フィアとアルのSSです。
最近フィアを書かなさすぎて口調とキャラが行方不明です…←ぇ
アルもこの前リレーでしゃべらせたのが久々だったので訓練がてらこの二人。
あまりの寒さに雪ネタになりましたよ!早いよ!(笑)
ともあれ、この二人はムードある場所でも恋人っぽい雰囲気になりません。
多分アルのキャラゆえですね←
では、追記からお話ですよー!
吹き抜ける風の冷たさも増した、ある日の夕方。
賑やかな城下町から城に向かって歩く二つの影。
大きな紙袋を抱えた二人は他愛ない話をしながらゆっくりと足を進めていた。
その途中に話が途切れたとき、
白髪の少年……アルは隣を歩く親友、フィアに声をかける。
「ごめんね、フィア。買い出し手伝ってもらっちゃって……」
アルはすまなそうにそういった。
そう、今二人が町に来ていたのは、医療部隊のアルの買い出しのため。
一人で荷物を運ぶのは大変だろう、とフィアが手伝った形だった。
たくさんある買い出しの荷物。
それをもってもらえるのは力がないアルには助かるのだが、
そのために友人の貴重な休みを使わせてしまったと思うと少し申し訳ない。
しかしフィアはひらひらと手を振って微笑む。
「気にするな。俺が好きでついてきただけだから」
素っ気ないように感じるような態度。
しかしこれが彼の照れ隠しであることはアルがよく知っていること。
だから、アルも素直に礼を言った。
「ごめんね、ありがとう」
アルがそういって微笑み返したとき、フィアが小さくくしゃみをした。
それを見てアルは心配そうな顔をする。
自分よりやや背が高いフィアを見つつ、首をかしげて訊ねた。
「大丈夫?風邪?」
「否、平気だ……寒いな、今日は」
そういいつつフィアは空を見上げる。
フィアのいう通り、最近急に冷え込んできた。
そのお陰で体調を崩すものも続出し、アル達……医療部隊の騎士は多忙である。
ふぅ、とフィアが吐き出した吐息が空に上って消える。
その吐息が少し白く凍った辺り、確かに今日は気温が低いらしい。
アルもフィアのように息を吐き出してから隣の彼に問いかけた。
「もうすぐ冬だもんねぇ……フィアは寒いの嫌い?」
「否、嫌いじゃないよ……
俺は、冬生まれだし、氷属性魔術は寒いときの方が上手く働く」
フィアの返答にアルは納得した顔をして頷いた。
フィアは確かに暑いのはいやがっていたが寒いのが苦手とは言っていなかったな、と。
サファイアの瞳をアルに向けつつ、フィアは問いかけた。
「アルも寒い方が好きだったよな」
「うん。暑いのはどうにも苦手でね……
でも、冬場は研究用の器具を洗うのが辛くなるなぁ……
水が冷たくなっちゃうから」
アルはそういいながら苦笑した。
試験管やフラスコを洗うときには飛び上がるほど冷たい水を使うことになる。
大切な教え子達の手が皹だらけにならないように、と、
統率官であるジェイドが処置はしてくれるのだけれど、
寒いものは寒いし冷たいものは冷たい。
だが、ガラス器具を湯で洗いなどすれば下手をしたらガラスが割れる。
それをやると流石にジェイドから叱咤が飛ぶことは草鹿の騎士皆が知っていた。
大変だな、といってフィアは空を見上げた。
そして、その青い瞳が見開かれる。
どうしたの?とアルが訊ねようとした、その時。
「あ……」
アルも思わず声をあげていた。
ふわり、と落ちてきた白い、それ。
「雪……?」
「今年は早いな……
近くに氷属性系の魔術を使う魔獣でもいるのかもしれん」
フィアはそういいつつ上着の襟元を合わせた。
そのままふぅ、と息を吐く。
「こんなことならコートを持ってくればよかったな……」
「大丈夫?」
「俺は平気だよ。伊達に鬼統率官に揉まれてないからな」
フィアの言葉にアルは声をあげて笑った。
彼の言い方には皮肉っぽさと、親しい身内に向ける暖かさが含まれている。
それより、とフィアはアルの顔を覗き込む。
「アルは大丈夫か?俺より薄着な気がするんだが……」
「大丈夫だよ。
白衣の下に着てるの長袖のシャツだし、白衣って案外暖かいんだよ。
ズボンの裾も今は下ろしてるしね」
いつもは丈が長くて引きずってしまうから、といってまくっているズボンも、
寒さが増してきたために今は下ろしてある。
裾が地面についてしまっているのはご愛嬌だろう。
洗濯してもらえば落ちるはずだ。
「でも、早く帰ろうか……寒い」
フィアはそういいつつ空を見上げ少し足を早めた。
強くなり始めた雪で視界が煙る。
フィアの姿が一瞬、雪の向こう側に溶けてしまうように錯覚した。
―― あ。
アルはその姿を見て、トパーズの瞳を見開く。
そして、無意識に手を伸ばして、フィアの服をつかんでいた。
刹那、彼が抱えていた紙袋がバランスを崩して中身がばらばらと落ちる。
その音でフィアも振り向き、アルもはっとした。
慌てて荷物を拾い上げるアルを見つめつつ、フィアは訊ねる。
「どうした、アル?」
「……うん」
アルは俯いておちた荷物を拾う。
うん、の後から暫く言葉は紡がれない。フィアは怪訝そうな顔をしつつそんなアルを見つめる。
かなりの間が空いた後、そのままの格好でアルはいった。
「フィアがね、消えちゃいそうな気がしたんだ」
「え?」
「雪に紛れて。凄く、綺麗だったから」
ふわふわと舞い落ちる雪。
そのなかを歩いていく大切な親友。
美しい亜麻色の髪は弱くも冷たい風に揺れ、
サファイアの瞳は既に暗い空を見上げ。
その儚い美しさが、怖かった。
事実、フィアは一度"消えて"しまったことがある。
その時にアルが感じた悲しみは、苦しみは、切なさは……
未だにきっと癒えていない。
フィアもそれがわかっているからだろう。
俯いたままのアルを暫し見つめた末にふっと笑って、そっとアルの頭を撫でた。
「消えないよ、俺は」
「本当に?」
「あぁ。……ちゃんと、アルやシスト、アネットや……ルカの傍にいる。
例え、天使として認められたとしたって、天界になんて戻ってやらないよ」
フィアにしては珍しくそんな冗談さえいって、笑う。
不器用で口下手なフィアなりに自分を励まそうとしてくれていることがわかって、
アルは嬉しそうに微笑んだ。
そして、袋に入れ直した荷物を抱え直しながら、
そっとフィアの手首につけられたブレスレットに触れる。
アルが以前フィアにプレゼントした、
魔力の抑制機でありお守りである、大切なブレスレット。
フィアにとっては大切な宝物。
いつでも、どんなときでも身に付けているそれ。
アルは微笑みながらフィアに訊ねた。
「これはもう返されることがない、って思ってていいよね?」
「あぁ。もう、返さない。もう離さないよ、大丈夫だ」
力強いその言葉はまるで誓いのようでさえあって。
アルは微笑みながら、フィアを見つめた。
そして、にこりと微笑む。
「……帰ろっか。風邪引いたら大変だし」
「そうだな」
フィアとアルはそういって笑いあうと、紙袋を抱えて歩きだした。
空には薄く雪雲がかかり、ふわりふわりと白い雪が地上に舞い落ちてきていた。
―― White oath ――
(儚い雪のように君が消えてしまわないように)
(消えないでね、約束だよ。そう呟く声に頷いて)