ペルとフォルのお話です。
ペル視点で、あの子の過去を書いておきたいと思いまして…
「お母さん」「母さん」「ママ」のどれで呼ばせるかに悩みました…(笑)
個人的に、一番嵌まったので書きました←
ペルは個人的に影猫勢でとても好きなキャラですし
何よりコラボさせていただいてる子なので…
最近ブームってます←おい
ともあれ追記からお話です!
Side ペル
覚えている最初の記憶は、冷たい、冷たい、冬景色だった。
窓の外に見える、綺麗な雪景色。
温かな暖炉(ペチカ)。柔らかな光。
雪に反射した眩しい白い光に僕は何度も目を細めた。
眩しくて、眩しくて、でも綺麗で……――
目を離せずにいた。
"その頃の"僕は優しい女の人と、いつでも一緒に居た。
優しいその人は、良く僕の頭を撫でてくれた。
嗚呼、その所為か。
僕が、頭を撫でられるのがとても好きなのは……
あの人……お母さんに、撫でられるのが好きだったから。
でも、それがいつのそれだったのかは、良く覚えていない。
でも、多分……本当に、本当に、小さい頃のことだった。
だって、僕に記憶がしっかりあるのは……
怯えて暮らす、戦禍の生活。
襲撃に怯える生活。
あれは、何時だったかな。
決定的な、"あのとき"は……――
僕が死ぬ、多分少し前かな……
あれは、突然の出来事だった。
明りも消した、静かな家の中。
僕は、いつも通りにお母さんと一緒に居た。
急に、ドアが開いて知らない人たちが入ってきて。
彼らは各々武器を持っていた。
それを見たお母さんは、僕を抱いて逃げようとした。
僕は、もうだいぶ体も大きくなっていて、栄養もロクに取れなくて細いお母さんの体では、
抱いて走ることはつらかっただろう。
それでもお母さんは逃げようとしてくれた。
僕はあまり体が強い方でなかったし、家の中で本を読んでいる方が好きだったし、
外を走ることなんてほとんどしたことがなかったから、
僕が一人で逃げたら途中で捕まってしまうだろうと思ったんだろう。
でも、足も限界で、体力も限界で、雪に足をとられたお母さんは転んだ。
僕は真っ白い雪の上に放り出されて……
振り向いた、その先に拳銃を突き付けられたお母さんの姿があった。
―― 一瞬、時間が止まっていた気がした。
お母さんは、僕をまっすぐに見つめていた。
僕は思わず固まる。
そんな僕に、お母さんは言った。
震える、掠れる声で。
「逃げなさい……」
「お母さん……?」
何を言っているの。
お母さんも一緒に逃げようよ。
此処まで一緒に逃げてきたんだよ。
これからも一緒に居たいんだよ。
言いたいことはたくさんあるのに、ひとつも言葉にはなってくれなくて……
口を開きかけるより先、お母さんが叫ぶような声で言った。
「逃げなさい、ヴァレリー!」
それに弾かれたように走り出したその時のことを、今なら鮮明に思い出せる。
―― 嗚呼、そうだ。
僕の、本当の名前。ヴァレリー……
"ペル"と呼ばれるようになる前に、呼ばれていた名前だ。
ヴァレリー。
最期の最期に、お母さんは僕の名前を呼んでくれた。
そう、だったんだね。
僕はそこから必死に走って、逃げた。
後ろで響く、銃声。
ほんの一瞬振り向いたときに目に映ったのは、倒れているおかあさんの姿だった。
あぁ、撃たれてしまったんだ。
あぁ、殺されてしまったんだ。
僕は、一人……一人ぼっちだ。
お父さんは僕が生まれる前に居なくなってしまったし、お母さんは殺されてしまった。
こんなところには、居られない。
家にもきっともう、帰れない……
そうおもった僕は、とにかく逃げた。
逃げて、逃げて、逃げのびて……
その先にあったのは虚無だった。
誰にも助けてもらえない。
誰にも見てもらえない。
そんな空間で……僕は、死んで。
どういう因果でか、御主人に拾われた。
そこからきっと、記憶は少しずつ消されて、薄れていて……――
あれ?
何でいきなり思い出したんだろう。
***
「ん……」
僕が目を開けた時、そこに居たのは優しく微笑んでいる御主人(マスター)だった。
いったい、どうして?
僕が体を起こすと、御主人は優しく頭を撫でてくれた。
「君が何者か、思い出せた?」
はっきりと、と御主人は問いかける。
僕はその言葉に小さく頷いた。
思い出したのは御主人のおかげか。
元々、僕の記憶が薄れていたのも、御主人の魔術故なのだから当然といえば、当然か……
そう思いつつ、僕は小さく溜め息を吐き出した。
「……どうして」
僕は御主人に問いかけた。
いったいどうして、こんなに唐突に僕の記憶をもとに戻したのか。
その問いかけに御主人は微笑んで、応えた。
「君が、誰かに君が何者か問われた時……
それを答えられなかったら辛いかな、と思ってね」
「……答える、必要があるの?」
「さぁねぇ……でも、ちゃんと話したいと思う時が来るかもしれない。
その時に何も言えないのは、辛くないかな?」
御主人の問いかけに僕は俯いた。
正直、答えはわからない。
だって……
こんな過去の記憶、話したところで何になるの?
僕がヴァレリーと呼ばれていたこと。
北方で生きていたこと。
すぐ後ろでお母さんを撃ち殺されたこと……
何一つ、良い記憶なんてないのに。
御主人は暫しそんな僕のことを見つめていた。
そうかと思うと、彼は小さく息を吐き出して……呟く様な声で、言った。
「そんな記憶を持っているから」
「え……」
一体何?
僕が問いかけると、御主人は微笑みながら言った。
「辛いんだよ、って言ってみれば良いじゃない。
君は甘えるのが下手だから、そのための武器にしてしまえば良いんだよ」
僕は御主人の言葉に瞬きをする。
そして、溜め息を吐き出しながら言った。
「……それは、狡いと思う」
同情引くみたいで嫌だ、と僕が言うと御主人は君らしいや、といって笑った。
僕はそんな彼に小さく頷いて、窓の外を見た。
外には、雪なんて降っていない。
でも、頭の中にはその時の景色が、広がっていた。
―― 消されていた記憶 ――
(思い出した、取り戻した記憶。
それが、戻ったことは果たして良いこと?悪いこと?)
(わからない、わからないけれど…
こうして思い出した記憶を話せるときが来るのかな…?)
2014-6-9 00:16