久しぶりの信号機トリオのお話です。
この三人でこういうやり取りしてるのが好きです←おい
*attention*
信号機トリオのお話です
ほのぼのなお話です
カナリスさん主観?なお話です
静かなライニさんと賑やかなアネットと
わいわいしてるこの三人を書きたかった←おい
相変わらずの妄想クオリティ
ナハトさん、本当にすみませんでした…!
以上がOKという方は追記からどうぞ!
バイオリンの音が響く秋の夜。
震えるような音が、空気を震わせていく。
静かなその部屋の椅子に腰かけているのは黒髪の少年。
猫の瞳のように鮮やかな金色の瞳。
それを細めながら親友の演奏を聞いている彼……カナリスは小さく息を吐いた。
こうして友人、ハイドリヒの演奏を聞くのは久しぶりだな、と思いながら。
尊大にも見える態度を晒すことも多いハイドリヒ。
しかし彼の演奏は繊細で美しく、プロに負けずとも劣らない音で奏でられていく。
こうして二人でゆっくりと過ごすことは昔にはよくあったけれど、
最近では互いの仕事も忙しく、何より二人の属する組織がライバル関係にあるため、
こうして一緒に過ごすことは少なくなっていた。
昔から、こうしてハイドリヒの演奏を聞くのが好きだった。
婚約を決めた許嫁ともよく一緒に聞いたっけ。
そんなことを思いながら、カナリスはハイドリヒの演奏を聞く。
彼の演奏は相変わらず美しい。
否、昔よりもなお技術も、表現力も上がっている気がした。
甘く柔らかな旋律。
切なげで悲しげな旋律。
そのどちらも、美しく演奏していく彼をカナリスはじっと見つめた。
「……あまり見られていると少し恥ずかしいのですが」
ふと、演奏が途切れた。
そしてハイドリヒがそんなことをいう。
恐らく恥ずかしいというよりは集中できないのだろうな、と思いながら、
カナリスは少し苦笑をして、ハイドリヒにいった。
「すみません。貴方の演奏を聴きながら昔のことを思い出していて」
「昔……ですか」
海軍にいた頃か、とハイドリヒは思う。
彼も思い返した辺りで、カナリスは金の瞳を細めた。
そして、小さく首を傾げつついう。
「昔のように甘えてくれてもいいのですよ」
幼い頃、ハイドリヒはカナリスによくなついていた。
周囲の、他の同僚たちに恐れられたり疎まれたりしていた孤高の野獣は、
自分を気にかけ面倒を見てくれた上官にくっついて歩いていたから。
しかし彼はそんなカナリスの言葉に少し眉を寄せる。
そして小さく息を吐き出すと、止めてしまった演奏を再開した。
そんな彼を見て、カナリスはくすりと笑う
そして目を閉じて演奏を聴いた。
流れる旋律。
器用に動く白い指が弦を押さえては離れる。
プロ顔負けのテクニック。
その演奏に身を委ねる。
と、再びハイドリヒの演奏が止まった。
今度の原因はカナリスではない。
カナリスにも彼の演奏が止まった理由はわかった。
「アネットさん、入ってきて良いですよ」
廊下にたっていたら寒いでしょう、とハイドリヒはドアの方へ向かって声をかける。
少し間が空いて、控えめにドアが開いた。
小さく笑いながら入ってきた彼……アネットは軽く頭を掻く。
「バレてたかー」
「バレてたも何も……貴方の気配はすぐにわかりますよ」
そう答えながらハイドリヒはひとつ溜め息を吐き出す。
アネットはその言葉に苦笑しつついった。
「ラインハルトがバイオリン弾いてるみたいだったから、
邪魔しないようにしたいなぁと思って待ってたんだけど……」
やっぱバレたかぁ、とアネットは呟く。
ハイドリヒは当たり前でしょうといいながら肩を竦めた。
そんな、旧友とは対照的な気質の彼の恋人を見て、カナリスは目を細める。
明るくて活発。
よくも悪くも正直者のあの少年は、ハイドリヒの支えになっていた。
自分が昔こなした立ち位置。
それをいまは彼がこなしている。
託してもいいな、という思いも抱いた。
頼もしいとは言いがたいかもしれない。
穴も多いし、戦闘能力が高いとはいっても限界がある。
暴走することも多いし、隙だらけで怪我をして帰ってくることも多々だ。
それでも、ハイドリヒは彼を大切に思っている。
しょうもない、馬鹿な子だと言いつつも、その抜けたところさえ愛しく感じている。
……もっとも、それを表面化することはなかったけれど。
「ヴィルも来てたのか、久しぶり!」
そういってアネットはにっと笑う。
カナリスもそんな彼に軽く会釈を返した。
「お久しぶりです、アネットさん」
「ラインハルトの部屋に二人ともいたんならもうちょい早く来れば良かった」
そういいながらアネットは少しむくれたような顔をした。
それを聞いてハイドリヒはすかさずいう。
「早くといったって、貴方は仕事があったでしょう。
昼間の任務の報告書。
ちゃんと仕上げてアレクさんに提出しましたか?」
ハイドリヒがそう訊ねると、アネットはうっと息をつまらせた。
そしてあちこちに視線を逃がしつつ、呟くような声でいう。
「提出はしたよ……うん」
「……出来はともかく、ということですか」
ハイドリヒがいうと、アネットは少し項垂れ気味に頷く。
やっぱりそんなことですか、とハイドリヒは溜め息ひとつ。
アネットの行動パターン等予想済みといったところか。
カナリスはそんな二人の様子を見てふっと笑った。
珍しい彼の笑みに気がついて、ハイドリヒとアネットは視線を彼の方へ向ける。
「どうしましたか?」
「何かおかしかったか、ヴィル?」
不思議そうな顔をしているアネットとハイドリヒ。
それを見て、カナリスはいう。
「いえ……本当に仲がいいな、と思いまして」
そんな彼の言葉に二人は一度大きく目を見開く。
そしてアネットは嬉しそうな顔を、ハイドリヒは少し仏頂面をする。
恐らくハイドリヒは露骨に照れた反応もしたくないし、
かといってあまりにそっけない反応だとアネットを傷つける。
だからそういう反応になったのだろうとカナリスは思った。
「へへ、俺たちの仲だもんな」
アネットはそういいながらぎゅっとハイドリヒを抱き締めた。
得意気にそういうアネットに、ハイドリヒは顔を真っ赤に染める。
「離れなさい暑いです」
「今日は少し寒いくらいだぞー?」
にやっと笑ってそういうアネットの背をハイドリヒはばちんと叩く。
いてぇと声をあげる彼を見て、カナリスは金色の瞳を細めた。
こうしてハイドリヒが誰かとじゃれあっている姿何てほとんど見なかった気がする。
だから新鮮であると同時、少し嬉しかった。
「ライニも変わりましたねぇ……」
二人に聞こえない声で、カナリスはポツリと呟くようにいう。
そして再び金色の瞳を細めた。
ハイドリヒと二人でいた時とは対照的に賑やかなこの部屋。
でもこんな空間も悪くない。
そう思いながらカナリスはそっと前髪をかき上げたのだった。
―― autumn night ――
(そんな穏やかな秋の夜
可愛い旧友とその恋人と過ごす穏やかな時間)
(任せますね、なんていうのは少し癪だけれど、
彼が幸せに過ごせることが僕の何よりの願いですから)