久々に赤髪金髪コラボでシリアスめなお話をば…
悲恋のままに終わることを恐れつつも変えられる気がしない…
なんて悩む美人さんって素敵だな、と…←ぇ
*attention*
赤髪金髪コラボのSSです
シリアスめなお話です
なんだか凄く歯切れ悪い感じのエンド担ってしまいました…;;
ライニさんの任務とアネットの任務とは大きく違うところがあるので…
そういったところでライニさんも不安になったりしてたらいいな、と…
シリアス好きな星蘭が暴走しました←おい
色々全力妄想クオリティ
ナハトさん、本当にすみませんでした…!
以上がOKというかたは追記からどうぞ!
静かな月明かりの下、金髪の少年はバルコニーに出ていた。
美しい長い金髪が冷たい夜の風に揺れる。
肌に吹き付ける風は凍るように冷たい。
しかし金髪の少年……ハイドリヒは寒さなどまるで感じていないかのように、
平然としてバルコニーの手摺に凭れていた。
任務を終えて帰ってきた体には、ある意味で心地よい風なのかもしれない。
頭を、心を冷静にするためには、特に。
ハイドリヒはちら、と視線を自分の手元におとした。
彼が片手に握った拳銃からはまだ、硝煙の臭いが立ち上っていた。
ハイドリヒはす、と碧い瞳を細める。
その表情に滲んでいたのは……一体、どんな感情だろう。
政敵や自分達の敵となりうる組織の人間を"消す"のは、案外普通に行われる。
そしてハイドリヒは昔から、そういった仕事も請け負ってきたたちだ。
今日も……そういった、任務だった。
ディアロ城に出入りするようになってからは大分減った気もするが、
それでも、ないわけではない。
久しぶりで腕が鈍っていないか少々不安だったが……
腕前は少しも落ちていなかった。
―― 慣れたはずのその臭いに目眩がした。
慣れたはずなのに。
人を殺めることにも、銃を握ることにも。
任務を遂行する際、感情的になってはいけない。
自分の標的に何かしらの思いを抱いていてはいけない。
哀れみだとか、殺めることに対する罪悪感だとか……
そういったものは、一切心に抱いてはいけないのだ。
それは、初めて人を殺めたあの日から、ずっとその心に留めてきたこと。
それなのに。
「……らしくもない」
黄昏るのは、自分らしくない。
何より、こんなマイナス思考に陥っている自分が憎たらしい。
はぁ、と息を吐き出せばその吐息は白く凍って空に昇った。
何の気はなしに空を見上げて……ハイドリヒは目を見開いた。
「雪……」
ちらちらと、白い雪が舞い落ちてきた。
今日は確かに冷えるな、と思っていたのだけれど……
部屋に、帰るべきと思う。
寒いし、こんなところに突っ立っていたら雪に濡れる。
真っ白い雪。
自分には不似合いな気がして、ハイドリヒの顔に自嘲の笑みが浮かんだ。
この真っ白い雪ですべてが覆い隠されてしまえばいいのに。
そんな、らしくもないことを思う。
―― その、刹那。
ハイドリヒはふわり、と後ろから抱き締められた。
暖かい体。耳にかかる吐息。
びくり、とハイドリヒの体が強張る。
そして彼はその腕から逃れようと藻掻いた。
「アネットさん、離してください……」
犯人が誰かは、すぐにわかった。
気配を感じていなかったわけではない。
"彼"の気配は、誰よりもよく知っている。
うっすらと、本当は気づいていた。
けれど、気付かないフリをしていた。
今、彼に会いたくなかった……
甘えてしまう、気がしたから。
甘えてしまう自分が、憎いから。
狡いとわかっているから。
しかし、そんなハイドリヒの思いには気づいていないように、
あるいは、気づいていても無視するように、
赤髪の少年……アネットは彼を抱き締める。
「寒いだろ。風邪、引くぞ」
アネットはハイドリヒにそういった。
いつもより少し、低くて小さな声で。
この寒い空の下、長時間いたら寒さで風邪を引くだろう。
雪だって降りだした。
ハイドリヒの綺麗な金髪の上にはすでにちらちらと、雪が積もったりしている。
しかし、ハイドリヒは小さく藻掻いてその温もりから逃れようとした。
すがってはいけない、というように。
「……平気です。放っておいてください」
「放っておけねぇよ。そんな顔をしてるラインハルト」
「……そんな顔?」
ハイドリヒは怪訝そうな顔をした。
そんな顔、とは一体どんな顔だろう。
そもそも、ハイドリヒはずっと部屋に背を向けて外にいた。
アネットにはまだ、一度も顔を見せていない。
いったい、何を思って彼はそんなことを……?
