学パロサイドのカルセとクレースのお話です。
カルセ視点でのお話です…
すごく書きにくかった、割に長くなりました(^q^)
この二人の関係が好きすぎてやばいです…
久々に書いて再燃しそう(笑)
クレースは、出来たのが梅雨時だったからか、梅雨時に亡くなったイメージが…
何か、ごめん、なんかごめんクレース←おい
でも、クレースのことを大切にしてたカルセと、カルセを大事にしたクレースを書きたくて…
こういう関係の二人って好きです♪
ともあれ、追記からどうぞ!
重ねた手。
絡めた小指。
交わした約束。
……きっと一生消えることのない、記憶。
忘れることのない、あの日。
心の奥底に隠した感情。
周囲の人間には見られないように隠した感情。
何も知らない人間には知りえない過去。
何も知らない人間には想像さえできないであろう過去。
それは、何度も彼の心の中を巡る。
消えぬ記憶。
何度も何度も、蘇る……あの日の、彼の言葉。
***
Side カルセ
物心ついた時から、彼はいつも一緒に居た。
同じクラスになることもあったし、違うクラスになることもあった。
けれど、学校の行き帰りはいつも一緒だった。
長い緑髪。
綺麗な青い瞳。
私と一番親しかった、かわいらしい少年。
彼の名前は、クレース・ユーフェランテ。
少し年の割に幼さの残る少年でした。
私のことを"カル"と愛称で呼び、いつでも傍にいた。
目標は同じで、いつも一緒に授業を受けていた。
どちらかが学校を休めば、どちらかがその時の授業のノートを持って行った。
いつも、いつも、一緒だった。
いつも、いつも、となりで笑っていた。
「カル、今日の放課後暇?
最近、美味しいカフェが出来たんだって」
人懐っこく笑いながらそういっていた、彼。
甘いものと紅茶が大好き。
放課後には、そうして私をカフェに誘ってくることもありました。
男子用の制服を着ているのが何だか違和感な位かわいらしい少年で。
私が小さく笑えば彼はむくれていた。
"何がおかしいの?"って。
貴方が可愛いからですよ。
そう答えれば、彼は決まって照れた顔をしていて……
―― 嗚呼。
そんなやり取りが出来なくなったのは、いつのことだったでしょうか。
彼が私の隣にいるのが当たりまえでなくなったのは、いつのことだったでしょうか。
……忘れるはずもない。
彼が学校を休みがちになった、雨の季節。
高校二年の、夏。
蒸し暑いこの国の夏は苦手です。
そんなことを言った私に、彼はよく言いました。
―― 夏休みが楽しみになるね!
ずれた回答と、周囲は笑ったものでした。
でも私には彼の言葉がよく分かった。
確かに、そうですよね。
梅雨が明ければ、夏休み。
そうなったら二人で旅行にでも行きましょうか、と話をしていたのはまだ桜の咲く季節でしたね。
そんなことを思い返しながら、私は彼が登校してくるのを待ちました。
でも、彼は本当になかなか登校しなくなって……
彼が入院した。
そんな話を聞いたのは、六月の半ば。
まだ梅雨時期でした。
「どうして教えてくれなかったんですか?」
私がそう訊ねれば、彼は少し困った顔をしていました。
大丈夫だよ、ちょっとした風邪。
こじらせただけなんだ。
心配かけたくなくて言わなかっただけなんだ。
クレースはそういっていました。
ごめんね、と私に言いながら……
でも。
……ねぇ、クレース。
気づいて、いましたか?
私は、貴方の癖に気づいていたんですよ。
嘘をつくときの癖。
いつも、貴方は嘘をつくときに自分の手首を強くつかむ癖がありました。
その時は、いつもよりも強く自身の手首をつかんでいましたよ。
痕がその白い手首に残るほどに……
でも。
その時は、彼が一体何の嘘をついているのか、聞くことが出来なかったんです。
……きっと、怖かった。
うっすらと、嫌な予感がしていたから。
だからその時は信じたフリをした。
無理をしてはいけませんよ、とだけ言って帰った。
その時に久しぶりに見たクレースは、少し痩せていた。
そのことにも、気づかないフリをしたんでしたね。
それからも、彼は学校には来なかった。
私は一生懸命ノートをとって、彼に届けましたね。
いつもごめんね、と彼は謝りました。
熱心に勉強しているようで、私が会いに行くといつも机が出ていました。
おとなしく寝ていた方が良いのでは?
