ザイス=インクヴァルトさんとリトのお話です。
あの手この手でザイス=インクヴァルトさんを振り向かせようとするリトを書きたくて…
ちょっとでも意識してほしいなぁというあれでした(笑)
どうにか進展させてみたいコラボです…←
*attention*
ザイス=インクヴァルトさんとリトのお話です。
ほのぼの?ちょっとシリアス?なお話です。
リトはとかく騙されやすい気質です…
リトのあまりの懸命さに困惑するザイス=インクヴァルトさんだったらいいなと言う妄想←
リトはとにかくザイス=インクヴァルトさんに関心を向けてほしいのだと思います(笑)
どうにか進展させたかったけど空回している星蘭クオリティ←
ナハトさん、本当にすみませんでした…!
以上がokという方は追記からどうぞ!
よく晴れた、夏の日の午後……
強い日差しが、降り注ぐ。
人々は少し日差しを避けるようにして街を行き交っていた。
そんな日……
黄緑髪の男性、ザイス=インクヴァルトはディアロ城の城下町に来ていた。
仕事の合間の、休み。
彼が仕事をこなす国からは少し離れたこの国では、
見たことがあまりない本も多く扱っている。
せっかくこうして来ているのだから見ていくのもよいだろう、そう思ったのだ。
大きな書店を幾つか回り、滞在している宿に戻ろうか……
彼が、そう思った時。
「アルトゥール!」
聞きなれた声が、聞こえた。
その声にザイス=インクヴァルトは小さく溜め息を吐き出す。
あの声は、この国の警察組織の一員である、赤髪の少年の声。
どういう訳か彼になついた、人懐っこい気質の少年だ。
溜め息を吐き出したのは別に彼のことが嫌いという訳ではない。
好きな訳でも嫌いな訳でもない、どちらでもいい人間。
しかし……
自分にやたらなついてくる彼の扱いに、ザイス=インクヴァルトは困っているのだ。
彼が望むようなリアクションをとるつもりはなく、とれる訳でもないのに、
彼は何を期待してか、やたらと自分に絡んでくる。
そして、無反応な自分を見て泣くのだ。
―― どうしてそんな何もかも諦めたみたいな顔してんだよ?
それは、彼に問われたこと。
あぁ自分はそんな顔をしているのか。
ザイス=インクヴァルトはそんなことを考えもした。
でも、そういわれたって、意識的にそんな顔をしている訳ではない。
心からの思いが、その表情を作り上げてしまっているだけだ。
それを見て彼は、悲しそうな顔をする。
悔しそうな顔を、する。
そんな彼のリアクションを見て少し困ってしまうから、
嫌いではないが苦手といえば苦手なのかもしれない。
彼のことが。
そう考えていると同時、予想通りの人物……リトが駆け寄ってきた。
それを見て、ザイス=インクヴァルトは小さく首をかしげる。
「……?どうかしましたか?」
別に嫌いという訳ではないから、対応には別に困らない。
別段冷たい態度をとってしまうことがあるわけでもない。
そう思いつつザイス=インクヴァルトが訊ねると、
リトは笑顔を浮かべて、何かを差し出した。
「これ、これやるよ!」
それは、綺麗な包み紙に包まれたキャンディだった。
何故唐突にそんなものを?
一瞬そう思ったザイス=インクヴァルトだったが……
すぐに思い出した。
目の前にいる彼は、部屋に菓子類を溜め込むほどの甘党だったな、と。
別に断る理由もないか。
そう思いながら、ザイス=インクヴァルトは彼が差し出したキャンディを受け取った。
「食ってみてよ!それ美味しいんだ!」
リトは何故か笑顔でそう急かす。
ザイス=インクヴァルトは怪訝そうな顔をして、リトの方を見た。
彼はポケットを探って何かを引っ張り出す。
それは、今ザイス=インクヴァルトに渡したのと同じキャンディ。
その数はいったいどうしたのだろう。
そう思って驚いたように目を丸くするザイス=インクヴァルトを見て、
リトは満足そうににっと笑った。
「うまかったらもっとあげる!」
「別にそんなに飴はいりませんが……」
「いいから食ってみろって!」
な?と笑顔で言うリト。
放っておいたらまた泣き出しそうだ。
自分よりずっと年下のこの少年は、案外泣き虫だから。
そう思いつつ、ザイス=インクヴァルトは彼にもらったキャンディを口に放り込む。
普通の、甘いキャンディだ。
イチゴ味だろうか。
そんな風味が口に広がる。
リトはじっとそんな彼の方を見つめて、問いかけた。
「……なんともない?」
その問いかけはおかしくないか?
そう思う。
美味しい?と言う問いかけなら納得なのだが……
そう思いつつ、ザイス=インクヴァルトは返答した。
「?……なんともありませんが」
いったい彼は何を求めているのだろう。
リアクションしようにも、いたって普通のキャンディだ。
別段、変わったところはない。
彼がそんなことを思っていると……
リトの目に、じわりと涙が浮かんだ。
それを見て驚いた顔をするザイス=インクヴァルト。
何でリトは泣き出した?