ハイドリヒがそう問いかけると、アネットの腕の力が強くなった。
「……後ろから見てたってわかる。
ラインハルトが何か考え込んでることくらい……
任務、いってたのか?」
ハイドリヒを抱き締めるアネットの片腕が外れた。
そしてその手はそっと、ハイドリヒの手に触れる。
銃を持っている方の手に。
びくり、と再びハイドリヒの体が跳ねた。
しかし、一瞬の動揺を隠しながら、ハイドリヒは言う。
「……えぇ。任務に出ていました」
「そっか……お疲れ」
「……何のつもりですかアネットさん」
わざと少し、強い声でそういった。
拒絶にも捉えられるような、そんな声で。
今、彼に傍にいてほしくなかった。
否、想いとしてはいてほしいのだけれど……
彼が今、傍にいたらいけない、と思う。
絶対に傷つける。
こうして抱き締めてくれる彼を傷つける。
冷たい言葉で。
素直でない態度で。
ハイドリヒはただただ、思うのだ。
彼の……アネットの明るい笑顔を消すのが怖いのだ、と。
アネットがまっすぐな人間であることは、ハイドリヒもよく知っている。
正面勝負を何より尊び、策略や謀略によって人を欺くことを良しとしない。
けれど。
それが、時々ハイドリヒには不安要素になった。
彼の仕事には、そういった類いの仕事も少なくない。
彼は、そんな自分の仕事に幻滅しないだろうか。
そうふと不安になることがあるのだ。
ただただ無邪気で、まっすぐで、すべてのことを正面から照らす彼。
明るい彼を太陽に例える人間が、この騎士団には多かった。
そんなとき、ハイドリヒはふと思うのだ。
自分は、太陽を隠す雲でしかない。
彼の笑顔を陰らせてしまう、雲でしかない。
雲は、傍にあるべきではない。
消えるべきだ、と思う。
離れるべきだ、と何度も思った
……けれど。
自惚れでもなんでもなく、自分がいなくなったとしても、彼の笑顔は陰るだろう。
彼がいかに自分を大切にしてくれているのか、ハイドリヒもよく知っている。
だからこそ、悩むのだ。
いったい、どうしたら良い?
どうしたら……
彼を、傷つけないで、彼に嫌だと言う思いを抱かせないでいられるだろう。
血に汚れた自分を彼が愛してくれることを、
甘んじて受けていていいのだろうか、と……――
アネットの腕は緩まない。
寧ろ、ハイドリヒを抱き締める強さは強くなった。
「……大丈夫。怖くないから」
アネットはぽつり、といった。
何が、とは聞けなかった。
何が怖いのかは、自分も良くわからないのだろう。
「一人で、耐えなくていいんだぞ」
アネットはそういった。
辛いなら頼れ、と。
せっかく傍にいるんだから、と。
アネットの手が、そっとハイドリヒの銃に伸ばされる。
ハイドリヒは彼にいった。
「……下手に触ると、火傷しますよ」
まだ、それを使ってから長い時間が経ったわけではない。
魔力を纏いつつの攻撃に使った銃身はまだ熱を持っているだろう。
その"使用"の方法をアネットは、知っているだろうか。
ハイドリヒはひとつ息を吐くと、覚悟を決めたように口を開いた。
「……何故、私を抱き締めるのですか。
私は今……何の仕事をして来たのか、和からない貴方ではないでしょう」
意地の悪い質問だと思いつつ、ハイドリヒは問いかけた。
血に濡れた自分を抱き締めるのはなぜなのか、と。
自分は貴方にとって憎むべき存在ではないのか、と。
その質問にアネットは表情を歪めた。
ハイドリヒは再びアネットの腕から逃れようとした。
けれど、アネットはすぐに言う。
「……聞いてる。シェレンベルクに」
アネットは静かな声でそういった。
知ってるよ、と。
お前の任務のこともわかっているよ、と。
流石に詳しい任務内容は知らない。
彼ら……ハイドリヒたちの仕事は基本的に公に晒せることではないから。
しかし、アネットだって決してなにも知らず生きてきたわけではない。
暗殺、拷問、処刑……
そういったことがこの世界に存在していることは、知っている。
そして……自分の愛しいヒトが、そういう任務に関わる組織の人間であることも。
子供のような性格をしていても、現実を知らないほど愚かでもない。
ただ、思うのは……――
「そのせいで、ラインハルトが傷つくのが怖いよ、俺は」
アネットは弱い声でそういった。そして、
抱き締めたままのハイドリヒの髪をそっと、片手で撫でた。
ハイドリヒは唇をわななかせ、震える声を押さえて、いった。
「……別に、傷ついてなど」
いませんよ、と続けるより先にぐいと体の向きを変えられ、唇を奪われた。
言葉の先を続かせまいとするように。
無論、犯人はアネットだ。
一瞬の口づけの後、アネットはいう。
「……嘘はいらねぇの」
「嘘じゃありません」
「じゃあ、虚勢も要らない」
アネットはそういって、まっすぐにハイドリヒを見つめた。
葡萄酒のような、綺麗な柘榴石の瞳。
それを歪めて、アネットはハイドリヒにいった。
「……前にも、いっただろ。俺が傍にいるから……
泣きたいなら泣けばいいし、怒りたいなら怒ればいい」
そういいながら、アネットは優しくハイドリヒを抱き締める。
冷えきった彼の体に自分の体温をわけようとするように。
「……ラインハルトが一人でいなきゃいけない理由なんて、存在しないよ」
「……立場が、こうも違うのにですか」
ハイドリヒは静かに、震える声でそういった。
アネットにその声が届いたかは、わからなかった。
決して身分ではない。
けれど……こうも、"違う"自分達の恋は……
悲恋にしか、ならないのではないだろうか。
そう思わずには、いられない。
しかし当の本人が手放すことを拒むのだとしたら……
いったい自分はどうしたら、良いだろう。
それら何一つわからぬままに、
ハイドリヒは冷たいバルコニーで暖かい彼に抱き締められていた。
ハイドリヒの綺麗な金髪に、アネットの鮮やかな赤髪に白い雪が積もる。
それを払う手は、どちらからも伸ばされなかった。
―― Tragic love ――
(身分違いの恋は悲恋にしかならない。そんな文章を何処かで見た。
私自身が報われるエンドを望みはしない。
けれど私が報われるエンドでなければ彼の笑顔はきっと陰ってしまうのだろう)
(エンディングなんて俺が変えてみせる。
彼は力強くそう誓ってくれるけれど……
私はそれに甘えるばかりで良いのでしょうか)