リトの過去のお話です。
コラボの話で一応解決したのですが…
彼の閉所恐怖症はいつになったら治るんですかね?
直してくれる人がいるといいね←
リトは寂しがりやで頑張り屋さんです。
ちょっとおバカですが、その分人に嘘をつけない、人を疑えない正直者です。
それ故に酷い目に遭うことも多いですが…
生きにくい世界なのに、警官を続ける彼。
それを書いてあげたかったのでした←
では、追記からお話です!
今でも夢に見る。
暗くて、静かで、狭い空間。
遠く、ドアを挟んで聞こえる笑い声に怯えたのはもう遠い昔だというのに。
***
Side Rito
あれは、俺が漸く中央に配属された頃の事だった。
まだ十二歳。
お世辞にも経験豊富とは言い難かったけれど、小柄で小回りが利く、乗馬が得意だということで、俺は城下に配属された。
誇らしかった。
もっともっと強くなりたい。
大好きなこの国を護る力になりたい。
そう思って、こうして警官になったから。
騎士になるか警官になるかで悩んだ。
けれど、城で王女様を守る騎士というよりは、街に住む人々を守る警官になりたくて、そちらの道を選んだ。
頭は決して良くなかったけれど、拳銃や短剣の扱いは心得ていたし、大事な親友……ヘルガもいつも一緒に居てくれた。
だから、寂しくも怖くもなかった。
どんな仕事もこなしたし、幾人もの犯罪者を捕えてきた。
……油断、していたのかもしれない。
調子に乗っていた、のかもしれない。
今はもうその時の事なんて覚えていないから、何とも言えないけれど。
***
あれは確か、薄曇りの日だった。
不気味な雲が立ち込めて、頭痛持ちのライシスが"今日は頭が痛いから動きたくない"とかいっていた気がする。
そんな日、ある犯罪者が動くという情報を得た。
今日が、逮捕のチャンスだ。
そんな話を聞いて、俺は張り切っていた。
頭を使う作戦は、ヘルガが行う。
俺は、その男が逃げたら追う係だった。
すばしっこさには自信があったし、検挙人数だって決して少なくなかった。
だから、大丈夫だろうってそう思ったんだ。
そうして赴いた任務……
ヘルガが、男に接触した。
しかし途中でばれて、男はにげだした。
俺はそれを追いかけた。
薄暗くなり始めた細い路地を駆け抜け、駆け抜け……
やっとのことで男を追いつめた時。
あの男はいきなり膝をついた。
どうした、と問えば、男は病を持っているという。
薬を飲まなければ死んでしまう、と。
そしてその薬は根城にしていた部屋にしかない、と。
死んでしまってはまずいと思ったし、何より男は酷く苦しそうだった。
だから、俺はその男の言うことを聞いて男を助け起こして、男が言う方へ足を進めていった。
そうして辿り着いたのは、街外れ。
仲間たちと連絡を取れる範囲から、かなり離れてしまっていた。
そこまで来た時。
いきなり男は俺を突き飛ばして走り出した。
あぁ、嘘だったのか。
そう思うと同時に、俺は男を追いかけた。
そうして男の影が飛び込んだのは、小さな小屋だった。
それを見て俺は息を吐いた。
例え俺を撒こうとしているとしてもこんなところに逃げ込めば袋の鼠だ。
そう思った。
そうして俺も、男の飛び込んだ小屋に飛び込んだ。
しかしそこに既に男の影はなくて。
出ていったのは見ていない。
きっと、屋敷の何処かにいるんだ。
そう思って、俺はその姿を探した。
何処だ?
何処にいった?
確かに入ったのは見えた。
だから、俺は……部屋中を探し回った。
そして、たどり着いたのは地下室。
そこに入り、中を探していた時。
がたん、と音がしてドアがしまった。
真っ暗になる室内。
それに驚きつつ俺はドアの方へ向かいそれを開けようとした。
しかし、ドアは開かない。
鍵を閉められ、閉じ込められたと気づくのに時間はかからなかった。
「本当に馬鹿だな」
こんなにちょろいとは思わなかった。
そう笑う男の声が聞こえた。
ドアを必死に叩いた、壊そうとした。
魔術も使ったけれど、魔術で保護をされているらしく壊れない。
どうしたものか。
仲間に連絡を取ろうにも、此処からではそれも出来ない。
そう途方に暮れはじめた、その時……
不意に、足元から水が流れ込んできた。
一体何だ、と思った。
しかし、すぐに気づいた。
男がこの部屋に水を流し込んでいるのだ、と。
「出せ!」
此処から出せ。
俺が焦った声を上げれば、男は楽しそうに笑った。
嫌だね。
このまま死ねよ。
間抜けな警察なんざ、街に居ない方が世のためだ。
そういったすぐあとに男は姿を消したようだった。
水が、水だけが、俺がいる部屋に流れ込んでくる。
窓はなく、ドアは開かない。
そんな状況で焦るなという方が無理だった。
遠く聞こえる笑い声。
少しずつ増していく水かさ。
足が濡れ、膝が濡れ、胸まで水に浸かり。
あぁ、これは死ぬかもしれない。
そう思ったとき、俺は恐怖で震えた。
もう水圧でドアも絶対に開かない。
仲間と連絡を取ることも出来ない。
苦しくて怖くて、それでももうどうすることも出来なくて……――
顎まで水に浸かり、呼吸も苦しくなってきた。
俺はその時から泳げなかったし、何より炎属性魔術使いだったから、水に濡れると魔力が半減してしまう。
あぁ、このまま死ぬのか。
間抜けな、最後だ。
そう思う頃にはもう、怖いと泣き叫ぶことさえできなくなっていた……――
***
あれからどう助かったのかは、俺は知らない。
もう意識を失くして、水に沈んでいたから。
それから少しして、誰かが助けてくれたらしい。
目を覚ました時最初に見たのは、泣きながら俺を見つめているヘルガの青い目だった。
俺が目を覚ましたと理解すると、彼はぎゅっと俺を抱きしめてくれた。
あぁ、いきている。
そうわかって、ほっとした。
そして、あの空間での恐怖を思い出して、俺は泣いた。
あれからだ。
暗い部屋に一人きりでいることが出来なくなったのは。
狭い部屋でドアを閉められると息が苦しくなったのは。
消えることの無いトラウマ。
それ故に、俺が赴くことが出来る仕事は大分減ってしまった。
警察をやめた方が良いのではないか。
ライシスが、そういった。
でも俺はやめなかった。
やめたら、負けだと思ったから……
あれから、もう四年経つ。
それでも俺は、一人きりが、閉じた空間が、駄目なままだ。
いつか、これは治るのかな。
どうしたら治るのかな。
いいお医者にかかれば治る?
時間が経てば治るの?
そう思いながら俺は四年こうして生き続けている。
―― 正直者の代償 ――
(人を簡単に信用するな、って昔から言われてた
でも、そんなのできるはずがなかったんだ)
(あなたに警官は向きませんよ。
そういったのは、俺の仲間だった気がするな…確かに、そうなのかもしれない)