「……な、何で泣くんですか」
「うー……」
ぐす、と鼻を啜りつつ、リトは呟くように言う。
「だって、メイアン局長が惚れ薬だっていうから……」
「はぁ?」
ザイス=インクヴァルトの口から流石に少し呆れた声が出た。
惚れ薬?
そんな怪しげなものを警察組織の人間が一般人に飲ませたらマズいだろう。
というかそれを渡した"メイアン"とやらに問題がある。
しかし、どうやらそれは嘘の様子。
だって、ザイス=インクヴァルトはなんともない。
「……また騙された」
ぽつり、とリトは呟いた。
すっかり消沈した様子の彼の表情。
その言葉に瞬く、ザイス=インクヴァルトの金色の瞳。
彼は、リトに問いかけた。
「また、って……」
「いつものことだもん。メイアン局長が俺を騙すの」
真剣に相談したのに……と落ち込んだ顔をしているリト。
俯いたまましょぼんとしているリトを見て、
ザイス=インクヴァルトは困った顔をする。
これだから、彼の扱いは得意でないのだ。
「いつも騙される、って……貴方はそういう気質ですか」
「もう少しヒトを疑えってよく言われる……」
あぁなるほど。
そういうタイプの人間か。
そう思ってため息を吐き出すザイス=インクヴァルト。
何となく、納得だ。
彼は純真で、子供のようで。
たぶん、騙されやすい気質なのだろう。
そのメイアンという人物にもよく騙されているらしいし……
今回も、ただの飴玉を惚れ薬だと偽られ、渡されたらしい。
それにしても……――
「惚れ薬って……
何でそんなものを私に盛ろうと考えたんですか」
ザイス=インクヴァルトはそれをリトに問いかける。
リトは暫し黙ったままで俯いていたが……
やがて小さく溜め息を吐き出して、いった。
「……名前、呼んでほしかったから」
本気でその薬で好きになってほしかった訳じゃない。
例え好きになってくれたってそれは一時のことだってわかってた。
でも、一度でいいから……
名前を呼んでくれたらそれでよかった。
リトはそんなようなことを言う。
やたらと彼は、それに拘る。
名前を呼ぶ。
ただ、それだけの行為。
まるでそれが、何かの証であるかのように。
それくらいなら呼んでやるけれど、そう思いつつ、
ザイス=インクヴァルトが口を開きかけた、その時。
「って言うか、俺が悪い。
道具に頼ろうとした俺がバカだった」
薬で、道具で、好きになってもらおうと思った自分がバカだった。
騙されてその効果を見てさえいないのに、彼はそんなことを言う。
前向きというか、なんと言うか……
「……どうして、貴方はそんなに……」
どうしてそんなにも自分に拘るのだろう。
彼はそこそこ可愛らしい顔立ちをしているのだし、
恋人に困るようなタイプではないはず。
それなのに何故、自分のような人間に構う?
そう問いかけるザイス=インクヴァルトに、リトはむくれたように答えた。
「アルトゥールのことが好きだからっていっただろ」
お前のことが好きだからだ、とリトは言う。
それを聞いて少し顔をしかめるザイス=インクヴァルトは、溜め息混じりにいった。
「私のこと等好いてもなんのメリットもありませんよ」
自分のような人間を好いたところで、なにも良いこと等ない。
一緒にいても貴方にとってプラスになることなどない。
淡々とそういうザイス=インクヴァルトを見て、
リトは金色の瞳を怒らせて、言った。
「アルトゥールは損得で恋愛するのかよ!」
その剣幕に、少しだけ驚いた。
どうして彼は、こんなにも本気で怒るのだろう……?
もう、よくわからない。
困惑した表情を浮かべるザイス=インクヴァルトを見つめて、リトは言った。
「好きになっちゃったんだもん仕方ないだろ!」
ばーか、といって彼は駆けていく。
そのポケットからばらばらとイチゴ味のキャンディがこぼれ落ちた。
呼び止めようとしたが、無駄に足が速い彼。
走って追い付いても、このキャンディを拾いに戻るのが馬鹿馬鹿しい。
ザイス=インクヴァルトはそんな彼の後ろ姿を見つめた末、
彼がばらまいていったキャンディを拾い集める。
そしてそれをまじまじと見つめた。
彼はこれを惚れ薬だといって渡されたと言う。
それを無邪気に信じて、自分に渡して来た彼。
彼はいったいなにがしたいのか。
それを問いかければ、彼はただ名前を呼んでほしかったと言う。
そして、出来れば……
好きになってほしかったと言う。
「……貴方は、本当に変わった人だ」
ザイス=インクヴァルトはそう呟きながら、
彼が落としていったキャンディをポケットに入れた。
手についた、甘いイチゴの香り。
イチゴのように赤い髪をした彼の後ろ姿を思い出して、
ザイス=インクヴァルトは小さく息を吐き出したのだった。
―― Fake love potion ――
(偽物の、イチゴ味の惚れ薬
それに貴方が託した想いは、一体……?)
(ただただ望んだ。お前が俺に関心を向けてくれること。
ただ、ただ、お前のその表情をぬぐいたいだけなんだ……――)