そう問いかけた時には、最初の頃は"そんな重症じゃないよ"なんて言ってむくれていたのに、
いつしか……本当に、いつの間にか……"今は調子いいから平気"なんて答えるようになっていましたっけ。
嗚呼、そう。
私は、気づかないフリを続けていた。
少しずつ掠れていく声も。
少しずつ、痩せていく体も。
……少しずつ、曇りがちになる笑顔も。
全部全部、気づいていないフリをした。
そうしていれば、いつか……
そんな、子供じみた幻想。
そう、幻想って気づいていたのに。
知らないフリを続けて。
わからないフリを続けて。
……おろかだったと、今の私なら、わかります。
クレースが、言いづらそうに私に"真実"を告げたのは、雨が雪に変わる頃のこと。
―― 僕ね、もう駄目みたいなんだ。
告げられた余命。
もう延命はしないと決めたと、クレースは言った。
どうして、と私は食い下がった。
例え命が助からなくても、一分でも一秒でも、長く生きていてほしかった。
でも彼は、言ったんです。
これから先、薬に頼ったところで治るはずがないのに治療を続ける意味はない。
どんどんボロボロになっていく自分を、その末に死んでいく自分を、見られたくない。
特に、カルには見られたくない。
彼は静かな声で言いました。
その言葉にともる、強い意志。
でも彼は穏やかに笑みを浮かべ、言いました。
諦めたわけじゃないんだよ。
僕だって、生きていたいんだもの。
精一杯頑張るよ。
彼はそういっていました。
私は、その言葉を信じました。
その時の彼は、自分の手首ではなくて私の手を強く握っていました。
あとどれくらい一緒に居られるか。
それは、考えるのをやめました。
雪の降る窓を二人で見つめたクリスマス。
彼が大好きな本を買って、プレゼントした。
彼は"何も用意できなくてごめんね"と言いながら、病院の売店で買ってきたらしいチョコレートをくれました。
そのころから、彼に会えない日が増えました。
医学部への進学を目指していた私は放課後の補講も増えてきたから。
……否、それだけではなく。
彼の病状が、悪い日が増えたから。
そういう時は、彼が私と会うことを拒んだのです。
弱っている姿を見せたくないのだと。
そんな日は看護師に自分がとったノートを託し、帰り、彼の体調が少しでも良くなることを願っていました。
携帯電話が震える度に怯え、番号を確認しました。
彼が入院している病院の電話番号は、記憶してしまっていましたから。
春が来て、桜が咲いて。
私たちは、三年生になりました。
クレースも、一応三年生に進級しました。
もうその頃には、学校に来ることは出来なくなっていたのですが。
綺麗な桜。
来年の今頃は大学生だろうかと私が呟けば、クレースは苦笑まじりに"僕はもう一年受験かなぁ"といっていました。
私は彼に言いました。
何度やり直しになったとしても、何年遅れになったとしても、頑張ればいいと。
自分は、待っていると。
その言葉にクレースは照れくさそうに笑っていました。
"ありがとう"といいました。
その頬に涙が伝い落ちているのには、気が付かないフリをしました。
桜が散り、新緑の五月。
彼に会える日はますます減りました。
彼が私に会うことを拒む日が増え、私は何度も何度も看護師に懇願しました。
彼に会いたいと。
苦しんでいるなら傍で慰めたいと。
しかし看護師たちは、決して首を縦には振りませんでした。
そして……
彼が、学校に来なくなって一年。
つめたい雨が降りしきる、ある日。
彼は、私に言いました。
―― たとえ。
僕が、このまま死んだとしても。
悲しんで足を止めることはしないで。
君(カル)はどうか、先に進んで。
夢をかなえて。
どうか、お願い。
まるで、最期みたいな言い方。
私はそれを聞いた時、言葉を失いました。
どうしてそんなことを?
死んだとして、なんて言わないでください。
そんなこと、起きないでしょう?
私がそう訊ねても、彼は微笑んで首を振るだけ。
"もう嘘をつくのはやめたんだよ"と彼は言いました。
何も言えなくなった私に、彼は言いました。
―― やくそく、しよう。
泣いてもいい。
ううん、そうしてくれたらうれしい。
でもどうか。
どうか……すぐに、歩いて。
とまらないで。
僕の所為で、カルが夢を諦めなければならなくなるなんて、嫌だよ。
そういって彼はそっと私に手を伸ばしました。
昔のような、無邪気な笑みを浮かべながら。
私はそんな彼を一度強く、抱きしめました。
壊れてしまいそうなほど華奢な体を。
必ず、進むとそう誓い。
例え、たとえあなたがいなくなっても消沈しないようにするからと。
その言葉を口に出した瞬間に胸が裂けたように痛み、私は泣きました。
クレースは笑っていました。
大丈夫だよ。
カルなら出来るよ、と。
そのあと私は彼と別れました。
いつものように、"また明日"と。
それが、最期の別れになりました。
その夜。
眠る私の枕元で鳴り響いた、電話。
それは、クレースの母親からの電話でした。
夜が明ける、少し前。
静かな雨が降る、真夜中。
彼が、天国へ旅立ったと。
涙声での、連絡でした。
紫陽花の花が綺麗に咲く、雨の日。
私は、彼を見送りました。
彼に恥じぬ生き方をすると誓い。
きっと、きっと……――
―― 交わした誓い ――
(足を止めない、進み続ける。
それが、私と彼との間で交わした約束)
(かけがえのない友人。
彼と笑い合えた日々を胸に私は前に進むしかなくて)
(彼の不在で空いた心の穴。
それは、誰にも気づかれぬよう押し殺し、隠し続けて生きている)