはしっかりとアイロンがかけられた白衣がかかっていたからで。
「何そんなに吃驚してんだよ」
メイアンの反応に西は不機嫌そうな顔をする。
驚かしてやりたいとは思っていたが、此処まで意外そうな顔をされるのは正直面白くない。
「あら、ごめんなさい……
でも、西はあんまりこういうことするタイプじゃないと思ってたから」
吃驚しちゃって、とメイアンは苦笑する。
そして、壁にかけられた白衣を撫でながら、いった。
「でも本当にアイロンかけたの?」
メイアンはそういって笑う。
西はむぅっと頬を膨らませつつ、部屋の隅にあるものを指さした。
「あれ買ってきたんだよ……」
彼が示しているそれは、西が買ってきたというアイロン。
しかしそれは普通のアイロンではなく、服を壁にかけたまま、アイロンをかけることが出来るというものだった。
「あら、なるほど……」
「すげえだろ、俺だってアイロンくらいかけられるんだぞ!」
意外そうな顔するなよな!という彼は得意げだ。
メイアンはそんな彼を見てくすくすと笑う。
そして、彼がアイロンをかけてくれた白衣をぎゅっと抱きしめる。
「ふふ、ありがと西……うれしいわ」
そういって微笑むメイアン。
その姿を見て、西はふっと笑いながら、"おう"と応える。
こんなメイアンの顔が見たかった。
そう思いながら、西は笑う。
……勿論、先日の一件で、またあんなことが起きないように、自分で対処できるようにと思ったのだけれど。
「シャツとか……アイロンかけてやるからな」
メイアンは普段からシャツを着ている。
だから、それにアイロンをかけてやると西はいう。
メイアンは彼の言葉に嬉しそうに微笑みながら"ありがとう、頼りにしてるわ"と微笑む。
アイロンくらい自力でかけることは出来るが、恋人がしてくれるというならそれは嬉しい。
そう思いながらメイアンは愛しげに恋人を抱きしめたのだった。
―― I help… ――
(たまには手伝うよ、なんて頬を赤く染めて言う恋人。
まるで夫婦みたいで嬉しいな、なんて思って…)
(そういったら、きっとあの子は顔を真っ赤にするんでしょうね?
でも私はそんな風に貴方と過ごせるのが嬉しいのよ)