フォルとノアールのお話です。
完全シリアス思考に堕ちてるノアを書きたくて…
無彩色極彩色コラボでの絡みもやりたいなぁと思って書いてたのですが長くなったので…
此処で切りました←おい 続きもやれそうならやっていいならやりたいなとか思いつつ(^q^)
ノアは基本的に一度堕ちたらとことん堕ちる気質なので…
こういうの好きです←
ともあれ、追記からお話ですー!
美しい月が煌めく夜……
亜麻色の髪の堕天使は、珍しく自分達の屋敷に帰ってきていた。
静かな部屋。
そこで本を開いている彼の前に、長身の青年が立った。
「主」
その呼び方に、フォルは顔をあげる。
そのサファイアの瞳が捉えた彼……ノアールはじっとフォルを見つめていた。
その真剣な声色と雰囲気を感じて、フォルは目を細める。
「どうしたの?ノアール」
そんなにかしこまって、とノアールは言う。
彼が自分にたいして礼儀正しいのはいつものことだが、
いつもの彼とは少し、雰囲気が違っている気がした。
ノアールは彼の傍に跪くと、そっと彼の手をとった。
そしてそこに軽くキスを落とす。
「主に、お願いしたいことがあるのです」
「へぇ、何?」
フォルは目を細めつつそう問いかける。
返し方こそ軽かったが彼の声は真剣で、いつものような調子ではない。
それをノアールも察したのか幾らかほっとしたように言う。
フォルは時々色々と冗談として捉える節があるから。
今から頼もうとしていることは冗談としてとらえてほしくなかった。
星のない夜のような漆黒の瞳。
それで自分の主人を見つめながら、ノアールはいった。
「私を殺してほしいのです」
彼の声は淡々としていた。
フォルもその言葉は想定していたようで、驚いた様子は見せない。
へぇ、と声を漏らした後、首をかしげて、訊ねた。
「どうして?」
「すべて、終わりにしたい……解放してほしいんです。
この世界で生きていることは、私にとっては苦しすぎる」
そういいながらノアールはぎゅっと自分の服の胸辺りを握る。
彼にしては珍しい動作だった。
苦しい。
ノアールはそういう。
フォルはそんな彼を見つめて、さらに"どうして?"と問いかける。
ノアールは彼の問いかけに、静かな声で答えた。
「"愛情"を、求める自分に嫌気が指したからです」
「愛情?求めれば良いじゃない。
それを与えてくれるであろう人も出来たでしょう?」
フォルはノアールにそういう。
彼には、出来たはずだ。
彼を愛してくれるであろう人。
彼も、大切だと思っているであろう人が。
しかし、ノアールは首を振る。
そして、"私には無理だったんです"と呟くようにいった。
「確かに、そういう存在は出来たのかもしれません。
しかし親にさえも愛されなかった俺には、それが何であるのかわからない。
それを受け入れる術も、返す術も理解出来ない……
その癖、それを心の何処かで求めてしまう」
愛してほしい。
愛されたい。
そんな願いが、心の何処かに灯った。
かつては抱きもしなかった……否、抱いたとしても殺してきた想いが。
「こんな自分が自分で憎い……
醜くて、浅ましくて……そんな自分が惨めで、苦しい」
だから。
もう、終わりにしたい。
こんな苦しい矛盾のなかにいきるのは苦しいし、意味もないから。
ノアールはそういう。
なにも言わず、フォルは彼を見つめた。
ノアールはふっと息を吐き出すと、そっと自分の胸に触れる。
そして自嘲するように呟いた。
「いっそ、昔のままにいられれば……
貴方と出会った頃のままでいられれば良かった。
そうすれば、こんな感情を抱くこともなかった」
ただただ残忍であれば良かった。
人のことは駒と思い、信じるものがフォルだけであれば良かった。
ノアールはそういう。
フォルは暫しそんな彼を見つめた。
そして小さく息を吐き出してから、ノアールに言う。
「……そう。君がそういうなら、僕はそれに従うよ」
殺してあげる。
フォルはあっさりとそういった。
ノアールを見つめながらふわりと微笑んで、言う。
「君を操り人形にしたのは僕だからね。
その糸を切ってあげるのも僕の仕事だ」
そういいながら、フォルはノアールに立つようにいった。
そして、自分より少し背が高い彼をそっと抱き寄せる。
軽く頬に手を添えて、優しく撫でながらいった。
「本気、だよね?」
「……えぇ」
迷いは、ない。
ノアールはそういう。
フォルはそれに頷くと、"君の部屋にいこうか"といった。
それに従って、ノアールは自分の部屋に向かう。
そして、促されるままにベッドに座った。
そのまま、彼が差し出した小さな錠剤を口に放り込む。
恐らく毒なのだろうな、とノアールは思った。
フォルは呪術にも詳しいと同時に、こういうことにも詳しかったはずだから。
フォルはそんな彼をじっと見つめた後、そっとその額にキスをおとした。
魔術をかけられたのか、ノアールの体から力が抜ける。
ベッドの上に倒れた彼の額を撫でながらフォルは微笑んだ。
そして、小さく首をかしげる。
「……何か、誰かに伝えることはない?」
最期に、と言うことだろうか。
少し薄れ始めた意識のなかでそう思いながら、ノアールは口を開いた。
「…………アイツ、に」
掠れた声。
フォルはそれを聞きながらそっとノアールの額を撫でる。
「フランコに、……否、やはり何でもないです」
いいかけて、やめた。
やはり言う意味はない、言う必要はないと思ったかのように。
フォルはそれを深追いすることもしなかった。
そしてふっと息を吐き出しつつ言う。
「そう?」
ほんとにいいの?
そう問いかけるフォルに、ノアールはこっくりと頷く。
フォルはそれを見つめると、サファイアの瞳を細めつつ、いった。
「……じゃあおやすみ、ノアール」
そういって、フォルは軽くノアールの頬にキスを落とす。
彼から恋人以外にそういう行動をとることは珍しいな、とノアールは思う。
遠退いていく意識に、ほんの少しだけ恐怖心を抱いたりもした。
しかし、それと同時に安心もしていた。
嗚呼、これでやっと終わる。
やっと、解放される。
愛されたくても愛されない。
愛したくても愛せない。
そんな苦しい世界から解放される、と……
目を閉じる。
もう、なにも見えなくなる。
なにも、感じなくなる。
それに少なからず安心した気がした。
そんなノアールをじっと見つめていたフォルは小さく息を吐き出すと、
一度彼の頬を撫でながら何か考えるような顔をしていたのだった。
―― 閉じる世界に ――
(もう限界だと思った。
悪魔にもなりきれず、人間にもなりきれなかった俺の滑稽な願い)
(愛したい。愛されたい。
それを願うことはきっと間違っていた)