フォルとノア、ブランのお話です。
ほのぼのめなお話になりました…(笑)
単純にノアを慕うブランと、オムライス食べたいってせがむフォルを書きたくて…←
ノアは昔と変わったところと変わらなかったところとがあると思います←
ともあれ、追記からお話ですー!
光が降り注ぐ、窓辺。
黒髪の青年……ノアールはふっと目を開けた。
どうやら寝入ってしまっていたらしい。
そう思いつつ、ノアールは小さく溜息を吐き出した。
こうして転寝をするのはあまり好きではないのだが……疲れていたようで、寝入ってしまったようだった。
暖かな春の窓辺。
そこで本を読んでいたのである。
と、背中にポンと何かが飛びついてきた。何か……基、誰かが。
「ノア兄様!」
人懐っこい声がノアールを呼ぶ。
ノアールは首だけで飛びついてきた相手の方を見た。
そこにいたのは灰色の帽子を被った黒髪の少年。
ノアールは彼の方を見て、いう。
「……ブランシュ、か」
ノアールが小さな声でその名前で呼べば、ブランシュと呼ばれた少年はぶぅっと頬を膨らませた。
そして、ノアールを見ながらいう。
「もぅ……ノア兄様ってば、僕のことはブランって呼んでくださいっていたじゃないですかぁ」
「……ブラン。何の用事だ」
ノアールは溜息まじりにそういう。
彼……周囲にブランと呼ばれている少年はいつもノアールのことをノア兄様と呼ぶ。
境遇ゆえにノアールに懐いているのは知っているのだが……少々喧しいと感じることもあるのは事実で。
しかし、呆れた様子のノアールにめげた様子はなく、ブランはきょとんとした。
そして、ぱちぱちと瞬きをする。
「え?用事、って用事でもないですけれど……」
「何もないなら話しかけるな……」
まったく、とノアールは呟く。
居眠りをしていたためか、少し機嫌が悪いのはいつものことだ。
ブランもそれは知っているため、ノアールの返答がつれないものでもあまり気にした様子はない。
抱き付いていたノアールから少し離れつつ、ブランは彼にいった。
「ねぇ、ノア兄様」
「何だ?」
やや不機嫌そうにノアールがそういうと、ブランは小さく首を傾げた。
「ノア兄様のお名前は、黒を意味するお名前なのですよね?」
「あぁ」
だからどうした、というようにノアールは眉を寄せる。
ブランはそんな彼の方を見ながら、にこにこと訊ねる。
「どうしてそのようなお名前を?」
「どうして、って……さぁ、な。俺の髪が黒いからじゃないか。
俺自身で付けた名前ではない。主がつけてくださった名前だ。
俺が、お前にしたように」
ノアールはそういって、目を伏せる。
本当の名前は捨てた。
代わりに、彼の主がくれた名前をずっと名乗っている。
その時のことは、ノアールもよく覚えていた。
ブランはそんな表情を見て、微笑む。
そして小さく首を傾げて、彼に訊ねた。
「そのお名前、気に入ってます?」
「勿論だ」
躊躇い無しにノアールは頷く。
主……フォルに貰った名前。
それを大切に思わないはずがない。
気に入らないはずがない、と。
ノアールがそう返答した、その時。
「ふふ、よかった」
小さく笑う声。
そして、少し幼いような雰囲気の青年の声が聞こえた。
ノアールのものでも、ブランのものでもない声。
ブランとノアールは驚いたようにその声の方を振り向いた。
そこに立っていたのは亜麻色の髪の青年……フォルで。
「!主!」
「御主人(マスター)!」
二人が大きな声をあげると、フォルはくすくすと笑った。
"なかなかいいリアクションだね"と笑った後、フォルはノアールの方を見た。
そして、微笑んだままにノアールにいう。
「気に入ってくれてるなら何よりだよその名前」
「無論です。主が私に付けてくださった、名前……私は、この名前を本当の名前として生きていますから」
胸に手を当て、軽く体を折りながら、ノアールはそういう。
フォルはそんな彼の返答に満足そうな顔をする。
そして視線をノアールの傍に立っている幼い少年の方に移し、問いかけた。
「ふふ、そうか。ブランも同じ?」
「え?」
不意に話を振られて、少し面食らった顔をするブラン。
フォルはそんな彼に質問を重ねた。
「ブランも同じかな?
