カルセの過去のお話です。
学パロでの彼の話も書きたくて…
医者を目指してたのに今は養護教諭。
その理由が書きたかったのでした←
こういうシリアスな乗りも好きです
ほんとはコラボにしたかったけどからめようがなかったです←
では追記からどうぞ!
ふと、思い出す。
元々カルセは医学部の学生だった。
医学部に所属して、医者を目指していた。
昔から医者になりたいという思いはあり、そのために勉強もした。
成績は優秀で、いつでも学年トップクラスだった。
そして何より……
彼にはその想いを誰より理解し励まし、それと同時にライバルであった少年がいた。
クレース・ユーフェランテ。
カルセの幼馴染みであり親友であった少年だった。
本当なら、彼と一緒に大学に進み、彼と一緒に勉強して、医者として働くことを夢にしていた。
その事をカルセもクレースも楽しみにしていたし、その日を夢見て二人で歩んでいた。
しかし……
カルセとクレースが高校三年生の時に、クレースは病気で死んでしまったのだ。
一年間の入院の末の、ことだった。
そのときカルセは彼に言われていた。
自分はここで止まるけれど、貴方は進んでほしいと。
悲しみで苦しみで足を止めることなく、夢に向かって歩み続けてほしいと……――
カルセはその言葉を胸に、大学の医学部に進んだ。
大切な親友を失ったことは苦しく、悲しいことではあったけれど……
それでも、歩みを止めることなく勉強をして、医師免許を取得した。
そうして、研修医として近くの病院に勤め始めた頃のことだった。
彼に、異変が起きたのは。
ある、雨の日のことだった。
ちょうど、クレースが亡くなったと連絡があったあの日のように。
大きな病院。
そこでは入院している患者も多く、毎日のように研修医たちも奔走していた。
その日……
カルセたちのいる病棟で、ナースコールが響いた。
けたたましい電子音。
それにはっとしたように顔をあげ、その病室に向かう医師と看護師。
それに、カルセたち研修医も駆けつけた。
心拍数が……
呼吸を……
点滴は……
急げ!
飛ぶ指示。
それに研修医たちも動く。
しかし。
カルセは、動くことが出来ずに固まっていた。
動かないと。
急がないと。
そう思えば思うほど、体は動かなくなり、息が出来なくなる。
「っ……」
苦しさと吐き気に襲われて、身動きがとれなくなる。
ひゅ、と掠れた息が漏れたのがわかった。
視界が、揺れる。
点滴を繋がれる患者。
指示を飛ばす医者たち。
その姿が、景色が、ぼやけて揺れる。
刹那、誰かに強く肩を押さえられた。
驚いてそちらに視線を向けると、彼と同じ研修医の仲間の一人が心配そうに見つめていた。
「どうしたカルセ、顔真っ青だぞ」
そういわれて初めて、自分が貧血を起こしていることに気付いた。
その原因は、わからなかったけれど。
「あ、ぅ……すみません」
掠れた声が漏れる。
自分の声とは思えないくらい情けない声だった。
「とりあえず少し外れて休んどけ、そのまま居ても邪魔になるだけだから」
言い方はきつかったが、事実。
それに何より、今のカルセにはありがたかった。
「すみません、ありがとうございます……」
カルセは彼に礼をいって、一旦休憩室に向かった。
仮眠用のベッドに体を倒す。
浅くなった呼吸が、少しずつ戻っていくのを感じた。
―― どうして。
どうして、こんなことに?
まだ少しぼうっとする頭でカルセは考えた。
今まで、こんなことはなかった。
研修の時にも冷静に対応出来ていたし、診察も正しく出来ていた。
あんな風になったのは、初めてで。
思い返す。
いつもと違ったことは、何か。
それは……――
「命の、危機……」
思い当たる点は、それだ。
今まで面倒を見ていたのは、比較的症状の軽い患者だった。
今日のように、命が危ういという状況に、そんな患者に立ち会ったことは、ない。
―― 否。
確かに医師免許を取ってからは確かに初めてだった。
けれど、以前にもある。
余命が幾許もない人間の傍にいたことは……
「クレース……」
カルセは掠れた声で昔別れた友人の名を呼ぶ。
彼の笑顔を、思い出す。
それと同時……
苦しみ抜いた彼の、痛々しい姿も。
点滴の痕。
すっかり細くなった腕。
青白い顔。
それとは対照的に強い光を持った瞳。
―― あぁ、そうか。
わかってしまった。
さっきの自分の不調の理由。
それは……あのときの、トラウマだ。
大切な友人を亡くした病院という場所。
無機質な空間、慌ただしい医師たちの声。
そんなものが、自分を無意識に怯えさせているらしい。
人の死を見るのが怖い。
それが、根底にある意識だった。
「情けない、ですね」
カルセはそう呟いて苦笑した。
医師を目指す身ながら、人の死を恐れる。
そんな医者がいてはいけないのに。
負けては駄目だ。
頑張らなくては駄目だ。
立ち止まらない、前に進む。
それが、彼との"約束"なのだから……――
カルセはそう思いながら立ち上がった。
仕事に、戻るために。
***
カルセはどうにか自身の恐怖心を克服しようとした。
どんな状況に立ち会っても平然としていられるように。
医師として働くことが出来るように。
しかし……
平気そうに振る舞えど、その実少しも平気ではない。
どうにかその場を乗りきった後に、いつも酷い震えや吐き気に襲われた。
ぐったりと一人、誰も通らない廊下で蹲ったことも、数えられないほど。
それでも、耐え続けた。
苦しくても、辛くても。
"約束"を果たそうと。
しかし。
限界を、感じた。
どんなに耐えても、耐えきれずその場にしゃがみこむことも、下手をしたら倒れることさえあった。
その度仲間を心配させ、迷惑をかけた。
自分はいい。
どれだけでも耐えられるつもりでいたから。
けれど、仲間には迷惑をかけられない。
何より……――
「こんな私では、医者にはなれません、ね」
そう呟いて、カルセは苦笑した。
その頬を、一筋涙が伝い落ちていく。
「ごめんなさい、クレース……約束は、守れそうにありません」
私では医者にはなれない。
カルセは自分が働く病院の中庭で呟いた。
彼の頬を涙が止めどなく伝い落ちていく……
そんな彼の傍を柔らかな風が吹き抜けていった。
彼を慰めるように。
もう頑張らなくていい。
無理をしなくてもいい。
クレースが、そういっているように聞こえたのは、自分の都合のいい勘違いだろうか。
そう思いながらカルセは一人、涙をこぼしていたのだった。
―― 果たせぬ約束と新たな誓いと ――
(大切な親友と交わした約束。
守ることができなくて、本当にごめんなさい)
(道は変われど、頑張り続けてみせるから。
そう想いを抱くのに、さして時間はかからなかった…)