ジェイドの幼少期のお話…のつもりです←
お医者様コンビで書こうか悩んだのですが…
子供らしい子供と子供らしくない子供の対比になるし、と思ってこのペアで←
イメージソング?がありまして…
浜崎あゆみさんの「A song for xxx」って曲です。
ジェイドっぽいなぁと思って(笑)
ともあれなんだかぐだぐだになっちゃいましたが…
ジェイドが何だか可哀想、ごめん←おい
ともあれ追記からどうぞ!
Side Jade
「ジェイド様ー、これは何処に置いたら良いですか?」
積み重なった本を示しながら訊ねてくる、白髪の少年。
僕はそれを見て"あぁそれは"と返す。
「高い位置におかなければならないものなので、良いですよ。
置いといてくださいな」
彼の背丈では届かないでしょう。
椅子に乗っているけれど、それさえも何だか危なっかしい。
僕の言葉にむっとしたように彼……アルは積んであった本を持ち上げました。
危ないですよ、といおうとしたその瞬間。
「わ、わぁ!?」
言うまでもなく、彼は盛大に転んで。
全く、と思いつつ急いで彼に駆け寄る。
「大丈夫ですか?見栄を張らなくとも……」
「うぅ……すみませ……あれ?」
椅子から転げ落ちたアルは打ち付けたららしい腰をさすりつつ、
何かに気づいたように声をあげました。
「?どうかしましたか?」
「これ……ジェイド様、ですよね」
アルがそういいながら拾いあげたのは本か何かから落ちてしまったらしい写真。
それに写っているのは小さな、緑髪の子供。
小さな腕に不似合いな分厚い医学書を抱えて、
シルバーフレームの眼鏡をかけて、微笑んでいる少年……
それは確かに、幼い頃の僕で。
「……こんなもの、一体どこから」
思わずこぼれた溜め息と、そんな声。
アルは不思議そうに首をかしげました。
「あまり、子供の頃の写真は好きでないのですよ」
「え。そうなのですか?」
いっそう不思議そうな顔をしたアルに、僕はうなずく。
写真を示しつつ、僕は苦笑気味に言いました。
「笑っているでしょう」
「!……えぇ、でも」
嗚呼、アルも気づいたらしい。
鋭い子ですからね。
「本気で、笑っていない……」
小さく呟くアルに僕はうなずきました。
そう、その笑顔は本当の笑顔じゃない。
「……僕の、子供時代の話をしましょうか」
普段なら、絶対にこんな話をしたりはしないのだけれど。
こんな情けない、恥ずかしい写真を見られてしまっては、語らざるを得ない。
何故僕がこんな笑顔を浮かべているのかを。
……もしかしたら知って欲しかったのかもしれませんね。
今の僕を見ている、大切な人に。
***
―― 子供らしくない子供。
それが僕に対する周りの大人の反応でした。
一応フォレーヌには学校もありましたし、
僕と同年代の子供もいたにはいました。
しかし、僕は親の教育方針で学校で勉強するのではなく
家で父や母に課題を与えられて勉強をしていましたし、
基本的に家から出ない子供で、周囲との関わりは正直ないようなものでした。
家に籠って本を読んでいたからか、幼い頃から目が悪くて、
眼鏡をかけなければいけなくなった。
分厚い医学書をそれこそ暗記するまで読んで、
仕事を終えて帰ってきた父に出されるクイズに答えて。
両親との会話はといえばそんな話ばかりでした。
今日はどの辺りを読んでいたのかとか、どの辺りまで記憶できたかとか。
……果たして、僕の両親は僕が好きなものを、嫌いなものを、
得意なことを、苦手なことを……知っているでしょうか。
唯一、僕がゆっくりと過ごすことができたのは、
母親にフルートを教えてもらっているときでした。
昔から音楽が好きだったのだという彼女は優れたフルート奏者で、
僕は母に憧れていて、もし医者にならないのだとしたら、
プロのフルート奏者になりたいと思っていたこともありましたね。
けれど、呑気にフルートばかりしている暇などそうそうありませんでした。
基本的には勉学に励み、弓術を学び、
将来は父親のような、親族のような医者になることを望まれていました。
父に連れられて医師が集まるパーティ等に出ることも多かった。
見も知らぬ大人たちに囲まれるのが怖いと思うことはありませんでした。
慣れていたのか、慣れたのか……どちらかはわかりませんが、
物心ついた時にはそういう場所での振る舞いかたもしっかり覚えていました。
「ジェイドと申します、よろしくお願いいたします」
