科学者道化師コラボのお話です。
昔の事をまだ少し引きずってるカルセを書きたくて…
それをムッソリーニさんに慰めてほしかったのです←
*attention*
科学者道化師コラボのお話です
本家Laurentia!(学パロ)設定でのお話です
シリアス目なお話です
昔の事を引きずってるカルセ
それに気づいて慰めるムッソリーニさんならな、と…
カルセは時々悪い意味でなくムッソリーニさんにクレースを重ねてそうだなと
相変わらずの妄想クオリティ
ナハトさん、本当にすみませんでした!
以上がOKという方は追記からどうぞ!
ソファに深く凭れかかってふぅ、と小さく息を吐き出す。
流れてきた前髪を払い除けるだけの気力もなく、カルセはそっと目を閉じた。
疲れた、と誰にともなく呟く。
今は部屋に一人きりだ。
その"弱音"を聞く者も、いない。
恋人は今風呂に行っている。
だからこそ今、こうして自身が情けないと思う姿を晒しているのであった。
養護教諭はいつも保健室にいて、授業をすることは殆んどない。
だからさぞ暇だろうと思われがちなのだが、その実かなり忙しい。
生徒たちの健康管理や学内の衛生管理、事務的な仕事も多々あるし、外部出張もある。
そんななかでも疲れた様子は見せず、いつでも笑顔でいる。
それは、カルセのポリシーのようなものだった。
殊更……
恋人の前では、笑顔でいたい。
辛そうな顔や苦しそうな顔をしていたら、彼も心配するから……――
こんな風にソファに沈んでいると、数年前のことを思い出す。
自分がまだ、研修医だった頃のことを。
人の死を目前にするのが怖くて、苦しくて……
何度も何度も倒れた。
何度も何度も、こうして……――
意識が、薄れていく。
カルセは目を閉じて、意識を手放した。
***
雨が降る音が響く。
静かな、静かな白い部屋……――
消毒液の匂いが、漂ってくる。
そんな空間で、カルセは周囲を見渡した。
降り続く雨。
時折響く雷鳴。
……その光景。
その音声は、見覚え、聞き覚えがあるものだった。
此処、は……
病院?
病室、だ。
す、と背筋が冷えた。
その理由は、その病室が一体何の病室であるかを理解したからだった。
此処は、クレースの部屋だ。
クレースが入院していた、部屋……――
誰もいないベッド。
静かな空間には、置きっぱなしになっている機械。
何も繋がれていない点滴スタンド……
そっと、ベッドに触れる。
そこには微かに、温もりを持っていた。
まだ、彼が運び出されてから間もない部屋。
それにも、覚えがあった。
病院で最期に彼に触れた時……
クレース、と小さく呟くように彼の名を呼ぶ。
無論、返事が返ってくることはなかった。
寂しくて悲しい空間。
鼻をつくような、消毒の匂い……――
それを感じているうちに、意識が揺らいだ。
足がふらついて、思わずベッドに手をつく。
まだ微かに、クレースの温もりが残るその場所に。
は、と小さく息が漏れた。
掠れた吐息。
くらり、と意識が揺れる。
思い出す、あの時の空間を、景色を。
それだけで胸が、痛い。
あぁ、そうだ。
この時から、自分は……
病院という場所が苦手になった。
人の死を見るのが怖くなった。
どれだけ無理をしても、どれだけ耐えても慣れることも耐えきることも出来なくて……
医師になることが出来なくなったのは悲しかった。
けれど、それ以上に……
かけがえのない友人を失った苦しみがそれほど強いということを改めて感じて……――
***
―― ……ルセさ、……カルセさん?
不意に聞こえた声で、意識が浮上した。
目を開ければ、青い瞳とかちあった。
心配そうな顔をしている恋人……ムッソリーニと視線がかち合って。
「ん……ムッソリーニ……?」
カルセは掠れた声を漏らす。
視線を彼に向ければ、その心配そうな表情にクレースの表情が重なった。
―― 大丈夫?カル……
心配そうな声。
心配そうな表情。
それは確かクレースの本当の病状を知った次の日に病院に行った時。
寝不足でやや体調が悪いときの事だった。
顔色が悪いカルセを見て、クレースは心配した表情を浮かべていたのだ。
自分の方が辛いだろうに。
自分の方が苦しいだろうに。
……そう。
それから少しして、クレースはいなくなってしまって……
「大丈夫?カルセさん……疲れてるみたいだけど」
風呂からあがってきたらしい彼。
まだ濡れた髪のまま、彼はカルセを心配する表情で見つめている。
「……だいじょうぶ、ですよ」
カルセはそういって微笑んだ。
それを聞いても尚、ムッソリーニは心配そうな顔をしている。
そしてそっと、ソファに腰かけた彼の頬に触れた。
「……無理、しないで」
大丈夫だなんて言わなくていいよ。
辛いなら、辛いっていっていいんだよ。
ムッソリーニはそういって、微笑んだ。
カルセはそんな彼を見て藍色の瞳を細める。
その瞳が小さく揺れた。
―― あぁ、この子も……
そう、思う。
この子も、"彼"と同じだ、と。
自分は自分が辛いときに辛いといわないのに自分には辛いならそういってと、彼は言う。
無理しなくていい、と。
そういって自分を慰めてくれるから……
「……ねぇ」
ムッソリーニ、とカルセは彼を呼んだ。
それを聞いてムッソリーニは小さく首を傾げる。
「どうしたのカルセさ……――」
そう訊ねるのと同時。
ぎゅ、と強い力で抱きすくめられた。
突然な彼の行動に、ムッソリーニは驚いて目を見開く。
「……カルセ、さん……?」
どうしたの?
ムッソリーニは驚いたままに彼の名を呼ぶ。
カルセはただ、そんな彼を強く抱きしめた。
「……ごめんなさい」
カルセは小さな声で彼に詫びた。
そして、そっと彼の頭を撫でながら、いう。
「でも、もう少しだけ……」
―― このままでいてください……
カルセはそっと彼を抱きしめる。
その体は小さく震えていた。
ムッソリーニはそれを感じて幾度も瞬きをする。
それから、小さく頷いた。
そのままそっと、彼の背に腕を回して、撫でる。
「大丈夫、俺は此処にいるから……」
安心していいんだよ。
そういう優しいムッソリーニの声。
それを聞きながら、カルセはぎゅと彼を抱きしめていたのだった。
―― 重なる影と… ――
(かつて亡くした大切な友人。
彼と恋人は、まったくの別人だけれど…)
(時折、重なって見えるんです。
貴方のやさしさや、温もりが、あの子のものに…)
2015-5-29 12:10