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夕凪





知ってますか?
沿岸地域では気圧傾度が弱く天気のよい日には日中に海風、夜中に陸風が吹くんです。
海風から陸風へ替わる時、海上や沿岸部が一時的無風状態になります。
これを夕凪と言って、逆の場合は朝凪と言います。


「…わかんねェ…」


項垂れてぼそりと呟けばソイツは口元を押さえてわたわたとする。


「あっ、あのっ、ごめんなさい難しい話しちゃって、」

「まァ…俺頭悪ィからなァ…」


難しい事はわかんねェ。
そう言えばソイツはまた慌て出す。

あぁっ、えとそうじゃないんですわたしそんなつもりで言ったんじゃなくてっ…!
…ご、ごめんなさい!ごめんなさいっ!


「………プッ、」


暫く黙って見てたけど、あまりにも慌ててくれるモンだから俺は思わず吹き出した。

涙目でキョトンとするソイツに、俺は悪ィ悪ィ、と手を振った。


「もうちょっとわかりやすく言ってくんね?」

「え、あ、はい。
えと、風が交代する時に一時的に風が止む時があるんです」

「それが夕凪って言うのか?」

「はい。
丁度、今日は良いお天気ですし…」

「へェ〜…」


聞いた事のない言葉にきっとソイツの国の言葉なんだろうな、と思う。
目線をソイツから空に向ければ一面に広がるオレンジ色。
太陽が水平線に沈んでいく。
まだ海から吹いている風は俺達の間を吹き抜けて、ソイツの黒髪を舞い上げた。


……静かだな。


風の音しか聴こえない。
俺達の間に会話はなく、俺はただ、舞い上がる髪を手で押さえるソイツの後ろ姿を眺めていた。





『夕凪』





不意に風が止んだ。
海風から陸風に替わる瞬間。
無風。無音。

黒髪がサラリと肩の上に舞い落ちて、ソイツは俺を振り向くと柔らかく微笑んだ。


(俺はそれを見て何故か照れ臭くなって、赤くなった頬を隠す為に帽子を深く被った)


「?どうかしましたか?」

「…夕日が目に染みンだよ」



今度は陸風が、俺の頬を撫でた。




―――――
TOIのスパーダと長編夢主の透子ちゃんです
これも書いたのは2009年なのですが、この時からもう夢主の性格は決まってました←
夕日が目に染みる発言は夜斗の犯行です←
しかし甘い仕上がりになったので気に入ってたりします
言わずもがな片思いスパーダは仕様です←
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