父や母に教え込まれた通りにお辞儀をして挨拶をすれば周囲から上がる称賛の声。
こんなに幼いのにしっかりしているのね、だとか、
礼儀正しい子ね、とか、
頭が良さそうだ、とか。
その声に恐れ入ります、と返してみたりして。
嗚呼、そんな評価を望んだことは一度だってなかった。
"そうあること"を強制されてそうなった僕に対するその評価は、正直苦痛で。
けれど僕は笑っていた。
笑っていたけれど、そんな笑顔を浮かべれば浮かべるほどに、
周囲が偉いと、賢いと、良い子だと言えば言うほどに、
そうして笑っていることでさえ、苦痛になっていた。
歪んでいた、のかもしれません。
僕が育った環境も、僕自身も、ある意味で。
僕の家庭環境も、傍から見れば憧れの対象だったかもしれないけれど、
いざそのなかに置かれてみれば、わかる苦痛。
それを慰めてくれるものは、"当時は"僕の傍にはありませんでしたね。
図らずも一人になっていった僕は、偽りの笑顔を浮かべることだけうまくなって、
子供らしい純真さからはどんどん遠ざかっていたような気がします。
***
そんな話を気がつけばつらつらと語っていて。
はっと気がついて話を聞いていたアルの方に視線を向ければ……
彼はトパーズの瞳で僕を見つめて、泣き出しそうな顔をしていました。
「……そんなかおをしないでくださいな」
僕は悲しげな顔をしている部下の頭をそっと撫でました。
可愛い教え子、アル。
貴方は確か小さな工房の出身でしたね。
草鹿の騎士の一人一人の出身を、僕は知っています。
僕のように医者の関係者の家の子ももちろんいます。
けれど、無関係なところから来た子もたくさんいて。
「僕は、今この場所にいられて幸せだと思っているのですよ」
僕がそういうと、アルは何度かまばたきをしました。
いきなり何を、というように。
僕は微笑んで、言葉を続けました。
「こんな歪んだ僕でも、受け入れてくれた仲間に、
こんな僕についてきてくれる貴方たちに、感謝しているんです。
そんな子たちに、仲間に出会えたこの場所にいられることが、
僕にとっては最大の喜びですからね」
―― そう。
一度だけ、たった一度だけ。
僕は、大の苦手だった父に反抗したことがありました。
反抗と言えるかさえ怪しい小さなものでしたが。
父が院長を務める病院に将来勤めるよう言われたとき、僕は彼に言いました。
僕は普通の医者にはなりません、と。
僕は騎士団に入り、騎士団の医療部隊にはいるのだ、と。
初めは止められました。
いつものように。
普段ならば僕は屈して、おとなしく父の言いなりになっていたでしょう。
けれどもう決めたことだから、といって
取り寄せてあった騎士団の入団希望書を見せたら、彼も黙って。
やれるものならばやってみろ、と言いました。
……正直。
そうして父に逆らったのは初めてで、酷く怖かったのも覚えています。
足が震えていた。
表面上はいつも通りを装っていても。
でも、今思い返せばそうしてよかったと思えるんです。
信頼できる仲間に出会えて。
可愛い教え子たちに出会えて。
世界中で一番愛おしい大切な彼に出会えて。
とても、幸せだとそう思う。
そんなことを語ってしまったのが気恥ずかしくて、
僕は小さく咳払いをすると短くまとめました。
「まぁ、ようするに……
僕はアルのように無邪気でもなければ、可愛らしくもなかった、
というお話です」
僕がそういって話を畳むと、アルはふぅっと息を吐き出して、言いました。
「……何だか、不思議な気分です」
「何がですか?」
僕が問いかけると、アルはいつも通りの明るい笑顔を浮かべて、言いました。
「ジェイド様にも、子供時代があったんだなって。
……想像つきませんから。
ジェイド様が僕たちと同じ年の頃があったのだとか」
「ふふ、そうですか」
僕はアルのふわふわした白髪を撫でました。
くすぐったそうに笑う彼は、本当に可愛らしくて。
無意識のうちに、呟いていました。
「もう一度、子供時代をやり直せるのならば……」
今度は、貴方のようにいきられたら。
そう思っていることを、貴方はわかっていますかね?
―― 求めていた場所 ――
(憧れていたものはきっとこうして僕を包んでくれる暖かい場所
今此処にいられるから僕は幸せだと思うことが出来るのですよ)
(だから此処が僕にとっては第二の家で
貴方たちは僕にとっては第二の家族で……)