僕がノアールにしたように、ノアールに付けてもらったんだろう、名前」
「え。えぇ……御主人、僕もノア兄様に付けて頂いたこの名前、大切に思っています」
ブランは質問の意図を理解すると元気よく頷いた。
そして、愛しげにノアールの方を見る。
自分を拾ってくれたノアール。
そんな彼に、狂信的といえそうなレベルの忠誠を誓っているブラン……
フォルも、そのことはよく知っている。
嬉しそうにノアールを見ているブランを見て目を細めると、フォルは視線をノアールに移した。
「そう。よかったねノアール」
「……えぇ」
こくり、とノアールは頷く。
内心どうでも良かったが、主の問いかけに首を振ることはしなかった。
フォルはそんな彼とブランを交互に見ると、ブランに向かっていった。
「じゃあ、ちょっと僕とノアは用事があるから。ブランはシャムたちの任務を手伝いに行ってくれる?」
「はい、わかりました御主人!」
そういって、ブランは部屋を出ていく。
静かになった部屋で、ノアールは小さく溜息を吐き出した。
やれやれ漸くいなくなった、と言わんばかりの表情。
フォルはそれを見てくすくすと笑う。
そしてノアールにゆっくりと歩み寄ると、自分より背が高いノアールの頬に触れた。
そして、にっこりとほほ笑みながら、いう。
「……本当にうれしかったよ」
「事実を、述べたまでですから」
ノアールはそう答える。
そう、事実。
事実、ノアールは自分の名前を気に入っている。
両親には疎まれた、漆黒の髪と瞳。
それを見て、フォルは綺麗だと言ってくれたから。
認めてくれた上での、"黒"という名前だから……――
フォルはそう返答するノアールを見て、そっか、と頷く。
そして、少し甘えるような声色でノアールに言った。
「久しぶりに君と二人で夕飯食べたいな。色々お話しながら」
「……何をご用意しましょうか」
この屋敷では料理はたいていノアールがしている。
外食をすることもあるが、賑やかなのをフォルもノアールも好かないため、滅多にしない。
フォルはノアールの問いかけに少し悩んだ顔をした。
そして、ぱっと顔を輝かせて、いう。
「うーん……オムライスが食べたいな。君が作るあれは美味しいから」
「ふ……畏まりました。食堂に行きましょうか」
ふわり、と珍しい笑みを浮かべると、ノアールはキッチンの方へ歩き出す。
自分より三つ年下。
でも、本来の年齢より少し幼く感じる、フォル……
そんな彼の様子さえも愛しいと感じるのは忠誠心ゆえか。
ふとフォルが視線を投げた窓の外では、春の日差しの中をブランが走っていくところだった。
フォルとノアール、二人の指示ならばおとなしく聞く、忠実な操り人形……
その姿を見送って、フォルは目を細める。
足を止めたフォルの方をノアールはふり向いた。
そして怪訝そうに首を傾げつつ、フォルを呼ぶ。
「主?」
「あ、ごめんごめん!今行くよ!」
フォルはノアールにそう返事をして、先に部屋を出て行った彼を追いかけた……――
***
「ん……」
「おはよノア」
不意に声をかけられて、ノアールは目を開けた。
声をかけ、覗き込んでくる青い瞳……
ノアールははっとしたように目を見開く。
夢を、見ていた。
既視感……
あの時は最初に声をかけてきたのがブランシュだったけれど。
そう思いつつしばし返答できずにいれば、フォルは不思議そうな顔をして首を傾げた。
「どうしたの、ノアール」
「え?い、いえ……すみません、ぼうっとしてしまって」
「ふふ、珍しいね」
フォルは深く考えた様子はなく、くすりと笑っていった。
そして、ノアールの頬に触れる。
「おなかすいた。ねぇ、ノアール……久しぶりにごはん作ってくれない?」
あぁ、これも既視感だな。
そう思いつつ、ノアールはそっと表情を緩めた。
そして、彼に問いかける。"何が食べたいですか"と。
―― 愛しさと忠誠と。 ――
(状況は変われども貴方への忠誠は変わらない)
(君と"あの子"との関係は壊れたけれど僕と君の関係は変わらないままだったね)